ホンダ・ホーク11(6MT)
“終”の手前のロケットマシン 2022.08.22 試乗記 リッターオーバーの大排気量エンジンを腹に抱え、スクリーンをビス止めしたロケットカウルを身にまとう……。ホンダから、独特の存在感を放つニューマシン「ホーク11」が登場! 2022年9月の発売を前に、実車の走りを確かめた。あらがいがたいロケットカウルの魔力
取りあえずまたがってみたい──。そう思わせるのはたぶん、デザインが成功しているから。なんやかやでロケットカウルはカッコいいし、いまどき珍しく“長く”感じるボディーは、どこか懐かしくもある。オーセンティックとモダンがまぜこぜになったルックスに「新しさなんて全然ないじゃん」って乗る前は思っていたけれど、いざ実車を見たら「わるくないね」とエラそうにひとり言を言う尻軽なワタクシです。撮影している向後カメラマンは「いいねえ、ロケットカウル!」とFRP製のカウルばかりを褒めながらシャッターを押している。ちなみにテールカウルもFRP製で、継ぎ目のない曲面を表現するためにはマストということでこの仕様にこだわったという。日本市場にのみ向けて販売される新しいホーク11、乗ったらどうなんだろう?
ホーク11の車体には、先行する「アフリカツイン」と共通するコンポーネントが多く組まれているというが、1082ccの並列2気筒OHCエンジンをはじめ、シャシーなど共用するパートはわかりやすくそれとは感じさせない。というか、ほとんどわからない。圧倒的なロケットカウルの存在感の前には、兄・アフリカツインの影を探すなんて意味のないことなのかも。どっちも買う人なんていないだろうしね。
まあまあの足つきを感じつつ、トップブリッジ直下から垂れ下がるセパハンの取り付け位置にビビりながらグリップを握ると……あれれ、意外に前傾姿勢を強いられない。想像していたよりもずっとアップライトなポジションにホッとしたのもつかの間、エンジン始動からのスロットルオンオフでは、ハジけるように元気なツインサウンドが辺りに響いた。「バラララッ!」とパルス感のある音色は気持ちがいい反面、「いっしょに戦えますか?」と覚悟を促してくるようでもある。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
コンセプトが明確に伝わってくる
早朝の東京・代官山。誰も見ちゃいないだろうが、自然と背筋は伸びる。走行モードの「STANDARD」はかなり穏やかでとっつきやすい。ホーク11のスタイリングが醸すアグレッシブさを考えると、もっとパワフルな「SPORT」モードのほうがイメージに合うし、そのセレクトで初めて大排気量マシンらしいトルクとパンチをはっきり体感することができた。スロットルをラフに開けても怖くないのは、そもそもハンドルをしっかり握らないと様(さま)にならないスポーティーなライディングポジションと、扱いやすい270°クランクエンジンのおかげだろう。せかされないキャラクターがまずステキだ。
発売前にはDCT仕様の有無が注目されたが、結果は6段MTのみ。セーフティーであることは大事にするが、イージーにすることは今のところ目指していないようだ。スロットル・バイ・ワイヤシステムやパワー特性を選択できるライディングモード、トラクションコントロール(ホンダセレクタブルトルクコントロール)といった走りの電子制御技術はしっかり搭載されているし、ABSやETCももちろん標準装備である。
右へ左へと車体を振ってみる。セミダブルクレードルフレームと前後17インチタイヤ、立ち気味のキャスター角(「CB1300スーパーフォア」や「CB1000R」と同じ25°)のコンビネーションが生むハンドリングは軽快、というかことのほか優しかった。214kgという軽めのウェイトも効いている。
高速道路で何時間もこのライポジでは疲れるけれど、走り味にスーパースポーツほどのシビアさはなく、街なかでもワインディングロードでもいきなりキャラ変したりはしない。リア方向にカットオフされた短いシート形状に触れるまでもなく、積載はいさぎよく捨てている。ロングライドよりも「午前中だけというショートタイムで、どのくらいスカッ! とできるか」を体現させたような新機軸のマシンだな……と思っていたところに、「発表会でそんなようなこと言ってましたよー」と事後に知らされたときの脱力と納得ったら、ね。いやいや開発スタッフのみなさん、こんな宮崎にもちゃんと(たまたま)真意は伝わっていますよ!
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
万人向けのバイクではないが
「乗りこなせたらオレ、カッコよく見えるかも──」と思わせてくれる新しいホーク11。ホンダは優等生、ホンダは万人向けとしばしば言われるけれども、でも今回はちょっとだけ様子が違った。ライダー視点からしっかり見えるFRP製カウルの裏側には、ザラついた繊維。さらにはリベット留めされたスクリーン。往時のワンオフカスタムマシンのようで、そのラフさがまるでホンダらしくない。真正スーパースポーツよりはずっとマシだけど、ライポジもそんなに楽じゃない。いろいろが万人向けじゃないのだ。まだまだ乗れる、まだまだ攻めたい。そんな週末フルバンクの夢を思い描く、枯れていない少数派のアナタにこそ、この新しいホーク11はベストウェイだろう。そうそう、“曲げている”感も峠でしっかり堪能できますよ。
「終(つい)」のバイクとして開発されたというホーク11だけど、実際には40~50代に売れているらしい。アラフォー、アラフィフ……ってまだ当分死なないじゃん! と不謹慎なツッコミをいれつつ、ひらめいたこと。「それってレプリカ世代じゃない?」 この答えですべての合点がいった、今回の試乗だった。
最後の最後に蛇足をひとつ。つい先日、近所のガソリンスタンドで“旧ホーク”(「HAWK CB250T」、通称バブ)に乗る旧車乗りの若者に話しかけたときのこと。
「そのホーク、きれいだねえ!」
「どもッス!」
「オレもこのまえ、1100の新しいホークに乗ったんだよねー」
「……それ、本当にホークっすか?」
ホーク11、もっと知られてくれないと話がオチないッス!
(文=宮崎正行/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)
【スペック】
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=2190×710×1160mm
ホイールベース:1510mm
シート高:820mm
重量:214kg
エンジン:1082cc 水冷4ストローク直列2気筒OHC 4バルブ(1気筒あたり)
最高出力:102PS(75kW)/7500rpm
最大トルク:104N・m(10.6kgf・m)/6250rpm
トランスミッション:6段MT
燃費:21.2km/リッター(WMTCモード)
価格:139万7000円

宮崎 正行
1971年生まれのライター/エディター。『MOTO NAVI』『NAVI CARS』『BICYCLE NAVI』編集部を経てフリーランスに。いろんな国のいろんな娘とお付き合いしたくて2〜3年に1回のペースでクルマを乗り換えるも、バイクはなぜかずーっと同じ空冷4発ナナハンと単気筒250に乗り続ける。本音を言えば雑誌は原稿を書くよりも編集する方が好き。あとシングルスピードの自転車とスティールパンと大盛りが好き。
-
BMW M235 xDriveグランクーペ(4WD/7AT)【試乗記】 2025.9.15 フルモデルチェンジによってF74の開発コードを得た新型「BMW 2シリーズ グランクーペ」。ラインナップのなかでハイパフォーマンスモデルに位置づけられる「M235 xDrive」を郊外に連れ出し、アップデートされた第2世代の仕上がりと、その走りを確かめた。
-
スズキ・アルト ハイブリッドX(FF/CVT)【試乗記】 2025.9.13 「スズキ・アルト」のマイナーチェンジモデルが登場。前後のバンパーデザインなどの目に見える部分はもちろんのこと、見えないところも大きく変えてくるのが最新のスズキ流アップデートだ。最上級グレード「ハイブリッドX」の仕上がりをリポートする。
-
トヨタGRヤリスRZ“ハイパフォーマンス”【試乗記】 2025.9.12 レースやラリーで鍛えられた4WDスポーツ「トヨタGRヤリス」が、2025年モデルに進化。強化されたシャシーや新しいパワートレイン制御、新設定のエアロパーツは、その走りにどのような変化をもたらしたのか? クローズドコースで遠慮なく確かめた。
-
トヨタ・カローラ クロスZ(4WD/CVT)【試乗記】 2025.9.10 「トヨタ・カローラ クロス」のマイナーチェンジモデルが登場。一目で分かるのはデザイン変更だが、真に注目すべきはその乗り味の進化だ。特に初期型オーナーは「まさかここまで」と驚くに違いない。最上級グレード「Z」の4WDモデルを試す。
-
ホンダ・レブル250 SエディションE-Clutch(6MT)【レビュー】 2025.9.9 クラッチ操作はバイクにお任せ! ホンダ自慢の「E-Clutch」を搭載した「レブル250」に試乗。和製クルーザーの不動の人気モデルは、先進の自動クラッチシステムを得て、どんなマシンに進化したのか? まさに「鬼に金棒」な一台の走りを報告する。
-
NEW
スズキeビターラ
2025.9.17画像・写真スズキの電動化戦略の嚆矢(こうし)となる、新型電気自動車(BEV)「eビターラ」。小柄でありながら力強いデザインが特徴で、またBセグメントのBEVとしては貴重な4WDの設定もポイントだ。日本発表会の会場から、その詳細な姿を写真で紹介する。 -
NEW
第844回:「ホンダらしさ」はここで生まれる ホンダの四輪開発拠点を見学
2025.9.17エディターから一言栃木県にあるホンダの四輪開発センターに潜入。屋内全天候型全方位衝突実験施設と四輪ダイナミクス性能評価用のドライビングシミュレーターで、現代の自動車開発の最先端と、ホンダらしいクルマが生まれる現場を体験した。 -
NEW
アウディSQ6 e-tron(4WD)【試乗記】
2025.9.17試乗記最高出力517PSの、電気で走るハイパフォーマンスSUV「アウディSQ6 e-tron」に試乗。電気自動車(BEV)版のアウディSモデルは、どのようなマシンに仕上がっており、また既存のSとはどう違うのか? 電動時代の高性能スポーツモデルの在り方に思いをはせた。 -
NEW
第85回:ステランティスの3兄弟を総括する(その3) ―「ジープ・アベンジャー」にただよう“コレジャナイ感”の正体―
2025.9.17カーデザイン曼荼羅ステランティスの将来を占う、コンパクトSUV 3兄弟のデザインを大考察! 最終回のお題は「ジープ・アベンジャー」だ。3兄弟のなかでもとくに影が薄いと言わざるを得ない一台だが、それはなぜか? ただよう“コレジャナイ感”の正体とは? 有識者と考えた。 -
NEW
トランプも真っ青の最高税率40% 日本に輸入車関税があった時代
2025.9.17デイリーコラムトランプ大統領の就任以来、世間を騒がせている関税だが、かつては日本も輸入車に関税を課していた。しかも小型車では最高40%という高い税率だったのだ。当時の具体的な車両価格や輸入車関税撤廃(1978年)までの一連を紹介する。 -
内燃機関を持たないEVに必要な「冷やす技術」とは何か?
2025.9.16あの多田哲哉のクルマQ&Aエンジンが搭載されていない電気自動車でも、冷却のメカニズムが必要なのはなぜか? どんなところをどのような仕組みで冷やすのか、元トヨタのエンジニアである多田哲哉さんに聞いた。