マツダCX-5 XDプロアクティブ(FF/6AT)
オツな選択肢 2018.06.13 試乗記 フルモデルチェンジからわずか1年でパワープラントを大幅改良! 新エンジンを搭載した「マツダCX-5」のディーゼルモデルに試乗。従来モデルよりさらにパワー&トルクを増した新型の魅力と、やや気になったポイントをリポートする。技術・商品戦略に見るマツダの独自性
今のマツダ車は基本的に約1年ごとに(もっと細かい仕様変更はさらに短いスパンで)、なにかしらの改良が施されるのが通例となりつつある。今回のCX-5も2018年2月にマツダでいう“商品改良”が実施されたが、CX-5はそのちょうど1年前にフルモデルチェンジを受けたばかりだ。
今のマツダのラインナップは基本骨格設計がいくつかに集約(マツダはそれを「一括企画」と呼ぶ)されて、各要素技術もいわばモジュール化されている。マツダの要素開発はすべて、最初から“マツダ内各商品への横展開”を想定して開発されるので、今のマツダである技術が実用化されれば、なかば自動的に各車種に展開できるようになっている。
単なるプラットフォーム共通化から一歩進んだ骨格統一、あるいは技術のモジュール化……といった技術思想は、マツダにかぎらず昨今のクルマ産業界で大流行中である。たとえば、トヨタの「TNGA」もフォルクスワーゲングループの「MQB」も、大きくいうと、マツダのいう一括企画によく似ている。
ただ、そういう技術を多品種戦略ではなく、頻繁な改良を重ねることに生かしている点は、他社ではあまり見られないマツダの独自性である。その背景には、トヨタやフォルクスワーゲンよりはるかに規模が小さいマツダの場合、同種技術に新旧世代が混在するよりも「とっとと統一しちゃったほうが効率的」という側面もあるのかもしれない。しかし、同時に今のマツダは「フルラインナップを同時にならべても、ある商品だけが古臭かったり、極端に見劣りしたりしないこと」を、明確なブランドメッセージとして重視している。
ハッキリいって、ここまで頻繁に改良の手を入れてくれると、買う側としては「マツダはいつが買いどきよ!?」と問いたくもなるが、マツダによれば「いつが買いどきではなく、いつも買いどき」だそうである。
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基幹車種であればこその力の入れよう
CX-5はさすがに1年前にフルモデルチェンジされたばかりで、そのデキも総じて評判がいいので、わずか1年での改良点は少ない……と思いきや、今回はエンジン全機種に手が入った。
エンジンの絶え間ない改良は現代の自動車メーカーには回避不能の責務みたいなものだが、改良型ガソリンエンジンの初だしを、あえて商品がまだまだ新鮮なCX-5で実施するあたりがマツダらしいところだ。
ちなみに、国内販売ではマツダ全体の2割ほどがCX-5のシェアとなり、「デミオ」に次ぐ2番手にあたる。しかし、グローバルの販売比率ではマツダ全体の3割を超えることもあり「アクセラ」とならぶ大黒柱だそうである。考えてみれば、CX-5はフルモデルチェンジのスパンも短かった。こうした「売れているクルマほど積極的に改良する」のも今のマツダが明確に示している企業姿勢である。
というわけで、今回試乗したCX-5はディーゼルである。前記のように、気筒休止機構を新採用した2.5リッターを含む新ガソリンエンジンはCX-5が初だしだったが、この2.2リッターディーゼルについては、それ以前にデビューした「CX-8」のそれと同世代にアップデートされたということだ。
ちなみに、その新旧ディーゼルのちがいは、超高応答マルチホールピエゾインジェクターや段付きエッグシェイプピストン、そして可変ジオメトリーターボチャージャーに加えて、冷却水制御バルブや低張力ピストンリングなどがあげられる。つまり、基本骨格こそ従来どおりだが、その他の品書きは「それ以外のキモ部分はほぼ全刷新?」といえるくらいの大改良である。
そして、マツダがかかげる新ディーゼルの効能は、実用燃費の改善、排ガスのさらなる浄化、静粛性改善、低中速トルク改善、さらなる高回転の伸び……だそうである。つまりは、これもまたほぼ全方位での進化である。
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従来のエンジンとは如実にちがう
前記のとおり、今回のCX-5はディーゼルだが、さらにいうとFFである。最近のマツダは“FFより低燃費な4WD”という夢に向けて、日々技術開発にいそしんでいる。その結果として、彼らの最新4WDは非常に低フリクションで、しかも猛烈に緻密な先読み制御でトルク配分する。現時点ではさすがにモード燃費性能でFFに追いついてはいないが、少なくとも前知識がないと4WDであるとはまず気づかないほど、自然に走るようになった。
おっと話が横道にそれた。マツダの新2.2リッターディーゼルは額面上でも、最高出力が従来比15ps、最大トルクが同30Nm上乗せされた。ピーク性能がこれだけちがうと、さすがにその動力性能の向上は、きっちりと体感できる。
1年前のフルモデルチェンジ時の記憶を呼び覚ましても、中低速域で踏み込んだときのキック力はさらに強まっている。また、ディーゼルは基本的に高回転まで引っ張るエンジンではないが、レッドゾーンがはじまる5000rpmの手前付近まで、震動を収束させながらきっちりと速さを増していく点は、いい意味でディーゼルっぽさが薄れた。そして、日本の公道の上限である100km/hから、さらにグイグイ伸びていこうとする余裕も以前よりハッキリと増している。
ただ、この新ディーゼルの効能をリアルな場面でより如実に味わえるのは、市街地や山坂道などで加減速を繰り返すようなシーンだ。このエンジンはピーク性能の上乗せ以上に、わずかな右足の動きに加減速のどちらにも鋭く反応するレスポンスと、そのピックアップトルクの活発さにおいて、従来とは別物感が強い。さらに、マツダのシャシーは“スムーズでリニアな荷重移動”を絶対正義としているので、そのエンジン特性が操縦性にも大きく影響している。
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走りに見るディーゼルの弊害
今回の商品改良ではエンジン以外の品書きは地味である。具体的には車載カメラに真上目線の「360°ビュー」が追加されたこと、車速感応ドアロックの全車標準化、全パワーウィンドウのワンタッチ&タイマー機能追加、パワーリフトゲートの拡大採用……などがあり、エンジン以外の走り方面での改良はとくにないようだ。
CX-5の記憶をさらにフルモデルチェンジ以前の初代にまでさかのぼらせると、ガソリンとディーゼルの乗り味の差が非常に大きかったことを思い出す。CX-5のデビュー当時はクリーンディーゼルそのものが今以上にめずらしく、それだけでもCX-5の存在価値があったが、操縦性や乗り心地では明確にガソリンのほうが印象がよかったのも事実。2リッターガソリンより100kg以上重いディーゼルの前軸重量は、実際の乗り味にも強く影響しており、初代CX-5のディーゼルはガソリンより明確に重ったるく、アンダーステアも強かった。
しかし、2017年に2代目になってからのCX-5は、そうしたディーゼル特有のクセも随分と薄まった。もちろん、ガソリンより明確に重いのは変わりないが、その重さを重厚感や接地感といったポジティブな効能に振り向けることに成功していた。個人的には、その点こそが2代目CX-5最大の驚きでもあった。
ただ、明確にパンチを増した新ディーゼル、しかもFF……ということで、今回試乗したCX-5では、ディーゼル特有のクセがふたたびハッキリと顔をのぞかせるようになったのは事実である。
不用意にアクセルを踏むと、トラクションコントロールが作動していても、ときおりフロントタイヤが瞬間的に路面をかきむしる。そして、山坂道ではフワリとフロントタイヤの荷重が軽くなると同時に、走行軌跡を外にふくらませたがる。
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これはこれで“アリ”かもしれない
この良くも悪くも“エンジンファスター感”は、初代CX-5を知る人にはちょっと懐かしい感覚かもしれない。そして、2代目CX-5で影をひそめたかに思えたジャジャ馬の血統が、今回のディーゼル性能アップで、息を吹き返したともいえる。
また、このFFディーゼルは、市街地や高速での乗り心地において、他のCX-5より落ち着きに欠けたのも事実である。まあ、この点は借受時で3294kmという、まだ少なめの走行距離の影響もあるかもしれないが……。
それでも、初代CX-5時代ほど操縦性や乗り心地にガソリン車と落差を感じさせず、「これはこれでアリだな」と思わせるところが、2代目CX-5の妙だろう。
今回のような組み合わせでも完全にもてあましてしまうわけではなく、「これってSUVのカタチをしたホットハッチか……」とギリギリで思わせてくれる。その背景には、2代目CX-5ならではの剛性やシャシーチューニングの進化だけでなく、こういう活発なエンジンでこそ生きる「G-ベクタリングコントロール」の効果も大きいと思われる。
もちろん、日常走行でジャジャ馬の顔をのぞかせることはなく、また16.1km/リッターというモード燃費に近い数値を、意外に普通にたたき出せた実用燃費のよさも今回のうれしい驚きだった。いずれにしても、「CセグメントSUVを振り回して楽しみたい」というニッチな趣味をおもちのマニアには、このCX-5のFFディーゼルは“オツ”な選択である。
まあ、いっぽうで、普通に優秀で買い得なSUVをお望みなら、CX-5なら爆安価格の2リッターガソリン、あるいはディーゼルなら改良型のパワーも完全に支配下に置く4WDが一般的な推奨物件ではありますが……。
(文=佐野弘宗/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)
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テスト車のデータ
マツダCX-5 XD プロアクティブ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4545×1840×1690mm
ホイールベース:2700mm
車重:1620kg
駆動方式:FF
エンジン:2.2リッター直4 DOHC 16バルブ ディーゼル ターボ
トランスミッション:6段AT
最高出力:190ps(140kW)/4500rpm
最大トルク:450Nm(45.9kgm)/2000rpm
タイヤ:(前)225/55R19 99V/(後)225/55R19 99V(トーヨー・プロクセスR46)
燃費:19.0km/リッター(JC08モード)/17.4km/リッター(WLTCモード)、13.9km/リッター(市街地モード:WLTC-L)、17.6km/リッター(郊外モード:WLTC-M)、19.6km/リッター(高速道路モード:WLTC-H)
価格:300万2400円/テスト車=327万2400円
オプション装備:ボディーカラー<ソウルレッドクリスタルメタリック>(7万5600円)/ドライビングポジション・サポートパッケージ<運転席10wayパワーシート&シートメモリー[アクティブドライビングディスプレイ連動]+運転席&助手席シートヒーター+ステアリングヒーター>(6万4800円)/CD/DVDプレーヤー+地上デジタルTVチューナー<フルセグ>(3万2400円)/パワーリフトゲート(5万4000円)/360°ビューモニター+フロントパーキングセンサー<センター/コーナー>(4万3200円)
テスト車の年式:2018年型
テスト開始時の走行距離:3294km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3)/高速道路(6)/山岳路(1)
テスト距離:362.6km
使用燃料:22.5リッター(軽油)
参考燃費:16.1km/リッター(満タン法)/15.7km/リッター(車載燃費計計測値)
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佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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