第132回:SAPAに“普通のラーメン”は残っているか
2019.04.30 カーマニア人間国宝への道民放テレビ局からのシブすぎる依頼
先日、東京のローカルテレビ局TOKYO MXの制作を名乗る女性から連絡があった。
「最近、高速道路のサービスエリアのラーメンがおいしくなりすぎて、普通のラーメンがなくなったという話があるんですけど、事情を教えていただけないでしょうか」
私は高速道路の専門家ではあるけれど、グルメライターではまったくない。確かにSAPAはずいぶん取材しているが、「どこの何がうまい」と言えるほど食べまくっているわけでもない。ましてや普通のラーメンについてはまったく詳しくない。
だいたい、民放テレビ局からのこういう問い合わせは、大変失礼なものが多い。自分はまったく何の予習もせず、知識皆無の状態でネット上で専門家を探し、手当たり次第に連絡をよこすのである。
「テレビなら大抵協力してくれる」というおごりがあるため、ボツにするのもまったく平気。傲然(ごうぜん)たる態度で「今からすぐ局に来られませんか?」と要求する者もいた。「無理です」と答えたら舌打ちする始末。内容も場当たり的なものが大部分だ。
よって私は最近はもう、民放テレビ局からの問い合わせは無視することにしている。出演したって、なにひとついいことはない。
例外はNHKで、民放と違って丁寧だし、いわゆる女子アナが自ら電話をくれ、出演依頼されたこともある。私が女子アナだと思っていた彼女の名刺の肩書は「記者」だった。そうだったのか! 感動。
彼女は「突然で本当に申し訳ありませんが、今日の夕方、首都高の代々木PAに来ていただけませんか?」とのたまった。ヒマだったので喜んで向かいましたよ。民放のスカADとNHKの女子アナとで、こっちの態度が変わるのは当然っす! スキスキNHK!
SAPAで“普通のラーメン”探し
で、今回の話は民放のスカAD系だなと思ったが、その番組は何度か会ったことのあるタレントさんがホストで、私はそのタレントさんに親愛の情を抱いていたので、「あまり詳しくないけれど、取りあえず周囲に話を聞いてみる」と、協力を申し出たのでした。
彼女は「4月の中旬までにロケを行いたいと思っておりまして、ご出演いただければ幸いです!」とのたまった。
ところが、周囲に話を聞いても、SAPAの普通のラーメンに詳しい人がまったくいない! ガーン!
考えてみりゃ、普通のラーメンは空気みたいな存在。あえて記憶する人もいないだろう。私も、北海道から九州まで、日本全国かなり大部分のSAに行ったことがあるけれど、普通のラーメンを食べた記憶は、実にかすかなものだった。
じゃ、ドライブついでにちょっとだけ調べてみよう。
近年、毎日がお祭り状態の主要SAは、ラーメンも凝ったものが多く、あんまり普通のラーメンはないかもしれない。でもPAならきっとあるはずだ。
たまたま中央道を走る予定があったので、藤野PA、初狩PA、釈迦堂PA、境川PA、双葉SA(すべて下り)に立ち寄り、普通のラーメンを調べてみた。談合坂SAはデカいので飛ばしました。
すると、あるじゃないですか!
藤野PAはコンビニだけなのでなかったが(当たり前)、次の初狩PAはすばらしかった。ラーメンやそば、カレーが主力の昭和っぽい食堂風で、働いているのも、見るからに地元のおばちゃんばかり。券売機で食券を買って、それをカウンターに出す昔ながらの方式なのもイイ!
発見! 初狩ラーメン
メニューを見ると、人気No.1と銘打たれた「初狩ラーメン」というのが、まさに普通のラーメンっぽい。550円という値段もウルトラ普通!
食べてみると、これがウマイ! ダシが効いていて、ものすごく普通にウマイのだ! 凝った具材は何も入ってないけれど、普通にウマイってスバラシイ!
次の釈迦堂PAにも普通のラーメンはあった。境川PAにもアリ。境川でも食べてみたが、初狩の素朴なウマさには負けていた。
双葉SAのレストランにもあったけど、値段が800円に跳ね上がっていた。普通のラーメンを狙うなら、建屋の古い、小さなPAが狙い目だネ!
私は翌日、TOKYO MXの担当者に、そんなような写真付きのリポートを送ってあげたのでした。
が、まったく返信はなかった。
(あ、やられた……)
これは民放のスカAD得意の、聞くだけ聞いてボツのパターンだ。彼らのモットーは、旅の恥はかき捨て。もう二度と会うこともない専門家に、どう思われようと関係ないのだ。
10日ほどして、くだんのADから連絡が入った。
「私どもの力不足で、企画が延期になりました。今回のご出演依頼はなしということにさせていただいてよろしいでしょうか?」
よろしいも何もない。オマエんとこのテレビに出たいなんて、コレッポッチも思ってねぇよ!
でも、彼女のおかげで、SAPAの普通のラーメン事情に興味を持てたし、初狩PA(下り)の初狩ラーメンのウマさも知ることができたのでした。ありがとうTOKYO MX!
(文=清水草一/写真=清水草一、池之平昌信/編集=大沢 遼)

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
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