お買い得なのはどちら? 価格の近い「ヴォクシー」と「アルファード」を比べてみた
2022.04.06 デイリーコラム300万円台後半で価格が競合
今、最も注目されるミニバンはミドルサイズの「トヨタ・ヴォクシー/ノア」だ。ヴォクシーのボディーはエアロパーツを装着したタイプだけで、ノアには標準仕様も用意される。パワーユニットは、2リッター直列4気筒のノーマルガソリンエンジンと、1.8リッターのハイブリッドだ。
そして価格は、エアロパーツを装着するヴォクシーの場合、ノーマルエンジンを搭載する最上級の「S-Z」が339万円、ハイブリッドの「S-Z」は374万円になる(駆動方式はいずれも2WD)。ハイブリッドはノーマルエンジンに比べて35万円高いが、この価格差は少額の部類に入る。一般的にハイブリッドは、ノーマルエンジンよりも37万円~60万円高いからだ。
そしてヴォクシーの上級グレードの価格は、「アルファード」のベーシックなグレードと部分的に重複する。
アルファードの2.5リッター直列4気筒エンジンを搭載する「X」(8人乗りのみ)の価格は359万7000円、2.5リッターでエアロパーツを装着する「S」(7人乗り)は398万5000円だ。アルファードSの価格は、ヴォクシー ハイブリッドS-Zの4WDとなる396万円に近い。
なおアルファードのハイブリッドは、後輪をモーターで駆動する4WDのみの設定だから、価格が際立って高い。最も安価な「ハイブリッドX」(8人乗り)でも461万3000円、売れ筋になるエアロパーツを装着した特別仕様車「ハイブリッドSタイプゴールドII」(7人乗り)は508万8400円だ。
こうなると価格のバランスがとれる組み合わせは、ヴォクシー ハイブリッドS-Zの4WD(396万円)と、アルファードSの2WDの7人乗り(398万5000円)だ。この2車種を比べたい。
燃料代がアルファードの半分?
同じ価格帯でヴォクシーのほうが優れているのは、まず駆動方式だ。後輪をモーターで駆動する4WDだから、アルファードの2WDに比べて、雪道の発進性能などが優れている。
ヴォクシーはハイブリッドだからWLTCモード燃費も良好で、S-Zの4WDは22.0km/リッターになる。アルファードSの2WDは、ノーマルエンジンだから10.6km/リッターだ。この燃費数値に基づけば、ヴォクシー ハイブリッドS-Z・4WDのガソリン代は、アルファードS・2WDの半額以下で済むことになる。
装備にも差がある。ヴォクシーが装着する衝突被害軽減ブレーキは、自車の右左折時に直進してくる車両や横断歩道上の歩行者も検知するが、アルファードにこの機能はない。またヴォクシー ハイブリッドS-Z・4WDには、ハイブリッドならではの装備として、100V・1500Wの電源コンセントも標準装着される。電子レンジなどを使えるから災害時にも役立つ。
ヴォクシーは、先進装備のオプションも多彩だ。電動スライドドアが開きかけている時に、自転車を含めた車両が後方から接近すると、作動を停止させる安全装備などを用意した。運転支援機能では、高速道路を走行中に渋滞に見舞われた時、手放し運転が可能な機能を選べる。車外から車庫入れを遠隔操作することも可能だ。これらのオプション装備も、ヴォクシーを選ぶメリットになる。
シートアレンジも進化しており、3列目はレバーを引くだけで持ち上がり、シートを外側へ押し付けるとロックする。ストラップで固定する必要もなく、片手で格納できる。
広さを求めるならアルファード
一方、アルファードは車内の広さが魅力だ。身長170cmの大人6人が乗車して、2列目に座る乗員の膝先空間を握りコブシ2つ分に調節した時、ヴォクシーの3列目に座る乗員の膝先空間は握りコブシ1つ半だが、アルファードなら4つ半だ。足元空間はアルファードが圧倒的に広い。
ただし広さだけを理由に、アルファードの3列目が大幅に快適とはいえない。アルファードの3列目は床と座面との間隔が不足していて、足を前方へ投げ出すような座り方になりやすい。3列目の座り心地は、2列目に比べて柔軟性が乏しい。アルファードがヴォクシーに比べて多人数乗車に適していることは確かだが、長距離を移動する時は、時々「席替え」をする必要が生じるだろう。
内装のデザインは、アルファードは古さを感じさせるものの、ヴォクシーに比べると上質だ。このあたりはトヨタの商売上手なところで、ヴォクシーのユーザーがアルファードの車内に入った時、「やっぱりアルファードはいいな、乗り換えようかな」と思える仕上がりになっている。
乗り心地も同様で、ボディーサイズの違いもあり、40km/h以下の低速域を中心にアルファードのほうが快適に感じられる。
それでも総合的にみると、ヴォクシーの推奨度が高い。先に書いた接近車両を検知して電動スライドドアの作動を止める機能など、家族を乗せるミニバンに必要な安全装備が充実しているからだ。アルファードは発売から7年以上を経過しており、設計の古さを隠せない。
またヴォクシーは、先代型の基本設計が古く、もはや進化させるのが困難な状態にあった。そこで新型では、エンジンやハイブリッドシステム、プラットフォームなど、すべてを刷新している。多額の開発費用を注いだから失敗は許されず、先代型からの乗り換えを促すために、先進装備を大幅に進化させた。まさに渾身(こんしん)のフルモデルチェンジだから、アルファードとの勝負もヴォクシーの圧勝になる。
(文=渡辺陽一郎/写真=トヨタ自動車/編集=藤沢 勝)

渡辺 陽一郎
1961年生まれ。自動車月刊誌の編集長を約10年間務めた後、フリーランスのカーライフ・ジャーナリストに転向した。「読者の皆さまにけがを負わせない、損をさせないこと」が最も重要なテーマと考え、クルマを使う人の視点から、問題提起のある執筆を心がけている。特にクルマには、交通事故を発生させる甚大な欠点がある。今はボディーが大きく、後方視界の悪い車種も増えており、必ずしも安全性が向上したとは限らない。常にメーカーや行政と対峙(たいじ)する心を忘れず、お客さまの不利益になることは、迅速かつ正確に報道せねばならない。 従って執筆の対象も、試乗記をはじめとする車両の紹介、メカニズムや装備の解説、価格やグレード構成、買い得な車種やグレードの見分け方、リセールバリュー、値引き、保険、税金、取り締まりなど、カーライフに関する全般の事柄に及ぶ。 1985年に出版社に入社して、担当した雑誌が自動車の購入ガイド誌であった。そのために、価格やグレード構成、買い得な車種やグレードの見分け方、リセールバリュー、値引き、保険、税金、車買取、カーリースなどの取材・編集経験は、約40年間に及ぶ。また編集長を約10年間務めた自動車雑誌も、購入ガイド誌であった。その過程では新車販売店、中古車販売店などの取材も行っており、新車、中古車を問わず、自動車販売に関する沿革も把握している。 クルマ好きの視点から、ヒストリー関連の執筆も手がけている。
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