フィアット500Cツインエア ラウンジ(FF/5AT)【試乗記】
不快じゃなければいいクルマ 2011.06.21 試乗記 フィアット500Cツインエア ラウンジ(FF/5AT)……279万円
「500」シリーズに加わった、2気筒ターボの「ツインエア」。ECOとFUNは両立するのか? オープンモデルでその走りを試した。
引き算のコンセプト
「フィアット500/500C」に追加された「ツインエア」は、今春、日本に導入された新しいエンジンを搭載したモデルだ。これまで「500」に用意されていた1.4リッターと1.2リッターのエンジンのうち、1.4に取って代わる。ツインエアについては、すでに『webCG』に何度か記事が掲載されているが、今回は屋根の開く「500Cツインエア ラウンジ」の印象を報告したい。
「フォルクスワーゲン・ポロ」や「ホンダ・フィット」など、小型車の多くが直列4気筒、日本の軽自動車(のほとんど)が直列3気筒のエンジンを積むのに対し、ツインエアは直列2気筒を積む。かつては国内外に2気筒を搭載するクルマが数々存在した。それは燃費うんぬんというより、エンジンそのものを安くつくることができるという意味で経済的だったからだ。けれど、排気量が同じなら気筒数が多いほうが振動が少なく、パワーを得やすいため、2気筒エンジンは豊かな市場から順に前時代の技術として消えていった。
しかし、そこへかつてないほど燃費のよさを求められる時代がやってきた。この小難しい時代に対応すべく、フィアットは昔取った杵柄(きねづか)の2気筒というコンセプトを引っ張りだした。
エンジンにモーターを足して燃費を稼ぐのがハイブリッド技術なら、ツインエアはエンジンの気筒数を減らす引き算のコンセプトといえる。気筒数が減ればエンジンを軽く、小さくできる。部品点数も可動部分も減る。だから各部のフリクションも減って燃費を稼げるのだ。
ただし、単に気筒数を減らしただけでは、振動は盛大、パワーも足りないので、さまざまな新技術でカバーしている。まず「アルファ・ロメオ ミト」のエンジンにも使われるマルチエアを採用した。スロットルではなく吸気バルブでエンジンへの空気吸入量をコントロールする技術で、BMWのバルブトロニックや日産のVVELなどとよく似たコンセプトだ。
同一排気量のエンジンで比較すると、マルチエア化によって出力を10%、トルクを15%向上でき、CO2排出量を10%低減できるとフィアットは主張する。加えて、アイドリングストップ機構でさらに燃費を稼ぎ、ターボでパワー不足を補った。結果、排気量は875ccながら従来の1.4リッター直4並みの最高出力85ps/5500rpm、最大トルク14.8kgm/1900rpmを発生する。燃費は実際の結果を後述する。
燃費命のエコモード
なるほど、実際に乗ってみると「ハッピャクナナジューゴシーシー」という言葉の響きからくるパワー不足への不安はすぐに解消される。その発進加速力をどう表現すべきか迷ったが、“その気のない夜間のタクシーといい勝負”と言えばわかってもらえるだろうか。相手がちょっとでも意識したらもう勝てない。……というのがノーマルモードでの話。ツインエアにはもうひとつ、最高出力は77ps/5500rpmに、最大トルクは10.2kgm/2000rpmに抑えられ、トランスミッションもより燃費優先の変速プログラムとなるエコモードが存在する。エコモードを選び、変速をクルマ任せにすると、はっきりと遅い。その気のないタクシーにも置いていかれるだろう。
なにしろその変速プログラムは徹底している。ベテランタクシー運転手もびっくりの“タイヤふた転がり”で2速へ。2速に入ったかと思うと即座に3速へ。3速の守備範囲が少し広いのだが、ちょっと加速のペースを落ち着かせようとドライバーが頭で考えただけで4速へ。4速まできちゃえばこっちのものと言わんばかりに、60km/hに達するか達しないかでちゃっかり5速に入る。5速だと60km/hを維持するのがやっとなのに……。
ここまで強固な意志を感じさせるプログラムはない。ただ、 何もその振る舞いが危険なわけではない。最低限のパワーでクルマを動かすことはツインエアの真骨頂ともいえる。ドライバーがマニュアル操作して変速をコントロールすれば、つまり各ギアもう少し引っ張って走らせれば、痛痒(つうよう)感は減るが、燃費も悪化するはずだ。
ノーマルモードでもエコモードでも、発進時にはシリンダー内の2つのピストンが一緒に上下し始めるわけで(ツインエアは360度クランク)、バランサーシャフトは備わるものの、だれもが感じるレベルの振動が発生する。
目立つのは走り始めと停止寸前、エンジン回転が1500rpm以下の時で、バタバタ……とも、ポロポロ……とも聞こえるほほ笑ましいたぐいのエンジン音とともに、車両全体から振動が伝わる。幸いアイドリングストップが付いているため、信号待ちでは静寂そのもの。ただしいったん止めるからこそ再始動時に振動が目立つのは否めない。それを気に入ればビートと呼べるだろうし、気に入らなければ安っぽいと感じるだろう。
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運転次第の実燃費
今回試乗した「500C」では、ツインエア特有の振動が、クローズドボディの「500」よりほんのわずかだが増幅されてスカットル全体から伝わってくるように感じた。とはいえ、従来の4気筒だって特別スムーズで静かだったわけではない。繰り返すようだが、この振動と音をキャラクターとして好意的にとらえることができる人であれば、振動の増幅は魅力の増幅にもつながるはずだ。
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オープン化に際し、フルオープンにしないでルーフレールを残したのは、キャンバストップがトレードマークだった(というか屋根を開けて騒音を逃がさないとやってられなかった)2代目のヌオーバ・チンクエチェントを彷彿(ほうふつ)させるのが目的だろうが、結果的にかなりの開放感を獲得しつつ必要なボディ剛性を確保することに成功している。それでいて重量10kgしか増加していないのは立派。
肝心の燃費について、興味深いことに気が付いた。何パターンか計測してみた結果は次の通り。都心グルグル&東京〜河口湖一往復で15.1km/リッター、都心グルグル区間のみ計測したら12.9km/リッター、渋滞交じりの首都高を気を付けて走ったら19.0km/リッターという具合。
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最近のクルマほど、ドライバーの技量や努力が燃費に反映される度合いが低い傾向にあるが、ツインエアは運転の仕方によってわりとはっきり燃費が違ってくる。我慢すればするほどよい燃費を得られるのだが、その前提の範囲内で元気よく走りながら好燃費をマークできることもある。毎回、知的なゲームにトライするような感じで楽しい。車内に燃費ノートでも載せといて、ブログにまとめてみようかという気にさせられる。3カ月くらいで飽きるだろうけど。
その意味で、限られたパワーを積極的にコントロールするため、ぜひともパドルは欲しいところ。500Cは上位グレードのラウンジのみの設定のため、パドルは標準装備されるが、両方選べるクローズドボディの場合、ラウンジはタイヤが太くなってわずかながら重量も増えるため、ベーシックグレードのPOPほどには(燃費を稼ぐというツインエア本来の)目的に対してピュアじゃない。ここは結構悩ましい。
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とにかくツインエアの載った500ほどドライバーの頬を緩ませるクルマはない。このクルマに乗ると、振動や騒音、そしてそれほど速く走れないこと自体は欠点ではないことに気付くことができる。それらを不快に思った場合に限って欠点なのだ。自らの偉大な過去の遺産をほぼそのまんまデザインに採用し、皆がそのデザインに少し見慣れてきた頃、実用的かつキャラクタリスティックなエンジンを組み合わせる。フィアットの小型車づくりのウマさには、時々、本当に感心させられる。
(文=塩見智/写真=峰昌宏)

塩見 智
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