第235回:父の教え“チャージャーは永遠”を信じる兄弟が激突!
『ワイルド・スピード ジェットブレイク』
2021.08.05
読んでますカー、観てますカー
ついにクルマで宇宙へ
コロナ禍で延期になっていたシリーズ最新作『ワイルド・スピード ジェットブレイク』が、1年遅れでようやく公開される。前作の『ICE BREAK』が2017年だったから、すいぶんお久しぶりだ。第1作から数えると20年。ローコストのマニアックな作品から、アクション超大作へと成長した。全世界累計興行収入は5500億円超え。登場したクルマは1万2000台、うち2500台が破壊されたという。SDGsなんて言葉が生まれる前に誕生し、今もその世界観を貫いている。
キャッチコピーは、“空をブチ抜け”。どういう意味かと思ったら、そのままだった。ロケットエンジンを搭載した1984年型の「ポンティアック・フィエロ」が空をブチ抜く、つまり宇宙に行くのだ。リアリティーはハナから放棄しているということだろう。お気楽スパイ映画の『007 ムーンレイカー』ですら、ボンドが「アストンマーティンDB5」で宇宙に向かったりはしなかった。
何でもありというのがこのシリーズの原理であり、矛盾を恐れない展開が持ち味である。だから、第6作の『EURO MISSION』で凄絶(せいぜつ)な死を遂げたハン(サン・カン)が今作で再登場しても驚いてはいけない。主人公ドム(ヴィン・ディーゼル)の妻レティ(ミシェル・ロドリゲス)だって、第4作の『MAX』で一度死んでいた。
第1作ではパナソニックのDVDプレーヤーを積んだトラックを襲う強盗だったドムだが、今では国際的な犯罪に立ち向かうチームを率いている。サイバーテロリストとの戦いに勝利してからは妻と息子との穏やかな田舎暮らし。しかし、かつての仲間から新たなミッションが持ち込まれる。前回の敵だったサイファー(シャーリーズ・セロン)を護送していた飛行機が墜落し、同時に運ばれていたデジタルデバイスのアリエスを回収するのだ。もちろん、そのデバイスは、世界を征服する力を持っている。
山岳地帯でもSUVには乗らない
飛行機が墜落したのは、南米の山岳地帯。石がゴロゴロ転がっていて、まわりはジャングルである。仲間は悪路に強い「ジープ・グラディエーター」で現場に向かうが、ドムはSUVなんて選ばない。最新型「ダッジ・チャージャー」でさっそうと走っていく。オフロードには向かないのではないか、などと言うのはヤボというものだ。前作では1968年型のチャージャーでアイスランドの氷上を激走し、原子力潜水艦を撃破した。
アリエス回収に成功したものの、突然現れた武装集団に襲われる。せっかく手に入れたデジタルデバイスを奪ったのは、「フォード・マスタング」に乗った男。ドムは顔を見て彼が弟のジェイコブだということに気づく。30年ぶりに再会した2人は、すぐさまカーチェイス。デコボコ道をサイドバイサイドで駆け抜けていく。SUVや軍用車に乗っている連中は置きざりだ。“どんな状況でもセダンとクーペが最強”というのが、このシリーズでは揺るぎない原理なのである。
ジェイコブを演じるのは、ジョン・シナ。WWEの人気プロレスラーである。ホブス役のドウェイン・ジョンソンがまだヴィン・ディーゼルと仲直りしていないようで、代わりのプロレス枠メンバーとなった。弟がいたなんてこれまでまったく触れられていなかったが、ケンカ別れしていたのだから仕方がない。
今回は、ドムがストリートレーサーとなるまでの経緯が描かれる。1989年、父親がレースでクラッシュ炎上して死亡。その経緯をめぐって兄弟は関係を絶った。アリエスで世界征服をたくらむ悪の組織からの誘いに乗ったのはジェイコブがドムを憎んでいたから。意趣返しする絶好の機会が訪れたのだ。
仲たがいしていても2人は似たような考えを持っている。父の言葉が体に染み込んでいるのだ。「チャージャーは永遠」という教えである。具体的な説明として、「1970年型チャージャーはメンテナンスさえしていれば100年走る」と語った。自動車の電動化が進んでも、彼らにとってはV8こそが正義なのだ。今回はシリーズ史上最強のチャージャーが登場。後席があるはずの場所にエンジンが鎮座している。1億円かけて改造したというミドシップ・チャージャーだ。
超強力磁石でクルマが横転
ジェイコブが現れたことを知り、ミア(ジョーダナ・ブリュースター)もチームに合流する。平和な暮らしを送っていたが、兄弟の危機とあっては黙っていられない。夫のブライアンは、家で子守をしているとのこと。ポール・ウォーカーは、もう帰ってこないのだ。
レティとミアは、ハンの消息を調査するために東京へ。訪れたのは飲食店が並ぶ繁華街だ。2人は町中華の店に入ってラーメンを食べながらホッピーを飲む。通好みのセレクトだが、残念なことにホッピーをビンからジカ飲み。これではただのビール味ノンアル飲料である。お店の人に「ナカください!」と言えば氷と甲類焼酎が入ったグラスが出てくることを誰か教えてあげてほしい。
『ワイルド・スピード』のウリは、常軌を逸したカーアクションである。最初は改造車がストリートで速さを競うだけだったが、次第にエスカレート。『MEGA MAX』では巨大金庫を振り回しながら爆走し、『EURO MISSION』ではクルマをはね飛ばす“フリップカー”とイギリス軍の戦車が登場。『SKY MISSION』では「ライカン・ハイパースポーツ」がアブダビの空を飛んだ。そして前回の対潜水艦バトル。ネタ切れになりそうなものだが、突拍子もないギミックを仕込んできた。超強力な磁石のオンオフで、クルマをくっつけたり横転させたりする。
前作ではビルの上から大量のクルマが振ってきたから、それを上回る派手さを演出する必要があったのだろう。磁石カー以外のクルマも負けてはいない。ジープは爆破された橋の上を渡っていき、完全に崩壊したあとに残されたワイヤーを引っ掛けてチャージャーが崖をひとっ飛び。あまりに非現実的なシーンが続いて気が引けたのか、登場人物に「俺たちが無傷なのは、運がよかっただけじゃないのか……」と何度も言わせていた。
カーアクションのインフレーションは、そろそろ限界かもしれない。刺激だけを求めて子供っぽくなってしまうのは困る。『ワイルド・スピード』は、“家族の絆”をめぐる物語でもあるのだ。そこは制作陣もわかっている。うれしいことに、あの青い「日産スカイラインGT-R」が登場するのだ。古くからのファンは落涙必至である。
(文=鈴木真人)

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
-
第290回:商用バンで砂漠を行く親子が向かうのは天国か地獄か
『シラート』NEW 2026.6.4 失踪した娘を探して親子はモロッコの砂漠へ。砂漠で開催されていたレイブパーティーが最高潮に達した頃、軍隊がやってきて中止させられる。親子が乗るFFの商用バンは次のパーティー会場にたどり着けるのか……。 -
第289回:最強の格闘家は破壊されるクルマに自分を重ねた
『スマッシング・マシーン』 2026.5.14 ドウェイン・ジョンソンが映画化を熱望した伝説の格闘家マーク・ケアーの栄光と没落の人生を描く。東京ドームで行われた総合格闘技イベント、PRIDEグランプリ2000を完全再現! -
第288回:自称詩人は中古車で自由を表現する?
『自然は君に何を語るのか』 2026.3.20 「月刊ホン・サンス」第5弾は『自然は君に何を語るのか』。恋人の両親に初めて会う自称詩人は、気まずい空気の中で次第に感情を抑制できなくなっていく。「キア・プライド」が小道具としていい味! -
第287回:宝石を盗んで西海岸のハイウェイを駆け抜けろ!
『クライム101』 2026.2.12 ハイウェイ101で発生する宝石盗難事件はいつも迷宮入り。「ダッジ・チャレンジャー」で素早く逃走する犯人の犯罪心得は、殺さず、傷つけず、証拠を残さないこと。泥棒、刑事、保険ブローカーが華麗なる頭脳戦を繰り広げる! -
第286回:才人監督が描くディストピアのデスゲーム
『ランニング・マン』 2026.1.29 「アルピーヌA290」で追っ手のハンターから逃げ延びろ! スティーブン・キングが50年前に予見した未来は、まさに現在の状況そのもの。分断とフェイクが支配する現実を鋭くえぐった最新型デスゲーム映画。
-
NEW
レクサスES350h(FF/CVT)/ES350e(FWD)/ES500e(4WD)【海外試乗記】
2026.6.3試乗記「レクサスES」がフルモデルチェンジ。シャシーがFFベースというのは歴代モデルと同じだが、新型ではボディーサイズがググッと拡大。「LS」の6輪ミニバンコンセプトが登場したこともあり、今後のレクサスセダンの総代を担うことになる。北米で乗った印象をリポートする。 -
NEW
ミドシップ化で運動性能はどう変わる? 「GRヤリスMコンセプト」の現時点での完成度を体感
2026.6.3デイリーコラム「GRヤリス」をベースとしたミドシップ4WDとして市販化を目指す「GRヤリスMコンセプト」。現在もスーパー耐久に投入されるなどして鍛えられているが、その開発車両をドライブできた。普通のGRヤリスとの運動性能の違いや、新開発エンジンの印象などをリポートする。 -
NEW
第115回:メイク・アメリカ・グレート・アゲイン!(後編) ―デザインもサイズも規格外! 魅惑のアメリカ車はなぜ“主役”になれないのか?―
2026.6.3カーデザイン曼荼羅トヨタ&ホンダが発表した、米国生産車の日本導入計画。しかしアメリカには、規格外に面白いクルマがまだたくさんあるのだ! カーデザインの識者とともに魅惑の日本“未”導入車を探すとともに、魅力的なアメリカ車が、それでも主役になれない理由を考えた。 -
どうしてピアノブラックの内装材は多用されるのか?
2026.6.2あの多田哲哉のクルマQ&Aよく目にするピアノブラックの内装材は、「キズや脂汚れが目立つ」などネガティブな評価もしばしば。それでも多用されているのはなぜか? 車両開発者の多田哲哉さんに聞いてみた。 -
BSAゴールドスター650(5MT)【レビュー】
2026.6.2試乗記かつて一世を風靡(ふうび)した英国の名門、BSAが復活! 新生第1号モデルである「ゴールドスター650」は、クラシックで優雅なお散歩バイク……と思いきや、ツインカムの大排気量シングルで、ライディングも前のめりに楽しめるマシンに仕上がっていた。 -
レストモッドがイメージ 特別なオニツカタイガーの魅力に迫る
2026.6.1オニツカタイガーの新作ドライビングシューズを知る<AD>オニツカタイガーが、“レストモッド”と呼ばれるクルマのレストア&カスタム手法に着想を得たドライビングシューズを発表。4タイプ製作された、「MEXICO 66 DRIVING」のスペシャルバージョンの魅力に迫る。













