フォルクスワーゲン・パサートTDIハイライン(FF/6AT)
長~く乗りたいアナタに 2018.06.27 試乗記 最新世代の2リッターターボディーゼルエンジンを搭載した「パサート」が登場。国内への正規導入は20年ぶりとなるフォルクスワーゲン製ディーゼル車の出来栄えは? 高速道路と山岳路で、上級グレード「TDIハイライン」に試乗した。電動化に大きく舵を切るフォルクスワーゲン
原稿を書こうという段になって大ニュースが飛び込んできた。ドイツ検察当局がアウディ会長を逮捕したと発表したのだ。フォルクスワーゲン(VW)のディーゼルエンジン排出ガス不正問題で証拠隠滅を防止するための逮捕だという。
この一件が発覚したのは2015年9月。すでにVWからは複数の逮捕者を出し、罰金も支払っているので、「なんで今ごろ」と思う読者がいるかもしれない。
ただ国内外の非自動車系メディアを見ていると、米国やEUのみならずドイツ国内からも政府の穏便な対応に不満の声が出ていたようだ。しかも昨2017年9月の総選挙で与党が議席を大きく減らし、メルケル政権の求心力が低下した。こうした背景が今回の逮捕劇に関係しているのかもしれない。
一方のVWは問題発覚の1カ月後、早くも電気自動車やプラグインハイブリッド車などの電動車両を主力としていく方向に舵を切っており、昨年9月には「2025年までにグループで80車種の電動車両を発売し、この分野で世界一になる」と宣言している。こうしたアピールも例の事件を過去の出来事と感じさせる要因だろう。
いずれにせよ、わが国のVWでは20年ぶりのディーゼル車として2018年2月に発表されたパサートTDIは、もう少し逆風を受けることになりそうだ。でも事件を受けてディーゼルの時代は終わりだと考えるのは早計である。
久々のディーゼルなのにアピール控えめ
たしかにかつてディーゼル大国といわれたフランスでも、ディーゼル車の比率は下がり続けている。排出ガス対策のために車両価格が高くなっていることが影響しているようだ。でも依然としてディーゼルエンジンを欲するユーザーはかなりの比率で存在する。VWだって捜査中のため大々的な宣伝を控えているだけで、欧州では通常どおりディーゼル車を売っている。
一方、日本に目を向けてみると、マツダとBMWがディーゼルに注力したことが契機となり、一度は絶滅したディーゼル乗用車が底を打って少しずつ反転しつつある。特に輸入車では顕著で、2017年にはその比率は新車販売の2割以上を占めた。かつて「ゴルフ」のディーゼルを数多く売ったVWが再登板するのは当然だろう。
ただ取材したTDIハイラインの外観を見て、肩すかしを食ったことも事実だ。VW久々のディーゼルなのに、それを示す文字は一切ないからだ。最新のカタログを見るとガソリン車からもTSIやブルーモーションテクノロジーなどの文字が消えているので、そういうルールに変わったのだろう。
ちなみにVWは、プラグインハイブリッド車の「GTE」では逆に、ゴルフやパサートの文字がなく、リアには単に「GTE」の3文字を掲げるだけだ。
続いて目を引いたのは、サイドシルのクロームメッキの帯がボディー全周を取り巻いていて、リフレクターもそこに埋め込むという整然としたディテールだ。実にドイツ車らしい。サイドのキャラクターラインの彫りの深さをはじめ、ゴルフとの共通性も見られる。
一方でノーズが短くキャビンとトランクの長い正統派3ボックスのプロポーションは、同門の「アルテオン」を含めてセダンのパーソナル化が進む中、貴重な存在ではないかとも感じた。
余裕ある後席、広大なトランク
パサートTDIのキャビンはタコメーターのレッドゾーンを除けばガソリン車と共通。こちらにも「TDI」などの文字はない。エアコンのルーバーを連続させた造形のおかげで、横方向の広がりが強調される一方、ウインドスクリーンまでの距離は短めで、車格なりのゆったり感が得られにくい印象は以前と同じだ。
現行パサートはゴルフや新型「ポロ」と共通のMQBプラットフォームを採用しており、前輪とペダルの距離はMQB全車で共通となっている。それがこの空間に反映されているような気がする。
逆に言えば、ゴルフとのサイズの違いはほとんどが後席と荷室部分に充てがわれている。後席は身長170cmの僕では足は組めないものの、ひざの前にはかなりの空間が残り、頭上にも余裕がある。トランクは、容量586リッターという数字だけでも広さがお分かりだろう。
2リッター直列4気筒ターボのディーゼルエンジンは、最高出力190ps/3500-4000rpm、最大トルク400Nm/1900-3300rpmを発生する。同じクラスのディーゼルでは排気量も2リッターで等しい「プジョー508」と同等で、2.2リッターとなる「マツダ・アテンザ」はパワーは下回るもののトルクでは上回る。
始動の瞬間に軽くブルンときて、低速ではカラカラという音を響かせるのは、他の多くの欧州製4気筒ディーゼルと似ている。このあたりのマナーはマツダが優秀だが、実用車っぽい所作はパサートには合っている。それに振動はないし、速度を上げていけばウーッといううなり系の音が主体となっていく。
他の多くのディーゼル乗用車と異なるのは、トランスミッションがデュアルクラッチタイプの6段DSGであることだ。しかしディーゼルエンジンそのものがガソリンほどのレスポンスを持たないので、そのメリットはあまり感じられない。むしろディーゼルのリズムにはトルコン式ATが合っているように思う。
ゆったり乗るのにちょうどいい
走行シーンにおいては、車両重量は1560kgとさほど重くないのに、400Nm級なりのトルク感が伝わってこないことも気になった。ドライブモードをエコやコンフォートからスポーツに切り替えればレスポンスが良くなるものの、ゴルフもそうだがDレンジに入れているとシフトセレクターの陰に隠れて切り替えスイッチが見えなくなってしまうため、結局使わなくなった。
乗り心地は低速だけでなく、速度を上げていっても固さが残る。他国のクルマのようなしっとり感が欲しい。やはり固めのシートがショックをあまり吸収してくれていない感じもある。シートがレザーからファブリックに、ホイール/タイヤが18インチから17インチになる「TDIエレガンスライン」なら印象が好転するのかもしれない。
ステアリングの剛性感は近年のVWに共通する美点で、切れ味も正確で好ましい。車両重量が1.4リッターガソリンターボの「TSI」より100kg重いので、コーナーではフロント部の重さを意識させられるものの、TSIは車格の割にクイック過ぎるという記憶があるので、ゆったり乗るにはこのぐらいがちょうどいい。
テレマティクスサービスや先進安全装備は良くも悪くもないレベル。ただしメーターの燃費計の数字は17.2km/リッターと、このクラスのセダンとしては良好な結果を残した。高速道路ではほぼガソリン車と化すハイブリッド車並みの好燃費が期待できる。しかも燃料代はガソリンより安い。無給油で900km以上走れる足の長さは現在の電気自動車には望めない。
こんな状況にもかかわらず欧州でディーゼル車が根強い支持を受けているのは、ロングランをこなす人が多い土地ならではの賢明な選択肢といえる。日本でも同様の走り方をするユーザーにはディーゼルが向いているし、そこにVWという選択肢が加わったことを、歓迎する人は少なくないだろう。
(文=森口将之/写真=小林俊樹/編集=近藤 俊)
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テスト車のデータ
フォルクスワーゲン・パサートTDIハイライン
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4785×1830×1470mm
ホイールベース:2790mm
車重:1560kg
駆動方式:FF
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ディーゼル ターボ
トランスミッション:6段AT
最高出力:190ps(140kW)/3500-4000rpm
最大トルク:400Nm(40.8kgm)/1900-3300rpm
タイヤ:(前)235/45R18 94W/(後)235/45R18 94W(コンチネンタル・コンチスポーツコンタクト5)
燃費:20.6km/リッター(JC08モード)
価格:489万9000円/テスト車=509万3400円
オプション装備:テクノロジーパッケージ<ダイナミックライトアシスト+アラウンドビューカメラ“Area View”+駐車支援システム“Park Assist”+デジタルメータークラスター“Active Info Display”>(14万0400円) ※以下、販売店オプション フロアマット<プレミアムクリーン>(5万4000円)
テスト車の年式:2018年型
テスト開始時の走行距離:7514km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(6)/山岳路(3)
テスト距離:313.3km
使用燃料:15.2リッター(軽油)
参考燃費:20.6km/リッター(満タン法)/17.2km/リッター(車載燃費計計測値)
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森口 将之
モータージャーナリスト&モビリティジャーナリスト。ヒストリックカーから自動運転車まで、さらにはモーターサイクルに自転車、公共交通、そして道路と、モビリティーにまつわる全般を分け隔てなく取材し、さまざまなメディアを通して発信する。グッドデザイン賞の審査委員を長年務めている関係もあり、デザインへの造詣も深い。プライベートではフランスおよびフランス車をこよなく愛しており、現在の所有車はルノーの「アヴァンタイム」と「トゥインゴ」。
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