シボレー・コルベット スティングレイ(MR/8AT)
宣戦布告の一撃 2020.05.20 試乗記 1953年デビューの初代から受け継がれてきたFRレイアウトをミドシップに一新し、生まれ変わった「シボレー・コルベット」。「C8」と呼ばれる8代目のパフォーマンスやハンドリング、そしてライバルとの違いを、米ラスベガスからリポートする。 拡大 |
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FRは限界だった?
コルベット史上、最大の問題作であることは間違いないだろう。なにしろ通算8世代目にして、ずっと貫いてきたFRからミドシップへの大転換を果たしたのだから。
ファンにとって気がかりなのは「それでもコルベットと呼べるクルマになっているのか?」ということだろう。さらに言えば、ミドシップ化によってどれだけのパフォーマンス向上を果たしているのか、ライバルとなるのはどんなモデルかということも気になるところだ。
それゆえに、いつにも増して楽しみにしていた試乗のチャンス。2月末にラスベガスで開催された国際試乗会では、はやる気持ちを抑えて、まずは開発メンバーに疑問を直接ぶつけてみた。コルベットは、なぜ今ミドシップ化せねばならなかったのだろうか?
「先代ではFRレイアウトで可能な限界に到達できたと考えています。これ以上の走り、そして感動を実現するにはミドシップ化しかない。今回はそう決断したのです。」
振り返ればコルベットは5世代目の「C5」からトランスアクスルレイアウトを採用して前後重量配分の均等化、後輪荷重の増加を図ってきた。昔のイメージで売り続けるつもりならば、大パワーでリアタイヤを思い切りホイールスピンさせてもよかったかもしれないが、コルベットは世界のスポーツカーを相手に、パフォーマンスを高める道を選んだのである。
この頃からコルベットが、モータースポーツ活動を強化していたことも無関係ではないだろう。結果、ルマン24時間レースで優勝を飾るなど、じわじわとアメリカ以外の地域でもアピールする存在になってきていたのだ。
よって新型が、その路線を踏襲、発展させるのは当然だった。最高峰の「ZR1」ですでに766HPに達していたパワーをさらに上乗せしていくには、もはやFRでは限界。レースを考えても、同カテゴリーの「ポルシェ911」ですら「RSR」でミドシップレイアウトを採用しているなか、FRでは勝算は大きくなさそう。そう考えれば、まさしくミドシップこそコルベットが取り得る、唯一の道だったわけである。
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秀逸なパッケージング
アルミを中心にCFRP、マグネシウムなど軽量素材を組み合わせて新設計された車体の、キャビン背後に積まれるエンジンは伝統のV型8気筒OHV。FR時代に異例なほどのボンネットの低さを可能にしていたドライサンプのOHVエンジンは、ミドシップでも低重心化に大いに貢献している。トランスミッションは8段DCTを組み合わせる。
エンジンがなくなったフロント部分だけでなく、リアにも取り外した脱着式のルーフトップ、あるいはゴルフバッグを最低1セット収める余裕が欲しかったからだろう。全長が優に100mm以上伸ばされたボディーは、一方でノーズが短くキャビンフォワードで、従来とは大きくイメージを違えている。ディテールには従来型から継承されてきたモチーフも多く使われているのだが、個人的には「C6」や「C7」に比べて最新のC8は、ちょっと子どもっぽいかなと感じてしまう。
そんな風にいろいろ思いはするのだが、実際に走らせてみれば、乗り心地はゆったりとしているし、聞こえてくる方向は変わっても耳に届くのは聞き慣れたV型8気筒OHVのサウンドである。これまで通り脱着可能なルーフをオープンにして、低回転域からトルキーなこのエンジンをうたわせながらゆったり流していると、やはりこれは他でもないコルベットだなと納得させられていく。
もちろん、変わっていないわけではない。そこに長いノーズがないフロントウィンドウ越しの景色は、やはりちょっとだけ寂しい。けれども、代わりに格段に開けた視界のおかげで、クルマの“手の内感”は格段に増している。ボディーの剛性感が高く、サスペンションスプリングが従来の横置き樹脂製リーフからオーソドックスなコイルに換えられたおかげか、姿勢もピシッと落ち着いている。
しかもペースを上げれば、やはりミドシップ。いたずらにクイックではないステアリングは正確なレスポンスを示し、思った通りにノーズをインに向ける。旋回姿勢の良さ、そして容易に挙動を乱しそうにない高い安心感は、低重心のOHVユニットを車体の中心近くに積むパッケージの勝利だ。
想定されるライバルは?
サーキットでは、重心の低さを絶大なトラクション性能としても実感できる。495HPまで高められた出力をリアタイヤが、容易にホイールスピンさせることなく路面にしっかりと伝え、クルマを力強く前に進めてくれるのだ。正直、先代まではサーキットを走るのは、攻めるというよりガマンという感もあったが、新型はしっかり攻められるマシンに進化しているのである。
間違いなく、これがミドシップ化の最大の恩恵である。この後、追加されるに違いない「Z06」やZR1のようなハイパフォーマンスモデルも、従来型よりずっとラップタイムが短縮され、ずっとコントローラブルな存在となるに違いない。
おそらく想定しているライバルの筆頭は「ポルシェ911カレラS」だろう。開発の際には、PDKはよく研究したというから、絶対的なパフォーマンスだけでなく日常のドライバビリティー、使い勝手もここをベンチマークとしていたのは間違いない。
実際、8段DCTは初出とは思えないほど制御が洗練されているし、普段使いで引っかかりそうなところは、あえて言えばサイズくらい。例のニュルブルクリンク北コースのラップタイムは、911カレラSが7分25秒。対するコルベットは7分30秒を下回るとだけ発表されている。まあ、同じようなレベルと考えていいはずである。価格を考えても、これはいい戦いになりそうだ。
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高性能モデルもスタンバイ
価格とパフォーマンスで比較すれば、「日産GT-R」も視界に入ってくる。近年、標準車のラップタイムは発表されていないが、まだ「NISMO」がない頃の2011年モデルが7分20秒を切っているので、おおよそその辺りだろうか。GT-Rはフロントエンジンのまま4WD化でトラクションを稼ぎ、軽くない車体を今や570PSにも達するターボパワーで強引に加速させる。重量増を理由に4WDは考慮しなかったというコルベットとは、真逆の方向性と言ってもいい。
速さは同じか、やや劣るくらい。しかし速く走らせていない時の扱いやすさ、快感では断然コルベットだろう。もっとも、この2台で真剣に悩むという人は、まずいないだろうが。
同じミドシップの「ホンダNSX」は、ニュルブルクリンクのタイムではおそらくコルベットに及ばない。ミドシップのリアのトラクションに、さらに電気モーター駆動のフロントを組み合わせて、新しいドラビングプレジャーを追求するのがその開発の主眼で、車重もあり、必ずしもタイム狙いではないと見るべきだろうか。ドライビング体験は、電子制御になるべく頼らずパフォーマンスを追い求めたコルベットとは、ずいぶん異なるものだといえる。同じミドシップではあるが、GT-R以上に別物。もっと言えば、ゴルフバッグを収める余裕のないパッケージングも、コルベット側からしてみれば、論外に違いない。
新型コルベットのパフォーマンスは、もはやスーパースポーツカーの領域に片足を突っ込んでいると言ってもいい。FRのいかにもなアメリカンスポーツらしさは復権してきた「カマロ」に継承させ、コルベットは世界を相手に戦う。それこそ、今後登場するであろうZ06やZR1などのモデルは、フェラーリすらも脅かす走りを見せるだろう。そんな宣戦布告の一撃として、新型コルベットは大成功を収めたと言っていいのではないだろうか。
世界のスポーツカーメーカーが今、新型コルベットを倒すべきライバルのリストに入れたはずである。これからまた市場で、そしてサーキットで、激しい戦いが始まるのだ。
(文=島下泰久/写真=ゼネラルモーターズ/編集=櫻井健一)
テスト車のデータ
シボレー・コルベット スティングレイ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4630×1934×1234mm
ホイールベース:2722mm
車重:1530kg(乾燥重量)
駆動方式:MR
エンジン:6.2リッターV8 OHV 16バルブ
トランスミッション:8段AT
最高出力:495HP(369kW)/6450rpm
最大トルク:637N・m(65.0kgf・m)/5150rpm
タイヤ:(前)245/35ZR19/(後)305/30ZR20(ミシュラン・パイロットスポーツ4 S)
燃費:--km/リッター
価格:1400万円/テスト車=--円
オプション装備:--
※価格は日本仕様「3LT」の販売予定価格。その他の数値はすべて北米仕様車の参考値
テスト車の年式:2020年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター

島下 泰久
モータージャーナリスト。乗って、書いて、最近ではしゃべる機会も激増中。『間違いだらけのクルマ選び』(草思社)、『クルマの未来で日本はどう戦うのか?』(星海社)など著書多数。YouTubeチャンネル『RIDE NOW』主宰。所有(する不動)車は「ホンダ・ビート」「スバル・サンバー」など。
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