第593回:スバルは上官専用?
イタリアの最新警察用車両事情
2019.02.22
マッキナ あらモーダ!
とある奇遇
早いものでFCA(フィアット・クライスラー・オートモービルズ)のCEOだったセルジオ・マルキオンネ氏が2018年7月に世を去ってから半年が過ぎた。
彼は1952年、イタリア中部アブルッツォ地方キエティで生まれ、14歳のときに家族とともにカナダへと移民した。イタリアにおける父親の職業は「カラビニエリ(憲兵)」であった。
マルキオンネ氏が最後に公の場へと姿を現したのは2018年6月ローマにおける「ジープ・ラングラー」のカラビニエリへの引き渡し式だった。これは、一種の奇遇としかいいようがない。
警察が4つある!
今回はイタリアの最新警察用車両事情についてお話ししよう。
イタリアにおける警察は、大別して4つの組織が存在する。1つ目はそのカラビニエリだ。始まりは1814年7月、イタリア王国の前身・サルデーニャ王国の第5代国王ヴィットリオ・エマヌエレ1世が、自らの護身と治安維持のために創設した組織にまでさかのぼる。「Carabinieri」の由来は、彼らが軽量で操作しやすいカービン銃(イタリア語:carabina、英語:carbine)を携行していたことである。今日のイタリア共和国では防衛省の管轄で、陸海空軍と並ぶ組織として位置づけられている。
2つ目は「国家警察」である。こちらは1848年、サルデーニャ王国の第7代国王カルロ・アルベルトが創設した治安組織に由来する。現在は内務省が監督官庁である。
このカラビニエリと国家警察、任務はかなり近似しているが、管轄地域に違いがある。カラビニエリは日本における駐在所のように小さな村や町にも拠点があるのに対し、国家警察の警察署(クエストゥーラ)は、原則として大都市のみである。
また、国家警察の内部には「鉄道警備隊」「交通警備隊」「国境警備隊」、そして「郵便警察」と名付けられた組織も置かれている。
“若い国”ゆえ
3つ目は「財務警察」だ。こちらは経済および金融省を監督官庁とする。前述した2つの警察よりもさらに歴史が古く、1774年にサルデーニャ王ヴィットリオ・アメデオ3世が創設した、国境における財務監視組織にまでさかのぼる。
今日では脱税・密輸に関する捜査のほか、路上ではドライバーが免許証や自動車税/保険の支払証書を所持しているか、車検にパスしているかといった検問も担当している。また法に触れる商品を輸送していないかなどのチェックも彼らの役目だ。
さらに近年イタリアでは、新車/中古車を問わず価格が2万ユーロ(約250万円)以上の車両を購入した場合、原則として当局による調査の対象となる。これを収税局と連携してチェックするのも財務警察の役目である。
第4の警察は「刑務警察」だ。これは法務省の管轄で、日本の刑務官と考えればよい。
実はこの4組織以外にも、地方自治体の直轄組織である「市警察」も存在する。こちらも歴史が古く、例えばミラノ市警察の場合、始まりはイタリア国家統一前年の1860年である。
日本の110番に相当する電話番号は、カラビニエリが112で国家警察が113、そして財務警察が117である。
「なぜこんなに多いのだ」という読者諸兄の声が聞こえてきそうだが、今日の統一イタリアの誕生がわずか158年前であることを考えれば、その前後に誕生した組織がいくつもあっていまだに重複しているのはやむを得ない。また、任務の分担こそ違えど、複数の警察組織が併存しているのは、隣国フランスを含めて欧州のさまざまな国でみられる形態だ。
参考までに、従来第5の警察組織として存在した「森林警備隊」が2016年末、ときの政権によってカラビニエリにようやく編入された。イタリアとしてもわずかながらではあるが、合理化を模索している途上なのである。
欧州レベルの入札で
さて、毎冬トリノで開催されるヒストリックカーショー「アウトモトレトロ」には、毎年カラビニエリと国家警察の交通警備隊が出展する。2019年1月31日から2月3日まで開催された第37回にも、両組織が歴史的車両と現行型を展示した。
近年は、カラビニエリの「ルノー・クリオ」や、国家警察のセアト車を街中で見かける機会が多い。
現在の車両選択の方法を、国家警察の隊員が説明してくれた。それによると、必要な技術仕様は指定できるものの、欧州連合(EU)レベルでの入札を実施する必要がある。
今回展示された国家警察の「BMW 320dツーリング」は、従来の「アルファ・ロメオ159スポーツワゴン」に代わる車両として導入されたものである。イタリアの警察車=アルファ・ロメオというのは、ますます過去の話になりつつある。
カラビニエリの場合、入札結果を一般にも公開している。例として、2018年12月に実施された入札で納入が決まった警察車両は以下のとおりだ(バスなどの大型車などは除く)。同じ車名が重複するのは、別の回として入札が行われたためである。
- ジープ・レネゲード(21台)
- ジープ・グランドチェロキー(25台)
- ジープ・グランドチェロキー(4台)
- スバル・フォレスター(12台)
- アルファ・ロメオ・ジュリア(10台)
- ジープ・グランドチェロキー(20台)
- スバル・フォレスター(14台)
- フィアット・フルバック(10台)
そのカラーは「食料品店の紙」
ちなみに今日イタリアの警察組織における入札が欧州レベルで実施されているのは、制服でも同じという。説明してくれた警察官は、「これも外国製だよ」と襟をひっくり返してタグを見せてくれた。
財政健全化を模索中のイタリア政府は、警察組織に大排気量車の導入を許していない。前述のBMW 320dツーリングも2リッターである。かつて話題となった「ランボルギーニ・ガヤルド」は規制以前のものであり、そもそもメーカーから寄付された車両であった。
署内では、やはり偉い人がいいクルマに乗れるのか? そんなたわいもない筆者の疑問に真面目に対応してくれたのは、国家警察の別の警察官だった。答えは「職務に応じて乗り分けるので、階級の上下は関係なし」とのこと。「俺は偉いから、今日はスバルでパトロールさせてもらうぜ!」などということはないのだ。
最後にトリビアをもうひとつ。国家警察が古くさいカーキの車体色を捨てたのは1981年である。同じくその場にいた歴史に詳しい警察官によると「従来、内務省の監督下にありながらも、法律的には武装組織であった位置づけを解除したのに合わせた」という。
現在の車体色であるブルーに関して聞くと、「ああ、カルタ・ダ・ズッケロね」と彼は言った。「carta da zucchero」とは「砂糖用の紙」だ。往年の食料品店で砂糖をはじめ、パスタや豆などの乾物を量り売りしていた時代の包装紙を指す。その色とパトロールカーの塗色を重ね合わせているのだ。
そんなおちゃめな話を聞いたあとの筆者は、日本のパトロールカーが「真っ二つに割ったあんこ入りまんじゅう」に見えてならないのであった。
(文=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>/写真=Akio Lorenzo OYA、FCA/編集=藤沢 勝)
拡大 |

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、25年間にわたってリポーターを務めあげる。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
-
第970回:クルマの背中に浮かぶ文字たち――空いた字間が語るもの 2026.7.16 アナタは自動車のボディー背面に施されたメーカー/ブランドのロゴについて考えたことがあるだろうか? 字間を詰めたり、広げたり、時代によって変わるそのトレンドと、その背景にあるメーカーの思惑を、自動車史にも精通する大矢アキオが語る。
-
第969回:裏地に『大脱走』! ピッティ・イマージネ・ウオモと自動車模様 2026.7.9 イタリアで開催された世界屈指の紳士モード見本市「ピッティ・イマージネ・ウオモ」を、現地在住の大矢アキオが取材。自動車にまつわるアパレルの最新トレンドを探り、新興ブランドのひたむきさと、老舗の刻んできた年輪に触れた。
-
第968回:初代「ルノー・トゥインゴ」は「フィアット500」と同じ旋風を起こせるか? 2026.7.2 リバイバルデザインの新型「ルノー・トゥインゴ」がデビューしてはや3カ月。このクルマの登場により、オリジナルにあたる初代がネオヒストリックとして脚光を浴びることはあるのか? 「フィアット500」の例を振り返りつつ、欧州在住の大矢アキオが考察する。
-
第967回:初代「トヨタ・クラウン」や“ヨタハチ”が「ミッレミリア」を走った! 2026.6.25 イタリアの歴史あるヒストリックカーラリー「ミッレミリア」に、日本のクルマが初めて参加! 石畳の道を行く初代「トヨペット・クラウン」に「トヨタ・スポーツ800」「2000GT」「スープラ」の姿を、現地在住の大矢アキオがリポートする。
-
第966回:フェラーリ・ルーチェ 地元イタリアで一般人はこう見た&大矢的こころ 2026.6.18 その斬新すぎるデザインで物議を醸している、フェラーリ初の量産電気自動車「ルーチェ」。このクルマは、おひざ元のイタリアではどのように受け止められているのか? かの地において自動車史と自動車文化をつぶさに見てきた大矢アキオがリポートする。
-
NEW
ポルシェ911カレラT(後編)
2026.7.19ミスター・スバル 辰己英治の目利きスバルとSTIでクルマの走りを鍛え、モータースポーツにも積極的に取り組んできた辰己英治さん。彼の目に、“スポーツカーの水準器”こと「ポルシェ911」はどのように映ったのだろう? 走りの楽しさを追求した「カレラT」グレードに乗っての印象を聞いた。 -
ホンダCB750ホーネット(6MT)【レビュー】
2026.7.18試乗記ホンダのスポーツネイキッド「CB750ホーネット」が、話題の「E-Clutch」を獲得。ライディングの幅を広げる自動クラッチシステムは、パンチの利いた2気筒のストリートファイターにどんな走りをもたらすのか? その仕上がりを確かめた。 -
人気沸騰「ランクル“FJ”」を手にするもうひとつの方法
2026.7.17サブスク「KINTO」で「ランドクルーザー“FJ”」に乗る<AD>2026年5月に発売されるやオーダーが集中し、受注停止となってしまった「ランドクルーザー“FJ”」。しかし、あきらめるのはまだ早い。“FJ”とのカーライフを実現できる、トヨタの新車サブスクリプションサービス「KINTO」という手段があるのだ。 -
新型「アルピーヌA110」はどんなクルマに? グッドウッドを駆けたテストカーから読み解く
2026.7.17デイリーコラムアルピーヌが次期型「A110」を示唆する「A110フューチャー」を初公開。グッドウッドで走る姿を披露した。そこから分かる未来のA110の姿とは? 電動化がアナウンスされているが、エンジン車の設定はあるのか? 公式発表とテストカーの姿から深掘りする。 -
ベントレー・ベンテイガ スピード(4WD/8AT)【試乗記】
2026.7.17試乗記「ベントレー・ベンテイガ」に最上級グレードの「スピード」が登場。ブランドの在り方をストレートに伝える名称のトップパフォーマンスモデルだが、従来型との最大の違いはその心臓部にV8エンジンが積まれていることだ。およそ不満のあろうはずもないが、最新モデルの仕上がりをリポートする。 -
写真で解説する新型「日産エルグランド」
2026.7.16画像・写真新型「日産エルグランド」は、日本伝統の美をデザインに生かしながら、同社独自の最新技術を組み合わせて“走りのよさ”も徹底追求したという意欲作。その見どころを写真とともに解説する。









