“クラシック”はカネになる? これがスポーツカービジネスの新たな道
2020.06.19 デイリーコラム歴史あるブランドだからこそ
ポルシェが「ヘリテージデザインエディション」という新シリーズを展開すると発表した。ポルシェのデザインチームとカスタマイズチームである「ポルシェエクスクルーシブマニュファクトゥール」が企画するもので、第1弾として「911タルガ4S」ベースのヘリテージデザインエディションが発表されている。全4モデルを展開する予定だ。
自らのヘリテージを最新モデルに応用する手法そのものは、最近のポルシェに珍しいことではない。それにクラシックポルシェの人気が高まり一部モデルの流通相場が“天上界”に達した今、そのイメージを活用することは、メーカーのみならずファンにとってもうれしい話だと思う。ポルシェが「911」シリーズというブランドアイコンのスポーツカーを、基本コンセプトを変えずに現代まで進化させてきたからこそ、ヘリテージの応用もまた“しっくり”くる。
もっともブランドのヘリテージを積極的に利用しようという試みはポルシェに限った話ではない。歴史あるブランドは皆、そうしている。否、自動車ブランドにとっての歴史とはそういう風にも使えるからこそ価値がある、のかもしれない。なぜか。
自動車が「100年に一度の(つまりは生まれて初めての)大変革を迎えている」と言われて久しい。環境と安全を筆頭に解決すべき課題は多く、スポーツカーとてその例外ではない。一方でスポーツカーは常に進化を顧客から求められる存在だ。旧型からの性能向上は当たり前であって、同時に社会的責任を果たすべく環境や安全に対する性能も引き上げる必要に迫られている。結果、すさまじいまでの高性能を、ドライバーではなく車体自らが制御する方向へと間違いなく向かっている。そのほうが安全で環境にもいいからだ。さらには燃費に限らず厳しい騒音規制など、スポーツカーにとっての存在理由である“官能性”を大いに削(そ)ぎかねない事態も迫ってきた。
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デザインは“貴重な楽しみ”
安全で燃費もよく静かなスポーツカーの、行き着く先はどこか? 乗馬の歴史がそうであったように、いっそトラック専用モデルとして開発し運転のお楽しみはサーキットで、という考え方もあって、事実、そういうスペシャルモデルの開発にどこのブランドも熱心である。そんな楽しみ方のできる場所の新たな企画(競技をしないサーキット)も世界中で顕著に増えてきた。
一方、誰もがサーキット遊びを好むわけではなく、一般道にとどまりたいというスポーツカー愛好家も少なくないだろう。しかし、彼らに残された“楽しむ余地”は非常に少ないというのが現状であり、未来も同様だ。
そういった人たちのためにメーカーができることは、さほど多くは残されていない。運転する喜びを提供することそのものが社会の流れに逆行する可能性があるからだ。それゆえメーカーは今まで以上に二律背反する性能を追求するとともに、せめて雰囲気だけでも心躍る仕立てにできないか、そう考える。そのためにクルマ好きが心から憧れるヘリテージモデルのエッセンスを最新モデルにちりばめてみようじゃないか。“ヘリテージデザイン”エディションといみじくもポルシェ自身がアピールするように、それはデザインによってスポーツカー乗りを(良い意味で)扇動しようという試みだといっていい。
もはや動力性能は気軽に楽しむレベルを超えて進化した。しかもイージーに乗りこなせてしまうという点で、手なずけるというプロセスは失われ、そのぶん愛着も減っていくことだろう。そこを歴史的なデザインの力で埋めよう、というわけだ。
ポルシェのヘリテージデザインエディションには懐かしい金色のロゴが使用されている。「356」時代やごく初期の“ナロー911”時代のクラシックポルシェに思いをはせつつ、最新モデルを楽しむ。そんなポルシェファンは少なくないだろう。歴史あるブランドは今こそ、自らのヘリテージを上手に活用すべきである。決して過去をけがさない程度に……。
(文=西川 淳/写真=ポルシェ、ランボルギーニ、BMW/編集=関 顕也)
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西川 淳
永遠のスーパーカー少年を自負する、京都在住の自動車ライター。精密機械工学部出身で、産業から経済、歴史、文化、工学まで俯瞰(ふかん)して自動車を眺めることを理想とする。得意なジャンルは、高額車やスポーツカー、輸入車、クラシックカーといった趣味の領域。
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