ポルシェ・タイカン ターボS(4WD)/タイカン ターボ(4WD)
しっかりポルシェの味がする 2020.04.29 試乗記 2020年内にも国内での発売が予定されている、ポルシェ初の量産型EV「タイカン」。欧州の道でステアリングを握った筆者は、その走りの素晴らしさに、歴史あるスポーツカーブランドの真の実力を感じ取ったのだった。ポルシェファンは心配ご無用
大容量のバッテリーを搭載し、内燃エンジンは搭載せず、電気モーターで走るクルマが、果たしてちゃんとポルシェらしいスポーツカーに仕上がっているのか。もし、そうなっているとして、そこに表現されるポルシェらしさとは一体何なのか。もちろん期待は大きかったけれど、実際に自分で試すまでは確信はできないでいたというのが本音だ。
それだけに不安で、しかし楽しみだったポルシェ・タイカンの初試乗は、結果的に安堵(あんど)と、歓喜をもたらすものになった。ポルシェ初のEV=電気自動車としてデビューしたタイカンは、紛(まご)うかたなきポルシェの走りをしっかりと実現していたのである。
2019年秋に筆者がステアリングを握ったのは、先陣を切って登場した「タイカン ターボ」、そして「タイカン ターボS」の2モデル。ラインナップには現在、「タイカン4S」も加わっている。
EVなのにターボと名付けることには、アレコレ意見もあるようだが、個人的には違和感はない。ポルシェの「ターボ」とは、つまり最高峰という意味である。むしろ、これ以外に付けるべき名前があるとは思えない。
あらためて説明するまでもなく、タイカンはテスラという明確なターゲットを見据えて開発された。彼らがアメリカだけでなくヨーロッパでもラグジュアリーカー市場を席巻しているのを、もはや黙って見過ごすことはできないのだ。
歴史あってのデザイン
ここで武器になるのは、先進感やパフォーマンスはもちろん、デザインまで含めた無数の歴史の引き出しを持つブランド力ということになる。その命題に対して、ポルシェはタイカンで百点満点の答えを出してきた。テスラのフォロワーではなく、まさにポルシェらしい一台がしっかりと生み出された。
象徴的なのがデザインだ。「パナメーラ」より全長が少々短く、そして若干幅広い4ドアクーペボディーは、紛れもなくポルシェであり、しかも最先端の匂いを漂わせている。ヘッドライト周辺などはいかにも斬新だが、フロントフェンダーやルーフラインなどは、ブランドのアイデンティティーに忠実。この伝統と革新がうまく融合したデザインは見事だ。
インテリアも同様である。ポルシェを、特に「911」を知る誰もが、まさしくポルシェ、しかもその最新型だとすぐに理解し、驚き、納得するに違いない。5連メーターや水平基調のダッシュボードは、空冷時代の911のオマージュ。しかし実はそのメーターは薄型TFTディスプレイに映し出されていて、表示内容を自在に変更できるし、それも含めて実に4枚のタッチディスプレイが組み合わされて、さまざまな機能を呼び出すことができる。
こうした内外装のデザインは、長い歴史を持ち、しかも911のような長寿モデルを持つポルシェにしかできないものだ。古くからのファンをニヤリとさせ、新しいファンを心酔させる、見事な仕事ぶりである。
ポルシェならではの一体感
このタイカン、当然ながら車体もすべて新設計となる。ホイールベースの間のフロアにバッテリーを敷き詰めるレイアウトはEVの定番だが、目を引くのは後席乗員の足元にあたる部分が空けてあること。これが着座位置を低くすることを可能にして、ポルシェらしいアーチ状のルーフラインを実現させたのだ。
電気モーターは前後アクスルそれぞれに搭載されており、スペックは最高峰のタイカン ターボSでシステム最高出力761PS、最大トルク1050N・mにも達する。リアアクスル側のみ2段ギアボックスが組み合わされるのは、鋭い加速と電費を両立させるため。おかげで0-100km/h加速は2.8秒を達成する一方、93kWhの大容量バッテリーとの組み合わせにより最大航続距離はWLTPモードで400kmを超える。
数値上だけでなく実際の加速、そして加速感は刺激的だ。静止状態からのスタートでは低回転域から発揮される電気モーターの分厚いトルクと4WDのトラクションのおかげで、まさにはじけるように加速が始まる。そして、途中でリアのギアボックスが高速側ギアに切り替わる時の軽いショックも良い演出になって、まさに血の気の引くような勢いで速度を高めていくのだ、200km/hを超えるところまで一直線に……。
絶対的には差があるのだろうが、最高出力680PS、最大トルク850N・mのタイカン ターボでも、加速感にはさほど違いはない。いずれにしても、EVの加速は速いけれど無味乾燥というイメージが、タイカンには当てはまらないのは確か。それでいて、実はアクセルをほとんど開けないような街中などの低速域、あるいは高速巡航時などの速度コントロール性も素晴らしく洗練されているのだ。こうした場面でのクルマとの高い一体感は、さすがポルシェである。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
フットワークに感動
興味深いことにアクセルオフでの減速感は、通常でも、そしてステアリングスイッチで回生ブレーキを強めにしても、さほど強くはない。要はワンペダルドライブのようなことは考えられていないのだ。
それはポルシェの、スポーツカードライビングはどうあるべきかという哲学の反映である。減速の際にはブレーキペダルを踏み込むのが、その流儀。実は多くのメーカーが回生ブレーキの調整に使っているステアリングパドルも備わらない。しかしながら実際の制動力の90%は回生から得ているのだという。ペダルを踏んでも必ずしも油圧ブレーキが働いているわけではないのだ。そのペダルはタッチ、コントロール性とも秀逸で、その点でもポルシェの走りへの期待を裏切らない。
実は加速・減速だけでなくフットワークにも大いに感心、いや感動させられた。車重は2.3tもあるが、その重さの主因であるバッテリーをフロア下に置くレイアウトのおかげで、極めて低い重心と、ほぼイーブンの前後重量バランスが実現されているのが、何より大きい。
操舵と同時にノーズが何の抵抗感もなく狙った方へと向き始める一体感は、フロントにエンジンがあるクルマでは実現できないものだし、4輪操舵などを使わずともなお、自分を中心に旋回していくようなコーナリングが実現できているのはそうした基本的な素性に、さらに前後モーターによる巧みなトルク制御が相まってのものだろう。その上、ステアリングフィールも最近のポルシェの中ではギュッと実が詰まった感じで、「ポルシェに乗っているんだ」という充足感、そんなところでも高いのだ。
クルマとしての完成度はかように高いこのタイカン。ポルシェジャパンでは、日本での発売の際には多くの販売店、また都市部などに出力150kWの最新型CHAdeMO急速充電器を設置するなど、あわせてインフラの充実も図っていく予定という。上陸は今のところ2020年秋以降の予定。EVとしてはもちろん、純粋に最新のポルシェとして大いに魅力的な一台の登場は、市場に大きなインパクトをもたらすに違いない。
(文=島下泰久/写真=ポルシェ/編集=関 顕也)
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
テスト車のデータ
ポルシェ・タイカン ターボS
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4963×1966×1378mm
ホイールベース:2900mm
車重:2295kg(DIN)
駆動方式:4WD
モーター:永久磁石同期式電動モーター
フロントモーター最高出力:--PS(--kW)
フロントモーター最大トルク:--N・m(--kgf・m)
リアモーター最高出力:--PS(--kW)
リアモーター最大トルク:--N・m(--kgf・m)
システム最高出力:761PS(560kW)
システム最大トルク:1050N・m(107.1kgf・m)
タイヤ:(前)265/35ZR21 101Y XL/(後)305/30ZR21 104Y XL(グッドイヤー・イーグルF1アシンメトリック3)
一充電最大走行可能距離:412km(WLTPモード)
価格:--円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:2019年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
消費電力量:--kWh
参考電力消費率:--km/kWh
ポルシェ・タイカン ターボ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4963×1966×1381mm
ホイールベース:2900mm
車重:2305kg(DIN)
駆動方式:4WD
モーター:永久磁石同期式電動モーター
フロントモーター最高出力:--PS(--kW)
フロントモーター最大トルク:--N・m(--kgf・m)
リアモーター最高出力:--PS(--kW)
リアモーター最大トルク:--N・m(--kgf・m)
システム最高出力:680PS(500kW)
システム最大トルク:850N・m(86.7kgf・m)
タイヤ:(前)245/45R20 103Y XL/(後)285/40R20 108Y XL(ミシュラン・パイロットスポーツ4)
一充電最大走行可能距離:450km(WLTPモード)
価格:--円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:2019年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
消費電力量:--kWh
参考電力消費率:--km/kWh

島下 泰久
モータージャーナリスト。乗って、書いて、最近ではしゃべる機会も激増中。『間違いだらけのクルマ選び』(草思社)、『クルマの未来で日本はどう戦うのか?』(星海社)など著書多数。YouTubeチャンネル『RIDE NOW』主宰。所有(する不動)車は「ホンダ・ビート」「スバル・サンバー」など。
-
ランボルギーニ・テメラリオ(4WD/8AT)【試乗記】 2025.11.29 「ランボルギーニ・テメラリオ」に試乗。建て付けとしては「ウラカン」の後継ということになるが、アクセルを踏み込んでみれば、そういう枠組みを大きく超えた存在であることが即座に分かる。ランボルギーニが切り開いた未来は、これまで誰も見たことのない世界だ。
-
アルピーヌA110アニバーサリー/A110 GTS/A110 R70【試乗記】 2025.11.27 ライトウェイトスポーツカーの金字塔である「アルピーヌA110」の生産終了が発表された。残された時間が短ければ、台数(生産枠)も少ない。記事を読み終えた方は、金策に走るなり、奥方を説き伏せるなりと、速やかに行動していただければ幸いである。
-
ポルシェ911タルガ4 GTS(4WD/8AT)【試乗記】 2025.11.26 「ポルシェ911」に求められるのは速さだけではない。リアエンジンと水平対向6気筒エンジンが織りなす独特の運転感覚が、人々を引きつけてやまないのだ。ハイブリッド化された「GTS」は、この味わいの面も満たせているのだろうか。「タルガ4」で検証した。
-
ロイヤルエンフィールド・ハンター350(5MT)【レビュー】 2025.11.25 インドの巨人、ロイヤルエンフィールドの中型ロードスポーツ「ハンター350」に試乗。足まわりにドライブトレイン、インターフェイス類……と、各所に改良が加えられた王道のネイキッドは、ベーシックでありながら上質さも感じさせる一台に進化を遂げていた。
-
ホンダ・ヴェゼル【開発者インタビュー】 2025.11.24 「ホンダ・ヴェゼル」に「URBAN SPORT VEZEL(アーバン スポーツ ヴェゼル)」をグランドコンセプトとするスポーティーな新グレード「RS」が追加設定された。これまでのモデルとの違いはどこにあるのか。開発担当者に、RSならではのこだわりや改良のポイントを聞いた。
-
NEW
アウディA6アバントe-tronパフォーマンス(RWD)【試乗記】
2025.12.2試乗記「アウディA6アバントe-tron」は最新の電気自動車専用プラットフォームに大容量の駆動用バッテリーを搭載し、700km超の航続可能距離をうたう新時代のステーションワゴンだ。300km余りをドライブし、最新の充電設備を利用した印象をリポートする。 -
NEW
4WDという駆動方式は、雪道以外でも意味がある?
2025.12.2あの多田哲哉のクルマQ&A新車では、高性能車を中心に4WDの比率が高まっているようだが、実際のところ、雪道をはじめとする低μ路以外での4WDのメリットとは何か? トヨタでさまざまな車両を開発してきた多田哲哉さんに聞いた。 -
NEW
BYDシーライオン6
2025.12.1画像・写真BYDオートジャパンが、「ジャパンモビリティショー2025」で初披露したプラグインハイブリッド車「BYDシーライオン6」の正式導入を発表した。400万円を切る価格が注目される新型SUVの内装・外装と、発表イベントの様子を写真で詳しく紹介する。 -
ドゥカティXディアベルV4(6MT)【レビュー】
2025.12.1試乗記ドゥカティから新型クルーザー「XディアベルV4」が登場。スーパースポーツ由来のV4エンジンを得たボローニャの“悪魔(DIAVEL)”は、いかなるマシンに仕上がっているのか? スポーティーで優雅でフレンドリーな、多面的な魅力をリポートする。 -
あんなこともありました! 2025年の自動車業界で覚えておくべき3つのこと
2025.12.1デイリーコラム2025年を振り返ってみると、自動車業界にはどんなトピックがあったのか? 過去、そして未来を見据えた際に、クルマ好きならずとも記憶にとどめておきたい3つのことがらについて、世良耕太が解説する。 -
第324回:カーマニアの愛されキャラ
2025.12.1カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。マイナーチェンジした「スズキ・クロスビー」が気になる。ちっちゃくて視点が高めで、ひねりもハズシ感もある個性的なキャラは、われわれ中高年カーマニアにぴったりではないか。夜の首都高に連れ出し、その走りを確かめた。



















































