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第748回:自動車ユーザー受難のイタリア 「代用品」で乗り切ろう!?

2022.03.17 マッキナ あらモーダ! 大矢 アキオ
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ガソリンよりも高い軽油

2022年3月上旬、イタリア各地の給油所ではガソリン・軽油ともにリッターあたりの価格が2ユーロを軽く突破している。写真Aは、筆者が住むシエナ市内で安い部類のスタンドだが、ここでもすべての価格表示が2ユーロ台だ。

もうひとつ気になるのは、従来安かったはずの軽油の価格がガソリンのそれを超えてしまっていることである。軽油を非セルフで給油した場合、1リッターあたり2.26ユーロ(約290円)にまで跳ね上がる。

隣国スイスでは長年、環境保護の意図から軽油の価格が政策的に高く設定されてきたが、イタリアでは筆者の四半世紀にわたる在住経験上初めてのことである。この国の主要メディアは、軽油の精油能力が追いつかず、需給関係から必然的に価格が上昇していると説明する。

物流トラックの輸送量が急伸したという話は聞かないし、低燃費ガソリン車の普及でディーゼル乗用車のシェアが頭打ちになっていることを考えると、急激な軽油需要の上昇という説明には、にわかには納得し難い。

1973年の第4次中東戦争と石油危機、それが引き金となったトイレットペーパーの買い占め騒動を見れば分かるように、時間が経過しないと真実は判断できない。したがって現段階でこうした石油高騰を、昨今のロシア-ウクライナ情勢と即座に絡めて考えることは、南欧の一国からの視点でしか語れない筆者の知見では限界がある。

ただし、イタリア現代史からすれば、西側諸国の一員でありながら、第744回で記したように、東西冷戦時代にも旧ソビエト連邦政府との緊密な経済関係を築いていた国である。

そうしたイタリアの官民挙げてのしたたかさを知ると、今日の状況にもイタリアでは意外な展開があるのではないか、と想像してしまうのである。

【写真A】2022年3月10日にシエナの格安スタンドで。軽油の1リッターあたり価格はガソリンを上回り、非セルフだと2.26ユーロ(約290円)にもなってしまった。
【写真A】2022年3月10日にシエナの格安スタンドで。軽油の1リッターあたり価格はガソリンを上回り、非セルフだと2.26ユーロ(約290円)にもなってしまった。拡大

回す・ふさぐ・支える

さて、今回のお題は「代用品」である。

石油高騰にもかかわらず、イタリアで車検や自動車税、保険といったクルマにまつわる諸費用は変わらない。新型コロナ禍で一部車両に延期が適用されたのは車検くらいだった。

そうしたなかで、イタリアでのカーライフは、維持費に対する、よりシビアな意識を迫られることが予想される。

一台あたりの車齢に注目すると、2019年の段階でイタリアを走る乗用車の10台中6台が10年以上である(データ出典:UNRAE)。いつか、1950年代のアメリカ車があふれるキューバのようになってしまうのではないか、というのは想像をふくらませすぎかもしれない。だが以前からイタリアの自動車ユーザーを観察していると、ささいな故障にこだわらず、知恵と工夫を凝らした代用品で節約してしまおうという、気概が感じられるのも事実である。

その代表例は、走行28万kmの初代「ルノー・トゥインゴ」(写真B)に乗っていた知人のアンナマリアだ。ダッシュボードにペンチを常備しているので、なぜかと聞けば「空調のダイヤルが外れてしまったので、それで軸を回しているのよ」と教えてくれた。その模様は、本欄第569回でリポートしたとおりである。

いっぽう、ピアッジオ製三輪トラック「アペ」のオーナーなら、かなりの確率で実践している代用品がある。“フィラーキャップのキャップ”だ(写真C)。あるとき不思議に思って、持ち主の一人に聞いてみると、「雨が入らないようにだよ」と教えてくれた。同車の燃料注入口は上を向いているため、タンクに雨水が侵入しやすいのだ。そこで500cc入りのペットボトルを切断し、キャップの上にかぶせているのである。

かつて市内で頻繁に見かけた写真Dの「スズキ・ジムニー」にも工夫があった。社外品とみられる白いキャンバストップは、ややラフなつくりだった。だが、そのファストバック風の風情が、メーカー標準品よりもスタイリッシュに見えたものだ。ちなみにアマチュア感あふれるステッカーからも、オーナーのスズキ愛が感じられてほほ笑ましかった。

最近、駐車場で時折見かけるのは、後部ハッチの“つっかえ棒”である。要はテールゲートを支持するダンパーが劣化してしまい、開いた状態を維持できないため、適当な棒で支えているのである。写真Eはスーパーマーケットで目撃した7代目「スズキ・アルト」+つっかえ棒だ。角材ではなく、木の棒であるところが素朴さを増幅している。

そうこうしているうちに、筆者の14年落ち・走行15万km超のクルマにも代用品を探す必要が生じた。

【写真B】知人であるアンナマリアの初代「ルノー・トゥインゴ」は、空調ダイヤルが取れてしまったため、ペンチで回していた。
【写真B】知人であるアンナマリアの初代「ルノー・トゥインゴ」は、空調ダイヤルが取れてしまったため、ペンチで回していた。拡大
【写真C】ピアッジオ製「アペ」の燃料注入口(左ドアの直後)には、切断したペットボトルがかなりの確率でかぶせられている。
【写真C】ピアッジオ製「アペ」の燃料注入口(左ドアの直後)には、切断したペットボトルがかなりの確率でかぶせられている。拡大
かつて筆者が常連だった青果店の「アペ」にも、よく見るとペットボトルが。
かつて筆者が常連だった青果店の「アペ」にも、よく見るとペットボトルが。拡大
【写真D】いかしたホロの「スズキ・ジムニー」。2015年に撮影。
【写真D】いかしたホロの「スズキ・ジムニー」。2015年に撮影。拡大
【写真E】棒でテールゲートを支える「スズキ・アルト」。向こうには荷室用トレーが立てかけられている。2021年秋に撮影。
【写真E】棒でテールゲートを支える「スズキ・アルト」。向こうには荷室用トレーが立てかけられている。2021年秋に撮影。拡大

もう怖くない

メータークラスター内にあるデジタル時計の時間調整ができなくなったのである。本来であればメーカー装着ナビゲーションのディスプレイで操作可能なのだが、それが作動しなくなった。困ったのはサマータイム(夏時間)が終わったときのことだった。冬時間に戻せない。

後日、別件でクルマを修理に出したら、実際の時間よりもさらに進んでしまった。作業中にバッテリーを外したためだろう。それでも「ニューデリー時間」などと言いながら、頭の中で“時差調整”しながら使っていた。しかし、のちに別の修理を受けたため、実際の時刻とはさらに乖離(かいり)してしまった。

そうしたなか、2021年に取材した「ルノー4」のファンイベントで、ある女子チームのクルマのダッシュボードに時計が貼り付けられていたのを見た。日本で言うところの100均で売っているような薄いクオーツ式置き時計だ。

わが女房はそれを見るなり「いいアイデアだ」と絶賛した。後付けアクセサリーはメーカー純正しか許せない筆者としては断腸の思いであったが、日本の100円ショップに相当する、アジア系の人々が営む雑貨店をのぞいてみることにした。実際に探してみると、意外に難航した。当然ながら、マセラティのような金時計は望んでいなかった。それでも、ダッシュボードにしっくりくるシンプルなデザインの時計がないのだ。ようやく発見したのが、5ユーロ(約640円)で入手した写真Fの品であった。

筆者のクルマでこの時計を安全に貼れるスペースは、空調操作パネルの下が唯一である。間延びした書体と、時・分の間に点滅するスマイルマークが気になった。さらに、照明がないため、夜間は判読できないのが不便だ。

それでも子どものころに東京のわが家にあった「フォルクスワーゲン・タイプ1(ビートル)」には、微妙な温暖調節ができる機構などなかったし、トランクリッドを支えていたのはダンパーではなくスプリングだった。時計も付いていなかった。そう考えると、「走行や安全に直接関係ないパーツなら、これからも壊れても、節約した代用品でなんとかなるぜ」という元気が湧いてくる。そればかりか壊れた場合の修理代を考えると、タッチパネル式エアコンパネルやテールゲートのオートクロージャーにも興味が湧かなくなってくるのである。

しかしながら今回、デザインがましな100均風の時計ひとつ探すのに、筆者は60km以上も離れた街の雑貨店までたびたび物色しに行ってしまった。「このあたりで手を打たないと」という女房の介入がなければ、冒頭の石油高騰の折、走り回った燃料代が正規サービス工場の時計修理代を上回るという、本末転倒な結果になっていたかもしれない。

(文=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>/写真=Akio Lorenzo OYA/編集=藤沢 勝)

つっかえ棒文化は、イタリア生活のさまざまなシーンで見られる。これは、少し前に導入された認証カード式開閉装置付きダストボックスで。その使いにくさにしびれを切らした住民の仕業と思われる。
つっかえ棒文化は、イタリア生活のさまざまなシーンで見られる。これは、少し前に導入された認証カード式開閉装置付きダストボックスで。その使いにくさにしびれを切らした住民の仕業と思われる。拡大
【写真F】筆者がアジア系雑貨店で購入し、センターコンソールに貼り付けたデジタル時計。
【写真F】筆者がアジア系雑貨店で購入し、センターコンソールに貼り付けたデジタル時計。拡大
大矢 アキオ

大矢 アキオ

Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、24年間にわたってリポーターを務めている。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。

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