第624回:人には添うてみよ“乗り物”には乗ってみよ!?
大矢アキオがシェアリング電動キックスクーターを初体験
2019.10.04
マッキナ あらモーダ!
パリではすでに2万台
ここ1~2年、ヨーロッパの大都市で話題になっているモビリティーといえば、シェアリング電動キックスクーター(以下、シェアスクーター)である。
サービス提供企業のひとつである米国のライムは、すでに世界100都市で事業を展開。米国とオーストリア、スペインでは、一部大学のキャンパス内でも提供している。
同社の2018年末のリポートによると、2017年の創業以来、世界全体で延べ2600万回使用されたという(従来型のシェアリング自転車を含む)。
筆者が頻繁に訪れるフランスのパリでも、瞬く間に普及した。いや、爆発的にという言葉がふさわしい。2019年6月24日付『ロイター通信電子版』によると、市内にあるシェアリング電動キックスクーターの合計は、2万台に達するという。
情けなかった「第1次接近・遭遇」
2018年にパリで最初にそれを見たとき、電動キックスクーターの仕組みが信じられなかった筆者は、勝手な想像を巡らせたものだ。
まずは「あれは蹴って動かしている」……つまり人力ではないかという思い込みだった。だが、他人が走らせている姿を観察すると、走り始めてからブレーキをかけるまでの走行距離がやけに長い。軸部分に新設計のベアリングか何かが採用されていて、よく転がるのかとも疑ったが、それにしても長く走る。
次に疑ったのは、1970年代に日本で本田技研工業が開発した子ども用三輪車「ローラースルーGOGO」のように、テコと滑車を応用したメカニズムを採用しているのではないかということだった。しかし、それに必要なキックペダルが付いている様子もない。
子細に実車を見て、ようやく電動であることを理解した。しかし、充電方法がわからなかった。ブレーキの回生だけでは限界があるし、ソーラーパネルらしきものも見当たらない。
それがアルバイト人員の手によって夜間を中心に回収・充電され、再び街中に配給されるという、いわばマンパワーに頼った方式だということを知るのは、もう少したってからのことだった。
いったいどんな操作感なのか。それを知るため、街中にあった一台のハンドルを握って1mほど押してみた。すると、いきなりロック未解除を警告するアラーム音が鳴り出した。そのけたたましさと、周囲の視線に瞬殺された筆者は、すたこらと逃げ出してしまった。その姿を思い出すと自分でも情けない。
乗ってみたいが……
ところ変わって、2019年9月に赴いたベルリンでのことである。ここでもシェアスクーターはすでに普及していた。縦横無尽に走り回っている。
ベルリン中心部の主要道路には、自転車レーンが整備されている。これなら走るのにストレスが少ないだろう。
ところで電動キックスクーター前夜にヨーロッパで普及したものとして「シェアリング自転車」があった。最初は自治体によるものが大半だった。2007年にパリ市が広告代理店JCデュコーとともに導入したヴェリブは、その極めて早い例である。その後、中国系スタートアップ企業による、より簡易的なシェアリング自転車が各地に上陸した。
筆者自身も、何度か利用したことがある。だが、自転車専用レーンの整備が遅れ、かつ歩道走行が禁止されているパリにおいて、乗用車やバスと一緒に走るのは怖かった。実際、わが女房は、セーヌ川を渡る橋上で、脇を走っていたジャガーのドアミラーと接触したことがある。彼女はビビるジャガーのドライバーをにらみつけたあと、何事もなく走行を続けていたが。
ゆえに、その後パリに行くことはあってもシェアスクーターを利用するのを躊躇(ちゅうちょ)していたが、ここベルリンなら試せそうだ。
シェアスクーターの実車を再び観察する。ステム(パイプ)の部分には、操作方法が簡単に記されている。
そこで新しいモビリティーとの出会いにおける、さまざまな苦い思い出が頭をよぎった。子ども時代は自転車に慣れるのに、何度転んだことか。前述のローラースルーGOGOが欲しかったのも、実をいえば自転車の乗り方をなかなか覚えられなかったからである。
四輪車の運転もしかりだ。生き馬の目を抜くようなイタリアの交通環境の中、おかげさまで23年間無事故の筆者である。だが、免許取得前の中学時代に修学旅行先の農場で運転した遊覧用ゴルフカートは、ステアリングを握るとたちまちコースアウトした。高校時代もしかり。多摩テックのゴーカートでも即座に脱輪した。ゴルフカートのときもこのときも、係員のおじさんが到来し、丸太を車体下部にあてがって救出してくれた。F1ドライバーを称賛する際にたびたび用いられる「車両の操縦における天分ともいえるセンス」には、まったく恵まれなかった。
したがって、シェアスクーターも「いきなり乗っては、何かを起こしてしまう」と反射的に萎縮してしまったのだ。
突然“教習所”が登場
翌日、第621回で記したベルリンの家電見本市「IFA」会場を訪れると、セグウェイ-ナインボットが出展していた。
「『セグウェイ』は聞き覚えがあるが、『ナインボット』とは?」という読者のために記しておくと、電動立ち乗り二輪車を開発・販売していた米国のセグウェイは、2009年に英国の企業家に、2013年には米国の投資会社にとオーナーが変わった。そして2015年4月には中国企業ナインボットに吸収されて現在の社名となっている。もはや本社も北京だ。
同社はすでに電動キックスクーターをラインナップに据えている。今回新たにリリースしたのは「MAX G30D」と称するモデルだ。
これはドイツで2019年6月に定められた公道用電動キックスクーターを含む小型電気自動車に関する法基準「eKFV」にしたがったものである。具体的には、リフレクターと前後側面の照明、独立2系統ブレーキ、リアフェンダーのナンバープレートおよび保険加入証ステッカー用スペースを備えている。最高速も20km/hに抑えられている。
担当者によると、これからシェアリングにも積極的に働きかけていくとのことだ。
ブースを見渡すと、ミニ試走コースが設営されていた。幸いプレスデーの終了時刻間際で、周囲に人影はまばらだ。ここで練習しておけば、街中でいきなり乗って失態をさらすことがない。筆者にとっては、さながら“教習所”の登場である。
電動キックスクーターは初めてであることを明かす。30秒足らずの極めて短いレクチャーが終わると、早速ヘルメットを渡されてしまった。
電動アシストなしのキックスクーターに乗るつもりで、まずは自力で蹴って走りだしてみる。そのあと、右手のハンドル脇にあるスプリング付きスロットルレバーを親指で下げるとモーターが駆動し始めた。凡庸な表現であるが、そのリニアな加速感は、初めてEVを運転したときの感動に似る。当然のことながら自転車同様、ジャイロ効果・慣性が働くので、走りだしてしまえば横にぶれることはない。
意外に操縦は簡単で、ある意味拍子抜けしてしまった。
自転車が面倒になる
メッセ会場から市街に戻った筆者は、街中で、シェアスクーターを試すことにした。
いくつかの業者の車両が確認できた中、前述したライムのアプリケーションをダウンロードする。
クレジットカード情報を含め、登録に必要な情報の入力は10分足らずで完了した。北京でダウンロードし、第553回で紹介したシェアリング自転車モバイクのアプリと比べ、ユーザーインターフェイスは明瞭かつ明快なデザインだ。
早速周辺に置いてある一台にアプリ内のバーコードリーダーをかざすと、軽快なジングル(メロディー)とともにロックが外れた。
ディスプレイにはバッテリーのチャージ量が表示される。その車両は8割といったところだった。
メッセ会場でもそうだったのだが、蹴り出してからモーターが作動するまでに若干のタイムラグがある。やがてわかったのは、「繰り返し地面を蹴って前進している状態では、モーターがスイッチオンにならない」ということだった。わずかに蹴った直後に例のスロットルを下げると、直後にモーターによる加速が始まった。
今回のベルリン滞在中に使用したのは計2回。1回目は距離1.2km、17分間の利用で4.4ユーロ(約510円)。2回目は距離200m、6分間の利用で2.2ユーロ(約260円)だった。
後者は「たった200mくらいの距離を歩けよ」と言われそうだが、つい乗ってしまった。これこそシェア電動スクーター運営会社の狙いとするところなのだろう。
使用を終了するときも車両のバーコードにアプリをかざすだけだ。つまりバーコードと読み取りアプリを用いた借り出し/返却の手順は、シェア自転車と基本的に同じである。
しかし、違いは数々発見できた。試すことができたのは最高17km/h程度までだが、歩行中よりも風が当たるので、イタリアから着てきた薄着ではそれなりに寒かった。自転車の場合は「こぐ」という運動で、いくぶん体力を使う=暑くなるのに対し、電動キックスクーターではそれがないことも涼しい理由だろう。
さらに、電動キックスクーターに乗ってしまうと、シェア自転車に「またいで乗る」という行為が、妙に大げさに感じられるようになるどころか、面倒くさくなる。野ざらしで汚れたサドルにお尻を置かなくてもよい。ズボンの裾が機構部分で汚れることもない。
同時に、側面の投影面積が少ないぶん、歩道に放置されていても、自転車より目障りでない。都市の景観的にベターである。
もうひとつ驚いたのは重いことだ。車道から歩道に上がろうとスロープがあるところまで行くのが面倒になり、手近な縁石に自力で載せようとすると、そう簡単には持ち上がらない。あとで調べてみると、20kg級の重量なのである。実はアシストなしの自転車とほぼ同等の重さなのだが、見た目が軽そうなため、いざ引き上げると驚くことになる。
前述のドイツの基準で、電動キックスクーターの重さは55kgまで許されているが、より機動性を高めるため、軽量化を望みたい。
まずは乗ってみることが大切
あくる日、空港行きのライドシェア、ウーバーに乗りながら、ドライバーにシェアスクーターに乗ったことはあるか聞いてみた。すると「自動車の側からすれば、まったくもって危ない。自分で運転する気はない」と即座に答えが返ってきた。
実際パリでは2019年6月1日、シェアスクーターがトラックと衝突。同市初の関連死亡事故が発生している。6月26日には、シェアスクーターが絡む重傷事故が同じ日に立てつづけに2件発生している。
パリの知人も「リスクを負ってまで乗りたくない」という。この言葉には、自らの危険とともに、他の歩行者と衝突して危害を及ぼすことを避けたいというニュアンスが含まれていた。
イタリアのミラノ市は2019年8月、条例が整備されるまで電動スクーターの走行およびレンタルを禁止した。また電動でない場合も、その使用可能エリアを大幅に制限した。10月中には関連の条例が施行され、レンタル業者は登録制となる見込みである。
各都市で、そのあり方が模索されている。
シェアスクーターや自転車のライダー、自動車のドライバー、そして歩行者と、いずれの安全も確保するには、ベルリンのように自転車レーンの整備がひとつの有効な手段であることは間違いないだろう。
しかし、歴史的旧市街を抱える欧州都市において道路の改造は、エンジニアリングと行政手続き、予算、いずれにおいても時間がかかる。完全な整備を待っていては、大都市でのスモッグの発生やCO2排出量の低減はさらに遠くなる。
ライダー側の責任を明確にしながら、たとえ完璧に法整備ができる前でもシェアスクーターを普及させるというのも、ひとつの選択肢だ。参考までに6月に施行されたドイツの法令では、レンタル業者(個人所有の場合はオーナー)の保険加入が義務付けられた。
最後にハードとしてのシェアスクーターを評価すれば、繰り返しになるが、立った姿勢で従来なじみのないEV系の加速感を得るのは、極めて新鮮だ。個人的には自動車を初めて公道上で運転したとき以上の感動があった。
ライムによればパリでは45%のユーザーが、直近の利用が「通勤もしくは通学用であった」と回答している。それを支えている大きな要因は、その快適な走行感覚に違いない。ついでに、臭気に満ちた駅やスリが多発する地下鉄も、ホーンが鳴りまくる交差点やロータリーといったものもすべてスキップできるのだ。
賛成する人も反対する人も、まずは乗ってみる。それこそ議論がより建設的に、かつ深まるきっかけになると思う。
(文と写真=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>/編集=藤沢 勝)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、24年間にわたってリポーターを務めている。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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