ランドローバー・レンジローバー オートバイオグラフィーD300(4WD/8AT)
より大きく より優雅に 2022.09.26 試乗記 英国が誇る高級SUV「ランドローバー・レンジローバー」が、5代目にフルモデルチェンジ。先代よりプラットフォームから刷新された新型は、どのようなクルマに仕上がっているのか。3リッターディーゼルモデルに試乗し、その実力を確かめた。まずはサイズに驚かされる
第5世代のレンジローバーに試乗すべく、webCG編集部の地下駐車場に行ってみると、いやはやそのあまりの巨大さに腰がひけた。全長5065mm、全幅2005mmで、全高は1870mmもある。筆者の背丈より15cm以上でっかくて、見上げるばかり。ホイールベースは2995mmと、ほとんど3mに近い。
先代、第4世代も十分でっかいと思ったけれど、新型はさらにホイールベースで75mm、ボディー全体では60mm長くて、20mm幅広く、5mm高い。「ベントレー・ベンテイガ」「ロールス・ロイス・カリナン」といった超高級SUVまであともうちょっと、というところにまで大型化している。
その狙いは明らかで、つまり、レンジローバーの地位を超高級SUVと同等とまではいわぬまでも、その近くにまで引き上げよう、ということだ。実際、車両価格は試乗車の3リッターディーゼルの最上級仕様で2000万円を超えている。
さりとて、レンジローバーをこんなに巨大化する必要があるのか? こんなに巨大化したら、狭いニッポンでは大きすぎて使えないのでは? という疑問が浮かんでくる。
筆者が個人的にそういう疑念を抱いた要因はデザインにもある。新型のデザイン上の特徴は、2017年発表の「レンジローバー ヴェラール」同様、ボディー表面の凸凹やつなぎ目を極力廃した、いわゆるフラッシュサーフェス化と、ミニマリスムにあるわけだけれど、そんなデザイナーの意図とは別に、リアの縦型ランプが「キャデラック・エスカレード」と重なって見えちゃうのである。
エスカレードといえば、庄野真代。それはマスカレード。エスカレードは現代のほろ馬車。もしかしたら今度のレンジローバーは、♪のんびり行こうよ、オレたちは、といった感じのアメ車的な性格になっているかもしれない……という想像と結びつき、おっかなびっくり、腰がひけちゃう症候群に筆者は罹患(りかん)したといってよかった。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
市街地で実感する快適な乗り心地
ドアを開けようとすると、センサーが反応して格納式のドアの取っ手がシュッと飛び出、ドアを開けると、下からステップがほとんど音もなく出てきて、乗降を助けてくれる。乗り込んでみると、ちょっとホッとした。そこにはBMW傘下の時代に開発された3代目レンジローバーに近い内装が広がっていたからだ。着座位置も、トラック並みの高さのエスカレードほどではない。
ただシートが分厚くて、ドアと座面の隙間がほとんどない。座面横にあるはずの電動シートのスイッチに指が入らないほどである。……と、思ったら、シートを動かすスイッチはドア側に、シートを模したカタチで配置してあった。そういえば、初代レンジローバーのそれはセンターコンソールにありました。
でもって、地下駐車場を出て角を曲がり、一般道に躍り出て走り出してみたら、そのすばらしく快適な乗り心地に大いにたまげた。う~む。タイヤのサイズは285/40R23と超巨大だというのに、いわゆるバネ下の重さを感じさせないのは、上屋がメチャクチャ重いからにちがいない。なんせ車重は2700kgもある。こんなにけっこうな乗り心地をもつSUVは……記憶のなかのロールス・ロイス・カリナンもかくや。カリナンよりもむしろフラットで、実務的な印象もある。
2993ccの直列6気筒ディーゼルターボエンジンは、ものすごく静かなわけではない。とはいえ、ちょっと昔の冷蔵庫が深夜にときどきうなっていたぐらいの音量で、たとえアクセルペダルを深々と踏み込んでも、がなったりはしない。それというのもこのパワーユニット、650N・mという最大トルクを1500-2500rpmの低回転で発生するだけではなくて、最高出力18PS(13kW)/5000rpm、最大トルク42N・m/2000rpmのモーターアシストが得られる、マイルドハイブリッドシステムを備えているからだ。
人間でもそうだけれど、最初の一歩を踏み出すときにだれかの助けがあると、グッと楽になる。内燃機関も同じ。とまではいえないにしても、その特性上、1500rpm回らないと650N・mを生み出すことはできない。そこの空白部分を、いきなり大トルクを発生させることができるモーターが介助している。この巨体が存外静かに、ゆったり動き出すのはそのおかげだ。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
必要なインフォメーションはしっかり伝えてくる
しかして、「大きすぎるぞ、これは」という筆者の疑念は横浜方面へと向かう湾岸線でも消えなかった。隣のレーンを走るクルマとの距離が気になって緊張するし、レインボーブリッジからの眺めなんて、あなた、着座位置が高いものだから、景色が見えすぎちゃって怖い。振り向けば超高層ビル群。そして東京湾。
およそ3mの長いホイールベースと電子制御のエアサスペンション、そして2.7tのスーパーヘビーな車重が実現した乗り心地に感心しつつも、自分は高所恐怖症がひどくなっていることを自覚した。余談ながら、ベイブリッジのほうがまだ怖くないです。
横浜での撮影後、さらに足をのばし、アクアライン経由で木更津方面までドライブした。ようやくここに至って、新型レンジローバーのよさがわかってきた。というか、少なくとも高速道路では巨体に慣れてきた。
首都高速などの目地段差では垂直方向のショックが伝わってくることは否めない。でも、これは「段差がありますよ」とクルマが表現しているわけである。段差のないところをショックもなく通過していたら、ドライバーは世間と隔絶してしまう。それに世のなか、目地段差ばかりではない。すぐれた高速直進性にも助けられ、筆者にも徐々に余裕が生まれてきた。
“上品な高級SUV”という希有な存在
そんな筆者の余裕は、しかし、木更津の金田のあたりの田園の十字路で消えうせた。田園、つまり田んぼのなかを走る狭い道を直角に曲がるとき、ちょうどそこにコンクリートの橋があったりして、私は超微低速でこれを曲がろうとし、途中で停止した。前方にはすでに、私の運転するレンジローバーを避けるため、ちょっと広めの路肩で対向車が待っている。カメラがボディーの側面を映し出し、低速の駐車スピードともなれば上からの仮想映像も見せてくれる。それでも、私はこの映像がフェイクではないか……と思ったりして、結局、助手席の編集のHさんの協力を得ることにした。オーライ、オーライ。全然大丈夫ですよ。
実は新型レンジローバーは後輪操舵を備えており、巨体ながら小回りが利くのである。おそらく身体感覚にすぐれたひと、もっと簡単にいえば、運転のうまいひとだったら、あんなに苦労せずとも曲がれただろう。と、いまになって思う。
このような試練を経た筆者は、すっかり病を克服した。都内への帰路、新型レンジローバーはいいなぁ、と思うに至った。6気筒ディーゼルは基本的に静かでスムーズで、2000rpmを超えると、グオオッという、ちょっとガソリンエンジンっぽいサウンドを控えめに発し、4000rpmまで滑らかに回る。音だけ聞いていると、ディーゼルだとは同乗者にもわからないのではあるまいか。
なにより、自信をもってドライブすれば、こんなに巨体なのにキビキビ走る。軽快だけれど、モーレツに速いわけではない。あくまでジェントル。新型はつまるところ、従来のレンジローバーを、より大型化して、よりぜいたくにしつつ、オンロード性能を高めてもいたのである。臆(おく)することなかれ。これほど上品なぜいたくさを表現した高級SUVは、いまもってレンジローバーだけなのだから。
(文=今尾直樹/写真=郡大二郎/編集=堀田剛資)
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
テスト車のデータ
ランドローバー・レンジローバー オートバイオグラフィーD300
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5065×2005×1870mm
ホイールベース:2995mm
車重:2700kg
駆動方式:4WD
エンジン:3リッター直6 DOHC 24バルブ ディーゼル ターボ
トランスミッション:8段AT
エンジン最高出力:300PS(221kW)/4000rpm
エンジン最大トルク:650N・m(66.3kgf・m)/1500-2500rpm
モーター最高出力:18PS(13kW)/5000rpm
モーター最大トルク:42N・m(4.3kgf・m)/2000rpm
タイヤ:(前)285/40R23 111Y M+S XL/(後)285/40R23 111Y M+S XL(ピレリ・スコーピオンゼロ オールシーズン)
燃費:10.5km/リッター(WLTCモード)
価格:2031万円/テスト車=2135万9630円
オプション装備:23インチフルサイズスペアホイール(0円)/SVビスポーク 23インチ“スタイル1079”<グロスダークグレイ、コントラストチタンシルバーフィニッシュ>(21万5000円)/ウインドスクリーン<ヒーター付き>(3万4000円)/家庭用電源ソケット(2万1000円)/コントラストルーフ<ブラック>(12万7000円)/ドライブレコーダー(5万6650円)/ディプロイアブルサイドステップキット<SWB用>(59万5980円)
テスト車の年式:2022年型
テスト開始時の走行距離:4228km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(5)/高速道路(5)/山岳路(0)
テスト距離:355.0km
使用燃料:43.0リッター(軽油)
参考燃費:8.3km/リッター(満タン法)/8.5km/リッター(車載燃費計計測値)

今尾 直樹
1960年岐阜県生まれ。1983年秋、就職活動中にCG誌で、「新雑誌創刊につき編集部員募集」を知り、郵送では間に合わなかったため、締め切り日に水道橋にあった二玄社まで履歴書を持参する。筆記試験の会場は忘れたけれど、監督官のひとりが下野康史さんで、もうひとりの見知らぬひとが鈴木正文さんだった。合格通知が届いたのは11月23日勤労感謝の日。あれからはや幾年。少年老い易く学成り難し。つづく。
-
アルピーヌA110アニバーサリー/A110 GTS/A110 R70【試乗記】 2025.11.27 ライトウェイトスポーツカーの金字塔である「アルピーヌA110」の生産終了が発表された。残された時間が短ければ、台数(生産枠)も少ない。記事を読み終えた方は、金策に走るなり、奥方を説き伏せるなりと、速やかに行動していただければ幸いである。
-
ポルシェ911タルガ4 GTS(4WD/8AT)【試乗記】 2025.11.26 「ポルシェ911」に求められるのは速さだけではない。リアエンジンと水平対向6気筒エンジンが織りなす独特の運転感覚が、人々を引きつけてやまないのだ。ハイブリッド化された「GTS」は、この味わいの面も満たせているのだろうか。「タルガ4」で検証した。
-
ロイヤルエンフィールド・ハンター350(5MT)【レビュー】 2025.11.25 インドの巨人、ロイヤルエンフィールドの中型ロードスポーツ「ハンター350」に試乗。足まわりにドライブトレイン、インターフェイス類……と、各所に改良が加えられた王道のネイキッドは、ベーシックでありながら上質さも感じさせる一台に進化を遂げていた。
-
ホンダ・ヴェゼル【開発者インタビュー】 2025.11.24 「ホンダ・ヴェゼル」に「URBAN SPORT VEZEL(アーバン スポーツ ヴェゼル)」をグランドコンセプトとするスポーティーな新グレード「RS」が追加設定された。これまでのモデルとの違いはどこにあるのか。開発担当者に、RSならではのこだわりや改良のポイントを聞いた。
-
三菱デリカミニTプレミアム DELIMARUパッケージ(4WD/CVT)【試乗記】 2025.11.22 初代モデルの登場からわずか2年半でフルモデルチェンジした「三菱デリカミニ」。見た目はキープコンセプトながら、内外装の質感と快適性の向上、最新の安全装備やさまざまな路面に対応するドライブモードの採用がトピックだ。果たしてその仕上がりやいかに。
-
NEW
ランボルギーニ・テメラリオ(4WD/8AT)【試乗記】
2025.11.29試乗記「ランボルギーニ・テメラリオ」に試乗。建て付けとしては「ウラカン」の後継ということになるが、アクセルを踏み込んでみれば、そういう枠組みを大きく超えた存在であることが即座に分かる。ランボルギーニが切り開いた未来は、これまで誰も見たことのない世界だ。 -
2025年の“推しグルマ”を発表! 渡辺敏史の私的カー・オブ・ザ・イヤー
2025.11.28デイリーコラム今年も数え切れないほどのクルマを試乗・取材した、自動車ジャーナリストの渡辺敏史氏。彼が考える「今年イチバンの一台」はどれか? 「日本カー・オブ・ザ・イヤー」の発表を前に、氏の考える2025年の“年グルマ”について語ってもらった。 -
第51回:290万円の高額グレードが約4割で受注1万台! バカ売れ「デリカミニ」の衝撃
2025.11.28小沢コージの勢いまかせ!! リターンズわずか2年でのフルモデルチェンジが話題の新型「三菱デリカミニ」は、最上級グレードで300万円に迫る価格でも話題だ。ただし、その高額グレードを中心に売れまくっているというから不思議だ。小沢コージがその真相を探った。 -
ミツオカM55ファーストエディション
2025.11.27画像・写真光岡自動車が、生産台数250台限定の「ミツオカM55 1st Edition(エムダブルファイブ ファーストエディション)」を、2025年11月28日に発売。往年のGTカーを思わせる、その外装・内装を写真で紹介する。 -
アルピーヌA110アニバーサリー/A110 GTS/A110 R70【試乗記】
2025.11.27試乗記ライトウェイトスポーツカーの金字塔である「アルピーヌA110」の生産終了が発表された。残された時間が短ければ、台数(生産枠)も少ない。記事を読み終えた方は、金策に走るなり、奥方を説き伏せるなりと、速やかに行動していただければ幸いである。 -
第938回:さよなら「フォード・フォーカス」 27年の光と影
2025.11.27マッキナ あらモーダ!「フォード・フォーカス」がついに生産終了! ベーシックカーのお手本ともいえる存在で、欧米のみならず世界中で親しまれたグローバルカーは、なぜ歴史の幕を下ろすこととなったのか。欧州在住の大矢アキオが、自動車を取り巻く潮流の変化を語る。





















































