レクサスNX350“Fスポーツ”(4WD/8AT)
言葉の力は偉大なり 2022.04.18 試乗記 トップダウンで“もっといいクルマ”を目指してきたトヨタだが、それは新型「レクサスNX」でひとつの成果を得たといえるだろう。これならば、並みいる欧州のライバル車に肩をならべたと断言できる。新開発の2.4リッターターボエンジンを搭載した「NX350」の仕上がりをリポートする。走りに振ったNX
NXといえば、ブランドロゴを含めた新しいデザイン戦略の第1弾商品にして、これまでのレクサスの弱点だったインフォテインメントなどのデジタル方面も飛躍的に進化しており、電磁ロックドアといったクラスを超えた装備も少なくない。今は欠かせない先進運転支援システムもトヨタ最先端のそれで、アダプティブクルーズコントロールで走っているときなど、追い越しマナーまでがかゆいところに手が届く緻密な仕上がりなのにも感心する。さらには、ホイールのハブボルト締結やボンネットフードロックの数といった地味でマニアックな宗旨替えにいたるまで、「ついに、ここまで来たか!」といいたくなる内容をもつレクサスである。
……といったことは、これまでwebCGに寄せられた諸先生方のNX試乗リポートに詳しい(そのなかには私の拙文も1本含まれるが)ので、ぜひ参照いただきたい。
今回試乗した350はNXのなかでも血気盛んなドライバーをターゲットとした一台といっていい。NXで初出しとなる新開発2.4リッターターボを積む純エンジン車で、279PSという最高出力はNXでは上から2番目にパワフル(「450h」のシステム出力は309PS、「350h」のそれは243PS)だ。それに組み合わせられるのは4WDのみだが、それもトルク容量とレスポンスを高めた専用仕様という。
車両側の仕立ても、エクステリアの空力部品やスポーツシート、専用部材とパフォーマンスダンパーによる車体強化、そしてリニアソレノイド式連続可変ダンパーなどなど、走り方面の専用チューンがテンコ盛りの“Fスポーツ”のみとなる。それでいて、装備内容をそろえて比較すると、価格は「250」に次いで2番目に安いのも、好事家が大いにそそられる350ならではのポイントである。
開発現場における“もっといいクルマ”の効能
新開発2.4リッターターボのブロックは2.5リッターと共通のボアセンターピッチをもつが、ストロークを短縮して排気量を94cc縮小している。技術的には2.5リッターをそのまま過給することもできたし、そうしたほうがコスト的にも明らかに有利だったはずだが、今回は「過給エンジンとして理想的なボア×ストローク比を追求」した結果という。
こういう好事家心をくすぐるマニアックなエピソードが、最近のトヨタ/レクサスには本当に多い。トヨタの技術者や開発者に話をうかがっていると、「もっといいクルマ」という社長発信の分かりやすいキーワードが全社的に浸透したことによるメリットはすごく大きいようだ。各現場は「コストは少しかさみますが、これなら“もっといいクルマ”にできます」と新技術やアイデアをどんどん提案しやすくなり、それを受け取る上司側も「いろいろ引っかかっても、これで“もっといいクルマ”になるなら……」と決裁しやすくなったのは事実らしい。
そんな雰囲気のなかで開発された2.4リッターターボは数値どおり、なかなか豪快に回る。まったくのフラットトルク型でもなく、回転上昇とともにレスポンスが鋭くなり、トップエンドでも伸びるので、けっこう回しがいもある好エンジンだ。
ただ、同時にエンジン音は音量そのものより、勇ましい音質が目立つ。そのビーガー系の荒々しいノイズに、中高年の筆者は「3S-G」あたりのトヨタ高性能エンジンの伝統を勝手に感じて笑ってしまった。しかし、客観的にみれば、それはあまり心地よい音ではない。いうなればサウンドではなく、やはりノイズと呼ぶべき音質である。
エンジン音については開発陣も気にしているところで、独特の音の主原因は高速燃焼・希薄燃焼による燃焼音だという。このエンジンで必要な性能を追求すると、どうしても避けられないんだとか。
どこまで行っても安定志向
これほどトルキーなエンジンでありながら、アクセルペダルをあえて乱暴にあつかっても、フロントタイヤが暴れる兆候すら見せないのにはちょっと驚く。専用仕立ての4WDシステムによるところが大きいのだろう。
NX350の4WDシステムは、構造的には油圧多板クラッチによるオンデマンド型だが、最初から75:25の前後比率でトルク配分するフルタイム4WD制御となっている。そこから運転状況に応じてフルロックの50:50まで積極的に可変配分するという。
実際、メーターパネルに表示される駆動配分の様子を観察していると、とくにステアリング操作に合わせた制御が目立つ。グリップが確保されていても、舵角が大きくなるほど積極的にリアタイヤにトルクを吸い出しているように見える。
とはいえ、60:40というNX350の前後重量配分に対して、イニシャルで75:25という配分はフロント優勢の安定志向といえる設定だ。いかに積極的にアクセルを踏んでも、リアから回り込んでいくようなそぶりを見せることはない。「せっかくの好事家向けグレードなら、もう少しサービスしてもいいのでは?」と思う反面、いかに振り回そうとも、安定しきった弱アンダーステアを維持するオンザレールな所作には、素直に感心する。
このすこぶるつきの安定感には4WDシステムだけでなく、車体やシャシーも寄与しているのは当然である。とくに、この車体の剛性感はちょっとすごい。NXの車体はグレードを問わずに剛性感が高いが、このNX350の“Fスポーツ”はいろいろな振動を吸い込むように受け止める独特の剛性感である。経験上、車体前後に配されたパフォーマンスダンパーもかなり効いていると思う。
ついに理解できた「すっきり」の味わい
レクサス開発陣の皆さんは、その目指すべき走りの姿として、数年前から「すっきりと奥深い走り」という言葉を念仏のように唱えておられる。とはいえ、これまでもレクサスに乗るたびに「すっきり」と「奥深い」の意味が理解できず、モヤモヤしてきたのも事実である。しかし、このNX350に乗って、奥深さはいまだに分からなかったが、少なくとも「すっきりとはこういうことか!」とヒザを叩きたくなったのはウソではない。
それはステアリングフィールだ。直進状態から切りはじめると、過敏ではないのに不感帯めいたタメもほとんど感じさせず、ステアリング操作とクルマが一体となって反応する。ステアリングを握る手とクルマの挙動がスルピタッとシンクロする感覚は、なるほど「すっきり」である。それは、これまでのレクサスでは味わえなかった種類の手応えである。
そういえば、レクサスのスポーツフラッグシップである「LC」も乗り心地や振動・騒音にはツッコミどころがあれど、ステアリングだけは正確そのものだ。ここが今のレクサス最優先のこだわりなのかもしれない。
いくつかあるNX350のドライブモードでも、もっともすっきりした味わいなのは、パワステが重くなりダンパーも引き締まる「スポーツS+」モードだ。柔らかいモードより乗り心地は硬めだが、目地段差などの鋭い凹凸のいなしは巧妙で一体感も高い。以前に渡辺敏史さんも指摘されていたように、ほかのモードでは深くロールしてから戻るときの柔軟性が少し足りず、揺すられてしまうことがある。そんな瞬間はすっきり感が足りない。
あとは、やはりエンジン音にももう少し色気が出れば……とも思うし、このモデルはNX最強のマニア物件なのだから、すっきりとクールに走るだけでなく、たとえば旋回性にはもっと刺激があってもいい。ただ、こういう細かいツッコミを入れたくなるのも、NXの味わいが、いよいよ同クラスの名門ブランド車と肩をならべつつあるからでもある。「もっといいクルマ」「すっきりと奥深い走り」。これらはただの言葉だが、大きな組織でひとつのものを緻密につくりあげるには、言葉はもっとも重要である。
(文=佐野弘宗/写真=郡大二郎/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
レクサスNX350“Fスポーツ”
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4660×1865×1660mm
ホイールベース:2690mm
車重:1810kg
駆動方式:4WD
エンジン:2.4リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:279PS(205kW)/6000rpm
最大トルク:430N・m(43.8kgf・m)/1700-3600rpm
タイヤ:(前)235/50R20 100V/(後)235/50R20 100V(ブリヂストン・アレンザ001 RFT)
燃費:12.2km/リッター(WLTCモード)
価格:599万円/テスト車=694万5900円
オプション装備:“Fスポーツ”専用オレンジブレーキキャリパー<フロント「LEXUS」ロゴ>(4万4000円)/三眼フルLEDヘッドランプ<ロー&ハイビーム>+ヘッドランプクリーナー+LEDコーナリングランプ+寒冷地仕様(20万6800円)/パノラミックビューモニター<床下表示機能付き>+パーキングサポートブレーキ<後方歩行者>+緊急時操舵支援<アクティブ操舵機能付き>+フロントクロストラフィックアシスト+レーンチェンジアシスト(9万5700円)/別体型ディスクプレーヤー(13万7500円)/ルーフレール(3万3000円)/デジタルキー(3万3000円)/おくだけ充電(1万3200円)/後席6:4分割可倒式シート<電動格納機能付き>+後席シートヒーター(7万7000円)/“マークレビンソン”プレミアムサラウンドサウンドシステム(24万4200円)/デジタルインナーミラー(4万4000円)/ITSコネクト(2万7500円)
テスト車の年式:2021年型
テスト開始時の走行距離:1890km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:496.5km
使用燃料:58.4リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:8.5km/リッター(満タン法)/8.7km/リッター(車載燃費計計測値)

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
-
ホンダCR-V e:HEV RSブラックエディション(4WD)/CR-V e:HEV RS(4WD)【試乗記】 2026.4.1 ホンダの「CR-V」が日本市場に帰ってきた。先代モデルの発売時(2018年)も2年ぶりの復活で(少し)盛り上がっていたが、今回もまた3年半ぶりの復活である。モデルライフが途切れ途切れなところは気になるものの、新型のすっきりと上質な乗り味はまぎれもなくプレミアムな領域に達している。
-
メルセデスAMG GTクーペ/メルセデスAMG GT 4ドアクーペ【試乗記】 2026.3.31 メルセデスAMGの「GT63 S Eパフォーマンス クーペ」と「GT53 4MATIC+(ISG)ファイナルエディション」は、同じAMG GTを名乗りながらも片や2ドア、こなた4ドアのクーペモデルだ。この両者には、どんな特徴や違いがあるのか。クローズドコースで確かめた。
-
レクサスGX550“オーバートレイル+”(4WD/10AT)【試乗記】 2026.3.30 スタッドレスタイヤ装着の「レクサスGX」でウインタードライブへ。クルマ好きにとってはいかにも胸がふくらむシチュエーションだが、刻一刻と変化する自然環境が相手ゆえに、なかなか一筋縄ではいかないものだ。山に分け入る際には引き返す覚悟もお忘れなく。
-
スズキeビターラZ(4WD)【試乗記】 2026.3.28 スズキが満を持して世に問うた、初の量販電気自動車(BEV)「eビターラ」。エントリーグレードは400万円以下! 500万円以下で4WDも用意されるというお値打ち価格のBEVは、走らせてみるとどうなのか? 東京-愛知を往復して、その実力を確かめた。
-
スズキGSX-8T(6MT)【レビュー】 2026.3.25 昨今のネオクラシックブームに乗り、いよいよスズキからも新型車「GSX-8T」が登場。しかし実車に触れてみると、既存のライバルとはちょっと趣の異なるマシンとなっていた。スタイリッシュないでたちとスズキらしい実直さが融合した、独創の一台を報告する。
-
NEW
プジョー5008 GTハイブリッド アルカンターラパッケージ(FF/6AT)【試乗記】
2026.4.4試乗記プジョーの「5008」がフルモデルチェンジ。デザインがガラリと変わったのはご覧のとおりだが、3列・7シートを並べるシャシーも新設計。パワートレインには1.2リッターのマイルドハイブリッドを選んでいる。果たしてその乗り味やいかに? -
カングー限定お花見キャンプ「KANGOO SAKURA CAMP」の会場より
2026.4.3画像・写真「ルノー・カングー」で初春の桜を満喫! オーナー限定のお花見キャンプ「KANGOO SAKURA CAMP」が、千葉の「成田ゆめ牧場オートキャンプ場」で開催された。最新のカングーが展示され、フレンチBBQも提供されたイベントの様子を、写真でリポートする。 -
サイズバリエーション拡大記念! 「BRIDGESTONE REGNO GR-XIII」を体感せよ
2026.4.3伝統の国産高級車で試すブリヂストン・レグノの真価と進化<AD>ブリヂストンのプレミアムタイヤ「REGNO(レグノ)GR-XIII」に、「トヨタ・クラウン」シリーズなどに装着できる新サイズが登場。さっそく「クラウン エステート」にGR-XIIIを装着し、その相性をモータージャーナリストの藤島知子さんにチェックしてもらった。 -
スバルが「レヴォーグ」「レヴォーグ レイバック」そして「WRX S4」の受注を終了 3モデルの今後は?
2026.4.3デイリーコラムスバルがFA24型2.4リッター水平対向4気筒ターボエンジンを積む「レヴォーグ」「レヴォーグ レイバック」「WRX S4」の新規注文受け付けを終了する。現行3モデルの生産を終了する理由と目的、そして今後ラインナップがどうなるのかを解説する。 -
アウディA6スポーツバックe-tronパフォーマンス(RWD)
2026.4.3JAIA輸入車試乗会2026エアロダイナミクスを追求したエクステリアデザインと、未来的で上質感あふれるインテリアや装備の融合がうたわれるアウディの電気自動車「A6スポーツバックe-tronパフォーマンス」。その走りに感心する一方で、気になるポイントも発見した。 -
マレク・ライヒマン、珠玉のコラボウオッチを語る
2026.4.2ブライトリング×アストンマーティン 限定ナビタイマーの魅力に迫る<AD>スイスの高級時計ブランドであるブライトリングが、アストンマーティンの名を刻む特別なクロノグラフを発売した。それは一体、どのような経緯と開発ポリシーで生まれたのか? プロジェクトの重要人物であるマレク・ライヒマン氏に話を聞いた。

















































