メルセデス・ベンツE300カブリオレ スポーツ(FR/9AT)
“ととのう”瞬間 2021.01.15 試乗記 メルセデス・ベンツが綿々と歴史を紡ぐ4シーターオープンモデル「Eクラス カブリオレ」がマイナーチェンジ。アップデートされた運転支援システムやユーザーインターフェイスの出来栄えを確かめながら、開放感あふれる走りを味わった。オープンカーはメルセデスの伝統
メルセデスほどオープンカーに執着しているブランドはないかもしれない。実はメルセデスは、戦前から2シーターと4シーターのカブリオレを脈々とつくり続けている。現行モデルとしては「Cクラス」「Eクラス」「Sクラス」に4シーター、そして「SLC」「SL」に加え、「AMG GT」に2シーターのオープンモデルがある。
1990年代に初めてEクラスを名乗ったW124の時代にも、もちろんカブリオレはあった。2ドアクーペモデルの「320CE」をベースに仕立てられたモデルで、A124の型式で呼ばれていた。初めて乗ったとき、クルマに乗り込んでイグニッションをオンにすると、どうぞといわんばかりにシートベルトが自動で前方に送り出されてきて、驚いたことを覚えている。そしてもちろん最新のEクラスにもその機能は受け継がれている。
ちなみに現在、日本のメーカーが手がけるオープンカーは、ダイハツ(トヨタ)の「コペン」、ホンダの「S660」、マツダの「ロードスター」、レクサス(トヨタ)の「LCコンバーチブル」の4モデルしかない。
LCコンバーチブルは小さなリアシートを備えているが、後席に大人がきちんと乗れるフル4シーターに至っては皆無だ。バカンスや日光浴を大事にする欧米と、高温多湿で雨の多い日本との差が最も顕著にあらわれているカテゴリーといえるかもしれない。
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使いやすく進化した操作系
2020年秋、Eクラスは基礎となる「セダン」のマイナーチェンジにタイミングを合わせ、「ステーションワゴン」をはじめ、「クーペ」とカブリオレにも大きな改良が施された。基本的な変更点はセダンに準じたもので、まずエクステリアはフロントグリルとバンパー、ヘッドランプ、リアコンビネーションランプなどのデザインを一新している。
インテリアでは、ツインスポークのスポーティーなデザインの新世代ステアリングホイールを採用。左右のスポークにはタッチパネルが埋設されており、スワイプ&タッチするなどしてナビゲーションやメーター内の各種設定、そして安全運転支援システムの操作など、すべてを手元で完結できる。
また従来はACC(自動再発進機能付きアクティブディスタンスアシスト・ディストロニック)使用時にステアリングホイールにかかるトルクか、タッチコントロールボタンへの接触でドライバーがステアリングホイールを握っているかどうかを判定していたが、新たに静電容量式センサーを備えたリムパッドを採用。これによってステアリングを握っているにもかかわらずアラートが出るといった現象を抑制することができ、使い勝手が向上している。
今回は中級グレードの「E300カブリオレ スポーツ」に試乗した。エンジンは「E200」に搭載される1.5リッター「M264」ユニットを2リッター化した「M264M20」で、ターボチャージャーによって最高出力258PS、最大トルク370N・mを発生。これにとても出来のいい9段AT「9Gトロニック」を組み合わせている。
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想像以上に優れた快適性
まずソフトトップを閉めたままで走りだした。直前に「E300クーペ スポーツ」に試乗したこともあってコーナリング時にはわずかにボディー剛性が落ちるかなと感じたけれど、よく考えれば屋根のないクルマにとっては当たり前の話だし、すぐに気にならなくなった。それよりも驚いたのは多層構造のソフトトップによる静粛性の高さだ。おそらくそれと言わないで助手席に乗せたならば、オープンカーだとは気づかない人も多いはずだ。
高速道路に乗ってもその印象は変わらない。こと静粛性という点ではタイヤ銘柄の違いもあるだろうが、トップを閉じた状態での風切り音などはクーペよりも優れていた。
高速道路を降り、ソフトトップを開いてみた。開閉操作はセンターコンソールにあるスイッチひとつで、約50km/hまでなら走行中の開閉も可能だ。所要時間は20秒ほどで、渋滞時や信号待ちの間でも操作には十分こと足りる。試乗車のソフトトップのカラーはブラックだったが、これ以外にもブラウン、ダークブルー、ダークレッドがある。E300カブリオレ スポーツで選択できるボディーカラーは11色、インテリアは6種類の設定があるので、その組み合わせを考えるだけでも楽しめる。エメラルドグリーンのボディーカラーにブラウンのトップなどは、とてもシャレていると思う。
足まわりはエアサスと電子制御ダンパーを組み合わせた「エアボディーコントロールサスペンション」を標準装備する。走行モードは「コンフォート」から「スポーツ+」まで用意されており、その振り幅の広さが魅力だけれど、このクルマにはコンフォートがぴったりだと思う。
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わずか約3%の優越
試乗車にはオプションの、前方からの風を上方に跳ね上げるフロントウィンドウ上部のウインドディフレクターと後席後方からの風の巻き込みを防止するドラフトストップが装備されていた。さらにシートには、ヘッドレスト下部に小型セラミックヒーターを内蔵したエアスカーフが備わっており、これによって首元の暖を取ることができる。
走行モードはコンフォートを選択し、シートヒーターとエアスカーフをオンにして、冬の田舎道を流していたら、なんだか露天風呂につかっているような気分になった。頭寒足熱と言ったりするけれど、オープンカーが本当に気持ちいい季節は春とか秋ではなく、冬だと思う。流行のサウナよろしく“ととのう”瞬間が訪れる。日光浴目当ての欧米とは真逆といえそうだが、これぞ日本流のオープンカーの楽しみ方かもしれない。
国内で販売されるEクラスをボディータイプ別にみると、比率はセダン:ステーションワゴン:クーペ&カブリオレで、6:3:1くらいになるという。そしてクーペ:カブリオレ比ではおおよそ7:3というから、すなわちEクラスにおけるカブリオレの占める割合は約3%しかないというわけだ。
昨2020年まで5年連続で純輸入車として国内販売台数首位を記録してきただけに、いまやメルセデスを街で見かける機会は本当に増えた。裏を返せば物珍しさや新鮮さは失われつつあるといえるかもしれない。しかし、Eクラス カブリオレならW124の時代とも変わらない希少性が約束されている。そして密を避けよと叫ばれるこの時代に、さらっとこのクルマを選ぶセンスのよさに、感服するほかない。
(文=藤野太一/写真=花村英典/編集=櫻井健一)
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テスト車のデータ
メルセデス・ベンツE300カブリオレ スポーツ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4845×1860×1430mm
ホイールベース:2875mm
車重:1870kg
駆動方式:FR
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:9段AT
最高出力:258PS(190kW)/5800-6100rpm
最大トルク:370N・m(37.7kgf・m)/1800-4000rpm
タイヤ:(前)245/40R19 98Y/(後)275/35R19 100Y(グッドイヤー・イーグルF1アシメトリック3)※ランフラットタイヤ
燃費:11.3km/リッター(WLTCモード)
価格:956万円/テスト車=1057万1000円
オプション装備:ボディーカラー<ルビーライトレッド>(9万7000円)/エクスクルーシブシートパッケージ<本革シート[ナッパレザー、ステッチ入り]、エアキャップ[ウインドディフレクター、ドラフトストップ]、エアバランスパッケージ[空気清浄機能、パフュームアトマイザー付き]、Burmesterサラウンドサウンドシステム[13スピーカー]、エアスカーフ[前席]、シートベンチレーター[前席]、マルチコントロールシートバック[前席]、サイドボルスター調整機能付きシート[前席]、リラクゼーション機能[前席]、エナジャイジングパッケージ[前席]>(91万4000円)
テスト車の年式:2020年型
テスト開始時の走行距離:1602km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター

藤野 太一
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