BMW X7 M50i(4WD/8AT)
何もかもが規格外 2020.06.16 試乗記 巨大な“キドニーグリル”と圧倒的なボディーサイズが特徴の「BMW X7」。ハイパフォーマンスとラグジュアリーな世界観を両立させたという最上級SUVの実力を確かめるために、トップモデル「M50i」をロングドライブに連れ出した。X7のハイパフォーマンス版
今や「あらゆるブランドから」と紹介しても決して過言ではないほど、あまたのニューモデルの登場によって、すっかり普遍的な存在となったSUV。BMWのラインナップの中にあって、そうしたSUVカテゴリーのフラッグシップとして差し当たりの頂点に立つモデルが、2018年末に開催されたロサンゼルスモーターショーで初披露されたX7だ。
ちなみに、ここで「差し当たり」とただし書きを付けたのは、X7と同様にフラッグシップたるポジションとして、間もなく「X8」と呼ばれるであろうモデルの登場が確実視されているからである。
BMWの場合、前述のいわゆるSUVカテゴリーを、さらに“SAV”(Sport Activity Vehicle )と“SAC”(Sports Activity Coupe)とに細分化しているのはご存じの通り。車格としては同列に位置づけられるX7とX8を、前者がSAV、後者がSACに属するモデルとして売り分けていきたいというのが、BMWのもくろみである。
ブランドの本拠地であるドイツを含めた欧州と、他のXモデル同様に生産工場のあるアメリカでまず発売されたX7が、日本に導入されたのは2019年6月。日本でのラインナップは、265PSの最高出力と620N・mの最大トルクを発生する3リッター直6ディーゼルターボエンジン+8段ステップATの「xDrive35d」が“標準”で、530PS(!)と750N・mを発生する4.4リッターV8ガソリンツインターボエンジン+8段ステップATのM50iが“ハイパフォーマンス版”という扱いだ。
使える3列目シート
それにしても、「小山のように大きい」という表現は、X7のようなモデルを紹介するたとえにこそふさわしい。
そもそも全長が5.1m、全高は1.8mをそれぞれオーバーし、全幅もちょうど2mと物理的なサイズが日本では“規格外”といえるほどのものであることに加え、「メルセデス・ベンツGLS」や「アウディQ7」など、ライバルにあって自身にはなかったフルサイズクラスへの初参入となるがゆえに、水平基調のボクシーなボディーに直立したフロントグリルを組み合わせるなど、ことさら“立派に見えること”を意識したデザイン要素を積極的に採用したことで、なおのこと大きく感じられるという印象すら漂っている。
ライバルブランドに対して、常にスポーティーさやダイナミズムにスポットライトが当てられがちなBMWのモデルではあるものの、さすがにそれよりも威風堂々、エレガントといったキーワードが先だってアピールされそうなのがX7の佇(たたず)まいである。
シートレイアウトは3列で、現在では弟分である「X5」にも3列シート版が設定されてはいるものの、こと最後列シートでの居住性に関してはX7が圧勝している。そこではやはり、230mmも大きい全長と130mm長いホイールベースがてきめんに効いていることは間違いない。
オプションのゴージャスなセパレート式がチョイスされた試乗車の2列目シートには、3列目への乗降のため前方にスライドすると同時に後端部分が持ち上がる電動式のウオークイン機構が備わっていた。その動きが思いのほかスローで少々イライラさせられてしまう一方で、なかなかの便利機能ではあることもまた確かである。
いずれにしても問題なのは、体を通過させるためには巨大なリアドアを大きく開く必要があり、その張り出しがいとも簡単に隣に駐車しているクルマを“攻撃”してしまいそうなこと。
実際のところボディーサイズはもとより、このあたりも「日本の事情などコレっぽっちも考えられていない」ことは明らかで、少なくともこれを目にした読者の皆さんには「ご自身のクルマはX7の隣にはとめないのが身のため」とアドバイスしておきたい。
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“光りもの”でも高級感を演出
指針が左回転するタコメーターを収めたバーチャルメーターに、それと同レベルで中央部分にワイドなディスプレイを並べた水平基調のダッシュボードをベースに構成されるインテリアは、昨今デビューする最新BMWの流儀にそのままのっとったという仕上がり。
このモデルの場合、そうした中で特に華を添えることになっているのが、内部に照明が仕込まれたクリスタルのセレクターノブや、パノラマガラスサンルーフのドットグラフィックをあたかも星空のごとく浮かび上がらせるといった、LEDテクノロジーを駆使した“光りものギミック”の数々である。
もちろん、かくもフラッグシップを自称するモデルだけあって、いかにも吟味を重ねたことがうかがえる各部に用いられた素材の上質感も、文句のつけようがない。
特に、BMWのカスタマイゼーションメニューである“Individual(インディビジュアル)”のリストに載るアイテムが多数選択されていた今回の試乗車のインテリアは、ゴージャスな雰囲気この上ナシ。さらに、オプションのリアシートエンターテインメントシステムまでが採用されていたので、「ドライバーズシートこそが特等席」というのが定番評価であるBMW車ではありながらも、思わず「今回ばかりは当てはまらないのかも」と、対面した当初はそのようにも感じられてしまったほどでもある。
とはいえ、日本に導入されるX7において唯一のガソリンエンジン搭載バージョンとなるM50iのスペックをあらためてチェックしてみれば、前述の強靱(きょうじん)なV8エンジンに加えて、スポーツディファレンシャルやスポーツエキゾーストシステム、スポーツブレーキ、そして後輪側にバイアスがかけられた4WDシステムに前後輪統合制御式4WS……と、やはり「ちょっと操ってみたくなる」アイテムも満載。
かくして、こちらも“インディビジュアル”のメニュー内に用意された何とも妖艶(ようえん)なパープル系の外装色である「アメリトンメタリック」に彩られたモデルのドライバーズシートへと乗り込み、例のクリスタル製シフトレバー脇のボタンを押して4.4リッターV8ユニットを目覚めさせることとなった。
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500PSオーバーの力で屈服させる
そんなX7で走り始めて早々に圧倒されるのは、その静粛性の高さだ。「スポーツエキゾーストシステムを標準で採用する“M”の記号が付いたモデル」という先入観からすると、そもそも街乗りのシーンではエンジンが発するノイズのボリュームも拍子抜けするほどに小さく、さらに分厚いベールにくるまれたかのような外部音の遮断性が半端ではない。
一方、そうした際立つ静かさの持ち主ゆえに、わずかな音圧の変化として耳に感じるドラミングノイズが、意外に目立つ結果となっていたのが残念といえば残念だった。試乗車が、標準仕様の21インチに輪をかけて巨大なオプションの22インチシューズを履いていたことは、そんなノイズ面からも、特に補修を重ねたいわゆるパッチ路面を通過した際に強く意識させられることになった。同時にばね下の重量感という面からも、正直なところ機能上ではプラス側に作用しているようには受け取れなかった。
わずかに4.7秒という一級スポーツカーばりの0-100km/h加速タイムも示しているように、絶対的な加速の能力が「全くもって文句ナシ」であることは間違いない。ただし、それでは印象が軽快感に富んでいるのかと問われれば、やはりそれはYESとは答え難い。その“速さ”とは、2.6tに迫る重量を500PS超の怒涛(どとう)のパワーで屈服させている……といったイメージである。
前述の通り5mを優に超えた全長に2mという全幅、そして4WSシステムをもってしても6.2mと大きい最小回転半径の持ち主ゆえ、道幅に余裕がない日本の住宅地などでの身のこなしは、「絶望的」と言うしかないものだ。一方で、そんな鬱憤(うっぷん)を晴らすかのように“わが世の春”を味わうことができるのが、高速道路を中心とした高規格な複数車線を持つルートへと乗り出した場面である。
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渋滞時は手放しドライビングも可能
端的に言って、日本では“過剰”と表現するしかないその体格を気にせずにすむ舞台へと持ち込まれたM50iの走りは、まさに“水を得た魚”そのものだ。それまでは「静かで上質」というキャラクターを演じ、ひたすら黒子に徹していたエンジンも、3000rpm超まで引っ張れる場面に出会えれば、“サウンド”と紹介できるたくましくも魅力的な音色を聞かせてくれるようになる。
そんなV8ユニットと組み合わされたトランスミッションも絶品だ。実はこのアイテムがあってこそ「あえてガソリンエンジンを積んだX7を選びたくなる」とも言いたくなりそう。例えば、1速ギアはかなりローギアードな設定で出足の一瞬の鈍重さを消し去ってくれるし、さらにそこから上位のギアへと移行する際は一切ショックを感じさせずにシームレスにつなぐ。アクセルのわずかな操作に対する反応も、見事だ。意のままにトルクを操れるという絶妙な仕上がり具合なのである。
もっとも、そんなパワーパックの秀逸さを味わっていると、たちまち“とんでもないスピード”に達してしまうのも、このモデルにおける現実だ。どんなシーンでもひたすらフラットな姿勢を保ち続けようと頑張るエアサスペンションの働きもあって、最も心地のいい走りが味わえる速度域は、高速道路上では恐らく130km/h超の領域となってしまいそう。
サイズもパワーも規格外なこのモデルは、やはりこうした走りの実力もまた規格外と言うしかない。そうしたさまざまな領域でのエクスクルーシブ性の高さこそが、この種のモデルに食指を動かす人を誘うための大きな要因であることも違いないだろう。
ところで、今回のテストドライブでは作動要件に当てはまる渋滞シーンへと遭遇せず、残念ながらそのありがたみを味わうことができなかったものの、実はこのモデルには、高速道路などでの渋滞時に“手放しドライビング”を実現させる、画角の異なる3眼式カメラを用いた「ハンズオフ機能付き渋滞運転支援システム」が標準装備されているのも話題のひとつだ。
同様にハンズオフをうたう「日産スカイライン」のシステムとは異なって、専用の高精度地図を併用しないがゆえに作動が「渋滞時のみ」に限定されるものの、冷静に考えてみればそうしたストレスフルなシーンでこそ、この装備のありがたみを感じることができるだろう。
名よりも実をとったアイテムとして、なるほどこれも、これからの時代のフラッグシップらしい注目装備と紹介できそうだ。
(文=河村康彦/写真=花村英典/編集=櫻井健一)
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テスト車のデータ
BMW X7 M50i
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5165×2000×1835mm
ホイールベース:3105mm
車重:2580kg
駆動方式:4WD
エンジン:4.4リッターV8 DOHC 32バルブ ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:530PS(390kW)/5500rpm
最大トルク:750N・m(76.5kgf・m)/1800-4600rpm
タイヤ:(前)275/40R22 107Y/(後)315/35R22 111Y(ピレリPゼロ)※ランフラットタイヤ
燃費:7.5km/リッター(WLTCモード)/8.1km/リッター(JC08モード)
価格:1595万円/テスト車=1792万2000円
オプション装備:BMWインディビジュアルボディーカラー<アメトリンメタリック>(32万9000円)/BMWインディビジュアルエクステンドメリノレザー<アイボリーホワイト>(0円)/ウエルネスパッケージ(14万6000円)/22インチBMWインディビジュアルアロイホイール<Yスポークホイールスタイリング758I>(24万7000円)/BMWインディビジュアルピアノフィニッシュブラックトリム(6万2000円)/2列目コンフォートシート<6人乗り>(9万1000円)/スカイラウンジパノラマガラスサンルーフ(11万7000円)/リアシートエンターテインメントシステム<プロフェッショナル>(36万3000円)/Bowers&Wilkinsダイヤモンドサラウンドサウンドシステム(61万7000円)
テスト車の年式:2020年型
テスト開始時の走行距離:1632km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(8)/山岳路(1)
テスト距離:336.2km
使用燃料:43.6リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:7.7km/リッター(満タン法)/7.1km/リッター(車載燃費計計測値)

河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。
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