マクラーレンGT(MR/7AT)
これなら行ける! 2019.09.25 試乗記 圧倒的な動力性能を持つスーパーカーでありながら、快適性や利便性も徹底追求したという「マクラーレンGT」。南仏コート・ダジュールでそのステアリングを握った筆者は、新機軸というべき走りに驚かされたのだった。芸風の違うニューモデル
マクラーレン第4のシリーズとなるGTに南フランスで乗った。ハイパーカーの「アルティメット」シリーズとスーパースポーツの「スーパー」、そして「スポーツ」シリーズでヒエラルキーを直線的に構成していたマクラーレンのモデルラインナップからは、GTはクルマの内容とキャラクターは“少し横にズレたところ”に位置している。
つまり、“GT=グランドツーリングカー”であり、動力性能一本やりということではなく、快適性や実用性も併せ持つことになったわけだ。GTのチーフエンジニアであるアダム・トムソン氏も、「サーキット走行を楽しめる動力性能を持ちながら、大陸横断できる能力も兼ね備えています」と語る。
具体的には、専用のファストバックボディーをまとい、フロント150リッター、リア420リッターという広大なトランクスペースを用意している。2019年7月に英国の自動車イベント「グッドウッド・フェスティバル・オブ・スピード」で実車をデビューさせた時には、リアのスペースについて強調していた。
「リアのトランクスペースは中央部分をへこませてあり、ゴルフバッグや185cmのスキー2セット、またスノーボードなど、長いものも積み込むことができます」(デザインディレクターのロブ・メルヴィル氏)
そのフロアには「スーパーファブリック」という、特許を取得した布地がオプションで用意されている。染みや傷、刻み目などができにくく、汚れの付着も抑え、洗濯可能で速乾性に優れているというものだ。
それはホンの一例にすぎなくて、GTにはさまざまな選択肢とオプションが用意されている。ボディーカラー、ボディートリム、ホイール、インテリアのカラーや素材、シートなど書き切れないくらいのバリエーションが存在しているのもGTの特徴だ。トリムも3種類用意され、それぞれ異なった趣のクルマを仕上げられるように準備されている。
実用性と快適性を重視
快適な乗り心地のために、「720S」譲りのプロアクティブ・ダンピング・コントロールやステアリングシステムなどにはGT用に最適化が施されている。
中でもプロアクティブ・ダンピング・コントロールは、路面の凹凸に伴って上下するサスペンションの動きをセンサーが読み取り、その0.002秒後には、次に起こりそうなことをコントロールユニットが予測的に対応するというもの。次の動きを予測しながら非常に素早い時間でダンピング特性を変化させられるコントロールユニットを組み合わせた、非常に高度なサスペンションシステムである。720Sとの違いは、その制御のアルゴリズムと、アンチロールシステムがメカニカルに代わる点だ。
また、マクラーレンのすべてのロードカーの一大特徴となっているカーボンファイバー製シャシーも、「モノセルII-T」に進化している。4リッターV8ツインターボエンジンや7段DCTなどの基本的なメカニズムは変わらない。
ステアリングシステムはGT用に最適化され、最低地上高もスーパーシリーズよりも10mm上げられた。段差などを乗り越える際にノーズを持ち上げるリフトアップシステムも標準装備され、街中での利便性を高めている。
これまでのマクラーレン各車では第一には求められていなかった実用性と快適性も、動力性能と同じように追求されている。GTは、基本的な構成はこれまでのマクラーレン各車のそれを踏襲しながら、まさに“グランドツーリングカー”として仕立て上げられている。
では、実際に乗ってみると、どんなクルマなのだろうか?
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
積めてシアワセ
メディア試乗会のベースとなったサントロペのホテルの庭に置かれたGTは、これまでのどのマクラーレンとも異なって見えた。
ヘッドライトやフロントマスクは穏やかな形状となり、ボディーサイドは微(かす)かな抑揚をつけながらエアインテークに収束している。細いクロームメッキに縁取られたサイドウィンドウの形状もGTならではのものだ。
そして、GTをGTたらしめているのがリアスタイルだ。ファストバックスタイルを採っているため、大きなリアガラスがテールまで続いている。これまでのマクラーレンとは明らかに違って見え、エレガントな雰囲気を漂わせている。鮮やかなものよりは、どちらかといえばくすんだ濃い色が似合いそうだ。
走りだす前に、トランクの積載量をチェックしてみた。フロントには、国際線機内持ち込み用スーツケース2個に加え、ブリーフケースやトートバッグなどが2個+α、確実に収まった。フロントトランクはほぼ直方体で低い位置から垂直方向に出し入れするので、とても使いやすい。
そのうち自分のスーツケースを1個取り出し、リアに置き直してみたが、ピタリと収まった。その周辺にもバッグやジャケットなどを置いて、専用のネットやストラップなどで固定できた。また、乗り降りの際にシート越しにトランクスペースに荷物を置くこともできるから、いちいちテールゲートを開ける手間も省ける。この点でも実用的だ。
乗り心地のいいスーパーカー
サントロペから一般道をほぼ真北に上がって丘陵地帯を目指した。あいにく朝からの大雨の勢いがやまない。リアガラスをたたく雨音を差し引いても、走行音そのものが静かであることに、まず驚かされた。エンジンの排気音とタイヤの擦過音が巧みに抑制されている。これなら大陸横断しても疲労は少ないだろう。
最高出力620PSを発生する、おなじみの4リッターV8ターボエンジンもごく低回転域からでも太いトルクが生み出していて、7段DCTを介して圧倒的な加速を実現する。最適化されたステアリングシステムも鋭敏に過ぎることなく、適度にマイルドだ。鋭敏過ぎると、やはり長距離運転では疲れてしまう。とてもバランスに優れている。
白眉ともいえるのが、路面からのあらゆるショックや振動などを、角を丸めた上で抑え込んでいることだろう。荒れた舗装のギャップや段差、舗装のつなぎ目などを認識することはあっても不快に感じる間もないのは、GTに最適化された720S譲りのプロアクティブ・ダンピング・コントロールシステムの効能がとてもよく表れているからだ。それを最も強く感じたのは、カンヌを目指してオートルートA8号を高速で巡航している時だった。フラットな姿勢を維持しながら、サスペンションはよく動き、乗り心地はマイルド。それでいて、マクラーレンらしい軽快な身のこなしと圧倒的な動力性能。このクルマで大陸横断してみたくなった。
GTは、ほぼ狙い通りに仕上がっているが、リアトランクに荷物を詰め込み過ぎると後方視界が妨げられてしまう。積み方の工夫は必要になるだろう。また、試乗車だけの現象だったかもしれないが、水滴を取っても取っても窓ガラスが曇るのには困らされた。
しかし、それらの点を除けば、第4のシリーズを生み出すというマクラーレンの狙いは達成されていることがわかった。新しい時代のグランドツーリングカーであり、ブランドの幅を広げることに成功したといえるだろう。
(文=金子浩久/写真=マクラーレン・オートモーティブ/編集=関 顕也)
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
テスト車のデータ
マクラーレンGT
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4683×2045×1213mm
ホイールベース:2675mm
車重:1466kg(乾燥重量)/1530kg(DIN)
駆動方式:MR
エンジン:4リッターV8 DOHC 32バルブ ツインターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:620PS(456kW)/7500rpm
最大トルク:630N・m(64.2kgf・m)/5500-6500rpm
タイヤ:(前)225/35ZR20/(後)295/30ZR21(ピレリPゼロ)
燃費:11.9リッター/100km(約8.4km/リッター WLTPモード)/10.8リッター/100km(約9.3km/リッター 欧州複合モード)
価格:2645万円/テスト車=--円
オプション装備:--
※価格は日本市場でのもの(消費税10%を含む)
テスト車の年式:2019年型
テスト開始時の走行距離:3463km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター

-
ロイヤルエンフィールド・クラシック650(6MT)【レビュー】 2025.9.6 空冷2気筒エンジンを搭載した、名門ロイヤルエンフィールドの古くて新しいモーターサイクル「クラシック650」。ブランドのDNAを最も純粋に表現したという一台は、ゆっくり、ゆったり走って楽しい、余裕を持った大人のバイクに仕上がっていた。
-
ホンダ・プレリュード プロトタイプ(FF)【試乗記】 2025.9.4 24年の時を経てついに登場した新型「ホンダ・プレリュード」。「シビック タイプR」のシャシーをショートホイールベース化し、そこに自慢の2リッターハイブリッドシステム「e:HEV」を組み合わせた2ドアクーペの走りを、クローズドコースから報告する。
-
ランボルギーニ・ウルスSE(4WD/8AT)【試乗記】 2025.9.3 ランボルギーニのスーパーSUV「ウルス」が「ウルスSE」へと進化。お化粧直しされたボディーの内部には、新設計のプラグインハイブリッドパワートレインが積まれているのだ。システム最高出力800PSの一端を味わってみた。
-
ダイハツ・ムーヴX(FF/CVT)【試乗記】 2025.9.2 ダイハツ伝統の軽ハイトワゴン「ムーヴ」が、およそ10年ぶりにフルモデルチェンジ。スライドドアの採用が話題となっている新型だが、魅力はそれだけではなかった。約2年の空白期間を経て、全く新しいコンセプトのもとに登場した7代目の仕上がりを報告する。
-
BMW M5ツーリング(4WD/8AT)【試乗記】 2025.9.1 プラグインハイブリッド車に生まれ変わってスーパーカーもかくやのパワーを手にした新型「BMW M5」には、ステーションワゴン版の「M5ツーリング」もラインナップされている。やはりアウトバーンを擁する国はひと味違う。日本の公道で能力の一端を味わってみた。
-
NEW
MINIジョンクーパーワークス コンバーチブル(FF/7AT)【試乗記】
2025.9.8試乗記「MINIコンバーチブル」に「ジョンクーパーワークス」が登場。4人が乗れる小さなボディーにハイパワーエンジンを搭載。おまけ(ではないが)に屋根まで開く、まさに全部入りの豪華モデルだ。頭上に夏の終わりの空気を感じつつ、その仕上がりを試した。 -
NEW
第318回:種の多様性
2025.9.8カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。ステランティスが激推しするマイルドハイブリッドパワートレインが、フレンチクーペSUV「プジョー408」にも搭載された。夜の首都高で筋金入りのカーマニアは、イタフラ系MHEVの増殖に何を感じたのか。 -
NEW
商用車という名の国民車! 「トヨタ・ハイエース」はなぜ大人気なのか?
2025.9.8デイリーコラムメジャーな商用車でありながら、夏のアウトドアや車中泊シーンでも多く見られる「ハイエース」。もはや“社会的インフラ車”ともいえる、同車の商品力の高さとは? 海外での反応も含め、事情に詳しい工藤貴宏がリポートする。 -
フォルクスワーゲン・ゴルフRアドバンス(前編)
2025.9.7ミスター・スバル 辰己英治の目利き「フォルクスワーゲン・ゴルフ」のなかでも、走りのパフォーマンスを突き詰めたモデルとなるのが「ゴルフR」だ。かつて自身が鍛えた「スバルWRX」と同じく、高出力の4気筒ターボエンジンと4WDを組み合わせたこのマシンを、辰己英治氏はどう見るか? -
ロイヤルエンフィールド・クラシック650(6MT)【レビュー】
2025.9.6試乗記空冷2気筒エンジンを搭載した、名門ロイヤルエンフィールドの古くて新しいモーターサイクル「クラシック650」。ブランドのDNAを最も純粋に表現したという一台は、ゆっくり、ゆったり走って楽しい、余裕を持った大人のバイクに仕上がっていた。 -
BMWの今後を占う重要プロダクト 「ノイエクラッセX」改め新型「iX3」がデビュー
2025.9.5エディターから一言かねてクルマ好きを騒がせてきたBMWの「ノイエクラッセX」がついにベールを脱いだ。新型「iX3」は、デザインはもちろん、駆動系やインフォテインメントシステムなどがすべて刷新された新時代の電気自動車だ。その中身を解説する。