ランドローバー・レンジローバー スポーツ ローンチエディションP400(4WD/8AT)
比べれば納得 2023.04.15 試乗記 3代目「ランドローバー・レンジローバー スポーツ」は、旗艦「レンジローバー」と基本的なコンポーネンツを共有しながらも、デザインも乗り味もかなり細かくつくり分けられている。3リッター直6ガソリンターボエンジンを積んだ「P400」の仕上がりをリポートする。ヨンクひと筋の潔さ
自分はどちらかといえば積極的に冒険しようとは思わないつまらない人間で、“新進気鋭”よりも“老舗”を好むタイプである。もし時計が欲しいと思ったら、アパレルブランドの名前が入った時計よりも時計屋の時計のほうが好みだし、新しいレストランの創作料理よりも古い洋食屋の昔ながらの定番料理のほうが舌に合う。「一日の長」とか「医者と坊主は年寄りがいい」なんて慣用句もあるように、その道で長くやってきた人やブランドには、豊富な経験や実績やデータと、それに裏づけられた仕事のクオリティーがあって、そこにそこはかとない安心感を覚えるからである。
いままで見向きもしなかったSUVをしれっと出すメーカーが少なくない昨今のご時世において、「SUVなめんなよ」と思っているかどうかは分からないけれど、ヨンクのSUVひと筋を貫いてきたそれこそ老舗を名乗るにふさわしいランドローバーは、なんとも潔いし誠にあっぱれだと感心する。
ランドローバーは現在、「レンジローバー」「ディスカバリー」「ディフェンダー」の3モデルを展開し、それぞれ洗練性/多用途性/頑強性というようにコンセプトを明確にするとともに差別化を図っている。レンジローバー“群”には、「レンジローバー」「レンジローバー スポーツ」「レンジローバー ヴェラール」「レンジローバー イヴォーク」があって、レンジローバーのフルモデルチェンジに伴い、レンジローバー スポーツもフルモデルチェンジと相成った。
似ているようで結構違う
既存のモデルがあって、そのスポーティー仕様をつくるとなると、ボディーはそのままでエンジンをパワーアップしてサスペンションをいじって大径のタイヤ&ホイールを履くとかが常とう手段である。ところがレンジローバー スポーツは違っていて、初代(2004年)はレンジローバーよりもホイールベースの短い「ディスカバリー3」のセミモノコック+ラダーフレームのシャシーにわざわざレンジローバー風のボディーをかぶせたり、2代目(2013年)はレンジローバーとモノコックボディーを共有するもパーツの75%を専用開発したりと、なんとも手の込んだ、そしてお金のかかるつくり方をしてきた。こういうところに老舗メーカーのプライドのようなものを感じずにはいられないのだけれど、新型もまたこうした手法にのっとっている。
フロントフェイスとボンネット、そしてリアエンドはレンジローバー スポーツ専用で、さらにルーフの後端をスラントさせることでクーペスタイルのルーフデザインとした。遠くから見るとレンジローバー伝統のフォルムに見えるのに、近づくにつれて「なんだかレンジとは違うな」と思わせるオリジナルのエクステリアデザインを身にまとっている。
インテリアは基本的にレンジローバーと共通だが、トリムには本革やウッドパネルの代わりに専用の素材を採用することで、微妙に雰囲気を変えている。内外装ともに、レンジローバーを崩しすぎない絶妙なあんばいがお見事だ。
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どちらも当たりの直6エンジン
日本仕様のレンジローバー スポーツは、3リッターの直列6気筒ディーゼルターボエンジンが標準だが、今回の試乗車は3リッターの直列6気筒ターボのガソリンエンジンを搭載した「ローンチエディション」と呼ばれる仕様だった。どちらのエンジンもモーターを組み合わせたマイルドハイブリッドで、ディーゼルは300PS/650N・mを、ガソリンは400PS/550N・mを発生する。ディーゼルには以前乗ったことがあるので、パワートレインに関してはディーゼルとガソリンの違いが個人的に気になるポイントだった。
とはいえ正直に言うと、ガソリンとディーゼルの差は想像していたよりもずっと小さかった。どちらもチョクロクらしいスムーズな回転フィールや振動の少なさを備えていたし、車両重量はディーゼルのほうが若干重いものの最大トルクも大きいからほぼ相殺されている。両者とも瞬発力もあるしグイグイと前へ押し出してくれるような力強さもあった。むしろガソリンを試して、あのディーゼルはかなり静かだったんだなと気がついたほどである。そうなると、自分ならディーゼルを選ぶ。なぜならやはり燃費が圧倒的にいいからだ。両車で同じ条件で正確に燃費計測していないので断定はできないが、ディーゼルの燃費のほうがザックリ30%くらいよかったと思う。
4WDの駆動力配分や8段ATのシフトプログラムなど、駆動力にまつわるあれこれの制御やマナーなどはほぼ完璧。常に最適なトラクションが4輪にかかっていた。
“付いてない”のが信じられない
試乗車の足まわりは「スイッチャブルボリュームエアスプリングを初採用したダイナミックエアサスペンション&ツインバルブアクティブダンパー」、つまりいわゆる空気ばねと電子制御式ダンパーを組み合わせたエアサスが標準装備で、ばね上の大きなボディーの動きを巧みにコントロールする。ターンインからコーナーの脱出までをスムーズにつなぎ、その姿は本当に見事だったから、これは「オールホイールステアリング」の後輪操舵や「ダイナミックレスポンスプロ」の電気式スタビライザーの恩恵もあると信じて疑わなかったら実際には装着されていなかった。もうこの仕事を辞めたほうがいいかもしれないと己の力量に失望するくらい、後輪操舵や電動スタビがなくてもよく曲がるしロールも抑制されていたのである。
だからといって乗り心地が悪いわけでもない。レンジローバーよりは硬めかもしれないが、レンジローバーを羽毛の枕だとすると、レンジローバー スポーツは低反発の枕のような感じ。最初の当たりはちょっと硬いと感じてもジワジワっとなじんでいって心地よい。まさにそんな乗り心地だった。
わざわざボディーをほぼつくり直し、でも中身はレンジローバーとほとんど変わらないのに、1687万円からスタートするレンジローバーの価格に対して、レンジローバー スポーツは1068万円から。このクルマの最大の魅力は、実のところこの(決して安くはないけど)リーズナブルな価格にこそあると自分は思っている。
(文=渡辺慎太郎/写真=郡大二郎/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
ランドローバー・レンジローバー スポーツ ローンチエディションP400
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4960×2005×1820mm
ホイールベース:2995mm
車重:2480kg
駆動方式:4WD
エンジン:3リッター直6 DOHC 24バルブ ターボ
トランスミッション:8段AT
エンジン最高出力:400PS(294kW)/5500-6500rpm
エンジン最大トルク:550N・m(56.1kgf・m)/2000rpm
モーター最高出力:18PS(13kW)/5000rpm
モーター最大トルク:42N・m(4.3kgf・m)/2000rpm
タイヤ:(前)285/40R23 111Y M+S/(後)285/40R23 111Y M+S(ピレリ・スコーピオンゼロ オールシーズン)
燃費:8.8km/リッター(WLTCモード)
価格:1708万6000円/テスト車=1714万2650円
オプション装備:ドライブレコーダー(5万6650円)
テスト車の年式:2023年型
テスト開始時の走行距離:983km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(7)/山岳路(2)
テスト距離:334.6km
使用燃料:52.2リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:6.4km/リッター(満タン法)/6.6km/リッター(車載燃費計計測値)
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渡辺 慎太郎
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