BMW X7 xDrive35dデザインピュアエクセレンス(4WD/8AT)
現代に息づく駅馬車 2020.01.29 試乗記 大仰な“キドニーグリル”に象徴される華美な装飾に目が行きがちだが、「BMW X7」の本質は単なるおしゃれ系SUVではない。広々としたキャビンとBMWならではの軽快な走りを両立したこの超大型SUVは、人も荷物も詰め込んで使い倒したくなる魅力にあふれていた。メルヘンで贅沢……されどトラック
X7は、BMWが言うところのSAV(スポーツ・アクティビティー・ビークル)、世間で言うSUVの新しい旗艦として、2018年10月に発表された。日本上陸は2019年6月のことながら、筆者は年の瀬に試乗するまで、実物を見たことがなかった。
いやはや、でかい。たまげる。笑っちゃうぐらい。幌(ほろ)馬車みたいだ。
本題に入る前にX7の日本仕様について簡単に説明しておくと、530PSのV8モデル「M50i」を別にすると、3リッター直6ディーゼルの「35d」が国内のスタンダードである。35dには3種類のグレードがあるけれど、試乗車の「デザインピュアエクセレンス」は、ご覧のようなキラキラおしゃれパッケージで、クローム多めの外装と、バイエルンの青い空と白い雲を思わせる色合いの内装で仕立てられている。なので、ドアを開けると、メルヘンチックなそのインテリアに、ちょっとポカンとする。
ここで、「いやはや、でかい」に戻る。全長×全幅×全高は5165×2000×1835mm。キャデラックのSUVの王様「エスカレード」ぐらいある。正確にはエスカレードのほうがX7より30mm長くて、65mm広く、75mm高い。でも、3105mmのホイールベースは、X7のほうが55mm長い。
運転席にはヨイショとよじ登る。4tトラックに乗り込むがごとしである。着座してすぐに目に入るのが「クラフテッドクリスタルフィニッシュ」と呼ばれるクリスタルガラスのようなオートマチックのシフトノブである。おお、なんてメルヘン。55万6000円のオプションのアイボリーホワイトとミッドナイトブルーのフルレザーシートの座面と背面はキルティング風になっていて、乙女チックで白雪姫かシンデレラ。
見上げると、ほぼ天井いっぱいにガラスサンルーフが広がっている。こちらは11万7000円のオプション、ウッドトリムは8万9000円である。ただのトラックではない。マリー・アントワネットを思わせる、というと大げさですけれど、贅沢(ぜいたく)な内装が施されたトラックなのだ。
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洗練されたトラック
エンジンをスタートさせると、ディーゼルゆえ微小な振動を感じる。マリー・アントワネットだけれど、トラックなんである。そこが、筆者はカワイイと思う。正体を隠していない。
指紋だらけにすることを臆せず、ガラスの靴ならぬシフトノブを操作して、いざスタート。こんなにでっかいとコワイでしょう、と思われるかもしれない。大丈夫。カメラがリアだけではなくてサイドにも付いていて、周囲を俯瞰(ふかん)画像化してくれる「パーキングアシストプラス」というスグレモノを標準装備しているからだ。
3リッター直6ディーゼルターボエンジンは、最高出力265PS/4000rpm、最大トルク620N・m/2000-2500rpmを発生する。ディーゼルらしく、低速から分厚いトルクがごく当たり前のように湧き出てくる。2500kgのスーパーヘビー級なのにスッと動く。とはいえ、でっかい感はヒシヒシと感じる。でっかいのだから当然である。着座位置の高さときたら、首都高速のカーブなんかでイン側の下の景色がコワイほど見える。
乗り心地は、素晴らしく洗練されたトラックである。と何度も「トラック」と書いていると誤解を招きますね。強調したいのは「洗練された」のほうである。トラックは、「SUVっぽい」「男っぽい」の意です。それこそキャデラック・エスカレードにも共通する西部開拓史的、駅馬車的な、ま、駅馬車には乗ったことはないけれど、そういう類いのワイルドさがX7にも息づいているように思われる。
軽快な走りをもたらす見えない装備
ホイールはオプションの22インチを履いている。27万4000円である。タイヤは前275/40R22、後ろ315/30R22というウルトラスーパーカーサイズの「ピレリPゼロ」で、ランフラット。いかにも分厚いラバーの、アウトドア用ブーツを履いている感がある。その硬いブーツが拾う路面からのショックを、エアスプリングのひざが吸収してくれる。常に微妙にウニウニしているけれど、ふにゃふにゃ、ふわふわではない。確かな足応えを感じさせつつ、それでいて、ガツンとかゴツンとかの直接的な突き上げとは無縁だ。
アダプティブエアサスペンションが、箱根の山道でせっせと屈伸運動を繰り返している。その巨体からして、獅子奮迅の働き、といってよいだろう。ともかく山道の手前でブレーキをかけてステアリングを切ると、さしたるロールも見せず、素直に曲がっていく。
なぜそんなことができるのか? BMWお得意の前後重量配分は、3列シートによるものか、車検証だと、前1150kg:後ろ1350kgのリアヘビーになっている。
目には見えない存在として、「xDrive」なる電子制御4WDシステムがある。後輪駆動ベースのこのシステムは、ディーゼルのつむぎだす強大なトルクを状況に応じて前輪にも最適に配分する、とされる。
もうひとつ目に見えない存在として、「エグゼクティブドライブプロフェッショナル」がある。35万6000円のオプションのこれは、フロントウィンドウに設置されたステレオカメラが前方の路面の凸凹を検知し、その情報をもとにサスペンションの調整を継続的に行う。だからウニウニしていたんだ(たぶん)! でもって、ロールをアクティブスタビライザーが最小限に抑えて、快適性とハンドリングの両立を図っているという。だから山道でもロールしないのだ!
いわゆるドライブモードを「スポーツ」にすると、全体がタイトになり、乗り心地がやや硬くなって、ほとんどロールしなくなる。「ノーマル」だと、ゆるやかにロールする。2.5tの車重をゆるやかにロールさせているのだから、その足腰の強靱(きょうじん)さたるや、尋常ではない。
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ひとりで乗るのがモッタイナイ
X7はイノベーションの塊である。「ドライビングアシストプロフェッショナル」にも感心した。210km/hまでステアリング操作をアシストする「自動運転」の最新システムである。巨体だけにグイグイ曲がる感がある。加速も減速もキッパリしていて、クルマの意図がこちらに伝わってくる。あまり素晴らしいので、自分が運転していることをつい忘れてしまう。筆者だけかもしれませんが、気をつけたい。
超快適で贅沢なトラックで、ひとりで乗っているのがモッタイナイ。なにかを運びたくなる。だれかを乗せたくなる。そういう気持ちにさせる。ものすごくでっかいのに威圧感はない、と筆者は思う。BMW史上最大というキドニーグリルには、「ここまでやるか」というユーモアさえ感じる。世間をアッと言わせてやろう、という気概が伝わってくる。従来の殻を破って新しい領域に挑戦しようとする、BMWのパイオニアスピリットが伝わってくる。
と同時に大型機械の趣もある。2列目はもちろん、3列目でもおとながちゃんと乗れる。ミニバン的にも使えるだろう。これはBMWがつくった現代の駅馬車、働くクルマなのだ。
(文=今尾直樹/写真=郡大二郎/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
BMW X7 xDrive35dデザインピュアエクセレンス
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5165×2000×1835mm
ホイールベース:3105mm
車重:2500kg
駆動方式:4WD
エンジン:3リッター直6 DOHC 24バルブ ディーゼル ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:265PS(195kW)/4000rpm
最大トルク:620N・m(63.2kgf・m)/2000-2500rpm
タイヤ:(前)275/40R22 107Y/(後)315/35R22 111Y(ピレリPゼロ)※ランフラットタイヤ
燃費:11.4km/リッター(WLTCモード)
価格:1229万円/テスト車=1534万5000円
オプション装備:ボディーカラー<アークティックグレー ブリリアントエフェクト>(0円)/BMWインディビジュアルフルレザーメリノ<アイボリーホワイト×ミッドナイトブルー>(55万6000円)/ウエルネスパッケージ(14万6000円)/22インチマルチスポークホイール<スタイリング757>(24万7000円)/エグゼクティブドライブプロフェッショナル(35万6000円)/アラームシステム(6万7000円)/アルミニウムランニングボード(8万3000円)/5ゾーンオートマチックエアコンディショナー(13万1000円)/2列目コンフォートシート<6人乗り>(9万1000円)/BMWインディビジュアルアッシュグレインシルバーグレーファインウッドインテリアトリム(8万9000円)/スカイラウンジパノラマガラスサンルーフ(11万7000円)/リアシートエンターテインメントシステム<プロフェッショナル>(36万3000円)/Bowers &Wilkinsダイヤモンドサラウンドサウンドシステム(61万7000円)/BMWインディビジュアルアルカンターラルーフライニング(19万2000円)
テスト車の年式:2019年型
テスト開始時の走行距離:3630km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(8)/山岳路(1)
テスト距離:694.6km
使用燃料:69.0リッター(軽油)
参考燃費:10.1km/リッター(満タン法)/10.7km/リッター(車載燃費計計測値)
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今尾 直樹
1960年岐阜県生まれ。1983年秋、就職活動中にCG誌で、「新雑誌創刊につき編集部員募集」を知り、郵送では間に合わなかったため、締め切り日に水道橋にあった二玄社まで履歴書を持参する。筆記試験の会場は忘れたけれど、監督官のひとりが下野康史さんで、もうひとりの見知らぬひとが鈴木正文さんだった。合格通知が届いたのは11月23日勤労感謝の日。あれからはや幾年。少年老い易く学成り難し。つづく。
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