第709回:【Movie】大矢アキオが没後120年を迎えたG.ヴェルディの生家へ そこはコンビニ兼ホテル兼郵便局だった!
2021.06.10 マッキナ あらモーダ!ヴェルディは街道沿い生まれ
2021年はオペラ『椿姫』『アイーダ』『ナブッコ』などで知られるイタリアの作曲家、ジュゼッペ・ヴェルディ(1813~1901年)の没後120年にあたる。
今で言うところの人気アーティストだったヴェルディは、活躍した時期がイタリアの国家統一と重なった。それによって時代の寵児(ちょうじ)となり、愛国心に燃えた人々によって、果ては政界にまで引っ張り出された。
『ナブッコ』のアリア『行け、わが思いよ 黄金の翼に乗って』は、フェラーリがF1で勝利するたびに演奏されるミケーレ・ノヴァーロ作曲『マメーリの賛歌』とは別に、“第2の国歌”として今日でも熱く支持されている。
ところでヴェルディは、馬車にはそれなりのこだわりがあったようで、ミラノのカロッツェリアに豪華内装のフェートン型やクーペ型を発注し、一部は現存している。
しかし、残念ながら彼の生きた当時は自動車の時代にはわずかに早かった。
同じオペラ作曲家として知られ、45年遅く生まれたジャコモ・プッチーニ(1858~1924年)が、自らド・ディオン・ブートンやイソッタ・フラスキーニ、そしてランチアの「ラムダ」といった自動車のステアリングを握ったり、サイドカーでさっそうと移動したりしていたのとは対照的である。
加えて、作風がロマンチックというよりは壮大であることも手伝って、やはり筆者自身には、プッチーニと比較するといまひとつ遠い時代の人物という印象が強かった。
今回は、そのヴェルディの生家訪問記である。北部パルマ県ブッセート村のレ・ロンコレという地区だ。
県道19号線脇の十字路に面した2階建て家屋は、18世紀末にヴェルディの祖父が住居兼店舗として借り始めたものである。当初は販売許可を取得したタバコや酒類を扱っていたが、やがて食堂と食料品店も兼ねるようになった。
父カルロの代になると、旅籠屋(はたごや=食事付きの宿)や薬局、さらには郵便局も兼ねるようになっていった。
サラミやワインが入れてあった物置は、今も残っている。また、道を一本挟んだところに移転してはいるものの、村の郵便局は現在でも営業しており、こちらも大作曲家の時代を間接的ながらほうふつとさせる。
本人が住んでいた時代よりあとだが、1930年代までは市電の線路も脇を通っていた。
今日で言えば、ヴェルディの実家は、さながらモーテル併設のコンビニエンスストアといったところだ。ヴェルディの少年時代、家の前には旅人たちの馬や郵便馬車が、今日のクルマのごとくたたずんでいたに違いない。
ちなみにそうした業態の名残は、今でもドイツやスイスの山岳地方に見られるが、イタリアではほぼ消滅している。
やがてヴェルディは向かいに建つサン・ミケーレ教会で、オルガニストとして音楽家の一歩を記す。
名作曲家の実家はコンビニ。そう考えると、旧市街で生粋の音楽家の家系に生まれたプッチーニ以上に、親しみが湧いてきたのであった。
【G.ヴェルディの生家訪問記】
(文と写真=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>/動画=Akio Lorenzo OYA、大矢麻里<Mari OYA>/編集=藤沢 勝)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、25年間にわたってリポーターを務めあげる。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
-
最終回:人それぞれに「最後のアルファ・ロメオ」 2026.8.27 イタリア・シエナで開催された「アルファ・ロメオ・スパイダー/GTV」のささやかなオーナーミーティングを、地元在住の大矢アキオが取材。あなたにとって最後で最高のアルファ・ロメオは、いつの世代のどのモデルですか?
-
第975回:ホンダ&スバルのTシャツがイタリアを席巻中 2026.8.20 イタリアで、ホンダやスバルをモチーフにした“日本車Tシャツ”が人気に。自動車をモチーフにしたアパレルの世界で、日本車や日本のブランドがもてはやされる理由とは? 素直に喜べないその背景を、現地在住の大矢アキオが考察する。
-
第974回:「民生用」と「軍用」をまたぐクルマたち――ルノーの最新戦術車両に思う 2026.8.13 ルノーのクロスオーバーSUV「ラファール」がまさかの軍用車に? ルノーと軍需との第1次大戦にまでさかのぼるつながりと、彼らが今ふたたび防衛産業と距離を詰め始めた理由、世界的に見られる軍用と民生用の垣根を超えたクルマの歴史を、大矢アキオが解説する。
-
第973回:静かになりすぎたクルマと「聴かせて、聴かせて隊」に思うこと 2026.8.6 最近イタリアでよく見かけるという、道行くスポーツカーやスーパーカーのドライバーに、豪快なエキゾーストサウンドをせがむ若者の姿。彼らの存在は静かになりすぎた四輪車に対するアンチテーゼか? 現地在住の大矢アキオが考察する。
-
第972回:黒船来襲も! イタリア自動車販売店は戦国時代 2026.7.30 イタリアで急速に進む、自動車販売店の統廃合と巨大グループの伸長。その背景にはどんな理由があり、私たちにどんな変化をもたらすのか? 現地在住の大矢アキオが、変わりゆく自動車販売のあり方を考察するとともに、消えゆく街かど自動車文化に思いをはせた。
-
NEW
第348回:これでスーパーカーは完全に終わった!
2026.11.3カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。イーロン・マスクが宇宙ロケット技術をクルマに応用し空飛ぶクルマ「テスラ・ロードスター」を発表した。スラスターで姿勢を制御しつつ“飛行”する様子には度肝を抜かれ、「これでスーパーカーは完全に終わった」と思った。 -
NEW
多田さんが「わかってるね!」と感じるクルマの特徴は?
2026.11.3あの多田哲哉のクルマQ&Aトヨタでさまざまなクルマを開発してきた多田哲哉さんが、新型車に試乗して「このクルマの開発者はよくわかっているなぁ」と感じるのはどんな時か? “出来の違い”が出るポイントについて聞いてみた。 -
NEW
BYD ATTO 3 EX AWD(4WD)【試乗記】
2026.11.3試乗記BYDの「ATTO 3」がビッグマイナーチェンジで「ATTO 3 EX」に進化。EXは「EXTEND」「EXPLORE」「EXPERIENCE」を示すとのことだが、それはともかく、前輪駆動から後輪駆動に変わり、パワーも大幅にアップするなど、電気自動車(BEV)としての基本構造がまるで別物になっている。新たに追加された4WDモデルを試す。 -
いま軽自動車を選ぶなら、エンジン車とEVのどちらが得か? リアルな数値でコスパを比較・検証する
2026.11.2デイリーコラム海外ブランドまで参入するなど、近年活況をみせる軽EV。従来型の軽自動車と比べた場合の、コスト面の良しあしは? ホンダの2車種を例にとり、そのコストパフォーマンスを考えよう。 -
トヨタ・アクアGRスポーツ(FF/CVT)【試乗記】
2026.11.2試乗記「アクア」のビッグマイナーチェンジに遅れること10カ月。“最新のトヨタ顔”に変身したスポーツコンバージョンモデル「アクアGRスポーツ」が登場した。専用チューニングが施されたボディーや足まわりの仕上がりを、ワインディングロードに連れ出して確かめた。 -
ホンダ・スーパーONE(前編)
2026.11.1ミスター・スバル 辰己英治の目利き辰己英治さんが今回試すのは、ヤンチャないでたちの「ホンダ・スーパーONE」。軽規格の電気自動車(EV)「N-ONE e:」をベースに走りを鍛えた、電気で走るスポーツコンパクトだ。見た目にも楽しさがあふれる一台の魅力に、“ミスター・スバル”が迫る。





