第728回:SUV向けのサイズが追加された「ブリヂストン・ブリザックVRX3」の実力を氷上とドライ路面でチェック
2022.11.02 エディターから一言 拡大 |
歴代最高レベルの氷上性能を誇るブリヂストンのスタッドレスタイヤ「ブリザックVRX3」に、SUV用の12サイズが追加設定された。本格的な冬の到来を前に氷上とドライ路面を試走し、指名買いが多いというその人気の理由を探ってみた。
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SUV用に新サイズを設定
従来品の持つドライやウエット路面、ライフや静粛性など全方位型の性能はキープしながら、「氷上性能120%到達」を最大のセリングポイントとして2021年9月に発売されたのがブリヂストンのスタッドレスタイヤ「ブリザックVRX3」だ。今回追加設定されたSUV用となる12サイズは、2022年10月から順次販売がスタートしている。
そこで本格的な冬の到来を前に、SUVをターゲットとした新サイズを加えたVRX3をテスト。アイス性能は都内のスケートリンクにおいて、ドライ路面のフィーリングは「ブリヂストンイノベーションパーク」内に開設されたばかりのテストコース「Bモビリティ」と、前出スケートリンク周辺の一般道を用いてチェックを行った。
ちなみにブリヂストンイノベーションパークは、ブリヂストンのこれまでの歩みや2050年を見据えたビジョンをさまざまなステークホルダーに共感してもらうことを筆頭に、「社内外の交流を促進し、議論や研究を共に行って新たな価値を創造させる」ことを趣旨とした新しい複合施設。東京・小平にあるブリヂストンの開発・生産施設を再構築し、2022年4月に本格稼働した。
モビリティーに関する技術や製品のプロトタイプをすぐに実車検証できるテストコースと、ブリヂストンのコア技術や製品を実際に見て触ってアイデアを膨らませる場としての「ブリヂストンオープンイノベーションハブ」や、工作機械などを用いてそのアイデアを形にする「ラフプロトスタジオ」、社外のパートナーが使用できる「共創オフィス」などからなるイノベーションセンター「Bイノベーション」で構成される同施設は、他メーカーには例を見ないユニークな未来志向の拠点である。
都会派と本格派の2本立て
「VRX3にSUV用サイズが追加」と聞くと、情報通の人はいぶかしく感じるかもしれない。なぜならばブリヂストン・ブリザックシリーズにはすでに、SUV/4×4モデル専用をうたうモデルとして「DM-V3」が存在しているからだ。
VRX3のサイズ拡大を図り、一部SUV向けとしてサイズがオーバーラップする2種類のスタッドレスタイヤを並列で提供することを、ブリヂストンでは「太い溝が深く刻まれたDM-V3は深い雪道により強い性格なども含めレジャー用途などによりふさわしいラインナップ」、従来のサイズが適応する小型SUVに加えて今回、中型SUVをターゲットに適応サイズを拡大させたVRX3は、「氷上に強いという特性を含めてより街乗りでの適性を重視したアイテム」としてユーザー訴求を行っている。
確かに、トレッドパターンを見る限りDM-V3のほうがワイルドな雰囲気がやや強く、一方でVRX3はスタッドレスタイヤとしてもよりオーソドックスな乗用車用というイメージの仕上がり。そうしたルックスをシビアに見れば、都会的なフォルムのSUVにはVRX3のほうがお似合いで、オフローダー的要素の強いSUVにはDM-V3がよりよくマッチするという言い方ができる。
実はブリヂストンでは、トラック/バス用のスタッドレスタイヤでも、アイスバーンなど氷上での走行性能を重視した“氷雪系”と呼ぶモデルと、シャーベット路面での走りやすさなども重視した“総合系”と紹介するモデルを並列で設定済み。すでにそうした戦略をとってきたノウハウなども、あるいはそこに生かされているのかもしれない。
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指名買いにも納得
今回「トヨタ・ヤリス クロス」と「アウディQ5」にVRX3を装着し、スケートリンク上を試走しての第一印象は、「さすがはVRX3だな」とあらためてそう感心できるものだった。
水路の断面形状を従来の球状から楕円(だえん)形に変更し、毛細管現象を活用することでミクロの吸水力をアップした「フレキシブル発泡ゴム」や、溝やサイプ内へと回り込む水流を抑制した新トレッドパターンの採用など、最新技術満載のVRX3ならではの高い氷上性能が遺憾なく発揮されたと思えた。
もちろん、舗装路上のように自在に走れるというわけにはいかないが、一方で人が立って歩くこともおぼつかないようなツルツルの氷上で、しっかり加速Gを感じさせながら走りだし、そしてこちらも確実な減速Gを体感しながら止まることができるのだから、それだけでも大したものと言うべきだろう。
ヤリス クロスはもとより、それよりも大幅に重量のあるQ5でも、完全停止へと至るブレーキング最後の段階で、あたかも氷面にタイヤを食い込ませるように制動Gが立ち上がる感覚が印象に残った。
こうしたフィーリングは、リアルなアイスバーン走行時にはきっと高い信頼感へとつながってくれるはずだ。特に北海道や北東北の主要都市など、冬季になるといやが応でも凍結路面の走行を強いられる地で、過去にヒヤッとした思いをした経験のあるドライバーにとっては、なるほどブリザックを指名買いする人が少なくないというハナシにも納得できる。
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ドライ性能にも不安なし
一方、ヤリス クロスやQ5にVRX3を装着してのドライ路面試走では、「事前にスタッドレスタイヤを履いていることを知らされなければ、大半のドライバーは特になんら違和感を抱かないままに目的地に到着してしまうはず」という感想に至った。
逆に、今回のようにあらかじめそれを知らされてからテストドライブに臨んでみると、「あれ? パターンノイズがちょっと大きめかな?」という思いを抱くことにはなった。
しかし繰り返しになるが、それも「通常のタイヤとの印象差を捉えるべく神経を研ぎ澄ませていれば」程度のハナシであって、決して“やかましい”と感想を述べたくなるようなレベルではない。せいぜい最高が60km/hほどまでのスピードに限られ、しかも強い横Gを発生させるような機会もなかったという今回のいわゆる街乗りシーンでは、氷上性能の高さをうたうスタッドレスタイヤであっても、ドライの舗装路面上でグニャグニャと頼りない接地感を伝えてきたり、ステアリング操作に対する遅れや路面とのコンタクト感不足などを意識させられたりする場面は皆無であった。
断トツの氷上性能をうたいつつも、なるほど全方位型の性能円をキープ。総合性能においても、一点の不安も感じさせないVRX3なのである。
(文=河村康彦/写真=ブリヂストン、webCG/編集=櫻井健一)
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河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。
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