巻き返しを狙うフォルクスワーゲンが2025年に導入するニューモデルに注目
2024.08.29 デイリーコラム輸入車トップブランドへの返り咲きを狙う
日本市場で最もポピュラーな輸入車ブランドといえば、それは昔からフォルクスワーゲン(VW)というのが定説だった。実用性やコストパフォーマンスはもちろんのこと、販売ネットワークが強化された結果、VW車はカスタマーから絶大な支持を得て、モデルラインナップも徐々に拡大していった。VWは間違いなく一時代を築いた、日本の輸入車市場におけるトップブランドだった。
だが2015年、新車として販売された海外メーカーの乗用車登録ランキングに大きな変化があった。5万4766台を販売したVWに対して、新たにその数字を超えトップの座に君臨したのはメルセデス・ベンツだった。メルセデスの同年販売台数は6万5162台と、前年、すなわち2014年の6万0839台から躍進。VWから首位の座を奪った。
メルセデスが躍進した大きな理由は、日本仕様として導入されるモデルがより多彩なものになったことにあるだろう。特にコンパクトで使い勝手も良く、コストパフォーマンスに優れる「Aクラス」や「Bクラス」、同じプラットフォームを用いる「CLA」やSUVの「GLA」は日本においても高い人気を得た。導入のためのコストはかかるものの、豊富な車種バリエーションもまた、ライバルブランドに対するアドバンテージとなることが証明されたのである。
ならば日本で輸入車トップブランドの座を失ったVWは、いかにしてその座への返り咲きを目指そうというのか。それはやはりモデルラインナップの強化にあろう。加えて早期に新世代のモデルに置き換えることも重視されるはずだ。ちなみに現在のラインナップを見ると、コアモデルと位置づけられる「ゴルフ/ゴルフヴァリアント」が2021年の導入開始であることを除けば、「ポロ」は2018年に現行モデルが誕生。「パサート/パサートヴァリアント」は2015年、「アルテオン」は2017年、「Tクロス」は2019年、「Tロック」は2020年、「ティグアン」は2017年、「ゴルフトゥーラン」は2016年、そして電気自動車「ID.4」に至っても、そろそろデビューから2年という時間が経過しようとしているのだ。モデルレンジの旧態化は客観的に見ても、VWの販売に影響を与えている。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
2024年後半に新型車5モデルを導入
そこでVWは2024年に、日本市場においてかなり積極的な新型車の導入プランを設定してきた。その高い品質と先進装備の搭載をセリングポイントに、機能性の高いパッケージングでVW独自のブランド性を演出。多彩なパワーユニットの選択を可能とすることで、モデルバリエーションを拡大してきたことも大きな特徴である。
2024年後半に販売が開始される新型車は5モデル。まず気になるのは2020年の日本導入から3年連続で輸入SUV登録台数のトップの座に君臨してきたTクロスのマイナーチェンジモデルだ。扱いやすいボディーサイズはそのままに高い実用性を持つ新型Tクロスは、エクステリアのブラッシュアップと内装の質感アップで一気にその存在感と高級感を増した。都会の景色にもなじむスタイルはカスタマーにとっては大きな魅力といえるだろう。予約受注はすでに開始されており、2024年9月下旬以降に納車が始まる。
2019年以降、VWグループの最量販モデルであり続けたティグアンは、フルモデルチェンジによってサードジェネレーションに進化。上級モデルから先進装備を惜しむことなく継承し、日本仕様ではFWDの1.5リッター直4マイルドハイブリッド仕様と、4WDの2リッター直4クリーンディーゼル「TDI」の2モデルが用意される予定となっている。こちらは9月から予約注文を受け付け、11月以降に出荷が始まるという。
8代目ゴルフのマイナーチェンジモデルも上陸
1973年の発売以来、これで実に9世代目となるパサートも、これからのVW車の販売には大きな追い風となることだろう。最新型はステーションワゴン専用モデルとなり、ボディーサイズは従来型よりもさらに拡大。その風貌はメルセデス・ベンツやBMWといったライバルにも迫る個性的で高級感を強く感じさせるものである。居住性や荷室の広さは1クラス上のセグメントと比較しても遜色はない。VWがいかにこの新型パサートに期待しているのかが想像できる。EVモードで120kmもの電動走行を可能にするPHEVが設定されるのも大きなセリングポイントとなるだろう。注文受け付けは9月から始まり、納車は11月からとなる予定だ。
そして多くのVWファンが期待していると思われるのが、2021年に誕生した8代目ゴルフのマイナーチェンジモデルである。ステーションワゴンボディーのゴルフヴァリアントを含め、その改良ポイントはエクステリアとインテリアのブラッシュアップ、そして新型インフォテインメントシステムの採用などがメインだが、VWがそれだけでCセグメントのメートル原器といわれたゴルフのマイナーチェンジを終わらせるとは思えない。おそらくは走りについてもさらに洗練されたものになっているのだろう。ちなみにパワーユニットは2種類のパワースペックを持つ1.5リッター直4マイルドハイブリッドの「eTSI」と、ディーゼルの2リッター直4の「TDI」に加え、「GTI」には最高出力265PSの2リッター直4「TSI」が搭載される。9月には注文受け付けが始まる新型ゴルフだが、出荷は2025年1月以降と発表されている。
また、2025年にはフル電動のミニバン「ID. Buzz」の日本導入も計画されている。これらのニューモデルラインナップがうまくユーザーの心を捉えれば、VWは再び輸入車の販売ランキングにおいてトップの座を奪える可能性も近くなるだろう。フルイヤーでの新型車販売が始まる2025年、果たしてそのランキングはどのように変化しているのか。結果を知る日が早くも楽しみになってきた。
(文=山崎元裕/写真=フォルクスワーゲン ジャパン/編集=櫻井健一)
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |

山崎 元裕
-
メルセデスとBMWのライバルSUVの新型が同時にデビュー 2025年のIAAを総括するNEW 2025.9.24 2025年のドイツ国際モーターショー(IAA)が無事に閉幕。BMWが新型「iX3」を、メルセデス・ベンツが新型「GLC」(BEV版)を披露するなど、地元勢の展示内容はモーターショー衰退論を吹き飛ばす勢いだった。その内容を総括する。
-
世界中で人気上昇中! 名車を生かしたクルマ趣味「レストモッド」の今を知る 2025.9.22 名車として知られるクラシックカーを、現代的に進化させつつ再生する「レストモッド」。それが今、世界的に流行しているのはなぜか? アメリカの自動車イベントで盛況を目にした西川 淳が、思いを語る。
-
「マツダEZ-6」に「トヨタbZ3X」「日産N7」…… メイド・イン・チャイナの日本車は日本に来るのか? 2025.9.19 中国でふたたび攻勢に出る日本の自動車メーカーだが、「マツダEZ-6」に「トヨタbZ3X」「日産N7」と、その主役は開発、部品調達、製造のすべてが中国で行われる車種だ。驚きのコストパフォーマンスを誇るこれらのモデルが、日本に来ることはあるのだろうか?
-
建て替えから一転 ホンダの東京・八重洲への本社移転で旧・青山本社ビル跡地はどうなる? 2025.9.18 本田技研工業は東京・青山一丁目の本社ビル建て替え計画を変更し、東京・八重洲への本社移転を発表した。計画変更に至った背景と理由、そして多くのファンに親しまれた「Hondaウエルカムプラザ青山」の今後を考えてみた。
-
トランプも真っ青の最高税率40% 日本に輸入車関税があった時代 2025.9.17 トランプ大統領の就任以来、世間を騒がせている関税だが、かつては日本も輸入車に関税を課していた。しかも小型車では最高40%という高い税率だったのだ。当時の具体的な車両価格や輸入車関税撤廃(1978年)までの一連を紹介する。
-
NEW
ボルボEX30ウルトラ ツインモーター パフォーマンス(4WD)【試乗記】
2025.9.24試乗記ボルボのフル電動SUV「EX30」のラインナップに、高性能4WDモデル「EX30ウルトラ ツインモーター パフォーマンス」が追加設定された。「ポルシェ911」に迫るという加速力や、ブラッシュアップされたパワートレインの仕上がりをワインディングロードで確かめた。 -
NEW
メルセデスとBMWのライバルSUVの新型が同時にデビュー 2025年のIAAを総括する
2025.9.24デイリーコラム2025年のドイツ国際モーターショー(IAA)が無事に閉幕。BMWが新型「iX3」を、メルセデス・ベンツが新型「GLC」(BEV版)を披露するなど、地元勢の展示内容はモーターショー衰退論を吹き飛ばす勢いだった。その内容を総括する。 -
“いいシート”はどう選べばいい?
2025.9.23あの多田哲哉のクルマQ&A運転している間、座り続けることになるシートは、ドライバーの快適性や操縦性を左右する重要な装備のひとつ。では“いいシート”を選ぶにはどうしたらいいのか? 自身がその開発に苦労したという、元トヨタの多田哲哉さんに聞いた。 -
マクラーレン750Sスパイダー(MR/7AT)/アルトゥーラ(MR/8AT)/GTS(MR/7AT)【試乗記】
2025.9.23試乗記晩夏の軽井沢でマクラーレンの高性能スポーツモデル「750S」「アルトゥーラ」「GTS」に一挙試乗。乗ればキャラクターの違いがわかる、ていねいなつくり分けに感嘆するとともに、変革の時を迎えたブランドの未来に思いをはせた。 -
プジョー3008 GTアルカンターラパッケージ ハイブリッド(FF/6AT)【試乗記】
2025.9.22試乗記世界130カ国で累計132万台を売り上げたプジョーのベストセラーSUV「3008」がフルモデルチェンジ。見た目はキープコンセプトながら、シャシーやパワートレインが刷新され、採用技術のほぼすべてが新しい。その進化した走りやいかに。 -
第319回:かわいい奥さんを泣かせるな
2025.9.22カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。夜の首都高で「BMW M235 xDriveグランクーペ」に試乗した。ビシッと安定したその走りは、いかにもな“BMWらしさ”に満ちていた。これはひょっとするとカーマニア憧れの「R32 GT-R」を超えている?