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エコなモデルじゃなかったの? 超ハイパワーなPHEVが続々登場するワケ

2022.06.06 デイリーコラム 西川 淳
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ニーズあってのプロダクト

クルマには実用と趣味の二面性があると思っている。実用の世界では、とにかく機能性や環境性、安全性などの最新パッケージが重要視される。一方でスーパーカーやスポーツカーといった趣味の世界においては、そのような最新の条件はロードカーとして成立させる(つまりナンバーを取得する)ために必要な最低限の約束でしかない。つまり、購入する理由がまるで違う。燃費がいいから、使い勝手に優れるから、とても安全だから、といった理由でスーパーカーを買う人などほぼいない。

趣味のクルマに求められる価値の源は100%、性能や個性的なデザイン、ブランドの歴史や伝統や未来、といったところにある。それゆえハイエンドブランドのクルマは一見わがままなプロダクトアウト商品に見えるのだけれど、実を言うと、ロイヤルカスタマーとの緊密な関係に支えられた“マーケットイン商品”であることが多い。つまり客が欲しいと思うクルマだけを次から次へとつくっている。それも、たいてい需要よりちょっぴり少ない供給量で。

そこから導かれる結論はひとつ。スーパーカービジネスにおけるハイパワー競争が終わらない根本的な理由は、カスタマーがそれを求めているからにほかならない。

もちろんなかには「公道で楽しめないパワーなどもはや無意味だ」と思っているユーザーもいるだろうし、「運転する喜びというものはパワーの高低とは無関係だ」と達観したユーザーもいらっしゃるだろう。けれどもそんなことは今に始まったことではなく、それこそ昔から実用車の世界でも見受けられてきた現象であり、それによってクルマにおける技術革新が進んだというプラスの側面も大きかった。性能やデザインの点で自動車ヒエラルキーの頂点に君臨すると思われるスーパーカー界において、新型車がスペックにおいて先代モデルを下回ることなど多くのカスタマーにとって喜ばしいことじゃない、というわけなのだ。

「ポルシェ・パナメーラ ターボS Eハイブリッド」は、システム全体で最高出力700PSと最大トルク870N・mを発生。従来の“プラグインハイブリッド車”のイメージとは大きくかけ離れた、超ハイパフォーマンスを誇る。
「ポルシェ・パナメーラ ターボS Eハイブリッド」は、システム全体で最高出力700PSと最大トルク870N・mを発生。従来の“プラグインハイブリッド車”のイメージとは大きくかけ離れた、超ハイパフォーマンスを誇る。拡大
フェラーリの新たな基幹モデル「296GTB」(写真)は、ブランド初のV6ターボエンジンに「SF90」譲りのプラグインハイブリッドシステムを組み合わせる。
フェラーリの新たな基幹モデル「296GTB」(写真)は、ブランド初のV6ターボエンジンに「SF90」譲りのプラグインハイブリッドシステムを組み合わせる。拡大
メルセデスの高性能PHEV「AMG GT63 S Eパフォーマンス」のエンジンルーム。4リッターV8ツインターボエンジンにモーターを組み合わせるハイブリッドシステムは、トータルで最高出力843PSを発生。システム最大トルクは、なんと1400N・mを超える。
メルセデスの高性能PHEV「AMG GT63 S Eパフォーマンス」のエンジンルーム。4リッターV8ツインターボエンジンにモーターを組み合わせるハイブリッドシステムは、トータルで最高出力843PSを発生。システム最大トルクは、なんと1400N・mを超える。拡大

電動化とミドシップはスーパーカーに好都合

カスタマーのためだけじゃない。メーカーにとっても高性能化と環境対応姿勢を同時にアピールできるのだから、これほど都合のいいことはない。たとえバッテリーによって車体が重くなっても、そのためにカーボンファイバーを多用することになってコストが増しても、はたまたトータルでの環境性がさほど変わらなかったとしても、高スペックと技術的チャレンジを常にアピールできてあまつさえ価格に転化できるスーパーカーメーカーにとって、電動化の不都合などこれっぽっちもなかった。

といった次第なので、スーパーカー界では今後電動化が一気に進む。まずはプラグインハイブリッドシステムで既存の内燃機関+αの高スペックを誇示したモデルが続々と登場することになるだろう。しかも100kg単位で増えるバッテリーの重量をカバーするべくシステム最高出力は1000PS周辺、という事態がスタンダードになっていく。フェラーリは「SF90」など、すでにそういったモデルを発売しているし、マクラーレンも馬力はそこそこだが軽量なPHEV「アルトゥーラ」を発表した。ランボルギーニは次世代モデルのすべてをPHEVとすることをすでに発表している。「アヴェンタドール」の後継モデルはきっと1000PS超えとなるだろう。

同時にミドシップスポーツカーの時代がやってくる。フェラーリがV8エンジンのミドシップPHEVモデルであるSF90を、V12エンジンを搭載するかつてのFRモデルより高価な価格設定で販売していることが、何よりの証拠だ。アストンマーティンやマセラティ、シボレーといったスポーツカーブランドがこぞってミドシップスーパーカーを開発した理由もまた、重いバッテリーの置き場に比較的困らないパッケージングが可能であったからだろう。

「フェラーリ296GTB」の透視図。ミドシップレイアウトを採用する電動スポーツカーは、重量物のレイアウトの点からも不都合のないプロダクトといえる。
「フェラーリ296GTB」の透視図。ミドシップレイアウトを採用する電動スポーツカーは、重量物のレイアウトの点からも不都合のないプロダクトといえる。拡大
マクラーレンの電動スポーツカー「アルトゥーラ」。3リッターV6ターボエンジンをベースとするパワートレインは、「ハイパフォーマンス・ハイブリッド」と呼ばれる。
マクラーレンの電動スポーツカー「アルトゥーラ」。3リッターV6ターボエンジンをベースとするパワートレインは、「ハイパフォーマンス・ハイブリッド」と呼ばれる。拡大
3リッターV6ターボエンジンを搭載する、マセラティの新型スポーツカー「MC20」。同車については、将来的にフル電動モデルを追加する計画が明らかにされている。
3リッターV6ターボエンジンを搭載する、マセラティの新型スポーツカー「MC20」。同車については、将来的にフル電動モデルを追加する計画が明らかにされている。拡大

馬力競争はまだまだ続く

そして当然、その先にあるのはBEVのスーパーカーだ。かさばる大排気量エンジンを積まずに済ませられるスーパーカーの形はミドシップフォルムを超えて、安全性の範囲内とはいえより自由なものになっていく。「ロータス・エヴァイア」のような2000PS級をうたうハイパーカーも続出するかもしれない。

たとえ公道でその実力を試すことができずとも、また、サーキットで一瞬だけ楽しめる類いの性能であったとしても、超絶パフォーマンスのスーパーカーをドライブしているという想像がクルマ好きの欲望をかき立てる。それに飽きた人はクラシック&ヴィンテージに先祖帰りするか、レーシングカーに目覚めるか、はたまた空や海に興味を向けることになる。いずれにしても趣味の世界の頂点は高く、そのぶん裾野は広いから、世界のマーケットが縮小するにはこの先まだまだ時間がかかりそうだ。それまでは当面、馬力競争が続くとみていい。

もっとも、馬力競争を終わらせる可能性のある展開がひとつだけある。それはフェラーリが「もう馬力競争なんてやめた!」と言って、何か違った価値観をアピールし始めることだ。マラネッロがけん引すればスーパーカーの価値におけるコペルニクス転回が起きる。果たしてそんな時代がやってくるのだろうか……。その時はもはや、人が自由に運転できない時代かもしれないけれど(つまり随分と未来の話というわけだ)。

(文=西川 淳/写真=ポルシェ、フェラーリ、メルセデス・ベンツ、マセラティ、ジャガー・ランドローバー、webCG/編集=関 顕也)

ロータス初の電気自動車にして、初のハイパーカーでもある「エヴァイヤ」。パワートレインは4つのモーターで構成されており、最高出力2000PS、最大トルク1700N・mというパフォーマンスを豪語する。
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「飽くなきパワー競争」に飽きた趣味人には、クラシックカーを楽しむという選択肢も残されている。写真は2017年4月にジャガー・ランドローバーが披露した「ジャガーEタイプ」のレストアモデル。当時の価格は邦貨にして約3933万円だった。
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電動化への舵を切り、モーター付きの新型車を次々と提案しているフェラーリ。このブランドが高出力の追求を放棄するなら、世のパワー競争も終焉(しゅうえん)を迎えるかもしれない。写真はシステム最高出力1000PSの「SF90スパイダー」。
電動化への舵を切り、モーター付きの新型車を次々と提案しているフェラーリ。このブランドが高出力の追求を放棄するなら、世のパワー競争も終焉(しゅうえん)を迎えるかもしれない。写真はシステム最高出力1000PSの「SF90スパイダー」。拡大
西川 淳

西川 淳

永遠のスーパーカー少年を自負する、京都在住の自動車ライター。精密機械工学部出身で、産業から経済、歴史、文化、工学まで俯瞰(ふかん)して自動車を眺めることを理想とする。得意なジャンルは、高額車やスポーツカー、輸入車、クラシックカーといった趣味の領域。

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