第603回:2030年のクルマ社会はどうなる!? 日本自動車工業会主催の自動運転セミナーに見る未来像
2019.11.14 エディターから一言 拡大 |
日本自動車工業会(以下、自工会)は、東京モーターショー開催期間中の2019年10月30日、東京・有明の東京ビッグサイトにてメディア向けの「自動運転セミナー」を開催した。全3回を予定するセミナーの第1回では、どんな議論が繰り広げられたのか? その様子をリポートする。
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誰もが“自由に移動”できる社会へ
自工会では、2020年の夏に自動運転および先進運転支援技術の実証実験の公開を予定している。そこで、導入編・基礎編・実践編の全3回にわたり、メディア向け自動運転セミナーを開催する運びとなった。
導入編にあたる第1回は、基調講演をはじめ、ITS Japanによる産・官・学視点からの講演、さらに他産業界の視点から、特別ゲストを迎えたパネルディスカッションが行われた。
まず、基調講演では自工会が描く「中長期モビリティビジョン」とともに、2020年7月6日から12日までの1週間で予定する、大規模な実証実験についての概要説明が行われた。
実証予定エリアは、臨海副都心地域、羽田空港と臨海副都心等を結ぶ首都高速、羽田空港地域といった都内の3カ所。
実験内容は以下の通り。
臨海副都心地域では、お台場・有明地区の約30カ所の交差点に通信機器を置き、車載器に対して情報を提供する。この規模での実証実験は初めてのこと。
羽田空港と臨海副都心等を結ぶ首都高速では、「合流支援情報」や「ETCゲート通過支援情報」の有効性などを検証する。
羽田空港地域では、次世代公共交通システムの実証実験として、バスを使ったラストワンマイル系の自動運転に取り組む。さらに、ODD(Operational Design Domain=運行設計領域)という限定された空間をどうつくるかといった課題にも取り組んでいく。
自工会では2020年に行われるオリンピック・パラリンピック、とりわけ、夏開催としては国内で初めてとなるパラリンピックの開催を契機に、「誰もが“自由に移動”できる社会像」を実現すべく、自動運転社会に向けて取り組んでいる。
多様性がモビリティーの明るい未来を開く
次に、ITS Japan専務理事の天野 肇氏から「1億総活躍社会を見据えた、自動運転の役割」と題して、同法人の取り組みについて発表が行われた。
内容はとても幅広く、自動車の発展の歴史から最終的には「ソサエティ5.0」と呼ばれる超スマート社会における未来のモビリティー像におよんだ。
中でも最も興味深かったのは、「何のための自動運転か?」という問いかけを、一般論ではなく自分のこととして捉えようというアプローチから、ITS Japanのメンバー26人で合宿を行ったというくだりだ。
日ごろは会社の管理職として職務をこなす中高年のメンバーたちだが、「バイクに乗り続けたい」「天文写真を撮り続けたい」など、人によってやりたいことがさまざまあり、それに対する思いも強いことがわかった。さらに、「サイバーはあくまでも情報を得る手段であり、大切なのはフィジカルな体験や人とのつながりである」といった意見や、「自宅以外での自己実現のための拠点も欲しい」といった希望なども飛び出した。
そこで天野氏は、「一人ひとりがのびのびやりたいことに力を発揮したらどれだけのことができるだろうか」「個人の趣味から高付加価値のビジネスが生まれるのではないか」といった期待感を持ったという。
つまり、“多様性が大事”であるということなのだが、この合宿で導き出されたことは、結果的に「世代を超えて能力や意欲を生かして誰もが活躍できる社会」をめざすという政府の方針にもつながるものだったということだ。
天野氏は最後に、「サイバー空間はフィジカルな体験をよりのびのびと実現するための手段。その手段によって、多様な人たちがそれぞれの持っているスキルを存分に発揮できるような、まさに一億総活躍社会みたいなものをつくる。その中で必要なモビリティーをつくっていく(中略)。(自動運転技術とは)そういう情報技術でもあるのではないか」と投げかけ、明るい未来を示唆した。
2030年のクルマ社会を考える
プログラムの最後には、「自動運転で広がる生活・経済・社会の可能性・予測」と題し、パネルディスカッションが行われた。モデレーターとしてNewsPicks CCOの佐々木紀彦氏、ゲストにメディアアーティストの落合陽一氏、モータージャーナリストの清水和夫氏、WHILL代表取締役兼CEOの杉江 理氏が登壇した。
全体的な印象としては、年代も、携わる業界も違う各ゲストが、それぞれの立場から自由に意見を述べているのが非常に新鮮で興味深く感じられた。
例えば、パーソナルモビリティー開発を手がける杉江氏は、アミューズメント施設やショッピングモール、空港等での利用が期待される、座ったまま動けるパーソナルモビリティーの自動運転化は、来年や再来年といった近い将来には実現可能だと予測する。これらの自動運転が可能になると、人の手を煩わせることなく、自動的に所定の位置に戻るので便利だ。
また、杉江氏は、今後深刻化する高齢化社会に向けて、セニアカーのイメージアップを図るべきと提言。日本では現在、免許返納後の高齢者が増える一方だが、自動車からセニアカーに乗り換える人の割合は圧倒的に少ないという。「今は、セニアカーに対するイメージがあまりよくないが、そのイメージをもっとポジティブなものにすることによって、座ったまま移動するモビリティーの可能性は飛躍的に広がるはず」(要約)といった意見を披露した。
落合陽一氏の発言に関しては、記事化できないという主催者側からの申し出があり詳しく紹介することはできないが、1987年生まれという比較的若い世代のクルマ観や、自動車業界にとってはショッキングな未来予想図が語られ、ハッとする部分が多かった。
とりわけ、モータージャーナリストである清水氏が発した「クルマを運転していて死んでもいいと思う瞬間がある」という言葉に対して、落合氏や杉江氏が、自分にはまったくない感覚だといった感じで驚いていたのは、印象的だった。
20代、30代をはじめとする若い世代では、免許を持たない人も今後増えていくだろう。クルマを運転する楽しさを知る人たちも減っていくことが予想される。クルマに対する価値観が世代によって大きく変わっていく中で、各個人が自動運転技術に何を求めるのか。2030年までの10年間は、私たちユーザーがこの技術とどう向き合っていくかを考えるのに必要な時間のように思えた。
(文と写真=スーザン史子)

スーザン史子
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