ヤマハMT-07 ABS(6MT)
支持されるのにはワケがある 2021.07.22 試乗記 高い機能性と軽快に回るエンジンで人気を博す、ヤマハの中量級スポーツモデル「MT-07」がマイナーチェンジ。兄貴分「MT-09」ゆずりのスタイリングとなった改良型は、どのような進化を遂げたのか? サーキットで行われた試乗会から、その仕上がりを報告する。見た目はマッチョになったけれど
久しぶりにライディングしたヤマハMT-07は、2018年以来となる2度目のマイナーチェンジを受けていた。欧州や日本国内の排出ガス規制に適応するべくエンジンのマッピングを新しくしたほか、外装類やライディングポジションを改めるなど、変更点は多岐にわたる。しかし、その中身はいい意味で従来モデルのままであり、大いに安心した。
MT-07最大の特徴は、圧倒的な軽さだ。いまは1000cc以下のスポーツモデルが人気となり、各メーカーが個性的なマシンを投入している。人気の理由は車体の軽さと適度なパワー感にあるが、そのなかにあってもMT-07は、圧倒的に軽かった。ここで言う軽さとは、重量にみる数字的な軽さはもちろんのこと、見た目のコンパクトさや車体にまたがったときのスリムさ、そして車体を走らせたときのエンジンや車体の反応という、感覚的な“軽さ”も意味する。
そんなMT-07だが、今回のマイナーチェンジではデザインが大きく変更された。2021年モデルで全面刷新されたMT-09のスタイリングを、兄弟モデルとして共有したのだ。不思議なことにMT-07は、2014年のデビュー以降、常にMT-09と横並びで改良やモデルチェンジが発表され、ヤマハの新スタンダードモデル群であるMTシリーズを構築してきた。しかし、両者のスタイリングには今まで明確に“境界線”があった。それが、ここにきて取り払われたのだ。
LED技術を駆使したコンパクトなフロントフェイスはその象徴的なパートだ。2018年のマイナーチェンジでタンクの両サイドにレイアウトしたエアインテークを強調し、車体前まわりのボリューム感も強めた。それによってMT-09とのシンクロ率を高めていたのだが、今回のマイナーチェンジではさらにMT-09との類似性が増している。ゆえに試乗前には、「MT-09的なマッチョなボディーになっているのではないか。それによってMT-07的軽さが損なわれているんじゃないか」と想像していた。
しかし実際に走らせてみると、MT-07は特徴的な軽さが保たれていた。
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ユニークなエンジンに磨きをかける
MT-07に搭載される、ヤマハが「CP2」と称する270°クランクの並列2気筒エンジンは、不思議なトルク感にあふれている。通常、大排気量の2気筒エンジンといえば、ハーレーダビッドソンのVツインに代表されるドコドコとした鼓動感と、それと連動した力強いトルク感が想像される。しかしこのCP2エンジンは、ドコドコしない。感覚としては、スキップをしているような鼓動感が特徴だ。2つのシリンダーの爆発間隔が近く、そして次の爆発サイクルまで間隔が開くことから、スキップのような“トトッ、トトッ”というフィーリングになるのだ。
この不思議なリズムによる、4気筒エンジンの猛烈にダッシュするような感覚とも、単気筒エンジンの歩くような感覚とも異なる軽快な加速感こそが、ヤマハがつくり上げたCP2=クロスプレーンコンセプトの2気筒エンジンの特徴であり、またMT-07の最大の特徴でもあるのだ。
ヤマハは2014年にデビューした初代MT-07で、このエンジンフィールをつくり上げた。今回発表した改良型MT-07では、冒頭で触れた通り欧州と日本の厳しい排ガス規制に適合させるとともに、その軽やかなフィーリングを高めるため、アクセルの微少開時のエンジンレスポンスをさらにつくり込んでいる。通常、2気筒エンジンで回転数が落ち込んでから再加速を試みると、独特のギクシャク感が生じる。今回のCP2エンジンではそこを煮詰め、ギクシャクの少ない柔らかなフィーリングを強めた。この柔らかさはペースを上げてのスポーツ走行でも効いてくる。コーナーからの立ち上がりでリアタイヤが路面を捉える感覚が分かりやすく、安心して加速していけるのだ。
そもそもCP2エンジンのもととなるクロスプレーンコンセプトとは、エンジン内で上下運動または回転運動するパーツの慣性トルクを少なくし、燃焼によって生まれるトルクだけを効率よく引き出すエンジンの設計思想だ。それを実現することで、シリンダー内の爆発とリアタイヤが路面をつかむ感覚をクリアなものとし、アクセルを開けやすくすることでバイクを操る感覚を最大化しようというものだ。
この並列2気筒エンジンでも、クロスプレーン型クランクシャフトを採用した「YZF-R1」の並列4気筒エンジンや、MT-09の並列3気筒エンジンのように、シリンダー内で上下するピストンのタイミングをずらすことで慣性トルクを打ち消している。理論的にそれをゼロにはできないが、CP2エンジンでは270°クランクを採用することでクランク内圧の上昇も抑えるなどして、よりクリアなトルクを生み出しているのだ。
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豊富なバリエーションに見る「CP2」の底力
また、MT-07にはライダーをサポートする電子制御デバイスがほとんど採用されていない。すなわち、ライダーの入力のみに車体が反応するピュアスポーツモデルである。もちろんこれは、「コストを抑えてより多くのライダーにアプローチする」というヤマハの販売戦略によるものなのだが、結果としてMT-07のキャラクターは、お手ごろ価格の中量級モデルという枠に収まるものではなくなった。逆に、軽量・コンパクトでスリムなボディーに個性的なエンジンを搭載したスポーツバイクとして、デバイスの介在なしにバイクと向き合える玄人好みの一台として、酸いも甘いもかみ分けたベテランにも支持されているのだ。全世界で累計12万超という販売台数は、このバイクが幅広い層に受け入れられていることの証しだろう。
また「XSR700」や「トレーサー700/トレーサー7」、そして「テネレ700」と、車両骨格やCP2エンジンを共用するモデルが次々に登場。欧米ではスーパースポーツ「YZF-R7」も販売されている(日本導入は2021年冬以降の予定)。またアメリカでは、このエンジンを搭載したマシンがAFT(アメリカンフラットトラック)の最高峰クラスであるスーパーツインで勝利を挙げた。これだけ幅広いキャラクターのマシンを、いずれも高いパフォーマンスで実現していることもまた、CP2の持つ地力の強さの表れだろう。それを堪能するのに、MT-07ほど最適な車体はない。なにせすべては、MT-07の開発から始まったのだから。
この、レースとは異なる土壌から産まれたライトウェイトスポーツモデルに乗れば、スポーツバイクのイメージが大きく変わるに違いない。MT-07には、そんな不思議なパワーが備わっている。
(文=河野正士/写真=荒川正幸/編集=堀田剛資)
【スペック】
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=2085×780×1105mm
ホイールベース:1400mm
シート高:805mm
重量:184kg
エンジン:688cc 水冷4ストローク直列2気筒DOHC 4バルブ
最高出力:73PS(54kW)/8750rpm
最大トルク:67N・m(6.8kgf・m)/6500rpm
トランスミッション:6段MT
燃費:24.6km/リッター(WMTCモード)/40.0km/リッター(国土交通省届出値)
価格:81万4000円

河野 正士
フリーランスライター。二輪専門誌の編集部において編集スタッフとして従事した後、フリーランスに。ファッション誌や情報誌などで編集者およびライターとして記事製作を行いながら、さまざまな二輪専門誌にも記事製作および契約編集スタッフとして携わる。海外モーターサイクルショーやカスタムバイク取材にも出掛け、世界の二輪市場もウオッチしている。
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