アストンマーティンDBSスーパーレッジェーラ(FR/8AT)
時に荒々しく 時にジェントルに 2018.08.11 試乗記 アストンマーティンの新型フラッグシップ「DBSスーパーレッジェーラ」が登場。「DB11」をベースに大幅な軽量化とパワーアップを図ったFRライン最高峰モデルは、超高性能スポーツカーでありながら快適なGTという性格も併せ持っていた。究極の二律背反を目指す
ラゴンダブランドのEV化による復活や、「ヴァルキリー」→次期型「ヴァンキッシュ」とミドシップラインの構築と、アンディ・パーマー体制以降のアストンマーティンはその商品計画が急速に多様化している。直近をみても来年は「DBX」と呼ばれるSUVが登場、これも含めて15~21年の間に毎年1台ずつ新型車を投入し、販売台数を年間5桁の規模にもっていくというのが彼らの中期的計画だ。
と、随分と壮大な計画を支えるには、多様化多数化に伴う希薄化も意識しなければならない。より強固なブランドのピラーとして、従来からのFRラインはより強固な存在となる必要があるわけだ。
代々のアストンマーティンが大事にしてきたFRラインの世界観は、スポーツとGTという二面性を可能な限り高次元で両立させることだ。これを最も忠実に踏襲するのが「DB11」であり、意図的にスポーツの側に大きく寄せたのがショートホイールベースの「ヴァンテージ」である。そしてこのDBSは……といえば、2007年に登場した先代と同様、ベースモデル=DB11のコンセプトを拡大し、究極の二律相反を目指したモデルということになるだろう。
アストンマーティンではこれを先代ヴァンキッシュの後継に位置するモデルとしており、アストンマーティン再生のアイコンとなったヴァンキッシュの名は先述の通り、ヴァルキリーの流れをくむ新たなミドシップモデルに与えられる予定だ。
カーボンやアルミを多用して軽量化
アストンマーティン&スーパーレッジェーラと聞いて思い浮かぶのは、イタリアのカロッツェリア、トゥーリング社が採用した車体製造技術だ。細い鋼管でボディー骨格を構成し、アウターパネルを貼り付けるこの方式は、高額ながらも軽く強く造形自由度が高いといった特徴があり、一時期、少量生産の高級スポーツカーに多く用いられた。アストンマーティンでも「DB4」「DB5」「DB6」で本格的に採用。他社のモデルと同じく、ボンネットフードに据えられたエンブレムがその証しとなっている。
「DBSスーパーレッジェーラ」はさすがに往時のこの構造を引き継ぐわけではない。が、最新世代のVHプラットフォームをベースにアウターパネルにカーボンやアルミを多用することで、ベースとなるDB11に対して70kg以上の軽量化を果たしている。件(くだん)のエンブレムが据えられるカウル型のボンネットもカーボン製と聞けば、その軽減効果は旋回性能にも少なからず影響を及ぼしていそうだ。
その内側に収まる5.2リッターのV12ユニットは、ECUや吸排気系のチューニング変更や独自のクーリングチャンネル構築などの手が加えられ、最高出力は725ps、最大トルクは900Nmに達した。つまりベースとなるDB11に対して実に117ps、200Nmのパフォーマンスアップということだ。この強力な高出力化に対応すべくリアアクスル側に置かれる機械式LSD、そしてZFの8段ATはメカニズムを刷新しており、基準車と同等のレスポンスを維持している。
サスペンション形式はダブルウイッシュボーン/マルチリンクを踏襲しながらスタビライザーやブッシュ&マウントに至るまですべてをリセッティングしており、ディメンションはDB11に対してトレッドは10/20mm拡大、それに合わせて全幅が約30mm広がるもホイールベースは同じ、そして全長は30mm近く短くなった。外装面で注目すべきは巨大化されたグリルや増設されたクーリングダクトを風路として活用しながら形成されたエアロダイナミクスで、340km/hに達するという最高速時には前60kg、後ろ120kgのダウンフォースが得られるという。ブレーキはブレンボのカーボンセラミックシステムが標準となる。
スポーツ性に不満のない8段AT
ホールド性の高いスポーツプラス・パフォーマンスシートやヴァンテージ譲りのロングパドル付き異径ステアリングが目を引くも、DBSスーパーレッジェーラの車内のイメージはDB11からは大きく変わっていない。望めばフォージドカーボンのハードなテイストでなく、サテンウッドのラグジュアリーなインレイでトリムをまとめることも可能だ。スポーツテイストが押し出されていながらていねいにしつらえられた後席が選択できるあたりもアストンマーティンらしい。
例によってクランキングからの始動音こそ盛大ながら、その排気音がすぐに抑えられるのは各地域で厳しくなる騒音規制に配慮してのことだろう。そして日常的な速度域で普通に扱うDBSスーパーレッジェーラは、音量だけでなく音の成分もきめ細やかで、12気筒らしい滑らかさも感じさせつつ努めてジェントルに振る舞ってくれる。
1800rpmでピークに達するトルクリッチなエンジンの特性は日本の道路環境ならば2000rpmもあればこと足りるという印象で、加減速のコントロール性も穏やかだから、都会の路上でもリラックスして扱えるだろう。足まわりは微小入力域の応答もしなやかで、21インチの大径タイヤを履いていながら路面のアタリ感は間違いなくDB11のそれを凌駕(りょうが)する。ただしちょっと大きめな凹凸を越えた際などは、いかにもスポーツカーらしくソリッドなフィードバックが顔を出す。
3モードのダンパーレート、同じく3モードのエンジン&トランスミッションマネジメントは、ステアリングのスイッチを介して個別に変更することが可能だ。各々の味付けははっきりしており、最もハードな側に設定すればちょっと怖さを感じるほどのパワー、それがもたらす爆速ぶりに即応する強烈なレスポンスがもたらされる。感心するのは独自チューニングを加えた8段ATのパドル変速の速さとつながりのダイレクト感だ。ヴァンテージもしかりだが、アストンマーティンのATはGTというキャラクターを適切にカバーしながらスポーツ性においても何ら不満を感じさせない、秀逸な装備だと思う。
ドライバーの意思で振る舞いが変わる
スーパーレッジェーラという言葉ほどのインパクトはないにせよ、車格を思えばそのコーナリングの所作は十分に軽快といえるものだ。そしてただ軽快なだけでなく、操作に対する応答の自然さにもこだわっている。昨今このクラスになればメカニカルなリアステアを用いて豪快に回頭性を誇示することも普通になってきているが、可能な限りクルマのナリとドライバーの意思に任せて振る舞わせるというのはアストンマーティンのポリシーでもあるのだろう。
一方で、ハードなドライビングモードではリアステアを積極的に用いるなど、ヴァンテージ同様ボディーコントロールのセットアップにも新しい兆しが感じられる。このあたりはロータスから移籍したヴィークルエンジニア、マット・ベッカーの意向がいよいよ強く表れ始めたというところだろうか。
DBSスーパーレッジェーラは、スポーツカーのトップレンジにふさわしい動力性能と、アストンマーティンのトップレンジとして妥当な運動性能が、それこそ自慢のシートステッチのように多面的に絡み合ってひとつの世界観を形成している。ある時はひたすらジェントルに、ある時はあきれるほど獰猛(どうもう)にと、その振る舞いはドライバーの加減ひとつ。
仮に買えたとしても、われをいかに統制するかという乗りこなしのハードルは相変わらずド高めだ。でもクルマ好きとして、そういう無理めなブランドがあることは幸せなことだと思う。
(文=渡辺敏史/写真=アストンマーティン/編集=鈴木真人)
テスト車のデータ
アストンマーティンDBSスーパーレッジェーラ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4712×1968×1280mm
ホイールベース:2805mm
車重:1693kg
駆動方式:FR
エンジン:5.2リッターV12 DOHC 48バルブ ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:725ps(533kW)/6500rpm
最大トルク:900Nm(91.8kgm)/1800-5000rpm
タイヤ:(前)265/35R21/(後)305/30R21(ピレリPゼロ)
燃費:12.3リッター/100km(約8.1km/リッター)
価格:--万円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:2018年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター
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渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
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