ランドローバー・ディフェンダー110(4WD/8AT)
新時代の幕開け 2020.08.27 試乗記 「Gクラス」に「ジムニー」「ラングラー」といった本格オフローダーのフルモデルチェンジが相次いだ昨今。遅ればせながら「ランドローバー・ディフェンダー」も新型に生まれ変わった。悪路走破性能……の前に、まずは日常領域での使い勝手をチェックした。フレームからモノコックへ
復活なったランドローバー・ディフェンダーを試す時がきた。2016年にオリジナルモデルの生産が終了し、入れ替わるように新型が登場するのかと思いきや、情報ゼロの時期が続いた。2019年秋のフランクフルトショーでようやくデビュー。特設された壁のような急斜面を登って登場する演出が鮮烈で、忘れかけていたディフェンダーへの関心が一気に膨れ上がった。
新型はすっかり生まれ変わった。なにしろフレームシャシー構造からモノコック構造へと変更された。引き継いだのは車名だけと言っても過言ではない。ただし丸目2灯のヘッドランプや水平のショルダーライン、ストンと切り落とされたようなリアエンド、背面スペアタイヤ、それにルーフの左右に開けられたアルパインウィンドウなど、外観のところどころにオリジナルを思わせるモチーフがちりばめられた。
世間の反応を見ると、約70年間と初代の寿命がとてつもなく長かったモデルだけに、オリジナル以外は認めないという原理主義の人も少なくないが、多くのファンは受け入れたのではないか。僕は初めて見た瞬間こそ一気にモダンになった姿に戸惑ったものの、日に日に好きになっていった(←気持ちワル)。
試乗したのはロングホイールベースの「110」。ベースグレードに「アドベンチャーパック」というオプションパッケージが装着された車両だ。ボディーカラーは「パンゲアグリーン」とホワイトルーフの2トーン。これまた軍用としても活躍したオリジナルを想起させる。
ライバルをしのぐ乗り心地のよさ
日本仕様のパワートレインは、ジャガー/ランドローバー各モデルに搭載実績のある2リッター直4ガソリンターボの「インジニウム」エンジンと8段ATのワンパターンのみ。最高出力300PS/5500rpm、最大トルク400N・m/2000rpmと、車両重量2280kgに対しては必要最小限に思えるスペックだが、実際に走らせてみると、低回転からターボが効果を発揮し、ギアリングも適切なようで、活発とまではいえないものの、かったるい印象はなかった。これがドヤるための「レンジローバー」だったらパワー不足かもしれないが、ワークホースたるディフェンダーとしては悪くないエンジンだと思う。
とはいえ、追ってよりパワフルなエンジンを搭載したモデルも追加されるはずだ。本国には3リッター直6ガソリンターボエンジン+マイルドハイブリッドを搭載するモデルも存在する。ただしそれがそのまま日本仕様にも追加されるのか、それとも開発中とうわさされる直6ディーゼルターボエンジンなのかは不明。
さらにプラグインハイブリッドなどの電動モデルの追加の可能性もある。新型ディフェンダーが採用する新開発の「D7x」プラットフォームは、次期型のレンジローバーや「レンジローバー スポーツ」にも順次用いられるもの。優にこの先10年以上は使われる。さまざまな電動化への対応が織り込まれていると考えるのが自然だ。
そのモノコック構造のD7xプラットフォームが採用されたことで、新型が得た最大の恩恵は乗り心地のよさだ。同じ本格オフローダーとしてしばしば比較されるジープ・ラングラーもフレームシャシー構造を堅持したわりにはよい乗り心地を獲得しているが、ラグジュアリーSUVと比較しても引けを取らないディフェンダーほどではない。フロントに独立懸架を採用した「Gクラス」をも上回る乗り心地だ。
インテリアは一気にモダンに
どこをどのペースで走らせてもボディーがしっかりしている。剛性感が半端ない。オリジナルのラダーフレームの約3倍のねじり剛性を誇るという。そのボディーにフロント:ダブルウイッシュボーン、リア:マルチリンクのサスペンションが装着され、エアサスで4輪からの入力を受け止める。堅牢(けんろう)なボディーにエアサス。乗り心地が悪くなる要素がない。低反発のクッションやベッドでくつろいでいるようだ。乗り心地だけを考えるなら、標準装着のオフロードタイヤをサマータイヤに交換すればさらによくなるだろう。ともあれ乗り心地は次期型レンジローバーのそれを先取りしていると考えてよいのではないだろうか。
ハンドリングはオフローダーとして極めて順当。オフロード走行も考慮したややスローなステアリングは、車庫入れなどではくるくる回す必要があるが、重心が高いクルマを不必要に揺さぶることなく曲げるのに役立つ。パワステの重さも適切。いち早くオフロード走行を経験した人に聞くと、路面からのキックバックが非常に少ないのだそうだ。ブレーキは運転し始めに少し踏んだだけで必要以上に強い制動力が立ち上がってしまうと感じたが、やがて慣れた。
インテリアについて。ベースモデルに備わっていたファブリックシートは色もデザインも地味でそっけないが、仕立ては悪くなく、撥水(はっすい)性がよさそうで、掛け心地も悪くなかった。インパネから生えているATセレクターの操作性も悪くない。オリジナルのように副変速機でローを選ぶためのレバーはもはや存在せず、スイッチひとつで切り替わる。
外観同様、インストゥルメントパネルのデザインもモダンになった。10インチの横長モニターをタッチすることでほとんどの操作を行う。ランドローバーの長年の弱点だったモニターのタッチレスポンスが改善され、使いやすくなった。起動に要する時間も劇的に短くなった。ガジェット世代のためにUSBジャックが前後に多数あって充電し放題。
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巨体なりの不利はやはりある
気に入っても購入をためらう要素があるとしたらサイズだろう。全長4945mm、全幅1995mm、全高1970mm、ホイールベース3020mmと巨体だ。最小回転半径も6.1mとでかい。当然取り回しには気を使う。よくできた俯瞰(ふかん)カメラが備わるため、車庫入れにはさほど気を使わないが、狭い道路でのすれ違いには苦労する。目線が高く、フロントウィンドウが立っているのはよいが、大きなドアミラーと太めのAピラーによって死角はけっこう生じる。
カメラ映像と鏡を切り替えられるインナーミラーの設定があり、試乗車にも付いていたのだが、ルーフのシャークフィンアンテナに取り付けられたカメラの位置がよくないのか、もしくは画角が適切でないのか、直後が見えない。鏡に切り替えても背面スペアタイヤによって直後は見えない。一度信号待ちから発進した際、すっぽり隠れていたバイクが急に出現して焦った。カメラの位置と仕様を再考すべきだ。
インポーターのジャガー・ランドローバー・ジャパンは2019年末の日本発表以来、2度にわたって台数限定の特別仕様車の予約を受け付けた。その結果、試乗の機会がなかったにもかかわらず、いずれもすぐに売り切れた。これからの注文となると納車は2021年になるとか。もっとたくさん輸入すればいいじゃないかと思うかもしれないが、世界中で人気のため、初期の日本割り当て分は限られているそうだ。レジェンダリーモデルの刷新には大きなプレッシャーがあっただろうが、開発陣はほっと胸をなでおろしていることだろう。
(文=塩見 智/写真=荒川正幸/編集=藤沢 勝)
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テスト車のデータ
ランドローバー・ディフェンダー110
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4945×1995×1970mm
ホイールベース:3020mm
車重:2280kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:300PS(221kW)/5500rpm
最大トルク:400N・m(40.8kgf・m)/1500-4000rpm
タイヤ:(前)255/65R19 114H/(後)255/65R19 114H(グッドイヤー・ラングラー オールテレインアドベンチャー)
燃費:8.3km/リッター(WLTCモード)
価格:589万円/テスト車=813万3880円
オプション装備:ボディーカラー<パンゲアグリーン>(9万5000円)/コントラストルーフ<ホワイト>(12万9000円)/ルーフレール<ブラック>(4万6000円)/マニュアル3列目シート(26万2000円)/コールドクライメートパック(10万9000円)/3ゾーンクライメートパック(21万円)/シフトレバー<レザー>(3万円)/センターコンソール<アームレスト付き>(3万円)/ドライバーアシストパック(14万1000円)/キーレスエントリー(13万6000円)/ClearSightインテリアリアビューミラー(10万4000円)/8ウェイセミ電動フロントシート<ヒーター付き>(5万8000円)/19インチ“スタイル6010”6スポークホイール<グロススパークルシルバーフィニッシュ>(20万5000円)/その他(3万9000円) ※以下、販売店オプション アドベンチャーパック(37万0040円)/クロスバー(4万5210円)/フィクスドサイドステップ(17万2810円)/ディープサイドラバーマット(2万7940円)/ラゲッジスペースラバーマット(3万3880円)
テスト車の年式:2020年型
テスト開始時の走行距離:3048km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:366.5km
使用燃料:58.1リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:6.3km/リッター(満タン法)/6.7km/リッター(車載燃費計計測値)

塩見 智
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