ベントレー・コンチネンタルGTコンバーチブル(4WD/8AT)
100年後の雄姿 2019.08.20 試乗記 3代目に生まれ変わった「ベントレー・コンチネンタルGTコンバーチブル」に試乗。ブランド創立からの起伏に富んだ100年を乗り越えた、ベントレーの高度なエンジニアリングの神髄に触れた。昔から最先端技術満載
去る2019年7月10日にベントレー・モーターズは創立100周年を祝った。激動の20世紀を生き延びたばかりでなく、今やベントレーはSUVにまで手を広げ、かつてない成功を収めているように見える。若い世代にはピンと来ないかもしれないが、ベントレーが世のクルマ好きの尊敬の対象となっているのは、ルマンでの栄光の歴史だけでなく、草創期の製品そのものがずばぬけて高性能、高品質だったからにほかならない。もちろん私自身は、いや『カーグラフィック』の創刊編集長である小林彰太郎さんでさえベントレーボーイズの活躍をリアルタイムで見たわけではないが、卓越した機械製品であることは今も残るヴィンテージベントレーを見れば明らかだ。詳細に説明する余裕はないが、例えば、ほぼ100年前のベントレー最初の市販モデルである「3リッター」の4気筒エンジンは、一体鋳造のブロック/ヘッドやシャフトドライブ駆動によるSOHC、気筒あたり4バルブ、ツインプラグ、ドライサンプ潤滑システムなどを特徴としていた。これらのメカニズムはベントレーの発明というわけではないが、当時としては極めて先進的であり、当然高い工作精度を必要としていた。さらに認められた専門家以外が作業することを防ぐためにエンジンにはシーリングが施されていたというから、その品質には絶対的な自信を持っていたのだろう。そうでなければロンドンから海を渡ってルマンまで赴き、そのまま24時間レースを戦って勝利を収めることなど到底無理な話である(ベントレーは1924~1930年までに5度ルマンを制覇している)。
3リッターは標準型でも最高速は130km/hに達し、最高性能版の「スーパースポーツ」に至っては160km/hを誇ったという。実際に、1928年のレースでは「ベントレー4 1/2リッター」が平均速度111km/h以上で優勝している(これはオリジナルのサルテサーキットでのレコード)。以前にも書いたが、日本では大正の終わりから昭和初期の話であることを忘れてはいけない。ロールス・ロイスと同門の期間が長かったせいで、同様に上流階級のための豪華な超高級車とみなされていたかもしれないが、そもそもは市販モデルほぼそのままでレースやラリーに出場できる高性能車という点で、初期のポルシェやフェラーリと同じ位置づけだったのである。だが、採算を度外視した高性能車でレース活動に傾注すれば、たちまち経営難に陥る。ベントレーは創業からわずか10年ちょっとで経済的に追い詰められ、ロールス・ロイス傘下となることを余儀なくされるのである。
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3代目のコンバーチブル
ロールス・ロイスによる吸収合併からおよそ70年後、ベントレーはフォルクスワーゲン(VW)グループ傘下となり、再び独自の道を歩むことになるが、その復活の立役者となったのが「コンチネンタルGT」であることはご存じの通り。そのオープンモデルの3世代目が新型コンチネンタルGTコンバーチブルだ。先に発売されたクーペ同様、ボディーは一見するとかなり長く幅広く、そして低くなったように見えるが、実際には全長×全幅×全高は4880×1965×1400mmというもので、先代より60mm長く、20mm幅広くなったにすぎない。それでも、従来型を押しつぶしたように見えるのは、新型「パナメーラ」と同じくVWアウディグループの最新プレミアムプラットフォームである「MSB」を採用した結果、先代に比べてフロントアクスルの位置が135mm前方に移動され、それに伴ってホイールベース(2850mm)が105mm延びたことが最大の理由だろう。
フルデジタルとなったメーターやコントロール類はアウディとの共通性を感じさせるが、伝統的なレザーとウッドの調和を図った豪勢なインテリアは従来通り。昔ほどきっちりそろってはいない杢目は気にしないことにしよう。もっともローテーションディスプレイをはじめ多くの装備はファーストエディション仕様(これだけでおよそ650万円! のオプション)に含まれるものらしく、どこからどこまでが標準仕様なのか判然としない大ざっぱぶりはいかにもベントレーだ。ちなみに最新レベルのADASもファーストエディションに含まれる。
滑るようにコースティング
VW由来の6リッターW12ツインターボは、ポート噴射に加えて筒内への直噴も併せ持つデュアルインジェクションを採用、さらにパワーアップして635PS/6000rpmと900N・m/1350-4500rpmを発生するに至っている(従来型W12は590PSと720N・m。高性能版「スピード」は642PSと840N・m)。ベントレーとはいえ、現代の新型車は効率向上を避けては通れず、このエンジンにも軽負荷時に半分の6気筒を休止するシステムやアイドリングストップ、コースティング機能など燃費向上を狙ったシステムが搭載されている。車重はクーペより200kgほど重く、ほぼ2.5tにも達するが、新たに採用された8段DCT(デュアルクラッチトランスミッション)の電光石火の変速を生かして0-100km/h加速は3.8秒、最高速は333km/hに達するという。先代の最終型高性能モデル「スピード」のクーペでも4.1秒と331km/hだったから、このパフォーマンスにはどこからも文句は出ないはずだ。
それよりも感心するのは通常走行時の洗練されたマナーである。ごく普通に走っている限り、6リッターW12ツインターボはその巨大さをまるで感じさせずに、するすると静かに回り、滑るように加速する。高速道路ではわずかな隙を見逃さずにエンジンを停止させて頻繁にコースティングしているようだが、22インチもの巨大なタイヤを履きながら、流れるように滑走する滑らかさには驚くほかない。実際に高速道路をしばらく走っていると、車載燃費計の数字はするすると伸びていき10km/リッターを超えていったほどだ。
想像以上に軽快
これほどの巨体にもかかわらず、まったく鈍重さを感じさせないハンドリングも新型の特徴だ。きついコーナーでも長いノーズがコーナーのイン側にスイッと寄る機敏さは想像以上、従来型のV8モデルと同じぐらい軽快に感じた。新型コンチネンタルGTはコンバーチブルでも新たな4WDシステムを採用している。通常状態ではほぼ後輪駆動で、必要な場合だけ前輪にも駆動力を配分する(最大38%をフロントに配分)機構を採用したほか、48V電源でロールを制御する「ベントレー・ダイナミックライド」、さらには各輪に3個のチャンバーを備えるエアサスペンション+電子制御可変ダンパーなどの最新メカニズムを満載している。クーペでは舗装が荒れた田舎道でガツンという直接的な突き上げを感じる瞬間もあったが、コンバーチブルは路面を問わず当たりが柔らかく、もちろんスピードが増せば見事なフラットライドに変わる。
贅(ぜい)を尽くしたクラフツマンシップに目を奪われがちだが、ベントレーはあくまで骨太のグランドツアラーとしての能力が第一である。それを可能にする精緻なエンジニアリングこそ一世紀を生き延びてきたベントレーの核心的価値ではないだろうか。
(文=高平高輝/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
ベントレー・コンチネンタルGTコンバーチブル
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4880×1965×1400mm
ホイールベース:2850mm
車重:2450kg
駆動方式:4WD
エンジン:6リッターW12 DOHC 48バルブ ツインターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:635PS(467kW)/6000rpm
最大トルク:900N・m(91.8kgf・m)/1350-4500rpm
タイヤ:(前)275/35ZR22 104Y/(後)315/30ZR22 107Y(ピレリPゼロ)
燃費:14.0リッター/100km(約7.1km/リッター、WLTCモード)
価格:2831万7600円/テスト車=3677万9300円
オプション装備:センテナリースペシフィケーション(24万5600円)/Naim for Bentley(116万9700円)/ヒーテッドデュオトーン3スポークステアリング(6万9500円)/ブライトクロームロアーバンパーマトリクス(16万7500円)/ツイードルーフ(31万3100円)/ファーストエディション(649万6300円)
テスト車の年式:2019年型
テスト開始時の走行距離:2337km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(8)/山岳路(1)
テスト距離:429.5km
使用燃料:62.3リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:6.9km/リッター(満タン法)/7.1km/リッター(車載燃費計計測値)

高平 高輝
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