プジョー5008 GT BlueHDi(FF/8AT)
どこまでも行ける 2021.04.16 試乗記 プジョーの好調を支える3列シートSUV「5008」がマイナーチェンジを受けた。激変ぶりがひと目で分かるのはフロントからの眺めだが、中身は一体どんな進化を遂げているのだろうか。2リッターディーゼルモデルの仕上がりをリポートする。グリルの主張が控えめに
「3008」とともにSUV戦線の激戦区に投入されるプジョー5008。2017年の日本市場投入以来、約4年ぶりにマイナーチェンジが施された。
来るべき電動化時代に向けて、クルマの一等地に一世紀以上も居座り続けたフロントグリルの処遇が変わりつつあるのは他メーカーもしかり。プジョーの場合はグリル部を支えるフレームを取り払いヘッドライトとの一体形状としたうえで、グリル本体もグラフィカルな成形品とすることで、ルーバーやメッシュといった明確な空気取り入れ口としての存在感を薄めている。
そしてライトの両端には「508」から始まった牙(きば)状のデイタイムランニングライトが配され……と、新しい3008/5008の顔まわりは、先日発表された新型「308」とも相通じるプジョー最新のデザインにのっとったものとなっている。
5008にはハイブリッドなし
新しい3008/5008の最大のトピックは、かねて予告されていたプラグインハイブリッドの「ハイブリッド4」が3008に設定されたことだろう。搭載するエンジンはガソリンの1.6リッター直噴4気筒ターボで、これに最高出力110PSのモーターを組み合わせて8段ATでドライブ。さらにリアアクスルにも112PSのモーターを配し、プロペラシャフトを持たないフルタイム4WDとしても機能する。システム総合の最高出力は300PS、最大トルクは520N・m。搭載する13.2kWhバッテリーは普通充電のみの対応となり、WLTCモードで64kmのEV走行を可能にするという。
しかし、このシステムは今回試乗した5008には本国でも未設定となっている。恐らくダイブダウンしながら格納できる3列目シートとのスペース干渉が遠因だろう。が、乗車人数や積載容量が多い5008の場合、総合的なCO2排出量にフォーカスするなら、今回の試乗車でもあるディーゼルのほうが削減効果は高いはずだ。
グループPSAは2025年までには投入する新型車のすべてを電動化するというビジョンを掲げているが、一方で電気自動車(BEV)化は大量のバッテリー搭載を必要としない小型車や商用車から淡々と進めている。思うに、自国内だけをみれば電源構成はBEVに向く一方で、ラテンエリアや今後のアフリカといった重要仕向け地での適合性に鑑みれば極端なBEV化は拙速、内燃機は延命させたいという経営判断も働いているのではないだろうか。この点、パートナーとなったFCAの商圏をみても両ブランドの意向は一致するようにうかがえる。
日本市場における5008のバリエーションはトリムラインが「アリュール」と「GT」の2つで、アリュールはディーゼルの2リッター4気筒直噴ターボのみ。GTにはこのディーゼルユニットに加えて、ガソリンの1.6リッター4気筒直噴ターボも用意される。
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使えるアドバンストグリップコントロール
今回のマイナーチェンジでアップデートされたインフォテインメントやADAS系の装備は、標準仕様ともいえるアリュールにもGTと同等のものが配されている。一方のGTはフルLEDヘッドライトやグリル、モール類などのコスメティックが豪華になるほか、内装はシート表皮が人工皮革とアルカンターラのコンビとなるなど、主に加飾面での差別化が図られる。さらにレザーシートや大型スライディングルーフなど快適装備のオプション装着が可能だ。機能面での差異は「アドバンストグリップコントロール」の有無くらいなものだろうか。
このデバイス、多少の凹凸路であれば十分に機能する優れものだ。5008はFFゆえ、ESCの各輪ブレーキコントロール機能を駆使して接地輪の駆動環境を可能な限り最適化するというパッシブな制御に限られるものの、ちょくちょく未舗装路にも入っていくような乗り方ならば、あるに越したことはないものにはなっている。
試乗車が搭載するディーゼルユニットは最高出力177PS/最大トルク400N・mを発生。これをアイシン製の8段ATと組み合わせる。音や振動面では同門の1.5リッターディーゼルに比べるとややがさつなところもあるが、ドライバビリティーは低回転域から500ccというプラスアルファによる余裕を感じさせるものとなっている。レジャー時のフル乗車&積載でもこれなら著しい力不足は感じないだろう。とはいえ、3列目シートはこの手のモデルの常で子供用、そしてオケージョナルユースと割り切るべきで、普段は容量762リッターの広々とした荷室として使われるはずだ。そして2列目シートは3座がほぼ等しく独立……とあらば、使い勝手的な面では先ごろ日本市場に投入された「リフター」ともかぶるところがある。
おすすめは真横のスタイル
新しい5008の乗り心地に前型からの著しい変化はない。低速域では気持ちバネ下のバタつきが気にはなるものの、高速域や高負荷域では小さな凹凸はふわっといなし、大きな入力にはぐにゅっと柔らかく踏ん張りながらリバウンドも上手に抑えたプジョーらしいライドフィールをみせてくれる。コーナーの身のこなしには3008ほどの切れ味はなくも鈍重な感もなく、個人的にはちょうどいいあんばいに思えた。ただし、クルマの基本的な動感がここまでゆったりしてくると、じわっとヨーをつけていくのに気を使う例の小径ステアリングがいよいよなじまないなぁと思ったのも確かだ。
せっかく整えられた新しい顔がまるで見えない話でなんなのだが、個人的には5008、真横から見たスタイリングが気に入っている。大きなリアドア&ウィンドウ、それと並んで今どきのクルマとしてはゆったり取られたクオーターウィンドウが描くおおらかなたたずまいに、いっぱい積んでゆったり走ろうという、いにしえのステーションワゴン的な豊かさを重ねてしまうのは僕だけだろうか。新しい5008はADASもしっかり進化している。ディーゼルなら満タンで1000kmに届きそうな足の長さも相まって、どこまでも走る気にさせる貨客車としての期待値にも十分応えてくれると思う。
(文=渡辺敏史/写真=郡大二郎/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
プジョー5008 GT BlueHDi
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4640×1840×1650mm
ホイールベース:2840mm
車重:1720kg
駆動方式:FF
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ディーゼル ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:177PS(130kW)/3750rpm
最大トルク:400N・m(40.8kgf・m)/2000rpm
タイヤ:(前)225/55R18 98V M+S/(後)225/55R18 98V M+S(コンチネンタル・コンチクロスコンタクトLX2)
燃費:16.6km/リッター(WLTCモード)
価格:501万6000円/テスト車=548万8330円
オプション装備:メタリックペイント(6万0500円)/パノラミックサンルーフ(15万3000円)/ナビゲーションシステム(24万8380円)/ETC(1万0450円)
テスト車の年式:2021年型
テスト開始時の走行距離:937km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:272.3km
使用燃料:19.7リッター(軽油)
参考燃費:13.7km/リッター(満タン法)/13.5km/リッター(車載燃費計計測値)
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渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
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