スバル・ソルテラ プロトタイプ(4WD)
イノベーションの予感 2022.03.09 試乗記 スバルの新しい電気自動車(BEV)「ソルテラ」が構成パーツの多くを「トヨタbZ4X」と共有するのは既報のとおりだが、豪雪地帯に持ち込んで味わえたのは、やはりスバルならではのトラクション能力だった。協業の成果によって新しい世界が始まろうとしている。銀世界での初対面
ラテン語で太陽を意味する「sol」と、地球や大地を意味する「terra」。スバルの新しいBEVソルテラの名はその2つを組み合わせたものだ。恐らくスバルが登録する商標のなかでも最強クラスに近いだろう、その力んだ命名の向こうにはスバルがBEVに込めるさまざまな思いや期待がみてとれる。
その意気込みは、初めて実車に触れることになった場所にも込められていた。みなかみ町にある群馬サイクルスポーツセンター……といえば走り好きのクルマ好きには「群サイ」の通称で知られているだろう。
が、2月のそこは一面の銀世界、特に今年は除雪も追いつかないほどぼうぼうの大雪だったという。それでなくても寒さに弱いといわれるBEVをこんな場所に持ち込んだ理由は、スバルがソルテラで売りにする悪環境での走りをぜひ体験してほしいという思惑がある。
既報のとおり、ソルテラはトヨタの「bZ4X」と多くのアーキテクチャーを共有する。例えばエクステリアは灯火類やフロントバンパーグリル、リアゲートの樹脂パネルなどによってイメージを違えているが、ボンネットやフェンダー、ドアパネルなどの金物は両車同じ。内装もシートヒーターの作動範囲やオーディオの銘柄など装備面の微差はあれど、基本意匠や構成は共通している。電子アーキテクチャーも統一されているため、インフォテインメントの側もトヨタのソリューションを活用するかたちだ。
互いの得意領域を持ち寄る
このクルマの核となるe-TNGA思想に基づいたBEV専用車台はトヨタのZEVファクトリーにスバルのエンジニアが出向するかたちで開発されている。そこで大きくスバルの知見が生かされたのがBEVならではのモジュール化と衝突安全基準達成を両立するフレームワークの構築や、BEVの長所を引き出す駆動制御の実現だ。
特にBEVは床一面をバッテリースペースとして用いるため、衝撃吸収の核となるレインフォースを前後に通貫させる構造が採りにくい。当然バッテリーユニットは絶対につぶせないため、今までとは異なるマルチロードパスを構築する必要がある。拡張性にも配慮しなければならないなか、スバルの財産であるパッシブセーフティーにまつわるノウハウが大きく寄与したことは容易に想像できる。
一方、トヨタの側は電力分配や充電などをつかさどる「エレクトリシティーサプライユニット(ESU)」の構築やバッテリーマネジメント、輻射ヒーターなど新たなアイテムを用いての省電費技術などに長年の蓄積がある。互いの得意領域を生かしながら協調領域は乗り合うという取捨選択を重ねて開発速度を高めたというわけだ。そのプロセスは「GR86/スバルBRZ」の経験を経てより洗練されたようにうかがえる。
というわけで、ソルテラに乗り込んでみての印象に、bZ4Xとの違いはない。ヒール~ヒップ間の位置決めに違和感の残る後席環境もそのままだ。そのうえ、Bピラーとつながりながら側突時のエネルギー分散に寄与するレインフォースがつま先の入りの悪さに結び付いているわけだが、そのレインフォースはフットレスト的な角度で足置きできるように断面形状を工夫しているという情報をエンジニアから得た。早速確認してみると、確かに足裏に当たる面がならされているものの、前席のドラポジを前寄りにしなければ狙いどおりの自然な着座感には至らなさそうだ。
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すさまじい縦グリップ能力
これを解消するためには後席の座面高と室内高を高める必要があるが、一方で高速巡航時の電費のためには前面投影面積を小さく、つまりキャビンを天地に小さくしたいというジレンマも抱えることになる。そこに加えてスバルがBEVをつくるうえで譲れないのが悪路走破性に大きく関わる最低地上高だ。上から抑えられ下から突き上げられ……と、がんじがらめのなかでひねり出されたパッケージは、やはり理想的とは言い難い。
それにしても210mmの最低地上高はさすがにやり過ぎでは……といぶかしがったわけだが、ソルテラで深い雪道を走り始めるとそのこだわりの意味がしかと伝わってきた。
普通に低ミュー路に臨む感覚でアクセルをそろっと踏み込むぶんには4輪が路面をしっかとつかまえ、なにかが起こる気配はみじんもない。そこでグリップ感覚をつかむためにあえてアクセルの踏み込みを強めていくが、それでもソルテラは取り乱すことなく駆動力を余さず加速につなげていく。ついには7~8割くらいの開度でぐいぐいアクセルを踏み込むとようやくトラクションコントロールが介入するが、その作動感も至って滑らかだ。
ともあれ縦方向のグリップ能力はすさまじく、今まで慣れ親しんだクルマの常識とはかけ離れていると言っても過言ではない。重心高や重量配分などの利もさることながら、やはり効いているのはモーターならではの高精度・高応答性を生かした制御の巧みさだ。駆動伝達という枠内でみれば、文字どおりアナログからデジタルに置き換えられたかのような解像度やシャープネスが得られるという証左なのだろう。
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“当然”を変えていく
問題はこの縦方向の食いつきに慣れたその感覚で横方向に臨んでしまうとヤケドしてしまうということだ。つまり目の覚めるようなトラクションは曲がりの側にもそのまんま反映されるわけではない。そこも前後の駆動配分等でカバーしているとはいえ、さすがに真っすぐ走る際のような感覚では外にはらんでいくことになる。低ミュー路環境ではことのほか、走ると曲がるのコントラストを補正する自制心が求められるというわけだ。
もっとも、そういった不安定な路面を法外なスピードで飛んでいくのは競技的な話になるわけで、一般のドライバーにとってはクルマを楽にコントロールできるという点が今までにないメリットとなる。今回は4WDのみの試乗となったが、恐らくFWDでも今までとはひと味違うグリップ能力の高さをみせてくれるだろう。
ソルテラはこの素性の良さを悪路の側にもしっかり引き出すべく、ドライブモード設定や電動パワステ、ダンパーのチューニングなどで独自化を図っているという。また、ステアリングにはパドルシフターを設けて回生ブレーキの詳密なコントロールを可能とした一方で、bZ4Xに用意されるステアリングバイワイヤを採用する予定は今のところないという。ここでも両社の狙いどころがクルマの差としてはっきり現れている。
まだその一端を垣間見ただけだが、ソルテラはこの未知のトラクション能力を武器に、悪路走行にまつわる“当然”を次々に刷新していくことになるだろう。bZ4Xもしかりだが、この2台の目指すところは車体をゆがめるほどのドッカン加速のような安直なことではなく、ドライビングダイナミクスそのもののイノベーションなのかもしれない。
(文=渡辺敏史/写真=郡大二郎/編集=藤沢 勝)
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テスト車のデータ
スバル・ソルテラ プロトタイプ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4690×1860×1650mm
ホイールベース:2850mm
車重:2020kg
駆動方式:4WD
フロントモーター:交流同期電動機
リアモーター:交流同期電動機
フロントモーター最高出力:109PS(80kW)
フロントモーター最大トルク:--N・m(--kgf・m)
リアモーター最高出力:109PS(80kW)
リアモーター最大トルク:--N・m(--kgf・m)
システム最高出力:218PS(160kW)
タイヤ:(前)235/50R20 104V XL/(後)235/50R20 104V XL(ブリヂストン・ブリザックDM-V3)
一充電最大走行可能距離:460km前後(WLTCモード)
価格:--万円/テスト車=--万円
オプション装備:--
テスト車の年式:--年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
消費電力量:--kWh
参考電力消費率:--km/kWh

渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
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