スマート・フォーツーカブリオmhd(RR/5AT)【試乗記】
懐かしさと先進性 2011.03.15 試乗記 スマート・フォーツーカブリオmhd(RR/5AT)……229万8000円
内外装を小変更、燃費もアップの「スマート・フォーツー」。冬晴れの箱根で、オープンモデルに試乗した。
人はスマートに歩み寄った?
運転席から前を見ようとするのだが、なんだか見にくい。ルームミラーが微妙な位置にあって、邪魔をするのだ。しばらくすると、ああ「スマート」だ、と感覚が蘇ってきた。久しぶりなので忘れていたけれど、良くも悪くもこういうクルマなのだ。素晴らしいコンセプトで作られたクルマだからこそ、さまざまな割り切りがある。少々我慢を強いられることもあるが、それを克服していくことが未来への対応である。そんな気分にさせられるクルマだったのだ。
登場したときの異物感は、さすがにかなり薄まっている。内装のポップさが消えたのはずいぶん前だが、今回のフェイスリフトで外装もノーマル化が進んだ。バンパーなどが同色に塗られることで、さらに普通度はアップ。10年前にはまずエクステリアデザインにたじろぎ、急いで中に入るとさらにファニーな内装が目を射たのだった。今では、街中でも風景から浮くことはない。スマートが変化しただけでなく、人もポップなデザインに歩み寄ったのだろう。
運転感覚は、まごうことなきスマートである。3気筒1リッターエンジンは低回転からそこそこのトルクを生み出してくれるのだが、トランスミッションの扱いづらさはさほど改善されたとはいえない。ATモードでスムーズに運転するには、熟練の技を要する。デザインと違って、この感覚に関しては人の側から歩み寄るのは難しいのかもしれない。
今回乗ったクルマにはパドルシフトが付いていたため、マニュアルモードでの運転は慣れるに従って楽しめるようになっていった。これは本革シートとシートヒーターと組み合わされたパッケージオプションで、クーペモデルでは選ぶことができない。
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右車線でも「ECO」走行
箱根へと向かう首都高速3号線で、さっそく短いホイールベースの悲哀を味わうことになる。連続する継ぎ目を越えるたびに、けっしてマイルドとは言いがたい突き上げをくらうのだ。とはいえ、ピッチングはすぐに収まるし、直進性に問題はない。思えば、最初期はフロントに板バネが使われていた。あの時の落ち着きのなさから比べれば、ずいぶん大人になった。
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クルージングに入れば、だんだん美質が見えてくる。急加速にはついていけないものの、いったんスピードに乗ればしっかりと路面をとらえた走りが頼もしい。右車線をキープしていても、メーターのインジケーターは常に「ECO」を示しているのが確かめられる。高速での燃費を重視した設定になっているのだろう。
高速を降りて、ルーフを開けることにした。トップだけをオープンにするのとリアまで下げてしまうのと、2つのモードが選べて、走行中でもスイッチひとつで開閉できる。でも、せっかくなのでルーフフレームも取り去ってフルオープンにした。これはもちろん手で行うのだが、大きな力はいらず、難しい作業ではない。外したフレームはテールゲートの裏側にぴったり収納できるようになっている。
ニッチな楽しさ
試乗したのは2月でまだ気温は低かったものの、気持ちのいい冬晴れだった。絶好のオープン日和である。ATモードでは上りで1段高いギアを選んでしまってギクシャクするので、パドルで2速3速を使い分けながら走る。たいしたパワーがあるわけでもなく、限界ギリギリまでコーナーを攻めるというような振る舞いはしない。ルーフレールを外しているから、ボディ剛性だってあまり芳しくない状態なのだ。あくまでちょっと飛ばす程度で流すのが、このクルマには合っている。それが、心地良い。
窓を開けなければそれほど風を巻き込むことはないが、やはりシートヒーターはありがたい装備だ。そして、山道ではパドルシフトがぜひ欲しい。前述のとおり、この二つはパッケージオプションである。そして、カブリオのみに選択が許される。ということは、山道を楽しみたくてスマートを買うのなら、レザーパッケージオプション付きのカブリオを選ぶべし、という結論になる。ずいぶんニッチな選択肢ではあるが。
今回の変更点は、デザインのほかに燃費性能の向上がある。23.5km/リッターとわずか0.5km/リッターの変化だし、この数字では国産コンパクトカーに勝てない。「マイクロ・ハイブリッド・ドライブ」と称するアイドリングストップシステムも、「トヨタ・ヴィッツ」や「日産セレナ」の最先端システムを体験した後では、ブルンと身を震わせる仕草がいかにも無骨に感じられる。
でも、汎用の製品にはない濃い味がこのクルマには残っている。冒頭に記したように、素晴らしいコンセプトと割り切りが同居しているのがこのクルマなのだ。今や懐かしい風情さえ漂わせているけれど、世界に先駆けて「先進」を示したのはスマートだった。
(文=鈴木真人/写真=高橋信宏)

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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