トヨタがルマンで3連覇! それって“楽勝”だったのか?
2020.09.25 デイリーコラム驚くほどのハンディキャップ
2020年9月20日の現地時間午後2時30分、第88回ルマン24時間レースが終了の時刻を迎えた。出走した59台のうち、最も長い距離を走った(387周、5272.46km)のはTOYOTA GAZOO Racing(以下トヨタ)の8号車(セバスチャン・ブエミ/中嶋一貴/ブレンドン・ハートレー)だった。トヨタは初制覇からの3連覇を果たした。
2017年にポルシェが撤退したことで、最上位カテゴリーのLMP1に属する自動車メーカー系チームはトヨタだけになり、プライベートチームとの戦いになった。この状況から2018年以降は「トヨタが勝って当たり前」と見られがちだが、ルマン24時間はそう簡単に勝てるレースではない。
資金力や人材に裏打ちされた開発能力に関しては、トヨタに圧倒的なアドバンテージがある。参戦車両の性能に歴然とした差があるのは事実だ。その差を埋めてレースをおもしろくするため、ルマン24時間をシリーズの一戦に含むWEC(FIA世界耐久選手権)は2018-2019年シーズンから、EoTと呼ぶ技術均衡調整(SUPER GTなどで採用されているBoPと同種)を導入した。
2019年のルマン24時間はトヨタ8号車が385周を走って優勝。7号車が2位に入った。プライベーターの最上位はSMPレーシング11号車で、同一周回でワン・ツー・フィニッシュしたトヨタと6周の差がついた。この結果を踏まえ、2020年のルマン24時間に向けたEoTはトヨタに厳しくなる方向で修正された。
トヨタTS050ハイブリッドの最低重量は前年より7kg重くされ、895kgになった。プライベーター勢はガソリンエンジンのみを搭載する。トヨタと同一カテゴリーで勝負するのはレベリオンの2台(1号車、3号車)とバイコレスの1台(4号車)だった。いずれも自然吸気エンジン搭載車で、最低重量は816kgに設定された。TS050ハイブリッドより79kgも軽い。
トヨタは1周あたりに使えるガソリンの量が制限されるのに対し、プライベーターは無制限。エンジン出力に影響を与える最大燃料流量は、トヨタが80.0kg/hなのに対し、プライベーター勢は43.75%多い115.0kg/hに規定されている。技術力が同じなら43.75%の差はそのままエンジンパワーの差になる。
1スティントあたりの燃料使用量も規定されており、トヨタは昨年と同じ35.1kgなのに対し、プライベーター勢は昨年より約9%多い55.4kgが割り当てられた。昨年優勝したトヨタ8号車は24時間で34回ピットストップを行ったのに対し、3位と4位のプライベーターは39回ピットに入った。プライベーター勢の燃料搭載量を多くしてピットストップ回数を減らし、競争をより拮抗(きっこう)させるのが狙いだ。
将棋に例えれば、トヨタは飛車角を抜いたうえに金銀桂馬香車を抜いて相手に差し出したようなものである。ハンディを負いすぎの感がなきにしもあらずだが、「どこかがずっと勝ち続けるとファンにとってはおもしろくない。僕らはレースをしているコミュニティーの住人。そのコミュニティーが共存共栄していくために調整は必要だと考えている」と、WECチーム代表の村田久武氏は考えを示した。
ルマンに楽観はあり得ない
今回優勝したトヨタ8号車と、2位に入ったレベリオン1号車のピットストップ回数はともに36回で、レース運営側のもくろみはあたった格好だ。ピットで過ごした時間の合計はともに52分台で、互角である。1位と2位で5周の差がついたのは、平均ラップタイムの差が大きい。ファステストタイムは1号車(3分19秒264で全体のトップ)のほうが8号車(3分19秒762)より速かったが、3分20秒台前半でコンスタントに走った8号車に対し、1号車は3分20秒台の後半がやっとで、その差が明暗を分けた。1周3秒の違いが24時間で5周の差になる。
実際には、周回数の差が示すよりも緊張感があった。24時間レースは競合との戦いであると同時に、自分たちとの戦いでもある。どんなに入念に準備してもトラブルは発生するし、不可抗力に見舞われることもある。最後の5分で勝利を失った2016年ほどではないにしても、不運とトラブルがトヨタを襲った。
2番手からスタートした8号車はレース開始から1時間も経過しないうちにスローパンクチャーに見舞われ、予定外のピットインを強いられた。そのため、先頭を走る7号車(マイク・コンウェイ/小林可夢偉/ホセ・マリア・ロペス)と1分以上の差がついた。さらに8号車は、右フロントのブレーキ温度が異常に上昇するトラブルを抱えた。このトラブルを解決するためガレージで作業を行ったため、周回遅れになった。
レースが折り返しを過ぎたころ、今度はトップを快走していた7号車にトラブルが発生。右バンクのターボチャージャーを交換するため、30分弱をガレージで過ごすことになった。ターボを交換するにしては迅速な作業だったが、24時間スプリントのルマンでは致命的で、6周遅れになった(最終的には3位でフィニッシュ。可夢偉はまたも勝てなかった)。7号車の脱落により、8号車が再び首位に立った。
7号車に起きたトラブルは、8号車にも起きるかもしれなかった。そうなれば、2番手を走る1号車に5周差をつけていても安泰ではなかった。それがレース終盤の緊張感を高めた理由である。決して楽勝ではなかった。トヨタ陣営はTS050ハイブリッドで臨んだ最後のルマンを、楽勝のワン・ツー・フィニッシュで終えられずに悔いていることだろう。3連覇を達成したものの、今回もまたルマンの厳しさを味わった。
2021年3月に開幕する新シーズンから、WECの最上位カテゴリーは新設のハイパーカー規定に移行する。トヨタは早い段階から参戦を表明。LMP2に参戦しているアルピーヌが、特例で参戦できるLMP1にステップアップしてトヨタと同じ土俵で戦う。さらに、プライベーターのバイコレスとグリッケンハウスがハイパーカーでの参戦の意思を明らかにしている。トヨタには参戦を継続している強みは残るが、孤軍奮闘した末の3連覇時代と同様、結果について楽観視できる材料はない。新たな挑戦が始まるのみだ。
(文=世良耕太/写真=トヨタ自動車/編集=関 顕也)
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世良 耕太
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