さらに走りを磨いたモデルも登場! とどまることを知らない「ホンダ・シビック タイプR」の進化に思う
2020.02.24 デイリーコラムはじまりは1992年
「東京オートサロン2020」にて世界初公開された改良型「ホンダ・シビック タイプR」。その情報の一部が解禁され、2020年夏発売予定の“20スペック”の進化点が見えてきた。詳細は既に公開済みのニュースを参考にしてほしいが、その中身は実にストイック。すべての進化は走りのためという“タイプRスピリット”が、今も受け継がれていることを感じさせた。
そんなタイプRの歴史を振り返ると、起源は1992年までさかのぼる。発売から2年が経過したミドシップスーパースポーツ「NSX」に、ノーマルでは物足りないエンスージアストに向けたサーキット重視のピュアモデルとして、タイプRが追加されたのだ。レカロ製軽量バケットシートやMOMO製ステアリングなどといったスポーツ走行向けのパーツの装着に加え、足まわりやパワートレインにも独自のチューニングを実施。さらに、ベース車に備わる豪華装備・快適装備を徹底的に排除することで、120kgもの軽量化を実現していた。オーディオどころか、エアコンすらオプションという超スパルタンモデルだったのだ。ホテルやレストランではなく、サーキットに乗りつけるためのNSXは、その象徴となる赤のホンダエンブレムとともに、ファンにとって憧れの的となった。しかしながら、その価格はおよそ970万円。誰にでも手が出せるものではなかった。
そこでホンダは、タイプRの魅力をより多くのファンに味わってもらうべく、身近なモデルを第2弾として企画する。それが1995年に登場した「インテグラ タイプR」だ。四輪車用の自然吸気エンジンとしては世界最高レベルである、リッターあたり111PSの高出力を発生する「B18C」エンジンの採用に加え、ボディーやシャシーにも専用のチューニングと徹底した軽量化を実施。その文法はまさにNSXタイプRと同じものだった。
当時、他のグレードがおおむね200万円以下だったインテグラのラインナップにおいて、タイプRはクーペで222万8000円、4ドアハードトップで226万8000円(税抜き、東京価格)と高めのプライスを掲げていたものの、その内容を考慮すればバーゲンプライスといえた。
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世界屈指のFFスポーツへ
インテRの好評を受け、ホンダはその2年後の1997年にベーシックモデルの「シビック」にも初のタイプRを投入する。エンジンは同車専用の「B16C」で、最高出力こそインテRより控えめとなる185PSだったが、リッターあたりの出力はそれを上回る116PSを実現していた。シビックベースということで価格もより引き下げられ、通常モデルでおよそ200万円から、レースベース車にいたっては約170万円からという設定だった。今から思えば、インテR同様、驚異的な安さである。当時はモータースポーツの競技人口もまだ多く、メーカーとしても競技用ベース車の供給が大切なファンサービスだったのだ。
大衆モデルがベースといえど、ホンダのレーシングスピリットが惜しみなくつぎ込まれた2台の“庶民派タイプR”は、サーキットだけでなく峠などのストリートでも圧倒的な実力を見せつけ、国産FFスポーツの黄金期を築くことになる。読者諸兄の中にも、その魅力に心酔した人、あるいは、この2台を打ち倒すべく送り出されたライバルたちを愛した人も多いことだろう。
しかしながら、これほどの熱量を持つクルマであっても時代の流れにあらがうのは難しく、NSXタイプRとインテグラ タイプRは、ベースモデルの消滅とともに姿を消すことに。ただシビックにおいてだけは、その後も生産国がイギリスになったり、初のセダンボディーであるFD型タイプRが登場したりといった紆余(うよ)曲折はありつつも、その歴史が守られ続けた。それでも、市場の変化を受けてシビックそのものが日本から撤退。タイプRも2012年の「タイプRユーロ」の販売終了を機に、いったんその歴史に幕を下ろすことになった。
しかし、タイプRの火がすっかり消されたわけではなかった。日本での第2章の幕開けは、2015年秋のこと。この年、シビック タイプRが英国製のターボモデルとして復活。「ルノー・メガーヌ ルノースポール」や「フォルクスワーゲン・ゴルフGTI」などとニュルブルクリンクで“FF世界最速”を競う存在となったのだ。
ターボ化は賛否が分かれるかに思われたが、限定導入された750台は激しい争奪戦が繰り広げられるほどの人気モデルに。メジャーリーグで活躍する日本人選手が肉体改造を行うように、世界を舞台に戦うならばそれ相応のスペックが必要なのだ。むしろ、ファンは愛するホンダが世界で戦えるクルマに進化したことを好意的に受け止めたのだろう。
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期待が膨らむ「リミテッドエディション」の走り
そして、2017年秋に現行型タイプRは、“ニュルFF最速”(当時)の看板を手土産にカムバック、それもカタログモデルとして復活を果たした。450万円を超える高価格モデルでありながら、これまでに国内で約6000台を販売するなど、スポーツカーとして確かな成功を収めている。
そんな現行モデルに今回初の大幅改良が加えられるわけだが、ファンの最大の関心事は限定車「リミテッドエディション」の存在だろう。世界で1000台、日本では200台が発売される特別なRだ。外観上の特徴は、初代インテR&シビックRに設定されていた「サンライトイエロー」をモチーフとした専用ボディーカラー「サンライトイエローII」だが、より色濃く反映されているのは、当時のタイプRのスピリットだ。
現行型シビック タイプRは、究極のFFスポーツであることは間違いないが、同時に現代のニーズに合わせたオールマイティーなスポーツカーへと進化を遂げた。その方向性が成功の一因となっていることは確かだ。しかし限定車では、あえて何かを失うことで得られる快楽を追求。防音材などを取り除くことでマイナス13㎏、さらにBBSが開発した専用鍛造アルミホイールを装着することでマイナス10㎏、計23㎏の軽量化を実現している。さらにタイヤには標準のコンチネンタル製ではなく、ミシュラン製の「パイロットスポーツ カップ2」を採用。足まわりもアダプティブダンパーとEPSに専用セッティングを施している。
関係者によると、これにより得られる標準モデルとリミテッドエディションの差は、サーキット走行時のハンドリングなどで明確に味わえるという。普段使いでも、よりダイレクトに響くエンジンサウンドがドライバーとクルマの距離をより縮めてくれることだろう。一方で、エンジンパワーは同等という点からは、絶対的な速さの追求ではなく、あくまで走りの質にこだわっていることがうかがえる。リミテッドエディションとは、なんとも通好みな仕様なのである。
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求む! “身の丈タイプR”
情報解禁された改良型の、日本仕様と世界仕様との機能差にも触れておきたい。改良型シビック タイプRは、引き続き英国で生産され、欧州および北米、そして日本で販売される。今回の改良で、海外モデルには「HONDA LogR」と「ASC(アクティブ・サウンド・コントロール)スポーツサウンド」のふたつが新採用されているが、これらは日本では非装備となる。
「Honda LogR」はいわゆるデータロガーで、工場装着のナビゲーションシステムと連携している。日本ではディーラーオプションのナビや社外ナビのニーズが高いため、非採用としたとのことだ。一方ASCスポーツサウンドは、スピーカーによってエンジンサウンドを“つくり出す”アイテムであり、既存の“17モデル”に関し、海外で「迫力が足りない!」という声があったことから用意されたものである。こちらについては、日本のファンからはそのような指摘がなかったため、海外モデルのみに搭載することとしたそうだ。
昨今、ASCはノイズキャンセリングの効果も狙って積極的に採用されているが、“つくられたスポーツサウンド”は人によっては強い違和感を覚えるケースもある。そもそも個人的には、ホンダスピリットが色濃く反映されるエンジンサウンドにニセモノの音を乗せるなど、まさに邪道だと思う。メーカーのこの選択を、日本のファンはむしろ歓迎すべきだろう。
さて、現時点ではカタログモデル、限定車ともに詳細は非公表だが、各部のアップデートに加え、大きな装備でいえば先進安全運転支援システムとして最新版の「ホンダセンシング」も採用されるため、改良型タイプRは、これまでより価格の上昇が予測される。「現在、検討中です」(ニヤリ)というホンダ関係者の声に、脳内で「うーん、絶対高い。絶対高いよね」とうなるばかりである。
現行型シビック タイプRのコストパフォーマンスは極めて高い。それでも、400万円台後半の車両価格をポンと払える走り好きは限定的だ。今こそ、先に触れた初代インテR&シビックRのような“身の丈タイプR”の登場が望まれるのではないだろうか? ホンダはもっと小さいボディーのクルマも持っているのだから、ここはゼヒ、ご一考いただきたい。
(文=大音安弘/写真=webCG/編集=堀田剛資)
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大音 安弘
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