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第178回:ピンチ! イタリア式、冬タイヤ探し奮闘記

2011.01.29 マッキナ あらモーダ! 大矢 アキオ
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第178回:ピンチ! イタリア式、冬タイヤ探し奮闘記

冬タイヤがない!

昨年暮れのことである。春に買い替えたクルマの冬タイヤを買っていなかったことに気づいた。さっそく自動車修理工場で働く知人のもとに相談に行った。わが家のクルマのご意見番である。
すると彼は開口一番「そういう相談は、11月中旬までに来なくちゃ」と言った。そしてこうつぶやいた。「これからは結構難しいぞ」
イタリアでは毎年11月に入るやいなや、せきを切ったように冬タイヤの注文が舞い込み始めるのだそうだ。

イタリア半島の多くの地域は、11月から急に冬らしくなる。加えて、イタリアのタイヤ卸売業者は在庫を持つのを極端に嫌うので、毎年各サイズを少しずつしか仕入れないため、長年にわたってそうした状況ができあがったようだ。
とりあえず彼は、ボクのクルマのサイズ「195/55R16」をメモして、ダメもとで知り合いのタイヤ業者に次々と電話してくれた。だが案の定みんな売り切れである。

彼は次に職場のパソコンを使って、イタリア国内にある卸売りサイトにアクセスしてくれた。業者向け(一般客お断り)のサイトを通じて「業者値段で仕入れてあげよう」という計らいである。
さっそくサイトを開く。「ミシュラン」「ピレリ」といった一流ブランドのものは残っていたが、いずれも1本150ユーロ(約1万6000円)以上する。4本で約6万7000円だ。ヨーロッパ全体を襲った記録的な大雪のせいで、さらに品薄になってしまったようである。

いっぽうで、50ユーロ(約5600円)ちょっとの、名も聞いたことのない爆安タイヤが残っていた。ボクの目が思わず光った。だが知人は「待て」とボクをたしなめる。
「トレッドパターンが悪いうえ、ここまで安いと公認冬用タイヤの“雪の結晶”マークが付いていない場合があるぞ」
“雪の結晶”マークがないと、欧州各国でチェーン規制のとき、警察などに通してもらえない場合があるという。それでは困る。そこで、その爆安モノからワンランク上の60ユーロ(約6700円)台のタイヤを見る。

インドネシア製の「GTラジアル」というブランドである。GTラジアルはミシュランを筆頭株主に持ち、米「Motor」誌で2006年にコストパフォーマンス賞を受賞した云々、と説明がつづられている。ふと思い出したら、ボクは前に乗っていたクルマにも、夏用タイヤか冬用タイヤだったが忘れたがGTラジアルを履かせたことがあった。
ただし、サイトには「入荷待ち」のサインが付いているので、とりあえず知人にサイトをときおり確認してもらうことにして、その日は帰ることにした。タイヤでこんなに苦労するなんて。つくづく安タイヤ3本で済む3輪トラック「アペ」が羨ましくなった。

2010年末の雪の日、シエナの広場で。
2010年末の雪の日、シエナの広場で。 拡大
近所の谷も雪景色となった。
近所の谷も雪景色となった。 拡大
電話やネットでタイヤ在庫を必死に照会する筆者(イメージ)。
電話やネットでタイヤ在庫を必死に照会する筆者(イメージ)。 拡大
公認冬タイヤを示す「雪の結晶」マーク。
公認冬タイヤを示す「雪の結晶」マーク。
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持つべきはクルマ関係の知人

そんなこんなのうちに、入荷の音さたのないまま年を越してしまった。このままでは春になっちゃうじゃないか。正月休み中の知人に電話をすると「じゃあ一緒にネットで探そう」と言うので、新年早々彼の家に上がり込み、ふたたび捜索を続行することになった。
その日彼が新たに教えてくれたのは、ドイツを本部とするタイヤ販売サイトだった。聞けば彼の友達もそのサイトで注文したことがあるという。こちらは一般サイトなので、業者価格にはならず、バッチリ付加価値税20%も掛かるが、とりあえず試してみようということになった。

例のインドネシア製GTラジアルは、こちらでも販売していた。価格は付加価値税・送料込みで1本80.4ユーロ(約9000円)。業者サイトより1本20ユーロ(約2200円)、4本で8800円高くなってしまったが、仕方ない。配送先は知人の修理工場にさせてもらった。

その後数日たっても音信がないので変だなと思っていたら、「システム障害でクレジットカード決済不能なので、銀行振り込みでお願いします」とのお知らせメールが舞い込んだ。思わずディスプレイの前で「おいおい」と声を上げたが、仕方がないのでさっそく対応する。

その間にもボクは、少しでも新品タイヤ代の足しにしようと、以前のクルマ用に買っておいた冬グッズを大処分することにした。
まずは、緊急用タイヤ滑り止め「オートソック」である。わが家の2代前のクルマと前のクルマ双方に使えるサイズだったが、まったく未使用のまま今日まで保管し続けてしまった。
委託販売方式のリサイクルショップに出したところ、店主の親父は8ユーロ(900円)の値札を付けた。ボクの取り分はその半額(約450円)だ。新品価格は100ユーロだったので、25分の1である。「星の数ほどあるタイヤサイズのうちのひとつなのだから、売れるか売れないかわからない」というのが先方の言い分だろうが、買い叩かれたようでトホホであった。
さらに悔しいことに「オートソックが売れた」という通知は、あっという間に舞い込んだ。自分のタイヤサイズと偶然合っていることを発見した客はジャンプして喜んだことだろうと思うと、ボクのほうはさらに泣けた。

いっぽう「禍福はあざなえる縄のごとし」とはよく言ったものだ。古い冬用タイヤは、前述の知人が奔走した末、4本80ユーロで友人に売ってきてくれた。本人は「最初は『100ユーロ』って粘ったんだけど、負かされちゃった。悪いな」と頭をかく。でもおかげで年を越えて高くなったぶんを埋め合わせできた。持つべきはクルマ関係の知人である。

カー用品店のリーナさんから購入した「オートソック」。2005年2月撮影。
カー用品店のリーナさんから購入した「オートソック」。2005年2月撮影。 拡大
知人の修理工場に到着していた冬用タイヤ。
知人の修理工場に到着していた冬用タイヤ。 拡大

名前入りタイヤは恥ずかしい

待つこと10日ちょっと。ようやく知人の工場から「ドイツからタイヤが到着した」との電話が入った。交換作業はメカニックの手が空く1週間後とのこと。彼のところでタイヤを買ったのではないから、あまり無理は言えない。
指定された日、修理工場に行くとボクのタイヤが倉庫の一角に積まれていた。ボクは少しでも心象を良くして交換工賃を抑えてもらうべく、タイヤ運びを積極的に手伝った。
その効果かは知らねど、工賃は54ユーロ(約6000円)。夏タイヤの保管料にいたっては「ウチは工場が広いから、任せろ」という太っ腹な知人のおかげでタダとなった。かくして苦節1カ月半の冬タイヤ交換は終わった。

倉庫にしまう前の夏タイヤを見せてもらったら、タイヤのサイドウォールにチョークで「AKIO」と書かれていた。ボク以外ガイジン客はいないだろうから、ファーストネームだけで済むのであろう。
そういえば以前別のタイヤ屋さんでも、保管するとき同様に「AKIO」と書かれていた。そのときはトレッド面だったので、装着してから文字が地面と擦れて消えるまでの間、後続車のドライバーは、タイヤが1周するごとに出てくる「AKIO」の文字を見ては面白がっていたに違いない。
今回はタイヤのサイドに書かれたので後続車から見えないからよいが、自然に消えるまでに時間がかかる。春になってタイヤ交換したときにチョークの文字を忘れずに消さないと、信号で止まるたび「アキーオ! アキーオ!」と、お調子者のイタリア人若者から呼ばれかねない。

(文と写真=大矢アキオ、Akio Lorenzo OYA)

「思いこんだら、試練の道を〜♪」と手伝う筆者。
「思いこんだら、試練の道を〜♪」と手伝う筆者。 拡大
「AKIO」の文字が書かれた夏タイヤ。
「AKIO」の文字が書かれた夏タイヤ。 拡大
大矢 アキオ

大矢 アキオ

Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、24年間にわたってリポーターを務めている。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。

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