BMW 623dグランツーリスモMスポーツ(FR/8AT)
隠れた名車 ここにあり 2020.01.07 試乗記 「BMW 6シリーズ グランツーリスモ」に追加設定されたディーゼルモデル「623dグランツーリスモMスポーツ」に試乗。定番のセダンでも人気のステーションワゴンでもない独自路線を行くクロスオーバーというポジションには、いったいどんな魅力があるのか。存在感は薄くても
BMWは「7シリーズ」「X7」「8シリーズ」といった7以上のラグジュアリーセグメントを、BMWのなかのハイブランドとして位置付け、ブランドコミュニケーションも差別化している。それほど目立った動きがあるわけではないが、カタログの表紙は写真を使わず車名とロゴマークだけのシックなものとし、使用に厳しい縛りがあるロゴマークもモノトーンとすることが許されるなどが一例だ(必ずしも統一されていないが)。
案外好評だった元「6シリーズ」の「クーペ」「カブリオレ」「グランクーペ」を、そのラグジュアリーセグメント強化のために8シリーズへと上級移行させ、その空いたところに先代「5シリーズ グランツーリスモ」の後継として座らせたのが6シリーズ グランツーリスモというわけだ。少々複雑に思えるが、奇数はオーソドックスなスタイルのハッチバックにセダン、ステーションワゴン、偶数はクーペ系や派生モデルとすみ分けて、急増した車種に対してポートフォリオを整理。ここにきてようやく落ち着いてきている。
2017年に日本導入となった当初は3リッター直6ガソリンターボの「640i xDriveグランツーリスモMスポーツ」のみから始まり、2018年には2リッター直4ガソリンターボの「630iグランツーリスモ ラグジュアリー」および「Mスポーツ」を追加、そして2019年になって2リッター直4ディーゼルターボの「623dグランツーリスモ ラグジュアリー」および「Mスポーツ」も登場することとなった。しかし、それと同時に640i xDriveグランツーリスモMスポーツはラインナップから外された。セダンにステーションワゴン、SUVやクーペなど多くのジャンルのいいとこ取りをしたクロスオーバーは多様性が求められる現代的なモデルではあるものの、残念ながら日本ではそれほど人気がないようだ。
正直に告白すれば、BMWにそれなりにシンパシーを感じている自分も、6シリーズ グランツーリスモをもちろん知ってはいるし過去に試乗もしているが、その存在が頭のなかで薄れかけていた。今回、623dグランツーリスモMスポーツの試乗を持ちかけられても、瞬間的には「ん? どんなクルマだっけ?」と“?マーク”がいくつかともった後に「あー、あのカテゴライズが難しい不思議なアイツに、2リッター直4ディーゼルターボが搭載されたのか」と思った次第。何はともあれ乗ってみるかと、都内から富士スピードウェイで行われるイベントに赴き、同サーキットや周辺で試乗して帰京というルートをたどったのだった。
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大柄なボディーも苦にならない
久しぶりに対面した6シリーズ グランツーリスモは、つくづく不思議なカタチをしている。全長は「5シリーズ セダン」よりも160mm長く、7シリーズ(セダン)よりも20mm短い5105mm。ホイールベースは7シリーズとまったく同一の3070mm。全高は5シリーズ セダンと7シリーズがともに1480mmなのに対して1540mm。ドライバー頭上あたりをピークとしてリアエンドまでなだらかに下降していくルーフラインにはクーペらしさがあるものの、ホイールベースに対して全長が短めなのでさほど伸びやかではなく、全高なりにサイドウィンドウの天地もとられているからキャビンはけっこう広そうに見え、実際かなり広い。
「メルセデス・ベンツCLS」や同門の「8シリーズ グランクーペ」、あるいは旧6シリーズ グランクーペも含めて4ドアクーペはキャビンが小さく見えて、セダンよりも居住性は劣るだろうけれども、その美しいフォルムに強烈に引かれるといった魔力があるのだが、私見を述べさせてもらえば6シリーズ グランツーリスモは、正直そこまでのものではない。かといって、SUVほどにはアクティブなライフスタイルを連想させるわけでもない。欲張って多くのジャンルのクロスオーバーとしたからか、失礼な言い方をするとなにやら中途半端なのである。
セダンやクーペよりはちょっと高めで、SUVよりは低い絶妙なヒップポイントのおかげで乗り降りは楽な動作で行える。アイポイントも適度に高めで見晴らしが良く、これなら大柄なボディーで街中を行くのもそれほど苦にならないだろうとホッとする。
実際に路地裏などでも持て余すことはなく、存外に走りやすかったのは「インテグレイテッド・アクティブ・ステアリング(前後輪統合制御ステアリングシステム)」によって小回りが利くのと、搭載された2リッター直4ディーゼルターボの超低速でのドライバビリティーが抜群にいいからだ。1000rpm+αぐらいの回転域でもアクセルを踏み増せば即座にグイッとボディーを押し出しはじめる応答性の良さがあり、8段ATとの連携も見事だ。
2リッター直4ターボでは1860kgの車両重量に対して心もとないのかと思いきや、扱いやすくて頼もしいのだから恐れ入る。BMWはスポーツ表示という項目を選ぶと、現在発生しているトルクとパワーをセンターディスプレイで確認することができるのだが、1000rpm+αでアクセルを踏み込めばすぐに300N・mを超える。
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応答性に優れたディーゼルエンジン
好印象は高速道路や郊外路でも続いた。一般的な走行では加速時に2000rpmを超えることはあるが、巡航時は1500rpm前後。そこでも豊かなトルクと優れた応答性があるから、少ないアクセル操作で交通の流れに無理なく乗っていける。
最新のディーゼルだから、2リッターで400N・mの最大トルクを発生することには驚かない。くだんのディーゼルゲート以降はRDE(Real Driving Emission=実走行時の排出ガス性能)が重視され、EGR(排気再循環システム)を使いまくっているせいかアクセルへの応答性が悪化しているエンジンも見受けられる。
しかし、そんな他社を向こうに見ながらディーゼルゲート以降に開発されたBMWのディーゼルエンジンは、RDEを含め将来の排出ガス規制までを見越しつつ、パフォーマンスに応答性、燃費などを高次元でバランスさせている。ロープレッシャー側ではVTG(可変ジオメトリーターボ)を採用する2ステージターボが、まれに見るほどの高い応答性を実現しており、以前よりも確実に全方位で進化したといえる。
同エンジンを搭載する「320d xDrive」でも音・振動の少なさがトップレベルにあることは確認していたが、より上級でそもそもの静粛性に優れる623dグランツーリスモでは、圧巻と言えるほどに静か。一般的にディーゼルは、低〜中回転である程度の負荷がかかったときにノック音が出やすいが、そんなものとは無縁と思えるほどであらゆる状況で快適だ。
Dレンジのまま全開加速させると4000rpmをわずかに超えたあたりでシフトアップ。3000rpm程度まで落ちて再び4000rpmまで吹けていくが、回転上昇の勢いの良さはディーゼルとは思えないほど。マニュアルシフトすれば5000rpmまで引っ張れるが、そこでも苦しげではない。もともとBMWはディーゼルでも高回転が得意だったが、さらに磨きがかかったようだ。
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BMWらしいハンドリング
ボディーの大きな6シリーズ グランツーリスモでも2リッター直4ディーゼルターボが想像以上にいい仕事をしていてうれしくなったが、乗り心地の良さにも感心させられた。19インチのランフラットタイヤを履くが、タイヤの硬さや重さを意識させられることはほとんどなかった。高速道路の工事中の箇所で、大きな突起を通過したときの突き上げがやや鋭く感じたことがあっただけで、あとはタイヤがノーマルかランフラットかわからないぐらいだ。
640i xDriveグランツーリスモMスポーツのように、4輪アダプティブエアサスペンションではないが、ラゲッジの積載量にかかわらず車高を適正に保つリアエアサスペンションによって、あらゆる場面で快適に走れる。そのストローク感は、しなやかである。それでいて高速域ではピッチングが少なく、落ち着いた乗り味になっているのはロングホイールベースの恩恵だろう。このモデルは、現行のBMWラインナップのなかで、最も乗り心地がいいと言えるほどだ。そして同時にワインディングロードを走らせれば、BMWらしいハンドリングをみせる。
ステアリング操作に対するノーズの動きが素直で、面白いように向きが変わる。過度なシャープさはなく、いい意味での穏やかさを併せ持っているのだが、タイトコーナーなどでもノーズの重さをまったく感じさせない。車検証で確認した前後重量配分は46:54。5シリーズ グランツーリスモに比べればリアまわりがずいぶんと軽くなっているはずだが、それでも大きなテールゲートを持つから配分的には後ろ寄り。それもあって軽快なハンドリングとなっているのだろう。
もちろん違和感のないリアステアも、大きなボディーをクルリと回り込ませてくれる一助となっているはずだ。たっぷりとしたストローク感のあるサスペンションで、穏やかながら優れた資質で自在なハンドリングをみせるBMW。ものすごく好印象を抱いていたE46時代の3シリーズの記憶がふとよみがえった。
不思議なカタチで、乗る前はどこに魅力があるのか、いまひとつピンときていなかった623dグランツーリスモだが、街中から郊外路、高速道路、ワインディングロードと駆け巡っているうちにすっかり気に入ってしまった。今までは気付かなかった隠れた名車を見つけたようで得した気分。今の自分のライフスタイルには合わないモデルではあるが、将来のショッピングリストにしっかり付け加えておくことにしよう。
(文=石井昌道/写真=神村 聖/編集=櫻井健一)
テスト車のデータ
BMW 623dグランツーリスモMスポーツ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5105×1900×1540mm
ホイールベース:3070mm
車重:1860kg
駆動方式:FR
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ディーゼル ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:190PS(140kW)/4000rpm
最大トルク:400N・m(40.8kgf・m)/1750-2500rpm
タイヤ:(前)245/45R19 98Y/(後)275/40R19 101Y(ピレリPゼロ)※ランフラットタイヤ
燃費:15.8 km/リッター(WLTCモード)
価格:846万円/テスト車=1016万9000円
オプション装備:メタリックペイント<ロイヤルバーガンディーブリリアントエフェクト>(9万2000円)/イノベーションパッケージ<BMWディスプレイキー+リモートパーキング+BMWジェスチャーコントロール+ワイヤレスチャージング>(26万5000円)/コンフォートパッケージ<フロント&リア・ソフトクローズドア+フロントアクティブベンチレーションシート+フロントマッサージシート+フロントコンフォートシート>(37万3000円)/エクスクルーシブパッケージ<エクスクルーシブナッパレザー+アンビエントエアパッケージ+フロント&リア・シートヒーティング+4ゾーンオートマチックエアコンディショナー+電動リアシート>(34万5000円)/BMWインディビジュアルインテリアトリム<ピアノフィニッシュブラックトリム>(6万3000円)/Bowers & Wilkinsダイヤモンドサラウンドサウンドシステム(57万1000円)
テスト車の年式:2019年型
テスト開始時の走行距離:3563km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:359.8km
使用燃料:30.0リッター(軽油)
参考燃費:11.9km/リッター(満タン法)/12.9km/リッター(車載燃費計計測値)
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石井 昌道
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