第667回:自動車史にさんぜんと輝く真の“ヴィンテージカー”5選
2021.12.13 エディターから一言 拡大 |
自他ともに認める偏屈者の筆者が近ごろ気になっているのは、自動車界で「ヴィンテージ」という言葉が乱用されていること。そう、クラシックなクルマがひとくくりでヴィンテージカーと呼ばれている現状には、どうにも違和感を禁じ得ない。では、本来の意味でのヴィンテージカーとはいかなるものなのか?
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英国の自動車クラブが発祥
現在、古いクルマを指して呼ぶ言葉が乱立するあまり、その違いが分かりにくくなっているのは間違いのないところである。しかし、自由勝手に呼ばれている感のあるこれらの用語についても、実は厳密な年代別基準が存在するのだ。
現在のクラシックカー界において、事実上のグローバルスタンダードとなっているのが、イギリスに端を発する区分け法。1934年に創立され、世界で最も権威の高い自動車クラブと称される「ヴィンテージスポーツカークラブ(VSCC)」が、その創立に際して最も輝かしきスポーツカーが生み出された時期を1919年~1930年までと規定し、ワインの年代を示す用語から「ヴィンテージ」と名づけたのが発端とされている。
それは自動車、特にスポーツカーにとって初めての黄金時代となったヴィンテージ期に、ヨーロッパ各国で魅力あふれるスポーツカーが続々と現れたからこそのことだろう。
したがって、VSCCが定義するヴィンテージの称号は、年代の合致するすべてのクルマに与えられるのではなく、あくまで優れたスポーツカーが対象。この概念の起源であるワインになぞらえて、かなり厳しい審査が行われていたという。
それでは本来の意味でのヴィンテージカーと呼べる、1920年代の代表的な5モデルを順に紹介しよう。
W.O.時代のベントレー
ヴィンテージカーという呼び名の発祥の地であるイギリスを代表するヴィンテージカーといえば、開祖W.O.ベントレーが自ら設計を手がけた時代のベントレーだろう。
第1作の「3リッター」から「6 1/2リッター」、最高傑作と称される「4 1/2リッター」、そして、4 1/2リッターのスーパーチャージャー版「ブロワー」に至る、スパルタンかつ骨太なスポーツカーは冒険家志向の強い、エンスージアストの憧れの的となった。
あらゆる場面でブガッティの宿敵と称された、開祖W.O.時代のベントレー。かの「ベントレーボーイズ」とともに、創成期のルマン24時間レースで5勝を獲得したパフォーマンスや、ルマンではついにベントレーに勝てなかったエットレー・ブガッティをして「ムッシュ・ベントレーは世界一速いトラックをつくった」などという負け惜しみを言わしめた雄々しく野趣あふれるスタイルは、まさにヴィンテージの象徴といえるだろう。
1919年に初めて試作・発表され、1930年までつくられたこの時期のベントレーを想定して、VSCCは「ヴィンテージ」という区分けを行ったとさえ考えられてしまうのだ。
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フランス代表は「ブガッティT35/T37」
ヴィンテージスポーツカーのフランス代表は、伝説の美しきレーシングカー「ブガッティT35」とその普及版たる「T37」だ。
ともに「グランプリブガッティ」と呼ばれるが、特に直列8気筒SOHCエンジンを搭載するT35は、その名のとおり第1回モナコGPをはじめとするグランプリレースや、タルガフローリオなどのスポーツカーレースにおいておびただしい勝利を挙げている。
また4気筒のT37も、スポーツカーレースで大排気量車、時にはT35にも打ち勝つ速さをみせたことから、モータースポーツ史上に冠たる名作と称される。
そして基本的なプロポーションからディテールに至るまで、徹底した美のこだわりを追求した生来のアーティスト、エットレー・ブガッティが、この名作たちを擁して自動車に「機能美」という概念を初めてもたらしたことから、後の世のカーデザインに多大な影響を与えることにもなった。
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イタリアの芸術「アルファ・ロメオ6C 1500/1750」
1926年に発表された「アルファ・ロメオ6C 1500」シリーズと後継の「6C 1750」シリーズは、当時最新・最強のグランプリレースカーの技術をぜいたくに投入する一方、ザガートやトゥーリングなどの名門カロッツェリアによる美を極めたスタイルから、イタリアン・ヴィンテージスポーツの最高傑作と称されるモデル。
巨匠ヴィットリオ・ヤーノ技師の出世作としても知られるこの名車は、1.5リッターないしは1.75リッターという小排気量ながら、当時の市販車としては先進的な直列6気筒SOHCユニットを搭載するほか、走行性能やハンドリングとも極めて優れていた。
またレースカー直系のDOHCヘッドが与えられた高性能版「スポルト」や、市販車としては世界初の実用例となるスーパーチャージャーを組み合わせた「スーペルスポルト」ないしは「グランスポルト」も設定され、「ミッレミリア」や「アルスターTT」をはじめとするロードレースで総合優勝を果たすなど、素晴らしい活躍をみせた。
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ドイツの絶対王者「メルセデス・ベンツ710 SS/SSK」
まだポルシェというブランドは誕生しておらず、BMWもオリジナル設計モデルを持っていなかったヴィンテージ時代。唯一世界的覇権を狙えるドイツ製スポーツカーは「メルセデス・ベンツSヴァーゲン」の「670 S」から「710 SS」、そして「710 SSK」に至る一連の超高性能モデルだった。
当時ダイムラー・ベンツ社の主任設計者であったフェルディナント・ポルシェ博士は、かねて手がけていた機械式過給機を採用する「Kヴァーゲン」と呼ばれた大型高級ツーリングカー「630」をベースに、モータースポーツでも活躍できるスポーツカーを開発。その車両は1927年に670 Sとして登場する。
翌1928年には、直列6気筒SOHC+スーパーチャージャー付きエンジンの排気量を6.7リッターから7.1リッターに拡大した710 SSも追加。また、この時代のヨーロッパで人気の高かったヒルクライムレースでの覇権を期して、710 SSのホイールベースを短縮した710 SSKも設定される。
さらにSSKのシャシー各部に軽量孔をうがち、300PSまでパワーアップした「SSKL」は、1931年のミッレミリアで総合優勝を果たすなど、ドイツを代表するヴィンテージスポーツであると同時に世界最速のスーパースポーツでもあったのだ。
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英国の偉大なるスポーツカー「オースチン・セブン」
ここまでに登場したヴィンテージカーはいずれも生粋のスポーツモデルであるとともに、当時としても超高級車だったのだが、最後にご紹介する「オースチン・セブン」は、デビューイヤーにあたる1922年当時のヨーロッパにおいて購入できるまっとうな四輪乗用車のなかでは、最も安価なモデルのひとつであった。
しかし、二輪モーターサイクルをそのまま四輪化したような、いわゆるサイクルカーではなく、小さいながらも本格的なシャシーとメカニズムを持っていたことから、軽量なボディーを乗せた「アルスター」や「ニッピィ」などのスポーツモデルは、750cc足らずの水冷直列4気筒サイドバルブエンジンに精いっぱいのチューニングを施し、いっぱしのスポーツカーとして愛好された。
また、コーリン・チャップマンなどのエンジニアや、スターリング・モスに代表されるドライバーのほとんどが、一度はセブンとともにレースを行い、セブンの改造のをきっかけに、独自のレーシングカーを開発する道筋を得ることになった。
その意味においても、オースチン・セブンは偉大なヴィンテージカーといえるのである。
(文=武田公実/写真=武田公実、VSCC、Newspress、ダイムラー、RM Sotheby's/編集=櫻井健一)

武田 公実
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