三菱パジェロ ファイナルエディション(4WD/5AT)
さらば! 関越キング 2019.07.26 試乗記 かつてスキー場の駐車スペースを埋め尽くすほどの人気を誇った「三菱パジェロ」が、日本を去ろうとしている。初代モデルから37年の歴史を持つ同車の“進化の最終形”をうたう特別仕様車「ファイナルエディション」に試乗し、別れのあいさつを交わした。主力は「パジェロスポーツ」へ
三菱パジェロがこの2019年8月をもって国内販売向けモデルの生産を終了する。今回のファイナルエディションはその終了の正式発表と同時に発売された700台限定の特別仕様車だ。公式ウェブサイトを見ると、通常モデルの販売はすでに終了したもようで、日本ではこれがマジで“最後のパジェロ”と思われる(涙)。
ところで、国内向けパジェロがこのタイミングで生産終了する理由は、最新の歩行者保護基準に引っかかるからだ。その新基準は従来の歩行者頭部保護基準を強化するとともに脚部保護基準も追加されて、新型車には2013年4月から適合が義務づけられていた。
継続生産車については移行期間として猶予が与えられていたが、それもこの2019年8月生産分までとなる。もっとも、その猶予期間にしても乗車定員や車両総重量ごとに細かく分かれており、同じパジェロでもショートモデルについては昨2018年2月に期限を迎えてすでに生産が終了しており、残されたロングも今回ついにタイムアップとなった。思い返してみれば、2015年12月5日付の『日本経済新聞』が「三菱自動車がパジェロの新規開発を中止」と報じた時点で、今回の事態も織り込み済みだったわけだ。
今回の販売終了は日本国内にかぎった話で、海外向け生産は当面継続される。ただ、パジェロは北米やEU圏でもとっくに販売終了しており、継続販売される市場はロシアと中国、中東、アフリカ、そして中南米の一部。勢いのあるアジア新興国(となぜか英国)市場での主力はすでに「パジェロスポーツ」に切り替わっている。
パジェロスポーツとはかつて日本で売られていた「チャレンジャー」の後継機種で、海外で人気のピックアップ「L200/トライトン」のワゴン版というべき本格派にして最新鋭のSUVだ。パジェロを今も売る市場でも大半がパジェロスポーツとの併売であり、新規開発が凍結したパジェロが世界的にフェードアウト路線であることは動かしようがない(ふたたび涙)。
最後のパジェロ=買い得なパジェロ
そんなファイナルエディションの内容だが、基本は既存モデルとオプション装備との組み合わせによるものだ。そして装備表を細かく吟味するほど割安な設定となっているのも、この種の記念特別仕様車のお約束といっていい。
具体的には、今回は3.2リッターディーゼルの中間グレード「エクシード」をベースに、電動本革シート(前2席)とサイド&カーテンエアバッグ、電動ロングサンルーフ、ルーフレール、リアデフロック、寒冷地仕様といった人気メーカーオプション(合計40万円前後相当)を標準装備したうえで、専用スカッフプレートや特製腕時計/ステッカーといったオマケもつく。それでいて、ベースモデル比で25万円弱のアップという買い得な価格設定だ。
ちなみに、従来の最上級グレードだった「スーパーエクシード」はさらに純正7インチメモリーナビとロックフォードの12スピーカーオーディオも標準装備となっていたが、ファイナルエディションではこれもオプション装着(24万3000円)可能である。
というわけで、最上級スーパーエクシード(最後の本体価格は495万1800円)とファイナルエディションの主要装備内容をほぼ横ならびにそろえると、ファイナルエディションではフロントウィンドウやサイドガーニッシュのメッキモール、アルミペダル、リアスポイラー(三菱での呼称はリアデフレクター)、そして大径18インチホイールなどが省略されるかわりに、合計でおよそ40万円も安い計算となる。いずれにせよ、最後のパジェロはやはり買い得なのだ。
ファイナルエディションで選べる外板色は4種類あり、試乗車は今どきの売れ筋らしい「ウオームホワイトパール」だった。ただ、1980~90年代のスキーブーム時代に関越道追い越し車線をブッ飛ばすスーパーエクシードに身もだえた私としては、当時をしのばせる2トーンカラーの勇姿(ファイナル~では「スターリングシルバーメタリック/アイガーグレーメタリック」を用意)を最後に拝みたかったのも本音ではある。
プラットフォームは20年モノ
最後のパジェロとなる4代目は2006年10月に国内デビューして、ファイナルエディションにも搭載される3.2リッターコモンレールディーゼルの国内追加は2008年秋だった。
4代目パジェロはこれ以外にも基本的に毎年夏~秋の時期に、なにかしらのアップデートを受けてきた。なかでも比較的大規模な改良例としては、2010年のディーゼルの排ガス処理性能向上&新設計ATの採用、2014年のマイナーチェンジ(内外装フェイスリフトと静粛性アップ)、2015年のダッシュボードのソフトパッド化などがある。
このように地道にアップデートされてきたといっても、4代目パジェロそのものが登場したのは約13年も前のことだし、もっというと、その土台となるプラットフォームは1999年デビューの3代目からキャリーオーバーである。つまり、その基本骨格設計はじつに20年前までさかのぼるわけで、このファイナルエディションにしても、そこかしこに古さを感じさせるのは否定できない。
とくに設計年次を痛感するのが、ステアリングにチルト調整しか備わらないことや、インパネ中央のマルチファンクションディスプレイが粗いドット表示であること、そして現代の必須といえるADAS(先進安全運転支援システム)系装備が“皆無”であることだ。
今回クルーズコントロールスイッチに「ACC」との表記があって、瞬間的にアダプティブクルーズコントロールのことかと錯覚しかけたら、なんのことはない実際はただの加速=アクセル(ACC)用のボタンだった(笑)。だいたいアクセルをACCと表記するのも20世紀……どころか、昭和感すらただよう。
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勇ましさあふれるパワートレイン
騒音対策も何度か重ねつつも、この最後のパジェロも走行中はガラガラとトラック然としたディーゼル音が目立つ。それはエンジンだけでなく、5段という今どきではいかにも少ないギア数のATが影響している面も多分にある。100km/hで2000rpm近くまで回るトップギアレシオはいかにも低いし、各ギアのステップ比も大きいので、変速ごとにエンジン回転がドシンドシンと派手に上下するのも騒々しさを強調する。
そのパワートレインに起因する振動や音量は、現代の感覚では笑ってしまうほどのボリュームだが、この点は先日マイナーチェンジする直前の「デリカD:5」も似たようなものだったので“三菱味”といえなくもないし、こういう勇ましさもエンスーには魅力となりえる。……と、今回はどうしても肯定的になりがちなのは、記念すべき最後のパジェロのアゲアシを取りたくない気持ちもある。ただ、それだけではなく、絶対的な動力性能になんら不満がないし、そもそもパジェロはとても運転しやすく、2020年に向けて工事だらけの都心で転がしてもまるでストレスがないからだ。
小山のように高い運転席によじ登ると、外界を高地から見わたせると同時に、キャビン内でも一段高く、アップライトな姿勢でダッシュボードも見下ろすことになる。とくに意識せずとも周囲を遠くまで見晴らせて、車体の四隅や四輪の位置もイメージしやすい。また、その運転席は比較的サイドシルに近い外側に寄せられており、ドアトリムも薄めなので、イザというときには身を乗り出してタイヤを肉眼で視認しやすい。角張ったボンネットは正確な車両感覚の重要な助けとなるし、リアコンビランプもわざとコーナーが出っ張った形状になっており、サイドミラーでランプそのものが視認できるから、バックでの幅寄せもドンピシャである。
これらパジェロに見られる運転席の人間工学的な工夫は、ランドローバーでいう「コマンドポジション」と実質的に同義であり、その多くは「ランドクルーザー」や「ジムニー」「ジープ・ラングラー」などにもみられる本格オフローダーではお約束のディテールでもある。
オフローダーの“四種の神器”
このように、パジェロにはもはや古びた部分と、古典的かつ普遍的な部分が同居しているのだが、少なくとも乗り心地や操縦性については今の目で見ても十分に現代的・乗用車的である。乗り心地も古典オフローダー特有の浮遊感めいたそれとは異なり、ステアリングはあくまで正確で直進復元力も弱くなく、フットワークはしなやかだが、位相遅れや横ズレめいた挙動はいっさい生じない。
オフロードマニアがあがめる古典メカといえば、独立ラダーフレームにリジッドサスペンション、パートタイム4WD、ボールナット式ステアリング……が“四種の神器”になるだろう。現在日本で手に入るSUVで四種の神器をもれなくカバーしているのはジムニーだけ。だからジムニーはカリスマなのだ。また、つい最近まではジープ・ラングラーや「メルセデス・ベンツGクラス」もそうだったが、新型となってラングラーの4WDにはオートモードが追加されて、新型Gクラスに残された神器はラダーフレームとリア(のみ)のリジッドサスペンションだけとなった。
対するパジェロには、じつはひとつの神器もない。3代目以降のパジェロは、車体はモノコック(正確には下まわりにフレーム構造を溶接したビルトインフレーム型)だし、サスペンションはフロントがダブルウイッシュボーンでリアがマルチリンクの四輪独立懸架、駆動システムは2WDモードやロックモードはあるものの基本はセンターデフ付きフルタイム4WD、ステアリングはラック&ピニオンである。設計年次こそ前記のとおり20年選手でも、各メカニズムの基本構造はすべて最新のそれとなんら変わりないのだ。
ちなみに、今回のファイナルエディションには3列7人乗りしか選択肢はないが、そのサードシートが床下にきれいに収納できるのもモノコック車体のおかげである。
ファイナルエディションならではの魅力
パジェロは今でこそ歴史の生き証人みたいな存在だが、全盛期は常に新しかった。そもそも1982年の初代パジェロからして、それまでの悪路作業車(=三菱ジープ)とは一線も二線も画した新ジャンルの乗りもの(今でいうSUV)として生み出されたのだ。
パジェロは初代からフロント独立サスペンションや前輪を前方に押し出したフロントミドシップレイアウトなどを売りにしており、続く1991年の2代目では4WDがフルタイム式となり、1999年の3代目ではラダーフレームとリアリジッドサスペンション、そしてボールナット式ステアリングをいち早く捨て去った。パジェロがATを5段化したのは2代目途中の1997年のことだが、当時のSUVで5段ATなど、他例はメルセデスくらいしかない先進のぜいたく品だった。
そういわれてみると、2.3t超というヘビーウェイトながら、細かい山坂道でもさほど持てあますことがないのは、初代からの売りであるフロントミドシップも奏功しているかもしれない。実際、車検証によるファイナルエディションの前後重量配分は51:49ととてもバランスがいい(ちなみにサイズやレイアウト、車重も酷似した「ランドクルーザープラド」のディーゼル車のそれは54:46)。
もっとも、パジェロの優れた操縦性には駆動システム「スーパーセレクト4WD-II」の恩恵もあるだろう。オンロードでもっとも軽快で静かなのは2WD(2H)モードだが、フルタイム4WD(4H)モードだとさらに安心感が増して曲がりやすくなるのは33:67という後輪優勢のトルク配分も絶妙に効いているように思われる。
これ以前に私がパジェロに乗ったのは2014年のマイチェン直後のスーパーエクシードだったはずだが、当時より高速などでのピッチングめいた上下動が減って、直進性もピタリと安定して、乗り心地がより熟したように感じられたのはファイナルエディションが17インチタイヤのエクシードベースだったおかげもありそうだ。ファイナルエディションの仕立てが、そんなことまで考えぬいた設定だとしたら(ただのコストが理由の可能性もあるけど)、最後までマニアを感涙させてくれるファイナルエディションである。
それでは、さようならパジェロ。ありがとう。
(文=佐野弘宗/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
三菱パジェロ ファイナルエディション
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4900×1875×1900mm
ホイールベース:2780mm
車重:2340kg
駆動方式:4WD
エンジン:3.2リッター直4 DOHC 16バルブ ディーゼル ターボ
トランスミッション:5段AT
最高出力:190ps(140kW)/3500rpm
最大トルク:441Nm(45.0kgm)/2000rpm
タイヤ:(前)265/65R17 112S M+S/(後)265/65R17 112S M+S(ダンロップ・グラントレックAT20)
燃費:10.0km/リッター(JC08モード)
価格:453万0600円/テスト車=504万4591円
オプション装備:ボディーカラー<ウオームホワイトパール>(3万2400円)/7インチWVGAディスプレイメモリーナビゲーション(24万3000円) ※以下、販売店オプション フロアマット<デラックス>(5万0025円)/ETC車載器(2万7885円)/ファイナルエディションアクセサリーパッケージ<リアデフレクター+メッキスペアタイヤカバー+アルミマッドフラップ>(12万2752円)/ドライブレコーダー(3万7929円)
テスト車の年式:2019年型
テスト開始時の走行距離:4056.5km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:512.5km
使用燃料:66.1リッター(軽油)
参考燃費:7.8km/リッター(満タン法)/7.9km/リッター(車載燃費計計測値)

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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