第555回:みんなに好かれなくてもいいんです
ピアッジオ副社長に聞くべスパの現在・過去・未来
2018.05.25
マッキナ あらモーダ!
ついにベスパも電動化
ベスパといえば、今も昔もイタリアを象徴するアイコンのひとつである。
生産するピアッジオは、2017年にミラノで開催された「EICMA」ショーで、電動スクーター「ベスパ・エレットリカ」を公開した。モーターの連続出力2kW(2.7hp)、ピーク出力4kW(5.4hp)。わずか4時間でフルチャージ可能、かつ航続可能距離100km以上というスペックは、スクーターとしてかなり実用的である。電動化の波は、ついにベスパにも押し寄せた。
ピアッジオの本社は、ボクが住むシエナと同じトスカーナ州のポンテデラにある。ベスパの「今」を、同社のアジアパシフィック代表取締役副社長に聞くチャンスを得た。
ジャンルカ・フューメ氏は、イタリア北部ボルツァーノの出身。同地はボーツェンという別名があるとおり、もともとオーストリア-ハンガリー帝国領だった地域だ。ほとんどの人たちがドイツ語を話すマルチナショナルなエリアである。
フューメ氏の経歴は多彩だ。1993年に大学卒業後、メディア業界を振り出しに、1995年からはベネトングループで中近東・アフリカ地域のエリアマネジャーを務めている。続いて2001年からは競技用ライフルなどで知られるベレッタに転職、セールスダイレクターの職に就いている。
ピアッジオグループに加わったのは2008年だ。欧州向け二輪部長をスタートに、2014年には欧州・新興国市場およびインポーターの責任者に昇格。そして2017年4月に現職であるピアッジオ・アジアパシフィック代表取締役副社長兼ピアッジオ・ベトナム代表取締役会長に就任した。参考までにベトナムには、ベスパの重要な生産拠点がある。
アモーレに応えるために
まずは冒頭のベスパ・エレットリカに話を振ると、フューメ氏は「70年以上にわたる、ベスパにおける進化の集大成」と定義する。同時に「単なる電動スクーターではなく、技術的野心を持った現代的な作品です」とも話す。
参考までにピアッジオはグループ内の1ブランドである、その名も「ピアッジオ」から、電動スクーター「リバティ エレクトリック」と単気筒15hpエンジンと3.5hpモーターを組み合わせた3輪スクーター「MP3ハイブリッド」をすでに発表している。
それらをフューメ氏は「ピアッジオグループが社会の変化に適応し、進化できることを実証しています」と胸を張る。
次にフューメ氏の担当エリアであるアジア太平洋市場の現状を聞くと「全体的にプレミアムスクーターのセグメントが拡大しています」と分析してくれた。そのうえで「プレミアム分野におけるキープレイヤーとして、ベスパは地域で成長することを目指しています」と語る。
ボクが住むヨーロッパでさえ新興企業のスクーターがあまたなのだから、アジアとなればその数は推して知るべしである。そうしたなか、プレミアムセグメントへの集中は、ベスパにとって極めてまっとうなストラテジーであろう。
ピアッジオはベスパの他にも、モーターサイクルの「アプリリア」「モトグッツィ」ブランドも擁する。フューメ氏はそれらを「シナジー効果のあるポートフォリオ」と説明する。そして「私たちは二輪車愛好家のニーズに対応するとともに、人々の(二輪車への)愛に応えるため努力しています」と答えてくれた。イタリアンブランドを語るには、やはりアモーレが欠かせない。
ノットフォーエブリワン!?
ベスパといえば、長年にわたり“ドルチェ・ヴィータ”(甘い生活)の象徴であり、1954年の映画『ローマの休日』における劇中車の印象が根強い。
フレンチクレープ屋台の定番といえば、往年のシトロエン製バン「Hトラック」であるのと同様、外国のイタリア料理店やピッツェリアの軒先に飾ってあるものといえば、古いベスパだ。
「ベスパは1946年の誕生以来、極めて早く世界共通のアイコンとしてその地位を確立したことに誇りを持っています。これまでに1800万台以上が生産され、最も有名なイタリアンスタイルとテクノロジーの象徴です。同時にスクーター界においてはパーソナルモビリティーの同義語として歩みを重ねてきました。マーケットにおいてロングライフの成功例です」
しかし、ブランドとして、ベスパをアピールするための新たなマーケティングストラテジーはあるのか?
それに対してフューメ氏は「ベスパは一部の世代のシンボルではなく、自由な精神の象徴です。そのままであり続けることがいいとは考えていません」と語り、次のような“攻め”を披露してくれた。
「ピアッジオ・アジアパシフィックは、グローバルブランドとしての提案を維持しながらも、アジアの事情やカルチャーを念頭にした初のキャンペーンを導入することを誇りに思っています」
その名は、『Vespa Not for Everyone(べスパ ノット フォー エブリワン)』だ。
思えば第2次大戦後、イタリアにおいてべスパはfor Everyoneの乗り物として普及した。それを、いわば違いのわかる人に絞ったブランドとしてアピールしようとしている。なかなか挑発的なアイデアである。
ベスパッパッパッパ
そして最後にフューメ氏は人間に例えて、こう結んでくれた。「ベスパは70歳以上ですが、精神には常に若さが漲(みなぎ)っています。古典とヘリテージはいつも、そのDNAの一部なのです」
ビンテージベスパのエンジン音は、戦後イタリアの風物詩である。メーカーも心得ていたのだろう、1960年代にはその音を模した「ベスパッパッパッパ!」というテレビCMが作られ、イタリア広告史において記念すべき作品となっている。
それは今日でも同じで、ベスパの音は街のサウンドトラックといっても過言ではない。特に昼下がり、煉瓦(れんが)色の街にこだまするその音は、独特のけだるさがある。
将来、電動化が進むと、ヴィンテージベスパのエンジン音は徐々に街からフェードアウトしてゆくことだろう。
イタリアを舞台にしたアニメを考えている制作者は、効果音として今のうちにたくさんサンプリングしておいたほうがいいかもしれない。
(文=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA> 写真=Piaggio、Akio Lorenzo OYA/編集=藤沢 勝)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、25年間にわたってリポーターを務めあげる。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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