プジョーSUV 2008アリュール(FF/8AT)
薄味の魅力 2021.01.29 試乗記 新型「プジョーSUV 2008」には、ねっとりとした“フランス車”らしさが乏しい。ではつまらないクルマなのかというと真逆で、実はとてもいいクルマである。そこがプジョーのうまいところだ。エントリーグレード「アリュール」の仕上がりを報告する。SUV×SUV
「プジョー208」に続いて、2008の新型も国内導入された。208から派生したFFのSUVである。3ケタ数字真ん中のゼロがダブるとSUV。2009年の「3008」以来のネーミングだが、新型2008からは正式車名が新たにSUV 2008となった。現行3008、それに「5008」も同様で、SUVが頭につく。もちろん世界中でそうなった。ゼロがダブればSUVなのだから、なんでSUVをさらにダブらせるのか、ちょっと意味がわからないが、今後、セダン2008やクーペ2008などが出ることを期待しておこう。
ちなみにフランス語だと208は「ドゥソンウィ」。2008は「ドゥミルウィ」。カタカナで書くと長いが、どちらも実際の発音を聞くと短い。しかし日本語だと「ニイマルマルハチ」って長ったらしくて言いにくい。どうせ変えるなら、日本人的には「SUV 208」のほうがわかりやすかったと思う。
だが、こんどの2008は単なる208からの派生SUVじゃないよというのがSUV 2008の主張だろう。先代208と2008のホイールベースは同寸だったが、「CMP」と呼ばれる新開発のマルチエネルギー対応プラットフォームは、3つのホイールベース、2つのトレッドなどのアジャスト性が特徴で、SUV 2008は208からプラス7cmのホイールベース(2610mm)を持つ。4305mmのボディー全長は21cm長い。セイウチの牙のようなLEDのポジションランプは同じだが、スタイリングもそれぞれに独自性を強め、SUV 2008は208より半クラスほど車格が上がったようにも見える。
208よりも圧倒的に広い
試乗したのは標準グレードの「アリュール」(299万円)。パワートレインやサスペンションやタイヤ(215/60R17)は上級グレードの「GTライン」(338万円)と同じだが、装備は一部省かれる。
前輪駆動のトラクション制御を変えることで5つの低ミュー路用ドライブモードを持つ「グリップコントロール」、低速坂下り用自動スロットル機構のヒルディセントコントロールなど、なんちゃって四駆的なスペックはGTライン専用だが、アダプティブクルーズコントロールのような運転支援系の新機能も含めて、必要十分な装備を持つのがアリュールグレードの特徴だ。スペースセーバーながら、リアルなスペアタイヤが付く(GTラインはパンク修理キット)。それだけでも個人的にはアリュールを推したいところだ。
まず後席インプレッションから始めると、208に対するアドバンテージは明らかだった。7cmのホイールベース延長は膝まわりの余裕に直結しているし、乗降時の脚の取り回しも楽だ。
荷室も208より目に見えて広い。約2割の容量アップもさることながら、SUV 2008はテールゲート開口部の幅が広いため、かさものの出し入れがはるかに容易だ。後席と荷室のヘビーユーザーには、208よりSUV 2008がお薦めなのは言うまでもない。
ボディー剛性が効いている
205mmの最低地上高は208より6cm高い。SUV 2008のドライブフィールはちょっとアイポイントの高い208である。乗り心地はSUVらしくやや硬めの仕上げだが、アンコ型のずっしりタイプではない。車重は1270kg。FFのSUVらしい軽快感もありながら、走りのクオリティーは上質だ。
その根本にあるのは高剛性のボディーだと思う。こんどの208/SUV 2008には電気自動車(EV)もある。ひと声300kg重くなるEVまで想定したプラットフォームを使えるのは、軽量なエンジンモデルにとっては品質的に“もうけもん”ではなかろうか。
パワートレインは直噴1.2リッター3気筒ターボ+8段AT。208と基本的に同じユニットだが、110kgの車重増に備えて、出力、トルクともに引き上げられている。パワーは30PSプラスの130PS。大きく重くなったSUVボディーでも、動力性能のハンディはないはずだ。
カッコいいセレクターとパドルシフトでコントロールするアイシン製の8段ATも含めて、パワートレインは文句なしである。ポート噴射でノンターボだったころの3気筒は、ザワザワした特有のビートがあって、それが楽しかったが、ブラッシュアップを重ねた最新型はほとんど3気筒とわからないくらい洗練されている。
燃費もわるくない。今回465kmを走って13.4km/リッター(満タン法)を記録した。
いいもの感にあふれている
運転操作の動線を非常にコンパクトに感じさせる「iコックピット」はプジョー各車ですでにおなじみだが、新世代プラットフォーム採用車にはこれに3Dのデジタルメーターが加わった。メーターハウジング上部からも映像を照射して、メーター類をホログラムのような3次元で見せる。しかし視認性にすぐれるかといえば、必ずしもそうではなく、とくに肺活量計のメーターのようなタコメーターは見にくい。というか、運転し始めてしばらくは、それがタコメーターだとは気づかなかった。それくらいブッ飛んだところもあるが、初見の人を驚かす新しさはたしかにある。
SUV 2008はひとことでいうと、とてもいいクルマである。見ても触っても乗っても、208同様“いいもの感”がある。昔のねっとりしたフランス車テイストを知っていると、あまりにいいクルマ過ぎて、逆に印象が希薄になるきらいもないではないが、民族色を抑えて、グローバルな偏差値の高さを追求してきたのはここ20年くらいのプジョーの戦略といえる。
ヨーロッパだとSUV 2008のガチンコライバルになる新型「ルノー・キャプチャー」は、2021年2月に日本にも入ってくる。すでに発売されている「ルーテシア」の出来をみると、これも大いに期待できそうである。フレンチコンパクトSUV、これからくると思います。
(文=下野康史<かばたやすし>/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
プジョーSUV 2008アリュール
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4305×1770×1550mm
ホイールベース:2610mm
車重:1270kg
駆動方式:FF
エンジン:1.2リッター直3 DOHC 12バルブ ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:130PS(96kW)/5500rpm
最大トルク:230N・m(23.5kgf・m)/1750rpm
タイヤ:(前)215/60R17 96H/(後)215/60R17 96H(ミシュラン・プライマシー4)
燃費:17.1km/リッター(WLTCモード)
価格:299万円/テスト車=334万2550円
オプション装備:パールペイント<エリクサーレッド>(7万1500円)/ナビゲーションシステム(23万6500円)/ETC2.0車載器(4万4550円)
テスト車の年式:2020年型
テスト開始時の走行距離:966km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(8)/山岳路(1)
テスト距離:465.0km
使用燃料:34.6リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:13.4km/リッター(満タン法)/13.6km/リッター(車載燃費計計測値)

下野 康史
自動車ライター。「クルマが自動運転になったらいいなあ」なんて思ったことは一度もないのに、なんでこうなるの!? と思っている自動車ライター。近著に『峠狩り』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリよりロードバイクが好き』(講談社文庫)。
-
アウディA6アバントe-tronパフォーマンス(RWD)【試乗記】 2025.12.2 「アウディA6アバントe-tron」は最新の電気自動車専用プラットフォームに大容量の駆動用バッテリーを搭載し、700km超の航続可能距離をうたう新時代のステーションワゴンだ。300km余りをドライブし、最新の充電設備を利用した印象をリポートする。
-
ランボルギーニ・テメラリオ(4WD/8AT)【試乗記】 2025.11.29 「ランボルギーニ・テメラリオ」に試乗。建て付けとしては「ウラカン」の後継ということになるが、アクセルを踏み込んでみれば、そういう枠組みを大きく超えた存在であることが即座に分かる。ランボルギーニが切り開いた未来は、これまで誰も見たことのない世界だ。
-
アルピーヌA110アニバーサリー/A110 GTS/A110 R70【試乗記】 2025.11.27 ライトウェイトスポーツカーの金字塔である「アルピーヌA110」の生産終了が発表された。残された時間が短ければ、台数(生産枠)も少ない。記事を読み終えた方は、金策に走るなり、奥方を説き伏せるなりと、速やかに行動していただければ幸いである。
-
ポルシェ911タルガ4 GTS(4WD/8AT)【試乗記】 2025.11.26 「ポルシェ911」に求められるのは速さだけではない。リアエンジンと水平対向6気筒エンジンが織りなす独特の運転感覚が、人々を引きつけてやまないのだ。ハイブリッド化された「GTS」は、この味わいの面も満たせているのだろうか。「タルガ4」で検証した。
-
ロイヤルエンフィールド・ハンター350(5MT)【レビュー】 2025.11.25 インドの巨人、ロイヤルエンフィールドの中型ロードスポーツ「ハンター350」に試乗。足まわりにドライブトレイン、インターフェイス類……と、各所に改良が加えられた王道のネイキッドは、ベーシックでありながら上質さも感じさせる一台に進化を遂げていた。
-
NEW
あの多田哲哉の自動車放談――ロータス・エメヤR編
2025.12.3webCG Movies往年のピュアスポーツカーとはまるでイメージの異なる、新生ロータスの意欲作「エメヤR」。電動化時代のハイパフォーマンスモデルを、トヨタでさまざまなクルマを開発してきた多田哲哉さんはどう見るのか、動画でリポートします。 -
NEW
タイで見てきた聞いてきた 新型「トヨタ・ハイラックス」の真相
2025.12.3デイリーコラムトヨタが2025年11月10日に新型「ハイラックス」を発表した。タイで生産されるのはこれまでどおりだが、新型は開発の拠点もタイに移されているのが特徴だ。現地のモーターショーで実車を見物し、開発関係者に話を聞いてきた。 -
NEW
第94回:ジャパンモビリティショー大総括!(その3) ―刮目せよ! これが日本のカーデザインの最前線だ―
2025.12.3カーデザイン曼荼羅100万人以上の来場者を集め、晴れやかに終幕した「ジャパンモビリティショー2025」。しかし、ショーの本質である“展示”そのものを観察すると、これは本当に成功だったのか? カーデザインの識者とともに、モビリティーの祭典を(3回目にしてホントに)総括する! -
NEW
日産エクストレイルNISMOアドバンストパッケージe-4ORCE(4WD)【試乗記】
2025.12.3試乗記「日産エクストレイル」に追加設定された「NISMO」は、専用のアイテムでコーディネートしたスポーティーな内外装と、レース由来の技術を用いて磨きをかけたホットな走りがセリングポイント。モータースポーツ直系ブランドが手がけた走りの印象を報告する。 -
アウディA6アバントe-tronパフォーマンス(RWD)【試乗記】
2025.12.2試乗記「アウディA6アバントe-tron」は最新の電気自動車専用プラットフォームに大容量の駆動用バッテリーを搭載し、700km超の航続可能距離をうたう新時代のステーションワゴンだ。300km余りをドライブし、最新の充電設備を利用した印象をリポートする。 -
4WDという駆動方式は、雪道以外でも意味がある?
2025.12.2あの多田哲哉のクルマQ&A新車では、高性能車を中心に4WDの比率が高まっているようだが、実際のところ、雪道をはじめとする低μ路以外での4WDのメリットとは何か? トヨタでさまざまな車両を開発してきた多田哲哉さんに聞いた。
















































