第715回:名車と郷愁の街並みがコラボ 山形の「ノスタルジック・フェスタ金山」に参加した
2022.08.15 エディターから一言![]() |
歴史的名車と郷愁の街並みが、世界のどこにもなかった景色を見せてくれる──。そんな発想からスタートしたのが、山形・金山町で初開催された「ノスタルジック・フェスタ金山」。多くのヘリテージカーが顔をそろえたイベントの模様を報告する。
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金山町の街並みとクラシックカーが融合
2000年代を迎えたあたりから、日本国内においてもクラシックカーイベントが急速に増えた。そしてときを同じくして、いわゆる町おこしの一環として開催されるイベントも、新規開催ないしは既存のイベントを招聘(しょうへい)するというかたちをとり、日本各地で数多く見受けられるようになった。
しかし、これまでの町おこしカーイベントのなかには、肝心のエントラントや一般来場者の歓心を得ることができず、一回限り、あるいは数回で終わってしまう事例も少なくはなかった。
そんな状況のもと、2022年7月30日~31日に山形・金山町にて初めて開催された「Nostalgic Festa Kaneyama:HERITAGE & CLASSIC CAR GALLERY(ノスタルジック・フェスタ金山:ヘリテージ&クラシックカーギャラリー)」を訪ねた。このミーティング型カーイベントには、今後も成長するに違いないと思わせるものが確かにあると感じられたのだ。
小さくとも美しき林業の里、山形・金山町とは?
山形県最上郡。秋田県との県境にも近い地域に、林業を主な産業とする金山(かねやま)町という小さな町がある。なんとも不勉強で恐縮なのだが、筆者自身もその町名を知ったのは、実はつい最近のことだった。
このほど初めて開かれることになった「ノスタルジック・フェスタ金山」には、縁あってトークライブとチャリティーオークションのMCとしてお招きいただいたものの、さしたる予備知識もないまま初訪問した金山町の美しさに、あっという間に魅了されてしまうことになった。
町役場や小学校に隣接する金山町の中心街は、10分もあればグルっと歩いて回ることができるほどにコンパクト。しかし、明治から昭和初期にかけて建設されたという金山杉とケヤキ、しっくいによる古い建物と、それに合わせて半世紀以上にもわたり景観の整備を行ってきたそのほかの建物によって構成され、あたかもテーマパークのように映る。
しかも、町内のいたるところで雪解け水を流す堰(せき)の心地よいせせらぎが響き、街そのものが極上の癒やし空間となっているのだ。
聞けば金山町では「街並みづくり」をうたって、白壁と切り妻屋根を持つ、在来工法で建てられた「金山住宅」の普及や、全町美化運動に取り組んできたという。また、この「街並みづくり」に芸術・文化の要素を加え、単に新形態の建物を建築するのではなく、金山町全体を博物館と考えるミュージアム構想を推進してきた。また、先人たちが残してくれた自然や文化、生活様式を含めた地域環境を持続可能な方法で見直し、発展させていくことを目指しているとのことである。
そして、この「街並みづくり」の旗手となっているのが、地元で150年の歴史を誇る林業会社のカネカ。樹齢100年まで育て上げて初めて伐採・出荷するという「金山杉」を産出するとともに、百年杉の特質を最大限活用し、100年先にも住み続けることのできる金山住宅などの建築物を自らデザイン・施工する老舗である。
「ノスタルジック・フェスタ金山」の発案者の一人で、実行委員長を務める川崎恭平さんは、カネカの若き代表取締役社長として、また故郷である金山を愛する一人として、この美しい町をもっと栄えたものとしたいという思いから、イベントの開催に至ったという。
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共通するのは100年持続する価値
7月30日~31日の2日間にわたって開催された「ノスタルジック・フェスタ金山」のメイン企画「ヘリテージ&クラシックカーギャラリー」では、初日にあたる30日土曜日の午後から、約40台のエントリー車両が続々と金山町に集まってきた。おのおのが化粧板を取り付ける前にナンバープレートを見ると、地元山形をはじめとする東北地方や、一部は北関東などからも参加されていたことがわかる。
これらのエントリー車両は国産・輸入車、年式を問わず、実にバラエティーに富んでいた。古くは1925年型「ロールス・ロイス40/50HPファントム」や、1929年型のフランスのかわいらしいスポーツカー「サルムソンGS8」など、間もなく車齢100年を迎えるような真正のヴィンテージカーから、第2次大戦後の英国製スポーツカーまでが顔をそろえた。
最初期型の「プリA」を含む「ポルシェ356」にナロー「911」、そして1960~1980年代の国産旧車も数多く現れたうえに、今回「ヘリテージブランド」と位置づけられたロールス・ロイス/ベントレーでは近現代のモデルも複数が参加。猛暑のもと金山を訪れたギャラリーを大いに楽しませていた。
さらには2019年に100周年を迎え、一気に未来志向へとシフトし「その先の100年」を見据えたSDGs活動に力を入れている英国ベントレーがこのイベントの趣旨に賛同し協賛を申し出たことから、2台の最新モデルの公式展示が決定。自動車の100年史の一部が垣間見られるような、新旧そろい踏みのミーティングが実現することになったのだ。
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絵本「じどうしゃアーチャー」のモデルも展示
こうして開幕した「ノスタルジック・フェスタ金山」では、初日夜に参加車両を照らすライトアップが行われたかたわら、古い蔵を改装したイベントスペースでは、ジャズトリオの生演奏も入った夕食・懇親会も開催された。
そして翌日曜日は、エントリー車両の大多数が隊列を組み、街並み保存地区を悠然と走るパレードランからスタートしたのち、ランチ前には今回の特別ゲストとして参加した埼玉・加須のワクイミュージアム 涌井清春館長と川崎実行委員長、そして筆者からなる3名で「100年にわたって持続する価値」をテーマとするトークライブが展開されることになった。
今回、ワクイミュージアムから特別出展された「ロールス・ロイス40/50HPシルバーゴースト」は、1919年型。つまりは車齢にして103年を迎えるクルマで、古いものを大切にすることをテーマとする絵本「じどうしゃアーチャー」のモデルにもなった個体である。
涌井館長は「クラシックカーをコレクションするのは“自動車文化財の一時預かり人”になること」という信条を長らく体現してきた人物。一方の川崎実行委員長は、現在ではカネカ会長である父、川崎俊一さんから継承された「木は自然からの預かりもの。家は次世代への預かりもの」という信条を語り、SDGs的な観点からも、100年持続する価値を持つクラシックカーと金山町はとても親和性が高いという結論に達した。
こうして「ノスタルジック・フェスタ金山」は大成功のうちに第1回を終えることができたが、川崎実行委員長は、既に次回以降のアイデアも幾つか用意しているとのこと。来年以降については未定としながら、このイベントもぜひ持続してほしいと切に願うのである。
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ベントレーは旅するクルマ
「ノスタルジック・フェスタ金山」では、ベントレーが取り組むカーボンニュートラルへの第一歩として登場した「ベンテイガ ハイブリッド」がオフィシャル展示された。その搬送を仰せつかった筆者は、東京と金山町を往復する約1000kmに及ぶテストドライブの機会を得た。
ベンテイガ ハイブリッドは、外部電源からの充電が可能なプラグインハイブリッド車。容量17.3kWhのリチウムイオン電池により、128PSのモーターを駆動する。プラグインハイブリッドシステムの基幹となるエンジンは、最高出力340PSの3リッターV6ツインターボで、システム全体での最高出力は449PS、最大トルクは700N・mとなる。
このスペックだけを見ると、同じベンテイガのW12ツインターボ版はもちろん、V8ツインターボ版にも及ばないかに想像されるのだが、EVモードおよび通常でも発進時に作動するモーターが力強く走りをサポート。車両重量2690kgという超ヘビー級の車体をグイグイと引っ張る。
もちろんV8モデルのような刺激的な加速感やサウンドは望めないものの、高速道路を中心とする行程では常時12km/リッター前後をマークする良好な燃費も相まって、筆者がベントレー固有の気質として常々感じている「旅するクルマ」というキャラクターにおいては、最も好ましいベンテイガであると感じたのだ。
加えて、今回「ヘリテージ&クラシックカーギャラリー」に愛車を出品したエントラントからは、英スコットランドのラヴァットミル社製ツイード生地をドアのインナーパネルに使用したオプション内装「ツイードインテリア」が、特に大好評だったことも記しておきたい。
(文=武田公実/写真=武田公実、近藤裕大/編集=櫻井健一)
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武田 公実
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