フォルクスワーゲン・ゴルフトゥーラン2.0 TDI SCR(FF/6AT)
ミニバンなのに退屈知らず 2018.08.01 試乗記 いよいよ日本へのディーゼルモデル導入を開始したフォルクスワーゲン(VW)。その第2弾となる「ゴルフトゥーラン」のTDIモデルに、本国ドイツで試乗。間もなく日本に導入されるディーゼルミニバンは、“アウトバーンの国”ならではの長距離ランナーだった。ディーゼルのミニバンで900kmを行く
とうとう日本市場に、本命と言われ続けた直噴ディーゼルターボを搭載する「パサートTDI」を送り込んだVW。その第2弾となるゴルフトゥーランに、日本導入に先んじてそのお膝元であるヴォルフスブルクで試乗した。行き先はローテンブルク。ディーゼルエンジンのメリットが最大限に生きる、市街地もアウトバーンも含めた往復900kmの長旅だ。
トゥーランTDIに搭載されたユニットは、パサートと同じ1968ccの排気量を持つ直列4気筒直噴ターボ。ただし、あくまでゴルフの一族であるトゥーランとパサートとのヒエラルキーからか、その最高出力は150ps/3500-4000rpm、最大トルクは340Nm/1750-3000rpmと、パサートに比べ40ps/60Nmも抑えられている。
日本でパサートTDIを試乗したときの印象は、その動力性能に特別なパンチを感じなかった。確かに日常領域でのトルクは十分で、わが国のスピードレンジにおいては法定速度までの到達時間や高速巡航能力に対しても不満はまったくなかった。しかし、パワーユニットとしての先進性や快活さは、いまやマツダ製「SKYACTIV-D 2.2」(190ps/450Nm)の方が上回る感もあったからだ。だから筆者は、ディーゼルというよりも「ディーゼルエンジンを積んだワーゲン」としてのトータルな落ち着きぶりや重厚感に、パサートTDIの魅力を感じていた。「もしかしたら、いわゆる“ディーゼルゲート問題”もあって、VWは必要以上にTDIユニットの存在感を高めなくないのかもしれないな」という心象もある。
これが背の高いトゥーランに搭載され、しかもその出力を抑えられているのだというのだから、当初は「結構退屈な旅路になるかもしれない」と思っていた。しかし、それはかなりの早合点であった。当たり前のことなのだけれどクルマというものは、エンジンだけで走る乗りものではないのである。
そもそもトゥーランの魅力は、国産ミニバンにはないボディー剛性の高さにある。実際に通ろうが通るまいが、ドイツにアウトバーンという道路が存在する以上、ここを安全に走れるだけの剛性(と安全性)を確保するのはドイツ勢にとってマストな要件。そして当然ながら、ミニバンであるトゥーランもこれをクリアできている。
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パワートレインの性格がクルマにマッチしている
大人3人とおのおのの約1週間に及ぶ長期滞在用の荷物が積み込まれたトゥーランTDIは、それでも愚痴ひとつこぼさず……もとい、ガラガラというノッキング音ひとつ車内にはもらさず、グイグイと加速していった。
1571kgという車重はパサートTDIとほぼ変わらない。にもかかわらずトゥーランTDIに退屈さを覚えなかったのは、まずVW独自のトランスミッションであるDSGのおかげだろう。トルクコンバーターを使わないがゆえの出足の“明確さ”と、シフト時における歯切れのよさがあれば、340Nmでも十分に動力性能を補える。
ちなみに、そのギア数はガソリンモデルより1段少ない6段DSGだが、ディーゼルターボのトルクもあって、とりたてて痛痒は感じられない。むしろ高速巡航になればなるほど両者の利点がかみ合ってくるといえる。適度にロングなギア比によってエンジン回転は抑えられ、ロードノイズも含め室内の静粛性は上々。前方が開ければ瞬時にシフトダウンして加速。混み合ってくればパドル操作によるエンジンブレーキで、スピードを楽にコントロールすることができるのだ。
肝心のエンジンは、やっぱりターボによる過給圧のパンチは少ない。巨大な触媒やDPF(ディーゼル・パティキュレート・フィルター)による影響か、吹け上がりそのものは幾分まったりとした印象で、しかしその穏やかさがトゥーランのキャラクターを思えば悪くないと感じられた。ちなみに窒素酸化物(NOx)の浄化は、パサートと同じくAdBlue(アドブルー:高品位尿素水)で行う。当然、ユーロ6の排ガス基準はクリアしている。
背の高いミニバンということもあり、130km/h巡航のカーブでは確かに重心の高さを感じはする。しかし、そのサスペンションは粘りと剛性のバランスがよく、巧みにボディーを支えながら姿勢を安定させ、路面のうねりさえもフラットにクリアしてくれる。さらにトゥーランには「DCC」(アダプティブ・シャシー・コントロール)が備わっている。日本だとこれがお遊びの道具程度にしか思えないことも多いのだが、この地だと、そして背の高いトゥーランだと、車両のスタビリティーを確保するデバイスとして本当に有効なのである。
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アウトバーンの国ならではのミニバン
いったいどこまで走れるのだろう? そんないたずら心から、会話を楽しんでいるパッセンジャーに黙ってアクセルを踏み続けてみると、長い時間を掛けてだが200km/hまで行けた。驚いたのは、そこに到達する過程で風切り音やエンジン音を不快に感じなかったことで、さまざまなノイズがうまく打ち消し合っているように思えた。空力性能はそれほどよくないようで、そのまま巡航すると細かいステア修正が必要となったのですぐにアクセルを緩めたけれど、少なくとも150km/h程度であれば、大抵の道はストレスなく走り続けることができると分かった。
思いもしないクルマがすごい走りをすると、血中アドレナリンがドバッと吹き出るもので、一応は落ち着き払いながらも、「やっぱ本場はミニバンもすげーなぁ」と心の中でつぶやいた。こりゃあ、極太のカリーブルストをおやつ代わりに頰張る国の乗りものだ。
結論としては、ディーゼルのミニバンでも退屈など一切感じることがなかったというのが、今回のオチである。もちろん、こうした運転が味わえるのはぶっ飛ばせるドイツだからだというのはあるが、日本においても「長距離を走る」という理由からミニバンを諦めていたドライバーにとって、トゥーランTDIのパッケージングはかなりお薦めである。
ご存じの通り、トゥーランにはスライドドアがない(上位車種である「シャラン」にはある)。日本のユーザーにとって、狭い駐車場でも隣のクルマに子供がドアをぶつけてしまう危険性のないスライドドアの需要は恐ろしく高い。しかし、スライドドアがないからこそ車両重量が抑えられ、ボディーの剛性が確保されているのではないかと思うと、その判断は難しい。本場の乗り味を取るか、国産の便利さを取るか。そう迷ったときに、2リッターTDI(と6段DSG)というユニットが、ひとつの後押しなる可能性は高いと思う。
(文=山田弘樹/写真=フォルクスワーゲン/編集=堀田剛資)
テスト車のデータ
フォルクスワーゲン・ゴルフトゥーラン2.0 TDI SCR
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4527×1829×1674mm
ホイールベース:2786mm
車重:1571kg
駆動方式:FF
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ディーゼル ターボ
トランスミッション:6段AT
最高出力:150ps(110kW)/3500-4000rpm
最大トルク:340Nm(34.7kgm)/1750-3000rpm
タイヤ:(前)215/55R17 94V/(後)215/55R17 94V(コンチネンタル・コンチプレミアムコンタクト5)
燃費:4.8-4.6リッター/100km(約20.8-21.7km/リッター、NEDC複合モード)
価格:--円
オプション装備:--
テスト車の年式:2018年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(軽油)
参考燃費:--km/リッター
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山田 弘樹
ワンメイクレースやスーパー耐久に参戦経験をもつ、実践派のモータージャーナリスト。動力性能や運動性能、およびそれに関連するメカニズムの批評を得意とする。愛車は1995年式「ポルシェ911カレラ」と1986年式の「トヨタ・スプリンター トレノ」(AE86)。
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