数字が雄弁に物語る 「レクサスGS」が販売終了となる理由
2020.05.27 デイリーコラム“既定路線”の生産終了
去る2020年4月23日、トヨタ自動車は「レクサスGS」の特別仕様車“エターナルツーリング”を国内発表すると同時に、GSそのものの生産を2020年8月をもって終了すると正式発表した。こういう事実をわざわざ公表するのは、すなわち、5代目にあたる次期GSの計画が、少なくとも現時点では存在しないことを意味する。
ご承知のように、GSはレクサスの後輪駆動セダン3兄弟の真ん中にあたり、彼らが仮想敵とするジャーマンスリー(メルセデス・ベンツ、BMW、アウディ)でいうところの「Eクラス」「5シリーズ」「A6」など、Eセグメントに相当するレクサスである。1993年に発売された初代から通算4世代(ただし、初代と2代目は日本では「トヨタ・アリスト」として販売)にわたったGSの歴史は、ひとまず終止符を打つわけだ。
もっとも、クルマ好きの間では、GSの生産終了は“既定路線”と考えられていたのも事実。というのも、2018年に発売となった7代目「ES」が、それまでESが展開されていなかった日本や欧州にも導入されたからだ。しかも、ジャーマンスリーのお膝元である欧州では、そのES導入と同時に、GSがいち早くラインナップから落とされている。ESの開発担当氏によると「現行型の日本市場への導入は開発途中に決まったのですが、欧州は企画初期段階から導入する予定でした」という。
立派で安価なES
ESは「トヨタ・カムリ」と共通の基本骨格設計(最新の現行型では「GA-K」プラットフォーム)を使ったFFセダンである。ハードウエアの成り立ちとしてはDセグメントといえるのに、実際の車体サイズはEセグのGSに匹敵するほど立派だ。いっぽうで、価格はGSより明確に安く、どちらかというと「IS」に近い。そんな割安感がES伝統の売りでもあった。
現行ESは車体サイズを先代から大幅に拡大して、各部の質感レベルも飛躍的に引き上げるなど、企画段階からGSの役割も担うべく開発されたのは明らかである。
知っている人も多いように、レクサスは当時の日米自動車摩擦を背景に、1989年に北米市場でスタートしたトヨタの高級車専用ブランドだ。このときに用意されたモデルは2車種で、ひとつはいうまでもなく完全専用開発されたフラッグシップの「LS」である。
そしてもうひとつ、エントリーモデルとして用意されたのが、当時のカムリの4ドアハードトップ「カムリ プロミネント」をベースに、大型グリルや2.5リッターV6エンジンを与えたESだった。つまり、ESはLSとならんで最も長い歴史をもつレクサスなのだ。レクサスは昨2019年に世界累計販売1000万台を超えたが、そのうちの220万台がESで、累計としては「RX」に次ぐ台数だそうである。
どちらか選ぶなら……(涙)
もともとのスタートの背景もあって、レクサスは良くも悪くもアメリカ市場への依存度がずっと高い。たとえば、レクサスが世界中にいきわたった2015年時点でも、そのグローバル年間販売(約65.2万台)のうちアメリカが56%(約36.8万台)を占めた。直近2019年の実績ではアメリカのシェアは42%に下がった(世界販売が約76.5万台、アメリカが約32.5万台)が、それは日本や欧州が伸びたというより、中国でのレクサス販売の飛躍的な成長(2015年の約8.9万台に対して、2019年は約20.2万台!)によるところが大きい。
そんなレクサスにとっての2大市場であるアメリカと中国のみならず、アジアや中東でもGSよりESのほうが圧倒的に人気が高い……というか、ESはSUVのRXとならぶレクサスの稼ぎ頭である。アメリカでは長らく「ES、RX、それ以外……が、それぞれレクサス全体の3分の1ずつ」という販売比率を維持してきたし、中国でも現行ESが大人気で、最近はレクサス全体の4~5割をESが占める。また、あえてセダンをメインに訴求してきた韓国や中東ではESの比率はさらに高く、レクサス全体の6割以上がESなんだとか……。
単純な機能性だけを考えれば、すでにGSとESとで選ぶところがほとんどないのは理解できるが、レクサスを“名門ジャーマンスリーに真正面から挑む日本代表”として応援したい日本のクルマ好きとしては、Eクラスや5シリーズと直接競合するレクサスがFFになってしまうのには、少しばかり違和感があるのも否定できない。しかも、レクサスそのものが後輪駆動から撤退するわけではないのだ。
ただ、ESが築いてきた土台は、われわれ日本人が想像する以上に盤石である。高級車ブランドでもセダン市場が明確に縮小している現在にあって、似たようなサイズのセダンを2台共存させるのは困難きわまる。どちらか選ぶなら、GSよりES……となるのは自然な選択といわざるをえない。さようならGS(涙)。
(文=佐野弘宗/写真=トヨタ自動車/編集=藤沢 勝)

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
-
2025年の“推しグルマ”を発表! 渡辺敏史の私的カー・オブ・ザ・イヤーNEW 2025.11.28 今年も数え切れないほどのクルマを試乗・取材した、自動車ジャーナリストの渡辺敏史氏。彼が考える「今年イチバンの一台」はどれか? 「日本カー・オブ・ザ・イヤー」の発表を前に、氏の考える2025年の“年グルマ”について語ってもらった。
-
「スバル・クロストレック」の限定車「ウィルダネスエディション」登場 これっていったいどんなモデル? 2025.11.27 スバルがクロスオーバーSUV「クロストレック」に台数500台の限定車「ウィルダネスエディション」を設定した。しかし、一部からは「本物ではない」との声が。北米で販売される「ウィルダネス」との違いと、同限定車の特徴に迫る。
-
「スバルBRZ STI SportタイプRA」登場 500万円~の価格妥当性を探る 2025.11.26 300台限定で販売される「スバルBRZ STI SportタイプRA」はベースモデルよりも120万円ほど高く、お値段は約500万円にも達する。もちろん数多くのチューニングの対価なわけだが、絶対的にはかなりの高額車へと進化している。果たしてその価格は妥当なのだろうか。
-
2025年の一押しはコレ! 清水草一の私的カー・オブ・ザ・イヤー 2025.11.24 この一年間で発売されたクルマのなかで、われわれが本当に買うべきはどれなのか? 「2025-2026日本カー・オブ・ザ・イヤー」の正式発表に先駆けて、清水草一が私的ベストバイを報告する!
-
みんなが楽しめる乗り物大博覧会! 「ジャパンモビリティショー2025」を振り返る 2025.11.21 モビリティーの可能性を広く発信し、11日の会期を終えた「ジャパンモビリティショー2025」。お台場の地に100万の人を呼んだ今回の“乗り物大博覧会”は、長年にわたり日本の自動車ショーを観察してきた者の目にどう映ったのか? webCG編集部員が語る。
-
NEW
2025年の“推しグルマ”を発表! 渡辺敏史の私的カー・オブ・ザ・イヤー
2025.11.28デイリーコラム今年も数え切れないほどのクルマを試乗・取材した、自動車ジャーナリストの渡辺敏史氏。彼が考える「今年イチバンの一台」はどれか? 「日本カー・オブ・ザ・イヤー」の発表を前に、氏の考える2025年の“年グルマ”について語ってもらった。 -
NEW
第51回:290万円の高額グレードが約4割で受注1万台! バカ売れ「デリカミニ」の衝撃
2025.11.28小沢コージの勢いまかせ!! リターンズわずか2年でのフルモデルチェンジが話題の新型「三菱デリカミニ」は、最上級グレードで300万円に迫る価格でも話題だ。ただし、その高額グレードを中心に売れまくっているというから不思議だ。小沢コージがその真相を探った。 -
NEW
ミツオカM55ファーストエディション
2025.11.27画像・写真光岡自動車が、生産台数250台限定の「ミツオカM55 1st Edition(エムダブルファイブ ファーストエディション)」を、2025年11月28日に発売。往年のGTカーを思わせる、その外装・内装を写真で紹介する。 -
NEW
アルピーヌA110アニバーサリー/A110 GTS/A110 R70【試乗記】
2025.11.27試乗記ライトウェイトスポーツカーの金字塔である「アルピーヌA110」の生産終了が発表された。残された時間が短ければ、台数(生産枠)も少ない。記事を読み終えた方は、金策に走るなり、奥方を説き伏せるなりと、速やかに行動していただければ幸いである。 -
第938回:さよなら「フォード・フォーカス」 27年の光と影
2025.11.27マッキナ あらモーダ!「フォード・フォーカス」がついに生産終了! ベーシックカーのお手本ともいえる存在で、欧米のみならず世界中で親しまれたグローバルカーは、なぜ歴史の幕を下ろすこととなったのか。欧州在住の大矢アキオが、自動車を取り巻く潮流の変化を語る。 -
「スバル・クロストレック」の限定車「ウィルダネスエディション」登場 これっていったいどんなモデル?
2025.11.27デイリーコラムスバルがクロスオーバーSUV「クロストレック」に台数500台の限定車「ウィルダネスエディション」を設定した。しかし、一部からは「本物ではない」との声が。北米で販売される「ウィルダネス」との違いと、同限定車の特徴に迫る。





































