日産エクストレイルG e-4ORCE(4WD)
新しいダイナミクス 2022.07.20 試乗記 「日産エクストレイル」がフルモデルチェンジ。可変圧縮比ターボエンジンを使った「e-POWER」や積極的な駆動力配分によって走行性能を高める4WDシステム「e-4ORCE」を採用するなど、新型はトピックスが満載だ。果たしてその仕上がりは?日産で最も売れている乗用車
初代エクストレイルが登場したのは2000年のこと。当時の日産はルノーとの資本提携後、派遣されたカルロス・ゴーンが取りまとめたリバイバルプランに沿って、再建の道のりを歩み始めて間もないころだった。
企画としては日産が財務的に最も苦しかった時期にひねり出されたものだが、ゴーンのふるいに落とされることなく販売にこぎ着けることができたのは、当時から伸びしろが大きいとみられていたSUVセグメントにあって、ユニークさと収益性のバランスが優れていたからだと思う。
乗用系のプラットフォームを流用しながらサスペンションやドライブトレインをしっかり四駆前提で仕立てつつ、ほかがより乗用車ライクな味つけへとまい進するなか、逆張りで武骨な道具感を前面に押し出す。それが奏功し、日本のみならず各仕向け地でも手柄を立て、ネガティブに見られがちだった日産ブランドのテンショナーの役割も果たすこととなった。後の「マーチ」&「キューブ」、そして「Z」と、目に見えるかたちで変革を示すことになったモデルへの道ならしの役割を果たしたと言っても過言ではない。
そして今やエクストレイルは、仕向け地別の兄弟的銘柄も含めて、日産で最も売れている乗用車の座に上り詰めることとなったわけだ。言い換えればそれはコケることが許されない、売れることがマストというプレッシャーを背負うことでもある。
可変圧縮比ターボエンジンを搭載
そんななかで2013年以来、約9年ぶりの完全刷新となるのがこの4代目エクストレイルだ。仕向け地別の「キャシュカイ」や「ローグ」はこの1~2年の間にフルモデルチェンジが敢行されているが、現世代で日本市場がほぼ最後発になった理由はコロナだ半導体だというだけではない。今や日産のキラーコンテンツとなったe-POWERのみならず、四駆は前後のモーターを個別制御するe-4ORCEと、そのまったく新しいパワー&ドライブトレインの初出しにこだわったからだ。
さらに、搭載される1.5リッター3気筒直噴ターボには、日産独自の可変圧縮比技術も搭載されている。リンクを介してピストンの位置をアクチュエーターで可変させるそれは、走行状況に応じて筒内圧縮比を8~14の間で変化。巡航などの低負荷時は高圧縮でリーンに、加速などの高負荷時は低圧縮でターボを利かせてと、状況に応じて燃焼環境を物理的に高効率に保つことができる。可変圧縮技術については、一部仕向け地において従来のV6の代替というかたちで2リッター4気筒直噴ターボの「KR20DDET」が駆動用エンジンとして展開されていたが、日本ではe-POWERの発電用エンジンとして用いられるこの「KR15DDT」での展開が初となる。
新型エクストレイルの駆動方式は1モーターFFと2モーター4WDの2つ。前軸側のモーターは両車共通で最高出力204PS/最大トルク330N・m、4WD用のリアモーターは同136PS/同195N・mを発生し、先出しの「ノート」に比べると前軸は1.2倍、後軸は1.9倍の出力となる。理論上e-4ORCEの前後駆動力配分は自在、つまり0:100~100:0が可能だが、現実値としては30:70~100:0の範囲で制御されているという。前席下部に搭載される駆動用のリチウムイオンバッテリーは96セル・容量1.8kWhとハイブリッド用としては大きめで、快適性にも関わるエンジンの作動頻度や使用回転域の抑制にもひと役買っている。
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3気筒でも静かで滑らか
新型エクストレイルの車格は、前型比で全長は30mm短く全幅は20mm広く、全高は20mm低くなっている。ホイールベースは同一で、拡幅に加えて幅の小さな3気筒エンジンの採用もあり、最小回転半径は前型より0.2m小さい5.4mとなった。全体的にはタイトにまとめられている印象だが、それでも小さく感じないのは、前型の都市型的なデザインから、ラギッド的な要素を強めた、つまり意識して先祖返り的なところを狙ったスタイリングによるところが大きいのだろう。
正式発表前の取材ということもあってクローズドコースでの試乗となったが、走りだしでまず気づかされるのは、大きめの車格の割にはモーターのみでの走行域が想像以上に広くとられているということだ。電池残量にもよるが、ゾーン30のような生活道路で静かに振る舞えるというのは電動車の大きなメリットゆえ、意外とモーター走行が粘ってくれるのは日本の用途においては喜ばれることだろう。
もうひとつの驚きは、発電のために稼働するエンジンの音・振動の小ささだ。3気筒ながら始動は気づかないほどに滑らかで、高負荷に応じて回転を高める際も音量は小さく、音質にも安っぽさはない。振動についてはバランサーなどを加えることなく構成部品のバランスのみできれいに調和がとれているそうで、回転フィールは至って滑らかだ。モーターの足を引っ張らないその上質さはちょっとキツネにつままれた感もあるほどで、新型エクストレイルの思いがけぬ美点となっている。
ランエボのように曲がる
e-POWERの力感は有り余るとまでは言わずとも、動力性能的にはライバルのハイブリッドモデルに比しても十分に説得力がある。そのうえで、四駆モデルの特徴でもあるe-4ORCEの飛び道具っぷりもすごかった。
さまざまなアクセル操作でコーナーにアプローチしてみたが、踏めばアペックスに絡みつくように鼻先を寄せていく、いにしえの「スカイラインGT-R」……というよりむしろ「ランエボ」を思い出すような積極的回頭をみせる一方で、高速での不安定挙動を想定して試してみると気づかないほど滑らかに駆動配分を駆使して動きを落ち着かせるというスタビリティー側の黒子ぶりにも目を見張るものがある。みなしBEVのようなものだから当たり前といえばそうだが、モーターの駆動制御のきめ細かさがもたらす新しいダイナミクスは、e-POWERにまったく新しい価値をもたらすわけだ。
今回は限られた時間と環境ゆえ、燃費的なところもさておき、この銘柄に期待される機能である悪路性能を試せなかったのが残念だった。が、あくまで第一印象ながら、まるで異なるメソッドで得られたそのポテンシャルは、ライバルを刮目(かつもく)させるに十分なものだと思う。そういえば新しいエクストレイル、一部グレードを除いて1500WのACアウトレットがオプション、もしくは標準装備と、ライフライン的な性能もライバルに見劣りしないものになっている。
(文=渡辺敏史/写真=郡大二郎/編集=藤沢 勝)
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テスト車のデータ
日産エクストレイルG e-4ORCE
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4660×1840×1720mm
ホイールベース:2705mm
車重:1880kg
駆動方式:4WD
エンジン:1.5リッター直3 DOHC 12バルブ ターボ
フロントモーター:交流同期電動機
リアモーター:交流同期電動機
エンジン最高出力:144PS(106kW)/4400-5000rpm
エンジン最大トルク:250N・m(25.5kgf・m)/2400-4000rpm
フロントモーター最高出力:204PS(150kW)/4501-7422rpm
フロントモーター最大トルク:330N・m(33.7kgf・m)/0-3505rpm
リアモーター最高出力:136PS(100kW)/4897-9504rpm
リアモーター最大トルク:195N・m(19.9kgf・m)/0-4897rpm
タイヤ:(前)235/55R19 101V/(後)235/55R19 101V(ハンコック・ヴェンタスS1 evo3 SUV)
燃費:18.4km/リッター(WLTCモード)
価格:449万9000円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:2022年型
テスト開始時の走行距離:34km
テスト形態:トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:--km/リッター

渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
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