ポルシェ911カレラ4S(4WD/8AT)
進化したアイコン 2019.10.08 試乗記 後輪操舵と軽量ボディー、パワーアップしたフラット6に先進運転支援システムと最新のインフォテインメントシステム。ルックスこそ大きく変わらぬ新型=992だが、進化のメニューは実に多彩だ。日本標準仕様となる右ハンドルモデルで、最新「ポルシェ911」の出来栄えを確かめた。最新型でも“911らしさ”は健在
ブランド初の量販ピュアEVである「タイカン」がカタログへ加えられ、また新たな1ページが刻まれることになったポルシェのヒストリー。けれども、こうして新時代に向けたブランニューモデルがラインナップに加えられようが、今や多くの利益を生み出すのは「マカン」や「カイエン」という現実があろうが、ポルシェをポルシェたらしめている主役が911であることに、もちろんいささかの疑念もない。
“フライライン”と紹介される極端な後ろ下がりのルーフラインを備えた独特なデザインの猫背型ボディーの最後端に、こちらも水平対向という独特デザインの6気筒エンジンを低く搭載。それゆえのリアヘビーな重量配分がもたらす巨大なトラクション能力や特徴あるハンドリングのテイストを、大変な苦労と長い年月を費やしながらライバル車にはまねのできない“孤高の特色”へと昇華させた911が、今でもブランドの顔としてもてはやされるのは、なるほど当然と言ってもよいことなのかもしれない。
そんな911は1964年登場の初代以降、昨2018年末に全面刷新された992=最新型で数えて8代目。先に掲げたパッケージングやパワーユニットの特徴が踏襲されているのは、もちろん言うまでもない事柄だ。
その上で、時代の要請を踏まえた先進運転支援システム(ADAS)関連機能の大幅拡充や、911史上ではかつてない大型のディスプレイを用いた完全新デザインのインテリアなどが、主たる見どころ。いうなれば、このあたりがまず、最新911ならではの特徴的なアウトラインということになる。
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変わらない印象のエクステリア
一方で、誰がどのようなアングルから目にしても、まごうことなく「911そのもの」と納得のエクステリアのデザインが、相対的に代わり映えが少なく思えてしまうのは、半ば911のモデルチェンジでの宿命ともいえそうな部分である。実際、今度の992型でも「あれ? どこが変わったの?」と、うっかりすればそう指摘されかねないルックスであることは、たとえ生粋の911フリークであってもまずは認めざるを得ないはずの第一印象だ。
何しろ911の場合、新しさを追い求めてその見栄えを大胆に変化させると、たちまち大きなコンプレインの嵐が巻き起こるといった状況は、例えば、一度は異型デザインを採用しながらも、市場からの大きなアレルギー反応を受けて再度シンプルな丸型へと戻さざるを得なくなった、996型でのヘッドライトデザインの変遷を思い起こしても明らかである。
とはいえ、それでもディテールに目をこらせば「992型ならでは」という部分を認めることはもちろん可能で、例えばよりシンプルでありつつもワイドになったように見えるフロントバンパー内の開口部のデザインは、遠目にも「あれ? 何か新しいな」と思わせてくれる新型でのひとつの特徴だ。
エンジンフード上のルーバーは従来の991型同様の縦型モチーフを踏襲しながらも、センター部分に短いハイマウントストップランプを新たにビルトイン。さらに、LEDストリップバーを経由しての左右の一体感とスリムさがより強調されたリアコンビネーションランプも、992型ならではの走り去る姿を印象づける見どころになっていると思う。
サイドビューでは“新旧識別”のハードルはより高くなるが、そうした中での992型の最も特徴的なポイントは、ドアハンドルがリトラクタブル式になったこと。ただし、端的に言ってその操作性は、オーソドックスなグリップバー方式だった991型に対して見劣りする感が否めない。特に、格納状態のハンドルを引き上げようとした場合、爪の長い女性から大きな不満の声が上がることは避けられそうにないという仕上がりだ。
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大きく変わったインテリア
かくして、「いずれにしても想定内」というエクステリアデザインの変わりように比べれば、より端的に“フルモデルチェンジ”を実感させられるのがインテリアのデザイン。従来の991型で採用されていたセンターコンソールの延長線上に置かれたセンターパネルが姿を消した992型のダッシュボードは、上下に薄くなり、水平基調がより強められた造形だ。空冷時代のモデルを知る人には、大きな時間を隔てた両者のデザインに、一脈通じる雰囲気を実感できそうな仕上がりでもある。
一方、そんなデザイン変更の影響で機能性が低下してしまったのが空調。これまで、ダッシュボード最上段の“特等席”に位置していたセンターの吹き出し口が、992型ではセンターコンソール最前部の低いポジションへと移動された。結果、吹き出し口の向きが限られ乗員の顔面まわりにフレッシュエアが大量に送られなくなってしまったのは、個人的には大いに残念と感じられたポイントでもある。
インターネットへの接続も含めたマルチメディアシステムが一気に進化したのは、このタイミングでのフルモデルチェンジとあれば当然ではあるし、いわゆるADAS関係の機能に関してもそれはもちろん同様。ただし、その多彩な機能の中には「これは本当に911というモデルに必要なのか?」と思えるものも少なからず存在することになったし、それらを使いこなそうとすればあらかじめ操作方法の習熟や、これまで以上に煩雑なスイッチ操作が必要となってしまうというのは看過できないポイントだ。
率直なところ、世界屈指のスポーツカーであり当然生粋のドライバーズカーでもある911というモデルには、その取捨選択も含めてさらなる機能の吟味が必要であるようにも思う。例えば、明らかに使い勝手が低下し、かつ重量的にもプラスαが避けられないであろう前出リトラクタブル式のドアハンドルなどは、数あるポルシェの作品の中にあっても少なくとも911というモデルには、あまりお似合いとは思えなかった。もっとも、こうしたギミックを採用するに至っていることは、すなわち911がピュアな走りのモデルから「スーパースポーツカー的な方向」へと向かうスピードを加速させている証しといえるのかもしれない。
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やはり6気筒のサウンドは格別
日本初上陸となり、今回テストドライブを行うことができた992型の911は、「カレラ4S」のグレードにアクティブスタビライザー「ポルシェダイナミックシャシーコントロール(PDCC)」やリアアクスルステアリングといった走りのアイテムや、アダプティブクルーズコントロールやレーンキープアシストといった先進運転支援システムなどをオプション装着したモデル。
ちなみに、日本導入モデルは右ハンドル仕様のみの設定だが、実際そのドライバーズシートへと収まってみればポジションの違和感は皆無で、もはや左側通行国であるこの国で、あえて「不便で危ない左ハンドル仕様」を選択するメリットはゼロというのが現実。一方、トランスミッションは現状8段DCT(PDK)仕様のみの生産とされているが、こちらはこの先MT仕様の登場が否定されているわけではない。
そんなテスト車で走り始め「やっぱり911は良いナ」とまず感心させられたのは、何とも印象的な出来栄えの動力性能。単にエンジンが低回転域からパワフルであるとか、高回転域までストレスなく回るといった内容にはとどまらない。アクセルのわずかな操作に即応してスッとためらいなく前に押し出される“ツキ”の良い感覚や、良い意味でターボ付きエンジンらしさを意識させないリニアリティーの高さなどが、何ともいえない心地よさを演出してくれているのだ。
その上で、こうした好印象に拍車を掛けていたのが、今回もしっかり健在なサウンドであったことも間違いない。ターボ化とともに4気筒化も図られた「ボクスター/ケイマン」からは無残にも失われてしまった“フラット6サウンド”だが、911の場合はターボ化が図られても魅力的な音色がキープされていることは、すでに991型で確認済み。そんな魅惑のサウンドは、従来ユニットをベースにしながらピエゾ式インジェクターの新採用やターボチャージャー本体を含む吸排気系の変更などのリファインが伝えられる新エンジンになっても、変わらず楽しむことができるのだ。
ちなみにその音色は、スペインで行われた国際試乗会に用意されていたテスト車のものよりも、心なしか明瞭度が高まっていたようにも感じられた。あるいは、欧州仕様のみで日本仕様には装着されないというガソリンエンジン用の微粒子フィルターの有無による“好影響”もあったのかもしれない。
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常に時代の最先端を走り続ける存在
こうして、まずは「フィーリング面も含めた動力性能に大感動」だった992型だが、そのフットワークの出来栄えがこちらもハンパではなく高いレベルにあるということも、走り始めてすぐに実感できた。
今回はあくまでも一般公道上でのテストドライブで、残念ながら縦方向にも横方向にも特に高いGを発するような走り方は行えてはいない。
しかし、高速道路上では圧倒的なフラット感を生み出し、ワインディングロードへと差しかかれば、ステアリング操作に対する際立つ正確性と接地感の高さが印象的なそのフットワークのテイストには、まさに「ただ者ではない」という仕上がりレベルが実感できる。ちなみに今回、タイトなコーナーの連続で歴代911の中にあっても屈指の機敏さが味わえたのは、前述のオプション装着されていたリアアクスルステアリングの“逆位相モード”の働きが大いに功を奏していたに違いない。
ちなみに高価ではあるものの、このオプションが「日本でこそすこぶる効果的」とあらためて実感できたのは、実際にタイトなワインディングロードやUターンが必要な場面などにおいて、内輪差を減少させながら回転半径をコンパクト化してくれるという点にメリットを見いだしたからだ。代を重ねるごとに大型化し、992型では後輪駆動モデルであってもついに“ワイドボディー”へと統一されることになった911。そんな最新のモデルを、日本でのさまざまな日常シーンでより高い利便性とともに扱いたいというのであれば、もはやこのリアアクスルステアリングとフロントのリフトシステムは、「選んで当然のオプション」と言ってもいい時代なのかもしれない。
前後異径シューズの標準採用や世界初をうたう路面感知システムの採用と同時に設定された“ウエットモード”の走行プログラムなど、まだまだ新たな話題に事欠かないのが992型の911。さらに細かく拾い上げていけば、ディファレンシャルユニットの水冷化を筆頭とした駆動系の強化によるカレラ4系での前輪駆動力の増強といったニュースなども、興味深い進化のポイントといえるだろう。
ポルシェ911というモデルが長い歴史を備えつつも、“クラシカルなスポーツカー”にとどまらず常に時代の最先端を走り続けるモデルという評価を獲得し続けるのは、まさにこうしたアップデートの積み重ねによる成果でもあるはず。あらためて、そんなことを教えてくれる最新の911なのである。
(文=河村康彦/写真=荒川正幸/編集=櫻井健一/撮影協力=河口湖ステラシアター)
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テスト車のデータ
ポルシェ911カレラ4S
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4519×1852×1300mm
ホイールベース:2450mm
車重:1565kg(DIN)
駆動方式:4WD
エンジン:3リッター水平対向6 DOHC 24バルブ ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:450PS(383kW)/6500rpm
最大トルク:530N・m(54.0kgf・m)/2300-5000rpm
タイヤ:(前)245/35ZR20 95Y/(後)305/30ZR21 104Y(グッドイヤー・イーグルF1アシンメトリック3)
燃費:9.0リッター/100km(約11.1km/リッター、欧州複合サイクル)
価格:1772万円/テスト車=2173万4000円
オプション装備:ボディーカラー<ゲンチアンブルーメタリック>(20万3000円)/スタンダードインテリア<ブラック/モハーヴェベージュ>(9万8000円)/右ハンドル仕様(0円)/8段ポルシェ ドッペルクップルング<PDK>(0円)/ポルシェ ダイナミックシャシーコントロール<PDCC>(52万5000円)/リアアクスルステアリング(36万8000円)/スポーツエキゾーストシステム、ハイグロスブラックテールパイプ(42万6000円)/スポーツクロノパッケージ<モードスイッチ含む>(38万1000円)/20、21インチRSスパイダーデザインホイール(38万2000円)/カラークレストホイールセンターキャップ(2万7000円)/自動防眩(ぼうげん)ミラー(9万円)/レーンキープアシスト(9万6000円)/アダプティブクルーズコントロール(27万8000円)/14ウェイ電動スポーツシート、メモリーパッケージ(37万円)/シートベンチレーション<フロント>(17万4000円)/トリュフブラウンシートベルト(7万2000円)/マットカーボンインテリアパッケージ(29万2000円)/BOSEサラウンドサウンドシステム(23万2000円)
テスト車の年式:2019年型
テスト開始時の走行距離:5176km
テスト形態:トラックインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:591.2km
使用燃料:61.8リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:9.6km/リッター(満タン法)/9.0km/リッター(車載燃費計計測値)

河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。
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