フォルクスワーゲン・ゴルフ トゥーランTSIハイライン(FF/7AT)
いまが食べごろ 2021.05.25 試乗記 デビューから6年を経て、またしても改良を受けた「フォルクスワーゲン・ゴルフ トゥーラン」(以下、トゥーラン)。その魅力はいまだ健在か? ライバルに対するアドバンテージは保たれているのか? 新エンジンが搭載された「TSIハイライン」に試乗し、その実力を確かめた。商品力を高める細かな改良
コロナ禍の2020年、フォルクスワーゲンの日本における販売台数は3万6576台。ブランド別順位はメルセデス・ベンツに次ぐ2位ではあるものの、対前年比では8割を切るくらいの実績となった。言わずもがなコロナ禍ゆえの事情は大きいが、欧州での新燃費基準認証作業の滞り、それに伴う新型車のローンチスケジュールの混乱など、本国的な事情も絡んでいる。
それでも、昨年はようやく「Tロック」や「Tクロス」など、売れ筋の車系が上陸しており販売店もホッとしたことだろう。そして今年もようやく、フルモデルチェンジを受けた「ゴルフ」が導入される。並行して、「ティグアン」や「パサート」もフェイスリフトを伴うビッグマイナーチェンジが施された。
と、そこに加えてこのトゥーランだ。2016年の日本上陸以来、放置状態に見えて実は折につけ細かく手が加えられてきた。そして実はこの4月にも仕様変更が施されている。
その最大のトピックは、パワー&ドライブトレインのアップデートだ。ガソリンエンジンは気筒休止システムが搭載された最新世代の1.5リッターTSI Evoへと置き換わり、出力はそのままに環境性能を向上させている。またディーゼルの2リッターTDIは、組み合わされるトランスミッションが多段化され、7段DSGとなった。
装備面ではインフォテインメントシステムにeSIMを内蔵してコネクティビティーを高めた「Ready 2 Discover」を採用。さらに高機能な9.2インチ「Discover Pro」もオプションで選択することが可能だ。加えて、下位グレードの安全装備充実が図られているが、今回の試乗車はラグジュアリー系の最上級グレード、TSIハイラインとなる。
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車内空間はまじめで機能的
個人的には久しぶりに対面したトゥーラン。ジュネーブショーでのデビューから数えると6年以上の月日がたつこともあって、静的質感には特筆するようなところはない。樹脂ものの質感やオーナメントのしつらえなど、至って凡庸な印象だ。が、この間、ライバルにベンチマークにされキャッチアップされ続けてもなお致命的な古さは感じさせないという点からいえば、ここはむしろトゥーランの“持ち”のよさを褒めるべきだろう。
国産ミニバンに対するトゥーランの特徴は、独立・平等な3座の2列目シートと、2座の3列目シートを含めた7人乗りのパッケージにある。また、後ろ2列を折り畳めばほぼフラットなスペースが出現。この状態での荷室長は公称で1794mmあり、床面にマットを敷くなど工夫をすれば車中泊も快適にこなせそうだ。さらに助手席も畳めばサーフボードなどの長尺物も積載可能となる。
シートフォールディングなどの操作性やそれに要する力は、同種の日本車ほど洗練されてはいないものの、そのぶん各座席の骨格はしっかりしており、体をどさっと預けても背面がガチッと上肢を支えてくれる。座面の角度や高さの設定は身長181cmの大男(=筆者)にとっても絶妙で、着座姿勢的には長距離でもまったく疲れなさそうだ。ただし3席平等というコンセプトゆえ、幅方向はやや窮屈。2列目は独立してスライドができるので、V字に並ぶなどすれば乗員の快適性も上がるだろう。
望外だったのは3列目のシートの出来で、「合法的に収まりさえすればいい」という仕立ての車種も多いなか、小柄な人ならなんとかまっとうな着座姿勢がとれそうなくらいに頑張った配置となっている。また、着座時に感じるシートの剛性感も、日本車のそれより一枚上手だ。
走りのよさはクラス随一
新しい1.5リッターガソリンターボエンジンのフィーリングは、このクルマの生真面目なつくりに見合ったものだ。1500rpmから250N・mの最大トルクを発生するというスペックに表れる、低回転域からの力強さもしかり。そこから中・高回転域に向かって奇麗に伸びていくパワー感もしかり。その過程での奇麗に整えられた音・振動もまたしかり。文句のない仕上がりだ。大人数や大荷物が載っての高速巡航など、常態的に高負荷使用する向きなら迷わずTDIを選ぶべきだが、最近のフォルクスワーゲンのディーゼルエンジンは、極低回転域のトルクが薄く音も大きめと、ややクセが強い。日常のアシ的使用がメインであれば、特性が素直で扱いやすく、上質感もあるTSIのほうが向いているように思う。
乗り心地やハンドリングもフォルクスワーゲンらしく手堅い仕上がりだ。全域で感じるピッチやロールといった無駄な動きの少なさ、スタビリティーやロードホールディング性の高さ、鈍すぎず性急でもなくファミリーカーとして絶妙なあんばいのアジリティー、クセのないタッチのブレーキ等々……と、乗るほどにうまいなぁとため息が出る。強いて言えば「MQB」プラットフォームのクセで、ステアリングコラムまわりに低周波系の振動が若干たまる感はあるものの、総じて、快適性やハンドリングはいまだ同様のユーティリティーを持つモデルのなかでもトップレベルにあると思う。
おすすめはエントリーグレード
試乗車のTSIハイラインは431万9000円とかなりの高額だが、トゥーランの最も廉価なグレード「TSIトレンドライン」の価格は321万9000円と、これより110万円も安い。ハロゲンヘッドライトやホイールキャップと見栄えはさえないそのグレードも、今回のマイナーチェンジでは装備強化が図られ、従来のアダプティブクルーズコントロールやレーンキープアシストなどに加えて、レーンチェンジアシストやリアトラフィックアラートといった運転支援システムやリアカメラも標準化されるなど、“安見せ用”ではなく必要なものは惜しまず盛った質実剛健な構成となっている。「こういうのでいいんだよ」と井之頭五郎に言わしめるような、フォルクスワーゲンの真骨頂的なグレードだ。
今年でデビューから6年を経た現行型トゥーランだが、6年といえば、普通のクルマであればフルモデルチェンジのサイクルである。先代は実に12年近く販売されるご長寿となったが、クルマを取り巻く環境の変化を見るに、現行型もそれにならうかは分からない。いまさら新車のトゥーランを買ってもいいものかとお思いの方もいらっしゃるかもしれない。でも欧州車では、「モデルライフが進んでからのほうがおいしい」というのがよくある話。このクルマもまた、コンパクトな7シーターとしてはかなり熟れきったところにいる。乗せて載せて、使って走ってナンボという向きにとっては、十分検討に値する一台だ。
(文=渡辺敏史/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)
テスト車のデータ
フォルクスワーゲン・ゴルフ トゥーランTSIハイライン
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4535×1830×1670mm
ホイールベース:2785mm
車重:1570kg
駆動方式:FF
エンジン:1.5リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:150PS(110kW)/5000-6000rpm
最大トルク:250N・m(25.5kgf・m)/1500-3500rpm
タイヤ:(前)215/55R17 94V/(後)215/55R17 94V(コンチネンタル・コンチプレミアムコンタクト5)
燃費:14.7km/リッター(WLTCモード)
価格:431万9000円/テスト車=489万1000円
オプション装備:ボディーカラー<キングスレッドメタリック>(3万3000円)/Discover Proパッケージ(15万4000円)/テクノロジーパッケージ(17万6000円)/電動パノラマスライディングルーフ(17万6000円) ※以下、販売店オプション フロアマット<テキスタイル>(3万3000円)
テスト車の年式:2021年型
テスト開始時の走行距離:739km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(4)/高速道路(6)/山岳路(0)
テスト距離:164.0km
使用燃料:13.2リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:12.4km/リッター(満タン法)/12.7km/リッター(車載燃費計計測値)

渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
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