DS 9オペラE-TENSE(FF/8AT)
好きな人はきっと大好き 2022.07.26 試乗記 ゆとりある室内に凝りに凝った内外装、さらにはプラグインハイブリッドシステムも備えた「DS 9 E-TENSE」の804万円という価格は、プレミアムブランドの旗艦としては非常にお値打ちといえるだろう。ただし、誰にでも薦められるわけではないのがちょっと残念なところだ。ぜいたくなフラッグシップ
2014年にシトロエンから分離独立、新たなブランドとしてスタートした当初は、失礼ながら看板を掛け替えただけのようなモデルしかなく、いったいどうなることかと心配したものだが、ようやくラインナップも整って、目指すところが明らかになってきたように思う。DSはフレンチラグジュアリーを追求する、となればぜいたくで優雅なフラッグシップは欠かせない。2022年3月に国内発売されたDS 9はDSブランドだけでなく、旧PSAグループを見渡しても最大のセダンである。
フランス車らしいファストバックボディーの外寸は4940×1855×1460mm、ホイールベースは2895mm。幅はそれほどでもないが全長は5mに近く、ということは「メルセデス・ベンツEクラス」や「BMW 5シリーズ」に相当する堂々たるエグゼクティブサルーンである。日本仕様には1.6リッター4気筒ターボ(最高出力225PS/最大トルク300N・m)と、同エンジンにモーターを組み合わせたプラグインハイブリッド車(PHEV)のE-TENSEが設定され、それぞれに「オペラ」と「リヴォリ」という2種類のトリムグレードが用意されている。今回取り上げたのは上級トリムグレードのオペラのE-TENSEという文字どおりのフラッグシップ。ちなみに3月の発売時には787.9万円だったが、その後の円安の進行を受けて6月には804万円に値上げされている。
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華美だが意外にコンサバ
DSの目指すところが最もよく表れているのがインテリアである。物理スイッチをできるだけ減らしたモダンなシンプルさが昨今のトレンドだが、DS 9はキラキラ華美なアールデコ調というか、絢爛(けんらん)豪華な応接間のようだ。それぞれの形状や装飾にはオマージュやうんちくがあるらしいが、そんな風だったかなあと思うぐらいで、ピンとこない。樹脂材の型押しをギヨシェ彫り風と言われてもねぇ。正直に言うとオジサンにはもう分かりません。昔を知らない若い世代にはレトロ調が新鮮なのかもしれない。そもそもオジサン受けは狙っていないということなのだろう。
もっとも、ダッシュやシートに採用されているナッパレザーのむら染めの風合いはクラシックで、ウッドパネルは意図的に使われていないが、何だか昔の英国車のような雰囲気だ。いっぽうで、ひし形モチーフはうるさいぐらいに繰り返されており、真珠のネックレスを模したというパールトップステッチなる飾りステッチも入っている。非常に凝った、チャレンジングな内装であることは間違いないが、各種コントロールの配置は常識的で、使い勝手も悪くない。キラキラな見た目に目を奪われがちだが、実はコンサバな構成であることが分かる。ただし、デジタルメーターの表示には遊び心はいらないと思う。プジョー/シトロエン同様、DSも表示パターンを選択できるが、率直に言ってどれを選んでも見づらい。
余裕もあるが癖もある
E-TENSEを名乗るBEVもあるけれどDS 9の場合はプラグインハイブリッドモデルを意味する。エンジンはガソリン仕様と同じ1.6リッター直噴4気筒ターボだが、スペックは最高出力200PS/6000rpm、最大トルク300N・m/3000rpmと若干控えめ。それに110PSと320N・mを生み出すモーターを加えたシステム出力は250PSと360N・mという。
室内スペースを侵食しないようにリアシート下に搭載されたリチウムイオンバッテリー(ただし燃料タンク容量は60→43リッターに減少)は容量15.6kWhでEV走行換算距離は65km(WLTCモード)、欧州製PHEVの多くと同じく普通充電のみに対応している。トランスミッションは、ガソリン車と同じアイシン製の8段ATながら、トルコンの代わりに多板クラッチを装備する「e-EAT8」と称する専用タイプで、4種類のドライブモード(EV/ハイブリッド/コンフォート/スポーツ)を備える。要するにプジョーやシトロエンのFWD・PHEVモデルと同じシステム構成だ。ということは、近距離ならEV走行だけで足りるというメリットを別にすれば、プラグインシステムによって実用燃費を向上させるというよりも(ハイブリッド燃費は15.8km/リッターとガソリン車の15.0km/リッターとさほど変わらない)、パフォーマンスとCO2排出量のモード値引き下げを両立させる狙いとみることができる。
実際、ガソリン仕様よりも約300kg重い1930kgの車重にもかかわらず、モーターアシストが効いてなかなか身軽に走りだす。さすがに俊敏とはいえないが、大柄なボディーを余裕を持って走らせるには十分である。ひとつ注意すべきは、他の旧PSA系ハイブリッド同様、モーター走行状態ではシフトパドルを引いても反応しないこと。エンジンがかかっている時だけ有効というメカニズムであり、下り坂やコーナー手前で何の気なしにパドルを引くと、反応せずにエッとちょっと驚くかもしれない。独特のロジックというか癖があるのだ。
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どこか懐かしい乗り心地
DS 9には「DS 7クロスバック」などと同じく、「DSアクティブスキャンサスペンション」なる可変サスペンションが備わっている。フロントカメラで前方の路面状態を常時スキャンし、電子制御ダンパーを最適にコントロールするという触れ込みだ。コンフォートモード時のみ作動するというが、なるほどボディーの上下動はフワリとやや大きめながらフラットな姿勢を崩さず、ハイドロニューマチック時代のシトロエンをほうふつとさせるような挙動だ。いっぽうで段差や橋の継ぎ目などではダシンと意外に強めの入力を感じさせるところもまた同様だ。カメラ検知だけ、可変ダンパーだけでどれほどの制御ができるのかは疑わしいが(各メーカーともにカメラだけのシステムは諦めつつある)、長距離クルーズにはうってつけであることは確かである。
大型サルーンとして十分な室内スペースと快適性に加え、DS 9には最新のいわゆるADAS系安全運転支援システムやナイトビジョン、スライディングガラスルーフ、ナビゲーション、前後シートヒーター&ベンチレーションなどの充実装備がはじめから備わって車両価格が804万円(このクルマもオプションはメタリックペイントの7万1500円のみ)とは大変なお買い得価格というべきだろう。もちろん、あのキラキラ加飾とよく分からないエラーメッセージが度々表示されることをのみ込める大人にとっては、である。
(文=高平高輝/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
DS 9オペラE-TENSE
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4940×1855×1490mm
ホイールベース:2895mm
車重:1930kg
駆動方式:FF
エンジン:1.6リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:8段AT
エンジン最高出力:200PS(147kW)/6000rpm
エンジン最大トルク:300N・m(30.6kgf・m)/3000rpm
モーター最高出力:110PS(81kW)/2500rpm
モーター最大トルク:320N・m(32.6kgf・m)/500-2500rpm
タイヤ:(前)235/45ZR19 99Y/(後)235/45ZR19 99Y(ミシュラン・パイロットスポーツ4)
ハイブリッド燃料消費率:15.8km/リッター(WLTCモード)
等価EVレンジ:65km(WLTCモード)
充電電力使用時走行距離:65km(WLTCモード)
交流電力量消費率:202Wh/km
価格:804万円/テスト車=811万1500円
オプション装備:メタリックペイント<クリスタルパール>(7万1500円)
テスト車の年式:2022年型
テスト開始時の走行距離:2411km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:298.0km
使用燃料:26.8リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:11.1km/リッター(満タン法)/11.3km/リッター(車載燃費計計測値)

高平 高輝
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