第523回:(主に)助手席で考えたミドシップカー最速理論!
アウディの「RS」モデルに富士スピードウェイでイッキ乗り
2018.08.28
エディターから一言
「RS 5」や「R8」といった、アウディのハイパフォーマンスモデルに富士スピードウェイでイッキ乗り!……したのだが、なぜかリポーターはレーシングカーの同乗試乗に心を奪われてしまったようで……。(主に)助手席で考えたミドシップカー最速理論とは!?
まずは「RS 3 LMS」に同乗試乗
2018年8月上旬、富士スピードウェイでアウディスポーツのレーシングカーを同乗体験したほか、ロードカーの「RS」モデルを試乗することができた。同サーキットでSUPER GTが開催された翌日、アウディスポーツが顧客向けに試乗会を開催、翌々日にわれわれメディアを対象に試乗会が開かれたというわけだ。
まずは「RS 3 LMS」の同乗体験からお伝えしたい。RS 3 LMSはTCR規定に基づいて開発されたレーシングカーだ。TCRというのは、よく知られるGT3と同様のレーシングカーの規定。全長4200mm以上、全幅1950mm以下、車両重量1285kg(ドライバー込み)のFWD(前輪駆動車)で、排気量2リッター(ガソリン、ディーゼル問わず)までのターボエンジン(最高出力330ps、最大トルク420Nm程度)を搭載し、ハイブリッドは禁止といった制約がある。欧州各国のツーリングカー選手権や耐久レース、それに日本のスーパー耐久レースなどがTCR規定のレースを開催中もしくは開催予定。「RS 3」のほかに、「ホンダ・シビック タイプR」「フォルクスワーゲン・ゴルフGTI」「ヒュンダイi30」「プジョー308」などにもTCRマシンが存在する。
規定のなかで注目すべきはFWDでなければならないということ。市販車のRS 3はもちろんクワトロ、すなわち4WDだが、規定に従ってわざわざFWDに仕立て直されている。なんだかもったいない気がするがルールだからしかたない。今回の同乗走行イベントのためにわざわざ取り付けられた助手席に乗り込んでスタート。ピットレーンを飛び出してコースインする際、強烈な加速を予測して身構えたが、その加速はマイルドで、やや拍子抜けした。自ら運転した市販車のRS 5クーペのほうがよっぽど刺激的な加速力を味わうことができた。まあしかし考えてみれば当然のこと。最高出力330ps程度の2リッターターボ車なのだから、同450psの2.9リッターV6ターボエンジンを搭載するRS 5クーペよりも加速が鋭いはずがない。
にもかかわらず、例えば同じドライバーがサーキットのラップタイムを計測したらRS 3 LMSのほうが圧倒的に速いのは、まず車重が500kg前後軽く、快適性を犠牲にして足まわりをガチガチに固く設定し、ボディー剛性もギンギンに高めてコーナリング性能を高めているからだ。もちろんタイヤそのもののグリップ力も異次元に高い。
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ファストイン・(超)ファストアウト
仕事柄、この種の同乗試乗を何度も体験しているが、最初のストレートエンドでドライバーがいつまでたってもブレーキングを開始しないので、ああ逝った、弘法が筆を誤ったと毎回思わされる。しかし実際にはコーナーの直前でブレーキングがはじまり、強烈な減速Gが立ち上がって、コースアウトすることなく走行が続いて、毎回事なきを得る。次にドライバーがコーナーへまったく無謀と思える高速で進入するので、ああ今度こそ逝ったと思わされるのだが、まったく無謀と思える高速のままコーナーをあっさりクリアするのが常。コーナー走行はスローイン・ファストアウトがセオリーとされているが、あれは市販車の場合の話で、レーシングカーはファストイン・(超)ファストアウトだ。今回もそう。ストレートエンドで肝をつぶし、コーナーで仰天した。
はっきり言ってここまでタイヤのグリップ力が高ければ、4WDもFWDも関係なさそうに思える。さらにここまでタイヤのグリップ力が高ければ、僕でもこれくらいのペースで走らせられるのでは……と感じたが、それはゲームのやりすぎというものだろう。
ところでRS 3 LMSは1835万円で市販されている。ロードカーのRSモデルを販売することだけではなく、レーシングカーの販売をはじめとするプライベーターのサポートもアウディスポーツのビジネスの柱のひとつだ。チームにレーシングカーを売って直接もうけるというよりも、そのチームが好成績をあげることでアウディやアウディスポーツのイメージを向上させ、人気につなげるという図式だろう。
「R8 LMS」は格が違う
RS 3 LMSで十分に刺激を味わったが、次に同乗体験したのが「R8 LMS」だ。こっちはSUPER GTやニュル24時間耐久レースなどを戦うGT3格式のレーシングカーだ。この個体は2015年のSUPER GT GT300に参戦した車両だと聞いた。2018年6月にニュルブルクリンク24時間レースを観戦取材し、レーザービームヘッドライトで闇夜を切り裂くように超高速で走行するR8 LMSを見たばかり。2カ月後に同種のマシンに乗り込むとは思わなかった。
こちらも市販車の「R8」はクワトロながらレーシングカーではRWDに変更されている。TCR規定にせよGT3規定にせよ、市販車ベースのレーシングカーで争うレースの場合、パワーや重量を規定するのはよいが、駆動方式などそのクルマの特徴的な部分まで制限してしまうと、結局違うのは見た目だけになって面白みに欠けるような気がしないでもないが、BOP(バランス・オブ・パフォーマンス)というこうした性能調整があるからこそ、さまざまなメーカーの参入を促し、カスタマーにとっても高コスト化を抑えられるというメリットがあるようだ。
誤解を恐れずに言うと、R8 LMSに乗るとRS 3 LMSが遊びに思えてしまう。タイヤのグリップ力が高ければ駆動方式など関係ないと感じた自分を恥じた。RWDのR8 LMSの加速はトラクションの鬼だ。エンジンが発したパワーを漏れなく路面に伝え、加速に変える様子をひしひしと感じた。R8 LMSの試乗が後でよかった。順番が逆だとRS 3 LMSの印象は色あせたものになってしまっただろう。
助手席でさまざまな挙動を感じている間、かつて「ホンダNSX」のSUPER GT参戦車両に同乗した際の印象を思い出した。両車はとても似ている。ミドシップのレーシングカーは姿勢変化を抑えるべく締め上げた足まわりにもかかわらず、加速時に全車重を後輪に載せるかのようにフロント部分が浮くような挙動となる。半面、ブレーキング時にフロント部分が沈んでつんのめるような挙動は一切なく、車両全体が巨大な力によって上から押さえつけられたような動きを見せる。そして助手席でもわかるミドシップならではのコーナーでの理想的なヨーイングモーメント(旋回方向の動き)。ミドシップこそ縦G(加減速時)に対しても横G(コーナリング時)に対しても理想のレイアウトだとわかる。
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値段が高いほうが満足度も高い
この日は、「R8クーペ」をはじめ、RS 5クーペや「TT RSクーペ」、「RS 3スポーツバック」のステアリングを握る機会もあった(いやどっちかというとそれがメイン!)のでひと言ずつ印象を述べたい。RS 3スポーツバックは最高出力400psの2.5リッター5気筒ターボエンジンを横置きして前輪を駆動し、必要に応じて後輪にも駆動力を配分する。この日最初にこのクルマを運転して、その段階ではパワーやハンドリングに非常に満足していた。同じパワートレインのTT RSクーペに乗ってますます満足した。が、続いてRS 5クーペに試乗すると、やはり高価なモデルのほうが深い満足感を得られるようにつくられているのだなと納得した。RS 5の6気筒ターボエンジンはRS 3の5気筒ターボよりも排気量が大きく過給圧も高いので明らかにハイパワーなのだが、印象に残ったのは6気筒の回転のスムーズさというかよどみのなさ。シリンダー数が多いほうが高性能かどうかはともかく、高級であることは間違いない。
エココンシャスであるべきこの時代にプレミアムブランドがマルチシリンダーをなかなか手放さないことに往生際の悪さを感じることもあるが、乗ればその理由を理解できる。4気筒、5気筒より6気筒のほうが、6気筒より8気筒のほうが、そして8気筒より12気筒のほうが上質で高級だ。もしかすると近い将来その感覚を電気モーターが根本的に壊すかもしれない。しかし、だとすれば余計に現在ラインナップされる6気筒、8気筒が魅力的に見えてくる。そんなことを考えながら繰り返し100Rを駆け抜けた。
R8は別物だった。エンジンの回転フィールとサウンド、サスペンションのストロークの仕方、ステアリングフィールなど、すべての動きが緻密さを感じさせた。そしてR8 LMSの助手席でも感じたミドシップレイアウトの恩恵は、高速でクルマを走らせれば走らせるほどに自分で運転しても感じることができた。R8よりも派手なスペックとスタイリングのミドシップスーパースポーツは少なくないが、R8からは「技術による先進」をうたうブランドにふさわしいつくりのよさを感じた。
(文=塩見 智/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝)

塩見 智
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