いきなり受注2000台! 新型車「トヨタGRヤリス」はなぜモテる?
2020.01.31 デイリーコラムあのころとは事情が違う
2020年1月10日に先行予約をスタートした「GRヤリス」が、その受け付け開始から約2週間でいきなり2000台以上を受注したという事実は、GRヤリスがいかに世のエンスージアストたちの期待を背負っているかの証左でもあるだろう。GRヤリスは世界的にも希少な量販本格スポーツ4WDであり、「スバルWRX STI」の生産終了に合わせたかのようなデビュー時期も、どこか宿命的ですらある。
今さら説明不要だろうが、トヨタは先代「ヤリス」(日本名「ヴィッツ」)で2017年シーズンから世界ラリー選手権(WRC)にワークス復帰した。この2020年までは従来マシンで戦うが、関係者によると、早ければ来年の2021年から新型GRヤリスでの参戦を目指すという。そんなGRヤリスについて、トヨタはみずから「WRCを“勝ち抜く”ために生まれたホモロゲーションモデル」とうたう。
トヨタのWRCといえば「セリカGT-FOUR」が名門ランチアを力でねじふせて初の世界タイトルを獲得したグループA時代(1987~1996年)を思い出す中高年エンスーも多いと思う。しかし、今回登場したGRヤリスの存在意義や内容が意味するところは、ベース車両ほぼそのままでトップカテゴリーを争っていたグループA時代とはかなり異なっている。
現在のWRCトップカテゴリーは1997年に登場した“ワールドラリーカー(WRカー)”で争われている。WRカーもベース車両の大量生産は必要なものの、エンジン換装や駆動方式の変更など「もはやWRC専用マシン?」といいたくなるほど幅広い改造が認められている。そのWRカー規定も何度か改正されて、現行規定は2017年から施行されているものだ。トヨタもその2017年規定に合わせてWRCに復帰して、新型GRヤリスも基本的に同規定にのっとって企画開発された。
現行規定でのベース車両は、全長3900mm以下で、シリーズで連続する12カ月で2万5000台、直接のベースモデルで同じく2500台の生産が義務づけられている。新型ヤリスは通常モデルが5ドアのみで、GRヤリスが専用の3ドアとなる。よって、新型GRヤリスが本当に2021年からWRCに参戦するには、2020年中にヤリス全体で年間2万5000台、GRヤリスのみで2500台をつくる必要がある。現時点の発売日程や受注状況なら生産義務は問題なくクリアできそうだが、かりに4WDのGRヤリスの生産がエンジンや駆動システムが原因で間に合わなければ、先の東京オートサロンに同時出展されたFFモデルを投入……という奥の手もある。
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活躍の場はひとつじゃない
巨大なエアロパーツやオーバーフェンダーの追加が認められるWRカーとはいえ、ベースとなる車体(やエンジン搭載位置)は市販車をそのまま流用しなければならない。サトータケシさんによる『webCG』のプロトタイプ試乗記に「ルーフ後端を低くして、空力性能の向上を図った」とあるように、GRヤリスのエクステリアは高さ制限のあるリアウイング装着を前提として、それが最大限に生きるようルーフラインやリアフェンダーが造形されている。また、フード類をアルミやカーボン化しているのもWRカーでそのまま効果を発揮するはずだ。
ただ、エンジンや駆動方式の変更が認められている現行規定では、新開発1.6リッター3気筒ターボエンジンや、同じく新開発のスポーツ4WDシステム「GR-FOUR」といったGRヤリス専用のエンスーなメカニズムは、ワークスカーにはまるで不要である。そもそも現行WRカーの心臓部は「グローバルレースエンジン」と呼ばれる規格化されたエンジンでなければならず、1.6リッター、4気筒、直噴、ターボ過給といった基本形式をはじめ、ピストンやコンロッドの寸法や重量まで定められている(そして2021年からはハイブリッド化される予定)。また4WDシステムもWRCでは専用のアクティブセンターデフを使う。
では、GRヤリスで意味があるのは3ドアの車体だけで、われわれが胸躍らせるメカニズムはラリーには無用の長物なのか? 少なくともWRCトップカテゴリーで戦うだけなら、それはそのとおりだ。事実、今WRCを戦っている先代ヤリスにGRヤリスのようなモデルは存在せず、海外で普通に売られていた3ドアをベースにしたWRカーが使われている。
ただ、世の好事家たちがこぞって色めき立ったように、WRCトップカテゴリー以外では、GRヤリスはまさに待望のクルマだ。とくに市販車ベースのあらゆるカテゴリーのモータースポーツで勝てる可能性を秘めており、それこそがこのクルマ最大の目的と思われる。
たとえば、WRCにもワークスがガチンコで争う「RC1」クラスのひとつ下に、プライベーター向けトップクラス「RC2」がある。そこはWRカーに準じるベース車に市販車由来のエンジンを積んだ「R5」カテゴリーで争われており、新型GRヤリスが参戦できるようになれば即座に優勝候補になること必至だ。
GRヤリスの3気筒ターボは「WRCイメージの強い1.6リッターターボで競合の2リッターターボを打ち負かす」ことを想定して、過酷な競技にもフルで使える戦闘力と耐久性を持たせてあるという。世界各国で行われているラリーやツーリングカーレース、耐久レースなどローカル競技では、いまだにスバルWRXやランエボなどのターボ4WDが最強マシンとして君臨しているクラスも多い。そこにGRヤリスが出回れば、最終的にこれらのクルマに取ってかわる可能性が高い。
ただ、自分たちが世界一になるだけでなく、それを元手に草の根モータースポーツでもきちんと商売をする……それがトヨタが「GR」にこめた最大の野望ということか。
(文=佐野弘宗/写真=トヨタ自動車、webCG/編集=関 顕也)
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佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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