第2回:トヨタ・クラウン(後編)
2018.09.05 カーデザイナー明照寺彰の直言 拡大 |
現役の自動車デザイナー、明照寺氏による新型「トヨタ・クラウン」のデザイン評価もいよいよ佳境に。伝統の継承とオーナーの若返りという、2つの使命のせめぎ合いによって生まれたこのクルマに、自動車デザインの専門家はどのような評価を下すのか?
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
先代クラウンは秀逸だった
明照寺彰(以下、明照寺):前回、サイドビューに関して、「ボディー後部を上下とも絞り込んだほうがスポーティーになる」という話をしましたが、クラウンのリアバンパーを見ると、めちゃくちゃ平らです。
永福ランプ(以下、永福):それは、どの角度から見てですか?
明照寺:上から見たときです。上から見て、カーブが強いほど、テールを絞り込んでいてスポーティーになるんですが、クラウンはそれが直線にかなり近く、ちょっと張りをつける程度になっている。
永福:ホントだ。まったく気づきませんでした。
明照寺:スポーティーにしたいなら、もっとここにボリュームをつけるはずですが、それをやっていない。これはたぶん、ある全長の枠の中で、室内とか荷室とかの長さも考慮した結果でしょう。このあたりは「クラウン」ということで、スポーティーさよりも実用性を重視しているんだと思います。全幅も1800mmだし。1800っていうと、このクラスだと非常に狭いんですよ。
永福:欧米のライバルたちは1900mmに近いですね。
明照寺:全長も全幅も、最初から抑えられている。その中でなんとか造形で頑張るのは、すごく大変な作業だろうと思います。
永福:大変なのはそうでしょうが、素人的感覚としては、私は先代の「クラウン アスリート」が大好きだったんです。とてもキレイな形だったし“稲妻グリル”もアグレッシブで、面もとってもきれいだった。アスリートが反対車線の先頭で信号待ちしていると、思わず見とれるくらい好きでした。全体として、とてもいいところに着地していて、これは新しい顧客層を開拓してもおかしくない、と思ったんですけど、そうはならなかった(笑)。
ほった:僕は“稲妻グリル”、いまだにダメです。
永福:そういう人もいるけれど(笑)。でも、クラウンの変革としては、先代はとてもいい仕事をしたんじゃないかと思うんです。
明照寺:私もそう感じます。やっぱり先代のほうが、ひとつひとつのパネル面が広くて、面の張った感じがありました。新型はそこまで何かを感じられない。
フロントマスクの違和感は確信犯?
永福:シックスライトにして、スポーティーにしたのがダメとは思いませんが、それはトレンドに乗っただけ。デザインの本質としては後退したって感じるんですが。
明照寺:私は、前のアスリートや「ロイヤルサルーン」のパターン違いだと感じます。特にフロントマスクですが、あんまり進化してない。それはどういうことかというと、グリルとランプの比率とか、どこにどういう形で置くかとかというグラフィックに関して、それが先代に対して変わっていません。
永福:グラフィックは、先代ロイヤルサルーンの延長線上ですよね。
明照寺:それと、これは「RS」に限った話なんですが、フロントフォグランプがあるヘッドライトの下の部分がまっ黒じゃないですか、ここがね、パッと見て、なにもない、造形がないみたいに見える。ここは他のグレードと同じように、もう少し線を通すように見せたほうが、クラウンらしく安定して見えるんじゃないかという気はしました。
永福:同感です! ここをブラックアウトしたことで、必要以上に鼻が溶けて垂れてしまったように見える。仮にエアダムの下端に一本、ボディー同色のラインが見えれば、はるかに違和感がなかったでしょうね。
明照寺:でも、これもデザイナーのチャレンジなので。
永福:ですね……。(他のグレードの写真を見つつ)そうしてしまったら、まったく普通になってしまう。
明照寺:国内専用車ですから、「大型ミニバンとかと張り合えないとダメ」という部分は意識しているでしょうし、「ユーザーはこれぐらいのアクの強さは欲してるだろうな」ということでしょう。否定はできないです。それに、ここはすごく気を使ってバランスを取ってるはずなんですよ。顔まわりって最後まで時間がかかるんで。
永福:クルマは顔が命(笑)。
明照寺:ホントに最後の最後まで、フロントグリルとバンパーに関してはチョコチョコいじるんですよ。変化感が足りない、とか。役員提案のとき、つまり発表の1年半ぐらい前ですけど、「いやぁ、この顔じゃ数年先まで戦えないよ」とか言われちゃうわけです(笑)。そこで、なんとか搾り出す、ということの繰り返しなんですよね、顔は。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
デザイナーの苦悩がにじみ出ている
永福:一般ユーザーは、やっぱり顔の良しあしとかテールランプの造形とか、そういうわかりやすい表情の部分に目が行っちゃうんですよ。デザイナーの方は「まずフォルムありき」だとおっしゃるけど、素人にはフォルムは見えてない(笑)!
明照寺:いや、自分の持論としては、一般ユーザーでも、プロポーションがヘンならば、必ず「なんとなくカッコ悪いな」と感じるはずです。逆にディテールがすごくアクが強くて目を引くものだとしても、プロポーションがよければ許してくれる。例えば「アルファ・ロメオ・ジュリエッタ」のリアコンビランプ、渦巻き形ですけど、あんなのは、プロポーションがよくて、ただずまいがよくなかったら、もう最悪です(笑)。
永福:新型クラウンは、プロポーションがどっかズレてるところに、個性的な垂れ鼻のグリルが付いてるので、めちゃくちゃ最悪ではないですが、どうもあまりカッコよく見えない、ということになりませんか?
明照寺:そう感じるかもしれないですね。やっぱり顔の下側に支えるものがないので、グリルやランプを受け止めきれてない感じはします。
永福:点数をつけるとしたら、何点ですか?
明照寺:いやいや(笑)。点数はつけられないです。なぜなら、デザイナーってコンセプトに沿ってデザインしていますから。みんなコンセプトという枠の中で最大限やっているので、“クルマそれぞれ”なんですよ。
永福:では、ひとことで表現するとどうなりますか? 私は「オッサンの若作り」ですが。
明照寺:そうですね。今回は、「作り手の苦悩が分かるデザイン」ということで、ひとつ。
(文=永福ランプ<清水草一>)
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |

明照寺 彰
さまざまな自動車のデザインにおいて辣腕を振るう、現役のカーデザイナー。理想のデザインのクルマは「ポルシェ911(901型)」。
永福ランプ(えいふく らんぷ)
大乗フェラーリ教の教祖にして、今日の自動車デザインに心を痛める憂国の士。その美を最も愛するクルマは「フェラーリ328」。
webCGほった(うぇぶしーじー ほった)
当連載の茶々入れ&編集担当。デザインに関してはとんと疎いが、とりあえず憧れのクルマは「シェルビー・コブラ デイトナクーペ」。
-
第41回:ジャガーIペース(後編) 2019.7.17 他のどんなクルマにも似ていないデザインで登場した、ジャガー初の電気自動車「Iペース」。このモデルが提案する“新しいクルマのカタチ”は、EV時代のメインストリームとなりうるのか? 明照寺彰と永福ランプ、webCGほったが激論を交わす。
-
第40回:ジャガーIペース(前編) 2019.7.10 ジャガーからブランド初の100%電気自動車(EV)「Iペース」が登場。SUVのようにも、ハッチバックのようにも見える400psの快速EV。そのデザインに込められた意図とは? EVデザインのトレンドを踏まえつつ、現役の自動車デザイナー明照寺彰が語る。
-
第39回:アウディA6 2019.7.3 アウディ伝統のEセグメントモデル「A6」が、5代目にモデルチェンジ。新世代のシャシーやパワートレインの採用など、その“中身”が話題を呼んでいる新型だが、“外見”=デザインの出来栄えはどうなのか? 現役のカーデザイナー明照寺彰が斬る。
-
第38回:三菱eKクロス(後編) 2019.6.26 この“顔”はスポーツカーにもよく似合う!? SUV風のデザインが目を引く、三菱の新しい軽乗用車「eKクロス」。迫力満点のフロントマスク「ダイナミックシールド」の特徴とアドバンテージを、現役の自動車デザイナー明照寺彰が語る。
-
第37回:三菱eKクロス(前編) 2019.6.19 三菱最新のデザインコンセプト「ダイナミックシールド」の採用により、当代きっての“ド迫力マスク”を手に入れた「三菱eKクロス」。そのデザインのキモに、兄弟車「日産デイズ」や同門のミニバン「三菱デリカD:5」との比較を通して迫る。
-
NEW
ベントレー・コンチネンタルGTアズール(4WD/8AT)【試乗記】
2026.1.19試乗記ベントレーのラグジュアリークーペ「コンチネンタルGT」のなかでも、ウェルビーイングにこだわったという「アズール」に試乗。控えめ(?)な680PSのハイブリッドがかなえる走りは、快適で満ち足りていて、ラグジュアリーカーの本分を感じさせるものだった。 -
NEW
第327回:髪もクルマもナイスファイト!
2026.1.19カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。日産の新型「ルークス」で夜の首都高に出撃した。しっかりしたシャシーとターボエンジンのパワフルな走りに感心していると、前方にスーパーカーの姿を発見。今夜の獲物は「フェラーリ・ローマ」だ! -
NEW
日本で売れるクルマはあるのか!? 最新の“アメリカ産ニホンシャ”を清水草一が検証する!
2026.1.19デイリーコラムアメリカからの外圧による制度変更で、北米生産モデルの国内導入を決めたトヨタ。同様に、今後日本での販売が期待できる「海外生産の日本車」には、どんなものがあるだろうか? 清水草一が検証してみた。 -
フェラーリ12チリンドリ(後編)
2026.1.18思考するドライバー 山野哲也の“目”レーシングドライバー山野哲也が「フェラーリ12チリンドリ」に試乗。前編では伝家の宝刀であるV12エンジンを絶賛した山野。後編ではコンビを組むシャシーの印象を余すところなく聞いてみた。 -
BYDシールAWD(4WD)【試乗記】
2026.1.17試乗記BYDのBEVサルーン「シール」の機能アップデートモデルが登場。強化のポイント自体はそれほど多くないが、4WDモデルの「シールAWD」は新たに電子制御式の可変ダンパーを装備したというから見逃せない。さまざまなシーンでの乗り心地をチェックした。 -
新生ノートンがいよいよ始動! 名門の復活を担う次世代モーターサイクルの姿に迫る
2026.1.16デイリーコラム英国のモーターサイクル史にあまたの逸話を残してきた名門、ノートンが、いよいよ再始動! その数奇な歴史を振り返るとともに、ミラノで発表された4台の次世代モデルを通して、彼らが思い描く未来像に迫った。












































